2022年4月号Vol.126

【特集】先進団体分析に見るどう取り組む?
行政手続きのオンライン化

ライフスタイルの変化や住民ニーズの多様化などを背景に行政手続きのオンライン化が最優先課題となっている。だが、現場では〈何から、どう進めるべきか〉と悩む声も少なくない。そこで、先進団体の取り組みから行政手続きのオンライン化のポイントを考える。

図表1 分析対象団体プロフィール(サービス実施期間別)

 TKCでは、行政手続きのオンライン化を支援する「TASKクラウド スマート申請システム」を提供している。現在、全国約20団体に採用されており、これら先進団体の取り組みは本紙でも度々ご紹介してきた。
 その中で、多くの担当者から聞かれたのが「他団体ではどんな手続きを提供しているのか知りたい」ということだった。そこで実践状況を明らかにすることを目的として、1月25日時点で住民・事業者向けサービスを実施する15市町を対象に分析調査(図表1)を行った。分析項目は次の通り。
•手続き数と申請件数
•利用者の検索キーワード分析
•月別の申請件数と利用傾向
•その他
 なお、対象団体は人口規模やサービス実施期間など諸条件が異なるため、今回は定性分析による傾向の洗い出しを主とし、定量分析は個別団体の傾向を見るにとどめた。引き続きヒヤリング調査等による詳細分析を予定するが、これまでの分析で15市町がそれぞれの思いを込めて手続きのオンライン化へ取り組む姿が浮き彫りとなった。

どんな手続きがあるのか

 全体を俯瞰するとサービス期間が長いほど手続きの種類が多く、比例して申請件数も多いことが確認できる。これは予想通りの結果であろう。
 では、実際にどんな手続きが提供されているのだろうか。15市町の実施状況から、種類別に代表的な手続きを三つに分類してみた(図表2)。
 最初の「比較的簡易な手続き」は、さらに三つに大別できる。
 第一がアンケートなどの〈個人を特定しない〉手続きで、申請件数も比較的多い傾向にある。第二が研修等の申し込みなどの〈個人を特定する〉手続きだ。その種類は多様で、利用件数も多いものから少ないものまであった。これらは従来からオンラインで申請を受け付けていた団体も多く、身近な手続きの一つといえる。
 新潮流として注目されるのが、第三の資料請求だ。まだ郵送請求が多いが、手数料などの徴収が発生するものを「オンライン決済」へ、また紙で郵送していたものを「オンライン交付」に移行できる。利用者にとってもオンライン化のメリットを享受しやすい分野といえ、将来の利用拡大が期待される。
 「ライフイベント関連など比較的煩瑣(はんさ)な手続き」は、個人と事業者向けに分類される。
 個人向けで申請件数が多かったのが水道関係だった。引っ越しの際にこれまでは電話等で申請していたものが、オンライン化により時間的制約がなくなり、利用者の利便性が高いことから多くの申請につながっていると想定される。また、全体としては福祉関連の手続きが目立つ。ここで注目したのは介護給付費の過誤申立の申請だ。申請件数は少ないが、サービス等の利用申し込み以外に“あると便利”な手続きの一つとして列記する。
 各種証明書(住民票、所得証明、戸籍、固定資産税、納税証明、罹災証明など)の発行請求は、ほとんどの団体が提供している。この点、オンライン申請は、固定資産税の各種証明書などコンビニ交付サービスの対象外の交付でも有効と想定される。
 事業者向けは全体的に利用件数も多い。特に移動支援事業の手続きは定期的な申請が必要で、繰り返し申請を行うことや複数の書類を添付することからオンライン化に適している。
 「突発的に発生する手続き」では、時節柄コロナ関連の申請件数が多かった。また、飲食店等に対する「営業時間短縮等協力金」ではオンライン申請を原則とする団体も目立つ。こうした“従来なかった手続き”は、利用者・職員双方からオンライン申請が受け入れやすい。即時性が求められる点でも、〈職員が迅速に申請フォームを作成し、すぐに受付を開始〉できるオンライン申請は効果的だ。
 その他の例として、選挙と罹災証明を挙げた。不在者投票用紙の請求は、スマートフォン等から申請して届くのを待つだけと利用者の利便性も高い。また、罹災証明は自然災害の頻発・激甚化が指摘される中、申請の即時性が求められる分野であり、業務の特性からもオンラインによる申請の受け付けは有効な手段といえる。
 なお、表では触れていないが税務関連として数団体が住民税の申告手続きを提供していた。調査時点では申請件数など詳細分析はできなかったが、その成果に注目したい。

