事務所経営

共同経営でスタッフの力を引き出し関与先の黒字化に挑戦

【成長する事務所の経営戦略・黒字化支援編】
 あおい税理士法人 森 祐輔会員・多々良信彦会員(TKC静岡会)
森 祐輔会員・多々良信彦会員

森 祐輔会員(左)と多々良信彦会員

平成25年に先代の事務所を承継した森祐輔会員(45歳)と多々良信彦会員(44歳)による「共同経営」体制で、所内の働き方改革、KFSを軸とした高付加価値業務に取り組んできたあおい税理士法人。着実に成果を出し、現在、関与先の黒字化率80%を実現している。

互いに尊重する「パートナーシップ」に基づく事務所運営

 ──あおい税理士法人さんは、森先生と多々良先生が共同で事務所経営されているとうかがっています。はじめに、事務所の概要をお話しいただけますか。

  当税理士法人は、会長を務めている大橋金行会長が平成5年に開業した会計事務所がその前身です。その事務所に平成10年に私が、翌11年に多々良さんが職員として入所し、それぞれ平成13年と15年に税理士資格を取得しました。翌16年に事務所を法人化し、その約10年後の平成25年に私たち二人が代表パートナーとして事務所を承継しました。
 現在、事務所にはスタッフが11名います。関与先企業は111件で、そのうち法人が101件、個人が10件です。経営理念は事務所を承継した際に「経営者の笑顔のために」と定めました。

 ──平成25年の事務所承継はスムーズに進みましたか。

  私たちがトップに立つことを見据え、早くから権限移譲など所内体制を整備していただき、システムもTKCシステムのままでしたのでスムーズでした。大橋会長からは「せっかく代替わりするのだからまったく別のような事務所にしてくれていいよ」という言葉もかけられました。当時、関与先拡大の伸びが落ち着くなど事務所の成長が鈍化していることに危機感があり、それを打開していくねらいもあったようです。

 多々良 もともと大橋会長は私たちが職員として入所した頃から、有資格者を増やして法人化したいというビジョンを語られていました。関与先の成長・発展を全力で支援するには、会計事務所自身も個人の能力に頼るのではなく組織の力で対応していく必要があるという考えです。

 ──「共同経営」におけるお二人の役割分担はどのようになっていますか。

 多々良 それぞれの役割についてよく聞かれるのですが、特に明確に役割を分けていません。お互い好き勝手にやっています(笑)。ただそれは、理念やビジョン、方針を共有し、お互いがそれに基づいて判断し行動するという前提に立っています。
 共同経営における事務所運営で最も重視しているのは、「パートナーシップを大切にする」ことです。共同経営者として互いに対等であるために、当たり前ですがどちらか一方ではなくどちらも頑張らなければならない。互いに高め合うためにも自己研鑽を積み、信頼、尊重できる関係を維持する努力が必要です。そういうパートナーシップを大切にした事務所経営をしていこうと承継の際に二人でじっくり話し合いました。

働き方改革が進んだのはTKCシステムで業務が標準化・最適化・最新化・明確化したから

 ──承継後、特にどのような点に力を入れましたか。

 多々良 承継した頃の大きな課題の一つに、スタッフの慢性的な長時間労働がありました。そこでまず事務所の働き方改革に取り組み、そのあとお客様への提供業務の付加価値向上に取り組もうと大きく2段階で考えました。その本質は、これまで個々のスタッフが属人的に行っていた仕事をいかに標準化し、組織的に進めていくかということです。
 結論からいうと、当初1人平均で月に約80時間だった残業時間は、昨年(令和元年)は2.4時間となりました。今年(令和2年)は1.2時間です。

 ──大幅に削減できた要因は何ですか。

  「残業時間を減らそう」というかけ声だけでは何も変わりませんから、スタッフ1人あたりの担当件数をそれまでの約20件から13件~18件へと見直しました。あわせて新規スタッフの採用にも力を入れ、毎年採用し、関与先数に対して少し余裕をもたせるようにしました。
 そのほか事務所の消灯時間を設け、退社時間の上限の段階的な引き下げも行いました。いきなり定時とするのではなく20時から19時半、19時……へと少しずつ下げたことも効果がありました。
 私たちはOMSでスタッフの日報をしっかり見て、業務量に偏りがあれば是正し、業務内容で気になる点があれば積極的に関わりました。次第にスタッフの意識も残業は悪いことという認識に変わっていきました。
 また働き方改革の一つとして有給休暇の取得率向上にも取り組み、以前の37.5%から昨年100%となりました。

 ──業務標準化のためにマニュアルなどは作りましたか。

 多々良 マニュアル類もいろいろ作りましたが、それよりも業務の属人化が解消する決め手となったのはTKCシステムのフル活用でした。TKCシステムはそれまでも使っていたものの、使い方が中途半端だった。だからスタッフの働き方の面において弊害が出ていたのです。
 TKCシステム一本・フル活用することで自然と業務が標準化されていきました。さらに業務が最適化され、最新化され、明確化されていくことが実感できました。スタッフ間で担当以外の関与先への巡回監査も実施できるようになりました。

 ──もう一つの「業務の付加価値アップ」にはどう取り組みましたか。

  KFSの実践割合向上に力を入れました。また、「私たちはKFSを主力業務として提供します」とお客様や金融機関へはっきりお伝えしました。新規関与先には顧問契約の段階で必ずTKCシステムを使うことをお話ししました。

 多々良 当事務所では年に1回、合宿を行って事務所の方向性やビジョンを全員で共有しています。スタッフ同士のディスカッションで共通して聞かれた声は、お客様の黒字化への貢献がこの仕事の一番の喜びということ。そのためにKFSでお客様を徹底的に支援していこうというビジョンが定まりました。

