移動時間や家事の合間など、コマ切れの時間に気軽に利用できる「音声コンテンツ」。広報活動、あるいは社内コミュニケーション活性化に役立てている企業の取り組みを追った。

プロフィール
やぎ・たいすけ●2008年リコージャパン入社。楽器EC事業での起業を経て、13年ウェブメディア事業を行う株式会社オトナルを創業。18年にウェブメディア事業を事業売却し、19年から音声領域に特化。広告主向けのアドテクノロジーを活用したデジタル音声広告事業を展開。そのほかラジオ局や新聞社などメディア企業へのデジタル音声広告開発やデータ活用支援も行っている。著書に『いちばんやさしい音声配信ビジネスの教本 人気講師が教える新しいメディアの基礎』(インプレス)がある。

──音声コンテンツが注目されている背景を教えてください。

”音声”をビジネスに生かす

八木 直近の出来事を振りかえると、今年1月に音声SNSの「Clubhouse(クラブハウス)」が日本に上陸し、5月にはツイッターにリアルタイムで音声をやり取りできる「Spaces(スペース)」という機能が追加され、話題となりました。
 日本で最もユーザー数の多い音声プラットフォームは「radiko(ラジコ)」です。民放ラジオ全局とNHKなどの番組をインターネット上で聴けるサービスで、月間アクティブユーザー数は1,000万人に迫る勢いで増加しています。昨年3月からユーザー数が急激に伸びており、新型コロナの影響が見てとれます。テレワークの普及や学校の休校により自宅で過ごす時間が増え、人々はラジオ番組をながら聴きしているのです。
 配信する側の視点でいえば、スマートフォンのみでコンテンツを制作できる手軽さが受けています。音声配信プラットフォームの中には、複数拠点でのリモート収録に対応するサービスもあります。

──コロナ禍で追い風が吹いているわけですね。

八木 海外ではコロナ以前から人気に火がついていて、けん引役となっているのが「ポッドキャスト」です。
 ポッドキャストとは、音声コンテンツをインターネット上に公開する方法のひとつで、ユーザーは音声ファイルをダウンロード、またはストリーミング再生して聴くことができます。ポッドキャストの優れている点は、制作したコンテンツをさまざまなプラットフォームに配信できるところにあります。例えば、音楽配信サービスの「Spotify」や「Amazon Music」、「Google Podcasts」等のアプリで聴取できます。
 デジタルデバイスの進化も見逃せません。とりわけ「AirPods」シリーズをはじめとするワイヤレスイヤホンや、スマートスピーカーの登場により、音声コンテンツは一挙に普及しました。

汎用性あるポッドキャスト

──音声配信はどのように行いますか。

八木 大別すると2つの方法があります。ひとつめは、特定のサービス上でコンテンツの配信から再生まで完結できる「音声配信プラットフォーム」を用いるやり方です。音声の投稿を容易におこなえ、プラットフォームユーザーに見つけてもらいやすい利点があります。日本国内でサービス展開するプラットフォームには「Voicy(ボイシー)」や「Himalaya(ヒマラヤ)」、「Radiotalk(ラジオトーク)」などがあり、リスナーの特性に応じて選択するとよいでしょう(『戦略経営者』2021年7月号P24図表2)。
 もうひとつは、ポッドキャスト用の配信サービスから複数のポッドキャスト対応アプリに配信できる「ポッドキャスト」という方法。RSSフィードという仕組みを通して、音声コンテンツを「Apple Podcast」やSpotify、Amazon Musicなどのアプリに同時に配信できます。近年、配信先として大手プラットフォーマーの参入が相次いでいて、発展を遂げています。

──多様なサービスが登場しているわけですね。企業が音声配信する際、念頭に置くべきポイントは?

