本稿は、創業136年の老舗寝具店が、月次決算を基軸に「攻め」と「守り」の判断を見極め、厳しい消費環境のなかでも経営の質を高め続けている事例です。
物価高による買い控えや来店客数の変動に直面するなか、木村寝具店は月次業績をもとに販促費の抑制、在庫水準、資金繰りを早期に検討。さらに税理士・金融機関との定期的な情報共有により、経営判断と金融支援が一体となって機能しています。
金融機関にとっては、月次決算と決算情報の開示が、取引先の実態把握、早期支援、融資判断の迅速化にどうつながるのかを具体的に読み取れるモデルケースです。

【金融機関の視点】広島市信用組合が同席した決算報告会
- 月次決算を起点にした、業況変化の早期把握
売上の落ち込みや販促費の抑制といった変化について、月次業績をもとに経営者・税理士・金融機関が同じ情報を共有している。金融機関側は、表面的な決算数値だけでなく、来店客数、広告施策、従業員体制などの背景要因まで把握でき、取引先の実態に即した支援を検討しやすくなる。 - 経営者との対話で見える「守り」の意思決定
木村社長は、業界全体の厳しさや金融機関から得た地域経済の情報を踏まえ、広告宣伝費を意識的に抑制し、手元資金を厚くする判断を行っている。数字に基づく説明と経営者自身の言葉により、金融機関は単なる減収企業としてではなく、環境変化に応じて資金繰りと投資判断をコントロールする企業として評価できる。 - MISによる決算情報共有が、融資判断の迅速化を後押し
広島市信用組合の支店長は、毎月の巡回監査に基づく精度の高い数字と、「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」によるタイムリーな申告書・決算情報の共有を高く評価している。金融機関にとって、正確な情報が早期に開示されることは、融資判断のスピードと納得性を高め、企業への伴走支援を実効性あるものにする。
創業136年の老舗寝具店・木村寝具店
広島県広島市に本社を構える木村寝具店は、1890(明治23)年創業の老舗寝具店である。地域の婦人会などに出向いて布団を割賦販売する営業手法で1950年代に売り上げを大きく伸ばしたが、その後業績は下降線をたどっていた。2002年に入社し14年に事業承継した5代目の木村純士社長はいう。
「かつて主力だった婦人会市場が、ピーク時の1980年代から縮小し続けたのです。婦人会の会員は高齢化し、新規の方も入らなくなりました。これは長く続けられないと感じました」
AIを活用し眠りの質高める

そこで木村社長は、08年ごろから、一般消費者向けの販売への事業転換を推進。自作のホームページを立ち上げ、単なる寝具販売だけではない「眠りの専門家」として相談される店づくりに注力している。
最近では店舗オリジナルの布団メンテナンスブースを設けた。除菌・消臭・乾燥を行う専用ボックスを機械メーカーに注文し、4年前に店内へ設置。購入後のアフターサービスを手厚くし顧客満足度を高めている。
さらに東京大学発ベンチャーのSapeetが開発したAI姿勢分析システム「シセイカルテ」を導入。顧客に計測スペースに立ってもらい、iPadで正面と側面の2枚の写真を撮影する。撮影した画像は自動的にクラウドへ送信され、AIが数秒で解析を実行。結果画面には、姿勢のゆがみやストレートネック傾向の有無、推奨されるストレッチや生活習慣のアドバイス、その人に合った敷き寝具の硬さなどをまとめたレポートが自動表示される。
「姿勢のクセが分かれば、どの部分に負荷がかかっているか、お客さま自身も理解しやすい。AIが示す客観的なデータは、提案の説得力を高める大きな武器になります」(木村社長)
さらにこのシステムは、姿勢が悪化しやすい生活傾向まで分析するため、単なる寝具提案を超え、睡眠習慣・身体の使い方まで踏み込んだ総合的なカウンセリングが可能になる。木村社長は「『この枕が合います』ではなく、『あなたの姿勢だからこの枕とこの敷き寝具が必要です』と説明できます」と語る。
オーダー枕の作成では、まず「レーザー7点計測」を行う。頸椎弧と腰椎のライン、肩幅など背面の凹凸をレーザーで7カ所スキャンし、横になった際に頭部と背中がどのような角度をつくるか数値化する。この計測結果から「普段は横向き寝が多いのでは」といった睡眠姿勢の癖が推測できるという。
次に、専用のベッドに横になってもらい、スキャン結果に基づいて枕の高さを微調整していく。この時、首の角度が数ミリ高すぎても低すぎても、翌朝の首肩の張りにつながるため、木村社長が丁寧に確認する。
枕の中材も顧客に合わせて選ぶ。通気性の高いパイプ素材、柔らかいわた素材など5種類の素材から、睡眠の悩みや季節ごとの使い方をヒアリングしながら決めていく。完成したオーダー枕は、その日のうちに持ち帰り可能で、使用後に違和感があれば再調整は無料だ。
こうした科学的アプローチによる接客を裏付けるのが、木村社長が取得した「睡眠環境・寝具指導士」の資格だ。睡眠メカニズムや寝具の素材特性、湿度・光・音など環境要因などが睡眠に与える影響などの専門知識を伝えながら、「納得していただける接客」を目指している。
着地予想参考に広告費を抑制

