事務所経営

事務所の成長は職員の成長 情報共有を徹底し関与先を支援

柳町会計事務所 柳町和巳(千葉会京葉支部)
柳町和巳会員

柳町和巳会員

事務所の経営理念に自利利他を掲げる柳町和巳会員。職員の積極的な発言を尊重した事務所づくりで情報共有を徹底し、巡回監査の質の向上を目指している。さらに、添付書面の記載内容の充実や「記帳適時性証明書」の積極的な活用も進めている。柳町会員は「事務所のレベルは職員のレベル」と語り、関与先の発展に向けて所内一丸となった事務所経営を行う。

開業後3年目に参加したニューメンバーズフォーラムが転機に

 ──開業までの経緯を教えてください。

 柳町 私は、高校生の頃から税理士になろうと決めていました。中央大学商学部に進み、大学時代はラグビー部に所属。大学を卒業した昭和63年は、ちょうどバブル景気の頃で、仲間の中には入社1年目で100万円のボーナスをもらっている人もいました。それを横目に見ながら、私はコツコツと受験勉強に励みました。
 大学卒業後、TKC東京都心会の御苑会計事務所にお世話になり平成2年に税理士試験合格、平成5年に税理士登録。すぐにでも開業しようと思っていた矢先、縁あってTKC千葉会の武藤和義会長の事務所に入所することになり、そこで2年間お世話になりました。その後、平成8年に船橋市に事務所を借りて独立開業しました。

 ──開業後はすぐに関与先が増えたのですか。

 柳町 事務所の拡大にはかなり力をいれていて、開業から2年後には関与先が30件を超え、順調に増えていきました。多いときには1人の方から3、4社ご紹介をいただいたこともあります。当時は、毎月1、2件新規のお客様が増えるというペースでしたので、初期経理指導に追われる毎日でした。

 ──急速に関与先が増える中、事務所の転機となった出来事はありますか。

 柳町 開業して3年経った頃、仙台でニューメンバーズフォーラムが開催され、1テーブル7、8人のグループディスカッションに参加しました。ディスカッションでは、「関与先が50~60件。職員は3人」「開業から3年。顧問先10件の時から毎年職員を1人ずつ採用している」などと話すニューメンバーズ会員の話に衝撃を受けました。その頃、事務所は私とパートの女性2名で関与先は40件弱になっていました。私はそれまで拡大まっしぐらで、これからどうしようかという状態。職員の採用については頭になく、まさに目から鱗が落ちた瞬間だったのです。
 それを機に、アルバイトで採用していた男性を社員に登用。その後、数年間は毎年男性社員を1人ずつ採用しました。そのほとんどの職員が今も辞めずに働いています。

 ──事務所の巡回監査体制を徹底するためにどのような取り組みをしていますか。

 柳町 「自利利他」を経営理念に掲げ、お客様の事業の永続的な発展の支援に、職員と一丸となって取り組んでいることでしょうか。事務所業務のすべては巡回監査が原点。「お客様の業績管理体制を早く、正確に構築するためのお手伝いをする」という考えがベースにあります。そのためには翌月巡回監査が絶対に必要です。
 職員には、巡回監査で必ず実施するべきこととして次の4つを挙げています。①相当注意義務の履行、②お客様の帳簿の証拠力の保持、③関与先の会計指導と経理担当者の育成、④関与先社長への経営助言。
 それから、顧問契約を結ぶ際、顧問契約書と一緒に「柳町税理士事務所の方針書」をお渡ししています。その中には、起票と記帳指導、適正な申告・納税、自計化、業績管理体制について明記し、さらに、企業防衛、書面添付、経営革新セミナーへの参加についても記載しています。

「まずは職員の発言がある」ことが重要
1人より8人の発想の方が膨らむ

 ──職員さんの定着率が高いようですね。

 柳町 はい。月初に行うミーティングで方向性を明確にしてコミュニケーションを取っています。月初ミーティングでは、その月に決算月を迎える法人、申告月を迎える法人について、担当者ごとに業務の進捗状況並びに経営者と実施している黒字対策・赤字対策について説明し、協議します。併せて書面添付の予定も確認し、できていない関与先については改善点を話し合うのです。
 毎月ミーティングと同じ日に所内研修も行っていて、職員を含めて持ち回りで講師を担当します。

 ──情報共有をしっかりされているということですね。

 柳町 ミーティングでそれぞれの成功・失敗事例を話し、全員で共有します。例えば、ある動物病院の関与先では、FX2の「売上速報」を使って、売上高の予算比、前年比を院長が、日々楽しみにチェックしているそうです。そのような、関与先での活用事例を共有することで他の職員も参考になりますし、お客様に対する支援体制も深まります。
 そして、ミーティングには私も参加し、決定事項はすぐに事務所の方針に反映しています。私は所内で、職員の意見が出やすい雰囲気づくりに努めています。どんな意見でも、まずは職員の発言があることが重要。そして、発言があったら皆できちんと答えてあげること。私だけではなく他の人の意見も聞くことで、自分を見つめ直すきっかけとなり、気付きにもなります。1人より8人の発想の方が膨らみますよね。

