事務所経営

お客様の利益を考え共に歩める事務所を目指す

Arect中野税理士事務所 中野秀行会員(TKC西東京山梨会)

2019年4月に税理士事務所を独立し、東京都八王子市でArect中野税理士事務所を開業した中野秀行会員は、開業から着実に関与先を増やしてきた。金融機関等との関係や月次巡回監査を前提にした事務所体制の構築、関与先拡大への取り組みなどについて、中野会員に話を聞いた。

TKC会員事務所に11年勤務し税理士としてのあるべき姿を学ぶ

──事務所開業までの経緯から教えていただけますか。

中野秀行会員

中野秀行会員

中野 税理士試験の勉強を始めたのは大学を卒業し、会計事務所に就職してからです。最初4科目までは何度か受験し、合格できたのですが、毎日仕事が楽しくて、受験のことは考えなくなりました。
 独立を考えたのは、私が37歳のときに亡くなった父親の影響があります。父は若い頃に税理士を目指していた時期があり、何科目か取得したのですが、事情があって諦めたようです。そのためか、私には亡くなるまで「合格しろ。早く独立して開業しろ」と言っていました。
 それまでは、資格がなくても事務所で大事な仕事を任せてもらえていたので、その言葉をあまり気にしていませんでした。しかし、父が亡くなってみると、せめて生前に税理士資格をとって報告してその願いをかなえてやりたかったなと思うようになり、2019年4月に39歳で資格を取り、開業しました。

──勤務時代はいかがでしたか。

中野 3カ所の会計事務所に勤務し、独立する直前までの11年間勤務していたのが、TKC会員事務所でした。所長からは税理士としてのやりがいやあるべき姿を学びました。また、職員として、月次巡回監査体制を築き、「TKC方式の自計化」に取り組んできた経験があり、関与先に貢献するには、TKCのビジネスモデルが理にかなっていて、一番の近道であると確信していましたので、開業と同時にTKCに入会しました。

──事務所の概要や事務所名の「Arect(アレクト)」の由来を教えてください。

中野 開業4年目になりますが、関与先は月次顧問先が32件と、3月の確定申告のみのお客様が50件。相続税申告関係は年間17件ほどお受けしています。職員は、フルタイムの社員1名、時短勤務の社員1名、パート社員1名の計3名です。
 「Arect」は、私が作った造語です。Account(会計)「A」と、Direct(案内する、監督する、指揮する)の「rect」を組み合わせています。この言葉には「お客様を会計で導きたい」という私の思いが込められています。

関与先2件からスタート 八王子駅周辺の金融機関を毎月訪問

──関与先の件数は毎年平均7~8件で増加しているとのことですが、どのような方法で拡大されていますか。

中野 金融機関からのご紹介が一番多いです。最初は、前の事務所から引き継いだ2件でした。私自身、営業活動に苦手意識があって、自ら開拓はあまりしておらず、なかなか増えませんでした。
 そのようなときに、職員が一人入ってくれました。その方は営業志向がとても強く、「所長、一緒に金融機関を回りましょう」と提案してくれたんです。時間はたくさんあったので、職員と二人で、営業先での会話の内容も考えて、TKC出版が発行する『事務所通信』と名刺を持って、「八王子で開業しました。よろしくお願いします」と、近隣の金融機関の支店を1件ずつ訪問してお配りしました。

──何店舗くらい訪問したのですか。

中野 八王子駅周辺にある金融機関15店舗くらいです。毎月継続していると、そのうちの何店舗かの支店長や行職員の方と知り合いになりました。今でも時々連絡をいただくこともありますし、重要な法改正があった場合には、別途訪問して、『事務所通信』をお渡しし、改正のポイントをご説明することもあります。
 他にも、TKCの支部例会などの会合があれば必ず出席しています。会合には金融機関やTKCとの提携・協定企業の方が招かれることもありますので、顔見知りの方とお話をしたり、その時に初めて名刺交換した方とは、後日、ご挨拶に伺ったりするようにしてきました。
 そのうち知り合いが増えて、徐々にお客様をご紹介いただくようになりました。また、セミナーの講師や相談会の相談員といった仕事の依頼も来るようになって、相続関係などの個人の方と出会う機会も増えました。

自計化や企業防衛がなぜ必要か サービス内容を伝える説明書を提示

──貴事務所は翌月巡回監査率が90%を超え、自計化も進んでおられます。事務所としてどのように取り組んでこられたのでしょうか。

中野 開業から、月次巡回監査をベースに「TKC方式の自計化」で、関与先のお役に立ちたいという気持ちが強くありました。しかし、現実には、収入がほとんどなかったため、依頼があれば、あまりお受けしたくないなと思ったお客様でもどんどん引き受けていました。当時は、記帳代行はもちろんのこと、脱税志向の強い方や顧問料の値引きを頻繁に要求される方も多く、独立前に思い描いていた事務所像とは相当かけ離れていて、本当に苦労しました。