年明け間もない平日午前。店内2階の応接スペースで、木村社長と顧問税理士の寺越慎太郎氏、監査担当の江﨑麻紀絵氏が向き合っていた。月次巡回監査後の業績報告会が始まったのである。江﨑氏は『FX2』から出力した資料を机に広げ、一通り説明し終えた後、単刀直入に聞いた。
「2025年12月単月の売り上げが前年より落ち込んでいます。要因をどのようにお考えですか」
木村社長は資料を一瞥し、一呼吸置いてから答えた。
「来店客数が昨年より少なかったことが大きいですね。それに、ちょうど従業員の退職と入社が重なり、教育に手が取られた結果、私自身が販売促進に割く時間が不足してしまいました。24年12月が例外的に売れたことも影響していると思います」
寺越税理士が続けて、8~11月の売上推移について質問した。
「8月、9月は伸び悩みましたが、10月と11月は持ち直しています。何か手を打たれましたか」
木村社長は表情を引き締めて応える。
「物価高でも消費があまり落ち込まないと予想される既存顧客を対象に、ムートンラグなどの上位製品の提案とムートンのお手入れ相談をセットにしたイベントをDMでご案内しました。10月に開催したそのイベントが非常に好調で、多くのお客さまから『次はいつ開催するの』と声をかけていただくなど、成績の良かった前年同月の売上高を上回ることができたのです。気温が例年より早く下がったこともあり、11月も好調を維持することができました」
一方で年度全体では減収となった。寺越税理士はその要因について広告宣伝費に注目した。
「広告宣伝費の累計が、前期に比べ大きく減少しています。売り上げが伸び悩む一因になっている可能性はありますか」
再び木村社長の回答。
「寝具業界全体で25年は厳しい状況が続きました。そうした状況を踏まえ意識的に広告宣伝費を抑えたのです。コロナのときもそうでしたが、先行きが不透明な時期は『攻める時』ではなく、現金を手元に積む『我慢の時』と判断しています」
「売り上げと仕入れは常に確認している」という木村社長は、限界利益を意識した経営を実践している。売り上げが伸び悩んだ25年夏、江﨑氏に「このままだとどれくらい赤字になるか」とシミュレーションを依頼。提示された数字をもとに、販促費の抑制や経費の再配分を判断したのだという。
「コロナ禍のときも上・中・下3パターンの業績予測を作成してもらいました。複数シナリオの中で、最善の打ち手を選ぶことができたため、とても安心したことを覚えています。数字を根拠にすれば、こわがらずに経営判断を下すことができます」(木村社長)
木村寝具店は法人化して25年12月で68期目となった。寺越慎太郎税理士事務所は祖父の時代から数えて創業78年目。同社は法人設立当初から同事務所と顧問契約を結んでいる。互いに3代以上にわたり続く強い結びつきが、「月次決算を軸にした経営」を支えている。
決算情報共有で融資も迅速に

