独立開業

「TKC方式の自計化」を強みに開業3年で着実に関与先を拡大

【成長する事務所の経営戦略・新規開業編】
近成彰彦税理士事務所 近成彰彦会員(TKC中国会)
近成彰彦会員

近成彰彦会員

10年間の税理士事務所勤務を経て平成30年に独立開業した近成彰彦会員。全関与先にTKC方式の自計化を導入し、フィンテック機能で業務の効率化を図る。お客様との対話を重視し「お客様とは、親身の相談相手として腹を割った話し合いができる関係でありたい」と語る。

TKC会員の恵まれた環境を活かして新しい関与先を増やす

 ──税理士を目指し、開業するまでの経緯を教えてください。

 近成 岡山県で生まれ、地元の大学の法学部に進学しました。3年生になり就職活動を前にして、何か資格を取れば就職に有利かなぐらいの軽い気持ちでファイナンシャルプランナーの勉強を始めました。その中で税制にとても興味を惹かれました。税金は日本に住む誰もが関係することにもかかわらず、自分が何も知らなかったことに気付かされました。ちょうど3年生の後期に大学で税法の講義が始まり、それまで目的無くなんとなく受けていた大学の講義を自分から積極的に「もっと学びたい」と思うようになっていました。目的意識によって、とたんに能動的になりましたね。そういった流れで税理士への道に進むことを決めました。私を含め家族の誰とも縁のなかった職業だったので、両親は驚いていたでしょう。
 大学卒業後、TKC会員事務所に10年間お世話になりました。学生時代に学んだ知識をより深く幅広く実践できたことだけでなく、様々な職業の方と出会え、色々な業界のことを知れてとても楽しかったですね。また、TKCの社員さんもTKCシステムの使い方などを優しく、丁寧に教えてくれたこともありがたかったです。
 そして、平成27年に税理士登録しました。資格を取得したことで仕事の幅が広がったことと、夢を持って独立されて仕事されている社長さんと日頃から接する中で、自分も独立して、自分の力でお客様を支援したいという気持ちが芽生え、平成30年10月に独立開業しました。

 ──お客様はどのように増やしていかれたのですか。

 近成 開業時は個人事業主として食べていけるか不安でした。しかし、開業から3年経ってみて、法人と個人を合わせて44件になっています。そのほとんどがお客様からの紹介と地域の商工会議所からの紹介です。
 商工会議所が企業への専門家派遣で積極的に指名してくださるのですが、同じ商工会議所に所属されている馬場輝先生をはじめとするTKC会員の諸先輩方の歩みのおかげだと思っています。「同じTKC会員なのだから紹介しても大丈夫だ」ということで、私のような新米の税理士にもお声をかけていただけるのかと思っています。
 先日、新規創業の相談を受け相談者さんと一緒に金融機関に同行しましたところ、担当の行員さんが岡山県支部中小企業支援委員会主催の地元信用金庫との勉強会で交流のあった行員さんでした。勉強会を通じ信頼関係ある仲でしたので和やかなムードで話が進み、当初は緊張されていた相談者さんも大変喜ばれました。開業後からの顧問契約をお約束いただいております。
 TKC会員事務所が金融機関や地域社会からいかに信頼を得ているかを、身をもって体感しています。恵まれた環境に置かせていただいているととても感謝しています。

高い銀行信販データ受信機能の利用率 事務所の差別化としてトレンドを追う

 ──近成先生は全関与先へ「TKC方式の自計化」を導入され、そのうちの約7割の関与先にTKCのフィンテックサービス「銀行信販データ受信機能」を利用されていると伺っています。

 近成 時代の変化の中で、新しい取り組みに対して常に積極的であるべきと肝に銘じています。
 私のような開業して間もない小規模事務所が生き残り発展できるかどうかは、最新のトレンドをどれだけ取り入れられるかにかかっています。話題の「DX(デジタルトランスフォーメーション)」にもとても興味があります。DXというと難しそうですが、これまでのTKC方式による自計化を進める先にあるものだと感じています。

 ──TKC方式の自計化への切り替えでは、何か工夫をされているのですか。

 近成 お客様との顧問契約の際には必ずTKCシステムの導入をお願いしています。
 そうしなければ、効率的な一元管理ができないからです。他社の会計ソフトとの混在が生じると管理に余計な手間がかかり最終的に関与先にご迷惑をおかけすることは目に見えています。契約時には「MR設計ツールや銀行信販データ受信機能などのフィンテック機能をフル活用して業務の効率化を果たせるまで私がサポートいたします」とお約束しています。

 ──これまでお断りをされたことはないのですか。

 近成 ほとんどありません。もちろん、お客様にもいろいろ事情があるため、すぐにTKCシステムへの切り替えが難しいケースもあります。そういうときにも、新機能リリースの都度など粘り強く、徐々に切り替えを進めるようにしています。おかげさまで最近、全関与先に対するTKCシステムへの移行を終えることができました。

 ──それはすごいですね。

 近成 ありがとうございます。経営者のお話をじっくりと伺ってみると、どなたにも業務を効率化したい。資金繰りの状況や最新業績を見たい──というニーズがありました。そのニーズにお応えするためにTKCシステムをご提案するのが自然な流れになっています。