図表2 種類別の代表的な手続き

変わる「生活者の価値観」

 その他、月次・年次で更新される手続きもある。一例が、「健康診断の予約」「就学援助申請」「はり・きゅう・マッサージ施術費補助券の交付申請」など。同一手続きを必要なタイミングに更新することで、申請漏れや誤りを抑制する意図があると思われる。
 一方、サービス提供が進んでいないのが個人向けの障害者関連手続きだ。これは今後、代理申請を可能とすることで手続きの増加が見込まれる。
 さて、今回の分析作業を通じて感じたのが、withコロナの中で人々の価値観の変化が加速していることだ。
 ある市の11月の申請状況を見ると、保育施設等の利用申請件数が突出して多く上位3位を占めていた。ここでは保育所の利用案内の郵送請求もオンラインで受け付けており、依頼件数は前年比の約7倍と伸びている。先述の証明書の交付申請にもいえることだが、ここから「窓口へ行かないで済む」点にメリットを感じる利用者が確実に増えていることが分かる。サービスを提供する側としては申請件数だけでなく、そうした利用者の価値観にも目を向ける必要があるだろう。
 特に、子育て世代はオンラインの利用意向が高い。これを受けて、子ども子育て関連の手続きを提供する団体は多いが、その種類はまだまだ少ない印象を受けた。重点層として利用者のニーズを精査し、今後のサービス拡大につなげることが期待される。
 ところで、多くの手続きの中でユニークと感じたのがオンライン申請の“疑似体験”だ。ある市では、個人利用者向けに〈電子申請〉〈スマホで画像を送る〉〈マイナンバーカードで電子署名〉の体験をシリーズ化。申請完了後には「修了証書」をダウンロード(電子交付の体験)できるようにしている。利用されるのを待つのではなく積極的にサービス利用者を開拓する、まさにマーケティング活動だ。一般に、こうした疑似体験で満足や喜びを感じた利用者のリピート率は極めて高い。
 一部団体では職員も“利用者”として「お試し利用ID」を付与し、オンライン申請の価値を体験してもらう動きが見られた。実際、手続きの中には内部利用が推測されるものもあり、視点を変えた利用促進策として興味深い。

利用者に便利なサービスとは

図表3 3市に見る「検索キーワード」ベスト10

 利用者の検索キーワードに着目すると、団体の個性が見えてくる。そこで、図表3に3市の検索キーワードのベスト10を示した。一見すると多種多様な言葉が並ぶだけに見えるが、実は検索キーワードと団体が提供するサービス内容は見事に合致する。このことから、利用者は無造作にサービスを探しているのではなく、何ができるのか理解した上で目的を持ってオンライン申請を利用していると考えられる。
 また、オンライン化の取り組みは二つのタイプに分類される。
 具体的には、利用者視点でさまざまな申請手続きのオンライン化に挑戦する〈全庁展開型〉と、ライフイベント等に関わる手続きから集中的にオンライン化を進める〈特化型〉の二つだ。これは団体規模に関わらず、個々の考えが如実に表れた結果と推察される。どちらが正しいということではなく、いずれ両者の差は消えていくはずだ。
 ただし、サービス利用率に着目すると前者の方が高い傾向にある。例えば、生活に密着したアンケートや研修等の申し込みは利用頻度も高い。そうした利用者に身近な手続きを増やすことで、オンライン申請を知ってもらう・使ってもらうきっかけとなる。
 この点では、「行政手続き=ライフイベント関連の手続き」と狭義に捉える団体がまだ多いようにも感じられ、より柔軟な発想が期待される。
 また、これらの〈簡易な手続き〉と、厳格な本人確認に加え申請後も利用者とのやりとりが発生する〈煩瑣な手続き〉とを区分けして考える団体も少なくない。その結果、複数のオンライン申請サービスを並行提供する例もある。
 この状況を打開するため、スマート申請システムをポータルサイトとして複数の申請サービスをつなぐケースもある。これにより、サービスの入口は一カ所となり利用者の利便性は向上するが、バックオフィス側では業務の煩雑さが残る。こうしたことから、最近では〈簡易な手続き〉から〈煩瑣な手続き〉までサービスを一本化する動きも目立って増えてきた。
 行政手続きのオンライン化は、まちの明るい未来へつながる投資といえる。その意味では目先のことだけ考えるのではなく、中長期的な視点で将来あるべき姿を描き、それを実現できるサービス構築を目指すことが肝要といえる。

*本調査は、対象団体の許可を得た上で、TKC社内で「TASKクラウド スマート申請システム」の利用実態について特定の個人を識別できない統計情報として手続き名称・申請件数を分析したほか、Webサイト等で公表されている情報の調査、各団体へのヒヤリング調査を実施し、その結果を取りまとめました。

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