宮﨑亮多支店長
業績報告会終了後、応接スペースに、もう一つ椅子が追加された。メインバンクである広島市信用組合堺町支店の宮﨑亮多支店長が加わり、今度は25年12月期の決算報告会をするためだ。木村社長と同学年の宮﨑支店長を迎え、寺越税理士が、25年12月期の業績報告書を手に説明を始めた。
「今期は残念ながら減収となりましたが、利益率はやや上昇しました。利益率が改善したのは、高価格帯商品の販売が健闘した結果と思われます。最終的になんとか黒字で着地しそうです」
一通り説明が終わると、宮﨑支店長が「同業他社の状況はどうですか」「物価高による買い控えの影響は」「在庫の水準は健全ですか」などと矢継ぎ早に質問した。木村社長は、その一つ一つに丁寧に答えた後、広告宣伝費を抑制した理由について次のように説明した。
「宮﨑支店長に夏場にお会いした時に、『他業種でも売り上げが伸びていない』と聞いていたので、その段階で『今年は相当厳しくなるだろう』と覚悟しました。あの情報が、広告宣伝費を抑える『守り』の判断をする重要な材料の一つになりました」
宮﨑支店長は、情報共有の重要性についてさらに続ける。
「このような月次決算での情報共有があるからこそ、我々金融機関は正しくサポートできます。数字の裏付けがなければ、貸したくても貸せませんからね。しかし木村寝具店さんは、毎月の巡回監査で精度の高い数字を出されている。さらに「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)でタイムリーに申告書も共有いただけるので、融資判断も迅速に行えます」
その言葉を受けて寺越税理士が言う。
「当事務所でも関与先企業さまのキャッシュの見通しを月次で確認しながら、半年先にリスクが生じる可能性があれば早めに相談するようにしています。切羽詰まってからでは金融機関も動きにくいですからね。月次決算の実践によって避けられるリスクはかなり多いと思います」
月次決算を起点に三者が同じ方向を見つめることで、的確な打ち手を施す経営基盤が形づくられているのである。

メディア露出増え知名度向上
最近、プロ野球選手が同社製品を愛用していることや、地元テレビの番組で紹介されたことなどをきっかけに話題になるなど、メディアでの露出度が増えつつある。有限会社寺越コンピューター会計事務所の2代目であり、現会長の寺越愼一税理士は、地域での同社の知名度は大きく向上したと話す。
「『テレビで見た』という人が多く来店するようになりました。日ごろの丁寧な接客があったからこそ、メディアにも評価され、多くの反響が寄せられているのだと思います」
一つ一つの誠実な対応の積み重ねが、今日の木村寝具店の信頼を形づくっているのだろう。木村社長は言う。
「まずはお店の認知度をもっと上げたいですね。寝具は悩みから始まる商材なので、足を運んでもらって初めて商品の価値が伝わります。専門知識に裏付けされた最適な提案を今後も続けていきたいと思います」
地域に根ざした老舗の信頼、5代目社長の改革と専門性、そして月次決算を軸とした3者の連携――。木村寝具店はこれからも、地域の「眠り」を支える専門店として進化を続けていく。
成長のポイント
- 月次業績の把握で販促、投資、在庫などの意思決定を素早く最適化
- 姿勢分析AIやレーザー計測を活用し、眠りの課題を「見える化」して提案
- 税理士、金融機関との情報共有が進み、経営判断と資金調達が一体的に機能
BS11特別番組「ドキュメント戦略経営者」で動画もご覧いただけます。
| 株式会社木村寝具店 | |
|---|---|
| 創 業 | 1890年6月 |
| 所在地 | 広島県広島市中区十日市町1-5-17 |
| 従業員数 | 3名 |
| 会計システム | FX2クラウド(取材時はFX2) |
| URL | https://www.e-nedoko.com/ |
| 寺越慎太郎税理士事務所 | |
|---|---|
| 所長税理士 | 寺越慎太郎 |
| 所在地 | 広島県広島市西区観音本町1丁目7番24号 |
| URL | https://www.tkcnf.com/terakoshikaikei |






























