インボイス制度開始を控え、取引先の免税事業者に課税事業者になってもらいたいと考えています。負担軽減措置があるとのことですが、詳細について教えてください。(広告代理業)

「適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置」いわゆる2割特例とは、消費税の免税事業者が適格請求書(インボイス)発行事業者の登録をしたことにより課税事業者となった場合に、制度開始から3年の間に開始する課税期間のうち、納税義務の免除が適用されたはずの期間にかかる納税額は、売上税額の2割に軽減する緩和措置のことをいいます。

 インボイス制度の開始に伴い、インボイス発行事業者以外の者(免税事業者等)との取引にかかる仕入税額控除について、当初3年間は80%の控除が認められるものの、次の3年間は50%と段階的に減少し、最終的には全額が控除不可という取り扱いになります。

 本則課税を適用する買い手側では、免税事業者との取引は消費税相当の実質負担増となるため、課税事業者である同業他社へシフトするか、価格交渉をして負担軽減を図るなどの対応が考えられます。逆に、免税事業者である売り手側は、インボイス発行事業者にならなければ、値引き交渉を受けるか、知らぬ間に得意先から選別を受けるなど売上高に直接影響を与えるリスクを抱えることになるため、インボイス発行事業者の登録をして、課税事業者となる対応を図るものと思われます。

 課税事業者になった場合には、消費税の納税負担と併せて申告手続きや帳簿作成等の事務負担が新たに生じます。十分な事務処理能力を持たない小規模事業者にとって障壁となるこれらの課題を、段階的かつ期間的に解消すること、また3年後にはスムーズな簡易課税制度への移行を可能とすることを目的とした措置となります。

1.対象期間
「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」の3年間です。個人事業者で制度開始時から課税事業者になる場合は、令和5年分( 10月から12月の3か月)と令和6年から8年までの計4回分の申告が対象となります。

2.対象者
 対象は「適格請求書発行事業者の登録をしたために課税事業者になった者」です。また適用される期間は「納税義務の免除が適用されるはずであった期間」となります。補足ですが、インボイス登録をせずに課税事業者の選択をした者、課税期間短縮の特例の適用を受けている者については対象外になります。また、制度開始日前から課税事業者選択届出書を提出している者も同様に対象外になりますが、開始日の属する課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出した場合には、その課税期間から適用可能となります。

3.手続きおよび税額の計算方法
 この特例を受けるためには、確定申告書にその旨を付記するだけでよく、簡易課税のような事前の届け出は不要であり、かつ、継続適用の縛りもありません。
 税額の計算方法は簡易課税と同様であるため、第1種事業(卸売業90%)以外の事業であれば税額面で有利になることが容易に判定でき、さらには、実際の税負担が売上高に対して約1.8%と計算できるので、価格への転嫁も考慮しやすいといえます。 

 以上の点を踏まえて、買い手側の課税事業者の立場からすると、制度開始までに免税事業者である取引先との対応策を検討し、準備しておくことが重要になります。

掲載:『戦略経営者』2023年6月号