八木 音声コンテンツには「オンデマンド(収録型)」と「ライブストリーミング(リアルタイム型)」という2種類の配信、聴取形態があることをまず押さえてください。オンデマンドでは収録、配信したコンテンツをいつでも再生でき、配信後はエピソードとして保存されます。一方、ライブストリーミングはリアルタイムの配信方式です。
 音声コンテンツを自前のメディア、つまりオウンドメディアとして位置づけたいなら、オンデマンドを選ぶべきです。過去のコンテンツをさかのぼって聴けるので、音声版のブログといえます。1回かぎりのイベントのように配信したいなら、ライブストリーミングで行いましょう。
 プラットフォームの選定については、ライブストリーミングで行う場合は、クラブハウスやツイッターのスペースが適しています。オンデマンドの場合、プラットフォームごとのリスナー層を考慮する必要がありますが、汎用性を求めるならポッドキャストをおすすめします。

サイトに音声を埋め込む

──音声コンテンツを制作する上で、コツや注意点はありますか。

八木 10~20分単位のコンテンツを制作し、複数回に分けて配信することをおすすめします。この方法なら1時間収録するだけで、3~6本のコンテンツを制作できます。米国ではクルマでの移動時間が長いため、長尺のコンテンツが主流である一方、日本での移動時間は米国ほど長くなく、料理や洗濯などの家事の合間に聴けるコマ切れのコンテンツの方が適しています。
 また、コンテンツの質を高めるには、BGMや効果音が欠かせません。効果音があらかじめ用意されている音声配信プラットフォームもあり、著作権フリーの音源を扱うウェブサイトで探すのも手です。なお、一般の楽曲を使用する際は、著作権料が発生するので注意してください。

──音声配信に必要な機材とツールは?

八木 極論すると、スマートフォン1台あれば行えます。収録した音声の質が気になる場合は、マイクを使用するとよいでしょう。最近は、USB接続できるマイクも販売されています。音声配信プラットフォームの中には、音源編集機能の備わるサービスもあります。ポッドキャストに配信し編集などにこだわる場合は、音声編集ソフト(DAW)が必要です。音声コンテンツの制作コストは、動画と比較すると格段に抑えられるのも特長です。

──配信後は、いかに多くの人々に聴取してもらうかがカギになります。

八木 活字コンテンツはソーシャルメディア等で拡散されるケースもありますが、音声コンテンツでは再生ボタンを押してもらえないかぎり、たとえ良質なコンテンツであっても内容を理解してもらえません。多くの人々の目に留まるよう、自社サイトやブログに音声コンテンツを掲載するのが得策です。
 とりわけ大事なのは、真っ先に目につくタイトルとサムネイル画像。トーク内容が伝わるキーワードをタイトルに盛り込むようにします。投稿エピソードごとにハッシュタグを設定できるプラットフォームもあり、リスナーに発見してもらえる可能性が高まるため、活用をおすすめします。加えて、1本のコンテンツのみで拡散されるケースはほとんどなく、ブログと同様に配信しつづけることが肝要です。

目立つ学習系コンテンツ

──企業における活用事例を教えてください。

八木 ブランド価値向上や、ファンとのコミュニケーション強化を目的に、収録型のコンテンツを配信するケースが多いようです。参入する企業の業種も、小売業や製造業から出版社まで広がりを見せています。一例を挙げると、クラフトビールの製造、販売を手がけているヤッホーブルーイングは、クラフトビールに関するコンテンツを定期的に配信。ビアパブでの会話を想定したつくりになっていて、クラフトビールの選び方や楽しみ方、保管方法等の知識を発信しています。
 当社で運営しているポッドキャストランキングで目立つのは、ニュース、エンタメ系コンテンツや、英会話などの学習系コンテンツです。士業を含め、個人事業主が活用している例もあります。
 このように音声コンテンツは新規顧客を獲得するよりも、既存顧客に対して自社商品の理解を深めてもらう目的で活用するのに向いています。

──音声コンテンツ市場の動向をどのように占いますか。

八木 日本における音声コンテンツ市場は、欧米諸国とくらべると未発展の分野といえます。背景にあるのは、国土が狭く移動時間が比較的短い点や、日本語という言語の特殊性などです。ただ、今後の市場は確実に拡大していくとみています。
 というのも音声コンテンツ市場にはラジオ局のみならず、一般企業の参入が相次いでおり、異種格闘技戦の様相を呈しています。音声SNS市場に目を転じると、話題のアプリ「クラブハウス」の登場や、フェイスブックでも音声コンテンツを実装する動きがあるようです。こうした大手プラットフォーマーが市場をけん引すれば、リスナー層も拡大し、ユーザー課金や広告モデルも根付くでしょう。
 動画共有サイトに公式チャンネルを開設し、自社に関する紹介動画を公開するのと同様に、音声コンテンツを配信してプロモーションを図る──。そうしたことが当たり前の時代がやって来つつあるのです。

(取材協力・税理士法人報徳事務所/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2021年7月号