──そのような苦しい時期をどう乗り越えたのですか。

中野 記帳代行では、例えば、提出された領収書が正しいものであるかどうかの判断ができません。やはり、関与先へ訪問しないと、経営者と正しい会計による数字の話はできないので、早く記帳代行から脱却しなければならないと思いました。また、職員を採用したこともあり、職員に担当を任せることができないようなお客様の関与はお受けできないなと思い直しました。そして、既存の関与先にも当事務所の方針をご理解いただけるよう1件ずつ説明することにしました。残念ながら、顧問契約解約は数件ありましたが、このときの決断によって、今の事務所があるのだと思っています。

──事務所の方針をお客様に伝えるために工夫されたこと何ですか。

中野 まずは、事務所の方針を明確にするために、「中野税理士事務所サービスのご案内」(左上)を作成しています。ここでは、①月次巡回監査、②各種申告書作成、③経営助言、④予算作成支援・資金繰り支援、⑤企業防衛──の5項目を掲げて、サービス内容を紹介しています。新たに顧問先となるお客様にはこのサービス内容の説明書と顧問報酬料金表を必ずご提示しています。

──事務所が提供できるサービスを明確にすると、お客様にとっても分かりやすいですね。反応はいかがですか。

中野 会計事務所が毎月訪問することに驚かれる方や、予算の策定や資金繰りの相談についても、自社で考えるもので外部の人に相談するものではないと思っている方も多いことが意外でした。このような説明書を顧問報酬料金表とともに契約前に提示して説明することにより、記帳代行から自計化への切り替えや、企業防衛の提案について、なぜ会社にとって必要なのかを納得して受け入れてもらいやすいと感じています。
 経営助言については、「会計事務所は『問題気づかせ屋』」というスタンスで、社長と会話しています。顧問契約後は、最初の3カ月で初期指導を徹底的に行い、仕訳辞書などを活用し、仕訳入力の省力化を図り、巡回監査で仕訳を確認する時間を減らし、変動損益計算書をもとに社長に業績報告する体制を構築しています。変動損益計算書の構造が、社長の頭の中と一致しており、「業績がつかみやすい」との声をいただきます。また、継続MASでの予算・実績管理やシミュレーション機能にも興味を持っていただけます。
 おかげさまで、社長が「中野さんのところはしっかりサポートしてくれるよ」と知り合いの社長を紹介してくれるようになってきました。先方から「説明書に書いてあるけど、やってくれていませんよね」と言われないように、私自身の「戒め」にもなっています(笑)。

■「中野税理士事務所サービスのご案内」より

「中野税理士事務所サービスのご案内」より

職員にどんどん成長してもらい関与先から感謝される喜びを味わってほしい

──月次巡回監査をベースに、自計化と経営助言を通じて、関与先を支援するにあたり課題はありますか。

中野 職員に負担をかけすぎないよう、仕事量をいかにコントロールするかが最近の所長としての悩みです。
 職員にはどんどん成長してもらい、関与先から感謝される喜びを味わってほしいと常々考えています。そのためには、色々な経験を数多く積むことが一番だと思っているのですが、先ほど挙げた当事務所のサービスを全て提供するには、覚えることがたくさんあり、時間がかかることは承知しています。今でも職員は、自主的に初期導入マニュアルを作成したり、建築業のDAICシステムを習得してくれているのですが、ありがたいことに関与先の紹介が増えていますし、書面添付の記載内容や継続MASを使った経営助言などの品質をより高めていこうとすると、職員が実施することはさらに増えます。
 悩みを解決するために、サービスの内容を落としてはなりませんので、職員の増員や一人あたりの生産性を上げるために、TKCのオンデマンド研修や巡回監査士補試験の勉強を通じた知識の習得、日々の業務の中で私の仕事のやり方を共有するなどして、負担が少ない仕組みづくりを考えています。

──ニューメンバーズ会員にメッセージをお願いします。

中野 最近、税理士の友人が八王子への引っ越しを機に、TKCへ入会しました。TKCには、入会間もない会員を支援する仕組みがあるので、私が担当し、いろいろな悩みを含めて話をしています。その中で、TKCモニタリング情報サービスや継続MASによる予算・実績管理に興味を持ち、また、365日変動損益計算書を活用できるように、記帳代行している関与先を自計化してみようと検討しています。とても嬉しいことです。
 私も入会当時、心細い思いをしていたところにTKC会員の先輩方が気さくに声をかけてくれて、相談にも乗っていただいたことを思い出しました。このような交流の機会は、支部例会だけでなく、金融機関との交流会や勉強会などたくさんあります。事務所経営で困ったことがあれば、情報交換の場として積極的に活かしてもらえればと思います。

──最後に、今後の抱負をお聞かせください。

中野 関与先の経営に社外サポーターとして少しでもお役に立ちたいですね。職員の税務・会計の専門家としての成長を後押しして、一緒に会計で関与先の真の利益を追求していきたいと思います。

(インタビュー/TKC全国会事務局 森脇一光 構成/TKC出版 石原 学)

事務所概要
事務所名 中井会計事務所
所在地 東京都八王子市寺町7-1 八王子ABSビル201
開業 平成31年4年開業
関与先件数 82件(法人32件、個人50件)
職員数 3名
翌月巡回監査率 92.0%
FXシリーズ 30社
継続MAS 13社
書面添付 16社
MIS実践 27件

(会報『TKC』令和5年10月号より転載)