支部では4つの委員会に所属 システム動画公開や職員ゼミを企画

 ──岡山県支部では、積極的に会務活動をされているとのことですが。

 近成 はい、支部ではシステム委員会、巡回監査・事務所経営委員会、ニューメンバーズ・サービス委員会、黒字決算支援特別委員会の4つに所属しています。黒字決算支援特別委員会は支部独自の委員会で、職員勉強会を企画する委員会です。
 よく「委員会の掛け持ちは大変ではないですか」と聞かれるのですが、複数の委員会活動を通じて、多方向からTKC全国会の活動を捉えることができ、より活動の意義が分かるようになってきました。
 事務所経営の面でも、TKC全国会が掲げる目標(例えば巡回監査率の向上)に対して、その目標を追いかける意義や目的を理解したうえで能動的に取り組めるようになりました。とはいえ、まだまだ足りていない点も多くあります。数字は正直で怖いですが、そこに成長のポイントがあると言い聞かせています。

 ──委員会活動で特に力を入れていることは何ですか。

「自計化徹底活用シリーズ」

岡山県支部の会員限定で開設したYouTube「自計化徹底活用シリーズ」

 近成 私が委員会で新たに取り組んだことが二つあります。
 一つは、岡山県支部システム委員会(村上喜郎委員長)「TKC自計化システム徹底活用シリーズ」をYouTubeで公開したことです。システム委員会の先生が交代で講師を務めて、自計化システムの活用方法を3分程度の動画にして公開しています。TKCシステムのことをいつでもどこでも気軽に学べるようにしたらどうかと提案しました。
 もう一つは、黒字決算支援特別委員会(木本隆志執行委員長)主催の職員ゼミです。従来からスクール形式の職員勉強会はありましたが、それと並行した少人数(5名程度)のゼミ形式の勉強会です。巡回監査や経営助言などのテーマを話し合い、積極的に発表する勉強会があってもよいのではないかと企画・提案して実現しました。
 岡山県支部には、このような前例のないことを提案しても受け入れてくれる懐の深さがありますので、本当によい環境に恵まれていると感じています。

 ──そもそも委員会活動に参加するきっかけは何でしたか。

 近成 それは先輩会員からの「やってみないか」というありがたいお声がけでした。「頼まれごとは試されごと」という言葉もあります。できるかぎりすべてお受けしたいと心がけています。関与先の社長さんから「人間は水と一緒で、何もしなかったらどんどん下に流れ落ちていくだけ。自分で頑張って、ポンプのようなものを使ってでもその流れを変えていかないと何も成長はしないんだぞ」と教わりました。ですから、忙しいからとか一人事務所だからとかを理由にして断るのではなくて、積極的に取り組むように心がけています。

ニューメンバーズフォーラムに参加して1年を総括し次年度目標を立てる

 ──長引くコロナ禍への対応はいかがですか。

 近成 コロナ禍でより強く感じたのですが、どんな状況でも経営者の方は相談相手を探していると思います。私たち税理士の職業では、お客様の懐具合やプライベートな情報まで知る場面も多くあります。そういう他の職業にはないお客様との関係性のなかで、親身の相談相手として経営助言に力を入れ、腹を割って話し合える存在になっていかないといけません。事務所のモットーである「顔の見える税理士」でいたいなと強く思うようになりました。

 ──関与先との印象的な思い出はありますか。

関与先から贈られたネームプレート

関与先から贈られたネームプレート

 近成 コロナ禍の影響を直接的に受けている関与先があるのですが、これまでの税務会計の助言に加え、銀行交渉資料の作成、助成金サポート、企業防衛の見直しなど、できることは何でもやりました(学校からの指示で出勤できなくなった学生アルバイトの代わりにバイトとして店頭に立ったこともありました)。そうしましたら関与先社長より「おめぇはただの税理士じゃねぇ、スーパー税理士じゃ」とのお褒めの言葉をいただきました(笑)。
 後日、ゴルフ用品店を営む別の関与先オーナーさんに、この話をしたところ、「スーパー税理士」と書かれたゴルフバッグ用のネームプレートをプレゼントしていただいたのです。とても嬉しかったですね。お客様に認められたような気がして、これからも親身の相談相手として寄り添う気持ちを忘れないようにしようと心に決めました。

 ──ところで、職員さんはいつ採用を予定されていますか。

 近成 この6月に事務所を同じ町内で移転する予定ですので、そのタイミングで採用したいと思っています。
 実は、開業当初は一人で自由に仕事がしたいという気持ちが強く、職員を採用するつもりはありませんでした。転機になったのは、先ほどお話しした職員ゼミですね。しっかりとした職員さんがいて、理念を共有しながら協力し合っている会計事務所は何にも代えがたい強さがあるなと感じました。
 私が税理士としてもう一段階ステップアップするためにも職員を採用し、事務所を組織化することが必要だなと思っています。

 ──ニューメンバーズ会員の皆様へのメッセージをいただけますか。

 近成 毎年秋に開催されるTKCニューメンバーズフォーラムには必ず参加することをお勧めします。私は、一年をふりかえり次の目標を設定する契機にしていました。皆様もフォーラムをどんどんステップアップしていく契機にされるといいと思います。

 ──3年間のニューメンバーズ期間を終えた現在は、どのような目標を持たれていますか。

 近成 いつかニューメンバーズ会員の皆様の前に講師として立てるようになっていたい、という目標があります。自慢したいとか目立ちたいとかではなく、そういうステージに堂々と立てるよう成長し続ける人間になっていたいということです。これからも目標に向かって、TKCシステムをフル活用した関与先支援とTKC会務で得られる経験を通じて、事務所と自己の成長に励んでまいります。

(取材日:令和3年2月26日)


近成彰彦(ちかなり・あきひこ)会員
近成彰彦税理士事務所
 瀬戸内市牛窓町牛窓4448 牛窓テレモーク2F山-1

(TKC出版 石原 学)

(会報『TKC』令和3年4月号より転載)