書面添付の記載内容から職員の成長度合いも分かる

実践宣言等

TKC千葉会巡回監査・書面添付推進委員会作成
ツール(上)と実践宣言(下)を活用し
巡回監査や書面添付の質の向上を目指す

 ──柳町先生は千葉会の巡回監査・書面添付推進委員長でもいらっしゃいます。書面添付についてはいかがでしょうか。

 柳町 書面添付は巡回監査の延長線上にあり、巡回監査がきちんとできていないと書面添付も評価を受けるものにはなりません。千葉会の宮﨑健一名誉会長からも、毎月の巡回監査の積み重ねで「計算し整理した事項」あるいは「相談を受けた事項」を書き残し、それを集約したものが書面添付だと教えていただきました。千葉会の「実践宣言」には書面添付のメリットが全て網羅されていて、職員は皆、これをプリントして持ち歩いています。

 ──初めて書面添付を実施したときはどうでしたか。

 柳町 とても嬉しかったです。事務所を開業する前からお客様に納得していただいた上で書面添付をしたいと思っていました。ですから、最初に書面添付の承諾をいただいたときは、このお客様とは一生のお付き合いになるという実感がありました。

 ──実際に書面添付をしたお客様からの反応はどうですか?

 柳町 意見聴取の後、いわゆる「調査省略通知」を受けた関与先からは、「これでもう終わったの?」と驚かれました。
 また、一昨年の秋には、書面添付をつけている医療法人の関与先に、設立から10年経って初めての税務調査がありました。意見聴取が行われた結果、調査に移行しましたが、調査はとてもスムーズに終わり、さらに是認通知書もいただきました。是認通知書は「中身を確認して正しかった」という証ですからお客様から大変喜ばれました。
 金融機関には書面添付と一緒に「記帳適時性証明書」をセットして、法人税の申告書に綴じ込んで渡しています。書面添付をつけたことで「実態把握に役立つ」との評価もいただきました。

 ──書面添付をする際に気を付けていることは?

 柳町 最近は、「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」の提出を金融機関から求められるケースが増えていて、提出すると金利等が下がるケースもあります。ですから、決算の段階でそのチェックリストの項目がすべて「イエス」である決算書を作成し、書面添付、「記帳適時性証明書」、会計指針と一緒にセットするようにしています。
 書面添付の記載内容については、私が最後にすべてチェックして、内容が良いものは所内で回覧しています。最近回覧した書面添付は、社歴の一番浅い職員が書いたものでしたが、記載内容が非常に良く書けていました。

 ──柳町先生から見て、その記載内容の良かった点は何でしょうか。

 柳町 同じ職員が前年に書いたものと比べて、現場データに基づいた深い現状分析がされていて、関与先の実態把握に努めていることが表れていました。それができれば関与先に対する経営助言にもつながりますし、そこまで書いていないと、税務当局に良好と認められる書面添付にはなりません。書面添付をすることで、関与先の実態把握につながるだけではなく、職員の成長度合いも分かります。

「『記帳適時性証明書』はお客様の通信簿です」

 ──「記帳適時性証明書」を活用されているとのことですが。

 柳町 当事務所は経営革新セミナーを毎年開催しています。去年のセミナーでは、「記帳適時性証明書」について改めて説明した上で「これがお客様の通信簿です」と言って、会場で一人ひとりにお渡ししました。もちろん、それは決算書と一緒に綴じ込んであるので社長の手元に届いているものと同じです。しかし、セミナーで配るまで、実際にそれをじっくり見ている社長は少なかったと思います。

 ──通信簿ですか。

 柳町 そう、「通信簿だからこっそり見て、落とさないように持って帰ってくださいね」と(笑)。「記帳適時性証明書」には売上や利益、税引き後当期純利益の過去3年間分がでています。これはまさに通信簿です。
 また、これは我々にとっての通信簿でもあります。これを見れば、「会計帳簿作成の適時性」(会社法第432条)と「書面の証拠力」(刑事訴訟法第323条)の裏付けにもなります。その結果、巡回監査をした会計帳簿から決算書が、導かれていることが証明されるので、これはとても重要です。

 ──今後の事務所経営について教えてください。

 柳町 税理士の仕事は地域密着が大事。私は、地元の商工会議所でも活動していて企業の経営相談支援を5、6年にわたり行っています。そのような支援を通じても、地域の皆さまから、尊敬、信頼されるような事務所にしていきたいと思っています。
 そして、職員がしっかりとした将来設計と、誇りを持って働けるような事務所経営を目指しています。事務所のレベルが所長のレベルだったのは、私にとってはニューメンバーズフォーラムに参加するまでの3年間でした。そして今は、事務所のレベルは職員のレベルだと思っています。所長1人では何もできません。
 今後もお客様の発展に貢献できるよう、所内の体制をますます強固にしていきたいと思っています。

職員のみなさんと

TKC会員事務所であることをアピール(左)
地域密着を目指して、職員の皆さんと(右)

(TKC出版 益子美咲)


柳町和巳(やなぎまち・かずみ)会員(45歳)
平成8年開業。開業と同時にTKCに入会。関与先120件(法人105件、個人15件)。職員数は8名(うち巡回監査担当者が5名)。TKC千葉会巡回監査・書面添付推進委員長。

柳町会計事務所
 住所:千葉県船橋市湊町2-16-10 ナカイチビル1階
 電話:047(432)5886

(会報『TKC』平成23年8月号より転載)