03 成果

限界利益重視へシフトし盤石の財務体質を築く

株式会社イワタニ様
『戦略経営者』2026年4月号

本稿は、主要な販売代理店の倒産を機に直販体制へと転換し、盤石な財務体質を築き上げた断熱パネル製造メーカーの事例です。

限界利益を重視した緻密な月次業績管理と、「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」を通じた透明性の高い情報開示が、金融機関の迅速な状況把握にいかに寄与しているかが語られています。

企業、税理士、金融機関の対話が実務上の成果を生むモデルケースとしてご参照ください。

中央が岩谷一社長。右へ向山秀男税理士、西海尚樹監査担当。左へ山梨中央銀行本店営業部横森晃太課長代理、和田賢治課長

【金融機関の視点】山梨中央銀行が同席した業績検討会

  • 管理会計データを活用した足元の業績推移の客観的な共有
    業績報告会では、「変動損益計算書」画面をスクリーンに投影しながら監査担当者が業績を説明することで、金融機関側は客観的なデータに基づき、足元の正確な業績推移を把握できている。
  • 経営者との直接対話による事業方針と定性情報の深い理解
    業況について、付加価値の高い商品提案で価格競争を回避する方針などを社長がよどみない口調で回答され、数字だけでは表れない定性的な企業評価が深まっている。
  • TKCモニタリング情報サービス(MIS)による業績開示
    業績報告会に加え、「MIS」を通じたデータ共有が継続的に行われている。同行担当者も「決算データをMISでタイムリーに送信いただけるのは、経営状況を把握し支援を行う上で非常にありがたいと感じています」と高く評価している。

断熱パネルの製造を主力とする株式会社イワタニ

JR甲府駅から車で約30分。田園地帯を抜けると広大な工場が見えてくる。敷地面積6000平方メートルにおよぶイワタニの本社工場だ。断熱パネルの製造を主力とする同社。〝感動を与えるものづくり〟をモットーに、多様な機能性パネルを開発してきた。

例えば、金属板の間にウレタンを注入してつくるウレタンパネルは、おもに冷凍冷蔵庫で使用されている。顧客ニーズに応える設計力と商品性能の高さが売りで、南極・昭和基地の車庫やハワイ島すばる望遠鏡のクリーンルームに採用された実績を持つ。

岩谷一社長が説明する。

「当社のパネルは、食品工場のクリーンルームや研究機関の環境試験室で採用されるケースが近年相次いでおり、さまざまな現場を裏方として支える役割を果たしています。大半の製品は受注生産ですから、材料の在庫を保有していても製品在庫はほとんどありません」

技術力を生かしたオリジナル製品の開発にも余念がない。改修パネル「ハレルヤン」はそのひとつ。一般的にパネルは、長年使用すると表面の汚れや傷により、本来の衛生機能を保てなくなる。従来、パネルの改修工事時には既設のパネルを撤去しなければならず、施工が長期間にわたり、コストが高くなるという課題があった。この製品の特長は、既存のパネルをそのまま生かしてリニューアルできるところ。短期間の改修工事で設置時の機能を復旧できる。石こうボードやコンクリートなど既設パネルの素材を問わず設置できるのも利点だ。

直販体制にかじを切る

岩谷社長が同社に入社したのは1996年にさかのぼる。父親である昌次前社長から、信頼できる人間を身近に置きたいと請われたのがきっかけだった。

「営業、設計に加え、繁忙期には製品の組み立ても担当しました。ただ、一生懸命働いている割には、利益を十分に確保できていなかった。従来の延長線上でこなしている業務が多く、新たな仕事や、他社と違う分野にチャレンジしたいという思いがだんだん増していきました」(岩谷社長)

受注ルートは、販売代理店にもっぱら頼っていた。いきおい価格交渉では代理店側が主導権を握ることになる。そんななか、経営の根幹を揺るがす出来事が起こる。売り上げの7割を占めていた販売代理店が倒産したのだ。倒産にともない3000万円の不良債権が発生。数名の従業員を解雇せざるを得なかった。

この一件をきっかけに、同社は販路の開拓に迫られた。需要の見込める首都圏の拠点として東京営業所を開設(現在は閉鎖)し、ホームページを立ち上げ顧客へのアプローチを強化。こうして直販体制を徐々に整えていった。2004年5月期には売上高が初めて5億円をこえ、一層の成長を図るべく、本社工場の新築、移転を計画する。とはいえ、手元資金が潤沢にあったわけではない。

「悩んだのは新工場のライン構成と資金調達をどうするか。予算がかぎられていたため、既存の機械設備を新工場へ移設し、金融機関から建設資金を借り入れる必要がありました」

こう述懐する岩谷社長は、税務顧問契約を結ぶ向山会計事務所に相談する。向山秀男顧問税理士が提案したのは、新工場建設と製造ラインの革新をテーマとする経営革新計画の策定だった。経営計画を立てるのは初めての試み。向山税理士と監査担当の西海尚樹氏が計画づくりを親身にサポートした。

「イワタニさまはTKCの会計システムを利用して、月次巡回監査を経た正確な業績数値をタイムリーに把握されています。月次決算をベースにした業績予測や、機械設備の稼働率見込みをはじめ、詳細な数字を計画に盛り込みました」(向山税理士)