KFSの徹底推進で関与先の8割が黒字化 満足度が高まり顧問料も毎年上昇

 ──現在、関与先さんの実に8割が黒字化を実現されているそうですが、その要因を具体的に教えていただけますか。

 多々良 特別なことはしておらず、KFSの実践に尽きます。まずは月次巡回監査を徹底し月次決算を行い、業績確認の頻度とスピードを上げます。ここが肝心で、隔月の巡回監査などでは当然業績管理体制が築けません。FXシリーズでは特に社長に変動損益計算書をしっかり理解し、活用していただきます。気になる数字があればドリルダウン機能を使い、科目レベルではなく科目の中身まで掘り下げて社長と確認し、原因を分析します。
 継続MASでは社長に必要利益の額をしっかりつかんでもらいます。損益分岐点売上高ではなく収支がきちんとバランスし、お金が回る利益です。最後に、その必要利益を達成できる経営(改善)計画になるまで、社長と一緒にシミュレーションを繰り返しています。
 このようにオリジナルのノウハウはなく、静岡会の先輩方から教えていただいたことやTKCシステムを使って社長と対話することを愚直に実践しています。

 ──社長との対話で工夫されていることはありますか。

 多々良 FXシリーズ継続MASの画面を社長にお見せしながら、例えば「限界利益率を1%上げる努力をされると数字はこう変わりますよ」などと話します。紙ではなくシステム画面で一緒に考えたり説明したりすることによって社長の数字への興味がぐんと高まり、対話が深まります。
 いま、翌月巡回監査率95%、FXシリーズ102社、継続MAS81社、書面添付74社に導入・実践しています。TKCモニタリング情報サービスは128件、7000プロジェクトは8件、早期経営改善計画策定支援は10件実施しました。

 ──そのような推進体制が構築されたことで事務所経営に変化はありましたか。

  KFSの実践割合が向上するにつれて報酬が上昇しました。例えば今年は全関与先の1割に当たる11件のお客様に顧問料の値上げに応じていただきました。ここ数年、毎年関与先の1割が報酬をアップしてくださっています。これはKFSでお客様の業績アップに貢献し、お客様の満足度が高まったことにほかなりません。スタッフも、KFSでお客様の役に立てることを実感しさらに自信をもってこの業務に取り組んでいます。その結果、担当数を減らしても、スタッフ1人あたりの売上高は順調に増加しています。

 ──関与先拡大にはどう取り組まれていますか。

 多々良 年平均で8件位増えていて、紹介の多くは金融機関からです。また以前、残業が多かった頃は関与先紹介の話があっても事務所に受け入れる余裕がなく消極的でしたが、いまは人員がいるため新規のお客様に初期指導をしっかり実施できています。

 ──関与先支援にはスタッフの皆さまの力が不可欠ですね。

  新しく入ったスタッフには1年目に巡回監査士補の資格を、巡回監査士の資格は入所3年以内に取得するよう促しています。これらの資格は客観的なレベルをはかる目安になり、組織化の観点からも重要です。人事考課や昇給制度にも反映するようにしました。
 スタッフの成長がお客様の発展に直結しますので、TKCの各種研修はもちろん外部研修の参加も奨励しています。スタッフの多くが、税理士資格取得を目指しています。一人ひとりが継続的なスキルアップを図り、お客様への付加価値をさらに高めていくつもりです。

スタッフの皆様

継続的なスキルアップを図って関与先支援に全力を尽くしているあおい税理士法人のスタッフの皆様

同じ志を持つパートナーを増やして事務所を常に前進させていく

 ──どのような事務所づくりをするかに悩んでいる会員先生への助言があればお願いします。

  自分がどんな税理士になりたいか、どんな事務所にしたいか。形態ありきではなく、まずはそこを考えていくことが大事だと思います。

 多々良 私たちも、税理士としてお客様に貢献したい、本当に誇りの持てる仕事をしたい。そのためにはどうすべきかと考え抜きました。仲間と力を合わせるいまの共同経営体制はそれを実現できていると感じています。

 ──最後に今後のビジョンをお聞かせください。

 多々良 静岡会には必ず前を走っている先輩がいますので、一生懸命そこを目指しています。「ベンチマーク戦略」として、私たちの足りない部分を一つひとつなくしていくようにしています。
 またコロナ禍でクローズアップされましたが、中小企業へのタイムリーな情報提供や資金繰り支援、経営改善計画策定支援、経営助言業務などは、コロナ禍で新たに発生したものではなく、常日頃お客様から求められている業務です。坂本孝司全国会会長が示された「税理士の4大業務」にそうした支援は入ってきます。KFSが100%になるまで、お客様の黒字割合が100%になるまで、「税理士の4大業務」に愚直に取り組み続けていきたいと考えています。

  魅力的な職場にしていきたいですね。当税理士法人は税理士試験の勉強のために1か月以上休むことが可能です。残業時間削減や有給休暇100%取得への取り組みもそうですが、若い方が税理士に魅力を感じ、力を発揮できる事務所を作りたい。それは同時に優秀な人材を採るためのアドバンテージともなります。

 事務所承継のときに大橋会長から頂いた言葉は「前へ」です。その言葉を胸に、これからもパートナーとして力を合わせ、また今後同じ志を持つパートナーを増やして専門力もさらに高め、事務所を前進させていきたいと思います。

(取材日:令和2年11月26日)


森 祐輔(もり・ゆうすけ)会員・多々良信彦(たたら・のぶひこ)会員
あおい税理士法人
 静岡県焼津市東小川7-9-1

(構成/TKC出版 清水公一朗)

(会報『TKC』令和3年1月号より転載)

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