経営革新計画のお墨付きが得られた後、融資を申し込んだ政府系金融機関での審査はスムーズに進み、資金を低利率で借り入れることができた。

計画を不断に見直す

月次決算に基づく業績予測、経営革新計画の策定・承認、そして迅速な資金調達──。一連のプロセスは、新本社工場の竣工後まもなく代表に就任した、岩谷社長のマインドに変化をもたらす。

「会社の将来を議論して、向山先生や西海さんの指導のもと経営計画を策定し、事業の方向性を決めることの重要性を痛感しました。経営計画は一度つくって終わりではなく、目標件数を部門や担当者に落とし込むなどして、内容を毎年ブラッシュアップしています。また決算書の内容を理解して、利益予測を元に投資判断を行えるようになりました」(岩谷社長)

決算書の信頼性向上を図ろうと、向山税理士に会計参与への就任を打診したのもこのころ。以降、業績報告会を定期的に開催するなど、向山会計事務所との関係はより緊密なものとなる。

工場で生産するパネルの受注から納品までに要する期間は、1週間から1年程度までと幅広い。ただ、2週間前後の納品を目指してスケジュールを組む案件が大半を占める。売り上げがたつのは、現場での施工が完了してから。そのため、各案件の進捗への目配りが欠かせない。岩谷社長が経営判断のよりどころとしているのが『FX2クラウド』で把握した数字である。

「会社の業績は、取引先さまからの支持を表すバロメーター。業績数値では、売上高と限界利益を特に注視しています。営業会議で担当者に売掛金の回収予定日を確認しており、赤字の月があってもあまり一喜一憂しないようにしています」(同)

広がる新たな収益源

1月下旬の昼下がり。イワタニの本社会議室では、向山税理士と西海監査担当、メインバンクである山梨中央銀行の担当者が出席して業績報告会が開かれていた。「変動損益計算書」画面をスクリーンに投影しながら、西海監査担当が足元の業績推移を説明する。続いて業況を尋ねられた岩谷社長が回答した。

「肌感覚として日本企業の設備投資意欲は減退している印象があります。単価を引き下げてでも仕事を獲得しようとする同業者もいますが、私たちは付加価値の高い商品を提案し、価格競争に巻き込まれないよう心がけています」

その口調はよどみない。付加価値を高める施策として近年注力しているのが、BtoC領域への進出である。防音室やバイクガレージ、ドッグハウスなど、パネル製作で培った技術を一般個人向け商品づくりに注ぐ。

圧巻はワインセラー「バッカスの寝室」。高断熱・高気密のウレタンパネルがワインボトルを最適な環境に保つ。「機能性だけでなく意匠性を加味した製品づくりを通して、従業員がデザイン力を身につけられれば」と岩谷社長は一般消費者向け商品を手がけるねらいを語る。

同社では業績報告会に加え、「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を活用して決算書を取引金融機関に送信し、コンスタントな業績開示に努めてきた。こうした取り組みについて山梨中央銀行の横森晃太氏は、月次巡回監査を経た業績数値の信頼性は高いと評価する。

「決算データをMISでタイムリーに送信いただけるのは、経営状況を把握し支援を行う上で非常にありがたいと感じています」(横森氏)

限界利益を重視した業績管理と地道な営業活動が実り、収益構造は変貌しつつある。かつて2社の得意先で売り上げの8割を占めていたが、現在は主要取引先は20社に増え、売り上げ構成のリスク分散が進んだ。自己資本比率は70%を上回る。

岩谷社長はこう意気込む。
「本社工場を移転して20年になりますが、業績拡大にともない現工場では生産能力の確保がむずかしくなるため、新工場の建設を視野に入れています。尖った製品をつくって従業員の所得を引き上げ、より良い会社にしていきたいです」

業績検討会

成長のポイント

  1. 経営革新計画承認による低利率の借り入れに成功
  2. 70%台後半の高い自己資本比率
  3. 会計参与である顧問税理士の手厚い支援
経営革新計画…中小企業が策定する新事業活動の中長期的な計画。目的は「経営の相当程度の向上」を図ることにある。都道府県知事によって計画が承認されると、資金調達や販路開拓などの面で支援を受けられる場合がある。
会計参与…2006年5月に施行された会社法で新設された役員制度で、取締役または執行役とともに貸借対照表や事業報告書などを作成したり、その書類を別に保管し、それを株主や債権者へ開示する職務をもつ機関
TKCモニタリング情報サービス(MIS)…TKC会員事務所が毎月の巡回監査と月次決算を実施した上で作成した月次試算表、年度決算書などの財務情報を関与先企業からの依頼に基づいて、金融機関に開示する無償のクラウドサービス

BS11特別番組「ドキュメント戦略経営者」で動画もご覧いただけます。BS11特別番組「ドキュメント戦略経営者~未来を切り拓く 経営者と税理士の挑戦~」

企業情報
株式会社イワタニ
設 立1996年6月
所在地山梨県笛吹市八代町米倉1267-1
売上高8億1000万円
従業員数34名(パート社員、役員含む)
会計システムFX2クラウド
URLhttps://www.panel-world.com/
顧問税理士
向山会計事務所
所長向山秀男
所在地山梨県笛吹市石和町四日市場1787 IBCビル3F
URLhttps://www.tkcnf.com/mukouyama-kaikei
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