自治体DX推進本部に聞く

TKCが考える“真”の「自治体DX」推進

社会環境の変化を背景に、市区町村においてもデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組みが急務となっています。TKCではお客さまを支援するため「自治体DX推進本部」を新設。システム標準化対応と行政手続きのオンライン化・デジタル化を一体として推進し、全ての顧客市区町村の「真の自治体DX」実現の支援へ取り組んでいます。
吉澤 智(よしざわ・さとし)/写真左
常務執行役員 自治体DX推進本部 本部長
TKC入社後、営業企画部長、営業企画本部長、営業本部長などを歴任。2021年11月1日より現職。
坂本 宗俊(さかもと・むねとし)/写真右
執行役員 自治体DX推進本部 副本部長
TKC入社後、行政システム研究センター長、システム企画本部長などを歴任。2021年11月1日より現職。

――自治体DXの推進状況をどう見ているか。

坂本2020年12月25日に『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針』と『デジタル・ガバメント実行計画』が閣議決定され、その後も「デジタル改革関連法」の成立や「自治体DX推進計画」の公表などが相次いでいます。加えて、新型コロナの感染拡大など外的要因の影響もあって、情報システム部門や窓口サービス担当部門を問わず職員の皆さんに「DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進は不可避」との意識が広がり、いよいよ取り組みが本格化してきたと感じています。

 このことはお客さまの動きからも見てとれます。2021年秋から開催している「自治体DX推進セミナー」には、われわれの予想を超える多くの方に参加いただき、質疑応答や意見交換が活発に行われています。また、TKCからご提案した標準準拠システムへの移行に関する全体計画をもとに庁内での準備作業も進んでいる様子で、セミナー終了後には担当営業課へ「具体的な打ち合わせをしたい」「アクションプランをつくりたいので、協力してほしい」などの要請が殺到している状況です。

――このほど打ち出した「真の自治体DX推進」実現の支援とは。

吉澤TKCは創業以来、事業目的の一つに「地方公共団体の行政効率向上」を掲げ、これを通じた「住民福祉の増進」の支援に努めてきました。
 この点、これまでは主に〈行政視点〉で内部事務の効率向上を追求してきたといえますが、少子高齢・人口減少や財政状況の悪化などお客さまの事業環境が大きく変化する中で、これからは職員だけでなく住民や事業者なども含めた〈利用者視点〉での行政効率向上が求められていくと考えています。『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針』に掲げられた理念に〈誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化〉とありますが、これがまさにDX時代の行政サービスにおける究極の目標といえるでしょうね。

 現在、標準化対応と並行して次世代基幹系システムの設計・開発を進めていますが、ここでも自治体DXの“その先”を見据え、商品コンセプトの筆頭に〈住民中心の行政サービス改革の支援〉を掲げました。職員とともに住民や事業者を笑顔にする――それこそがDX推進の真髄であり、これに向けたわれわれの活動指針をひと言で表現したのが「『真の自治体DX推進』実現の支援」です。

 その対応方針として、以下の2つを掲げています。
1.「自治体情報システムの標準化・共通化」への期限内の円滑な対応を支援する
2.「行政手続きのオンライン化(デジタル化)」により、行政サービス改革を支援する

 市区町村では、法律で定められた標準化への対応だけでなく、その先を見据えた利用者本位の行政サービス改革を両輪として自治体DXを推進していくことが不可欠です。この2つの対応を一気通貫で実現することが『真の自治体DX推進』に繋がると考えています。
 そこでこれらの一体的な支援を目指して、2021年11月に「自治体DX推進本部」を新設しました。これまで別組織であった営業企画部門とシステム企画部門を統合したシナジー効果により、最大の成果を創出することを狙ったものです。
 推進本部では、全ての顧客市区町村の真の自治体DX実現を支援するために、システム標準化への対応はもちろん、〈お客さまの事業の成功条件〉をとことん探求し、次代を担う新商品企画、顧客価値の高い情報の迅速・タイムリーな発信、お客さまサポートの強化に取り組んでいます。

「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル社会」実現の支援へ

――推進本部の具体的な活動内容は。

坂本 吉澤も述べたように、これからの行政サービスの要となるのは利用者視点です。そこでTKCでは、利用者のニーズを起点としてフロント(申請受付)からバック(業務システム)まで一貫したデジタル化を実現し、利用者中心の行政サービス改革の支援に努めています。
 その一例が「3ない窓口」(来させない・待たせない・書かせない)を実現する「行政サービス・デジタル化支援ソリューション」(かんたん窓口システム、スマート申請システム)の提供です。これらのシステムは、標準化対応に合わせて基幹系システムとのシームレスな双方向連携を実現するなど、さらなる機能強化を図る計画です。
 また、優れたUI/UXの提供により、職員の皆さんと利用者の双方がストレスなく“迅速・簡単・正確”に利用できるサービス環境づくりにも努めます。

 さらに、お客さまのニーズや時代が何を求めているのかを予測し、それを実現する新たなシステム・サービスの創出に向けた調査・研究活動にも一段と拍車をかける考えです。具体的には、新商品検討プロジェクトにおいて昨年に引き続き「遠隔窓口サービス」を研究するとともに、標準対応後の未来の行政サービスについて検討を開始します。

 加えて次世代基幹系システムでは、これからのDX時代を見据え、お客さまサポートのあり方を大きく変える方針です。一例がTKCとお客さま・お客さま同士をつなぐ「サポートプラットフォーム」(仮称)の構築です。詳細設計はまだこれからですが、ヘルプデスクやマニュアル、各種情報提供などを集約し、お客さまの“困った”は全てここで解決できるような新たなコミュニケーションの仕組みを創り上げたいと考えています。

 その他にも、ベストプラクティスの横展開を検討中です。地方公共団体向け情報誌『新風(かぜ)』(2022年4月号)で「TASKクラウド スマート申請システム」の先行団体の活用状況分析を行いましたが、これも成功例の横展開に向けた一つの実験的な試みでした。
 先述のサポートプラットフォーム上で、〈この業務は、このようなフローで、このシステムとこのシステムを組み合わせて処理している〉というさまざまな実践的知見を整理し、全てのお客さまが共有して、誰でも使いこなせるようなものが実現すれば面白いですね。それによって、お客さまが困っていることを自己解決していただく、あるいはDX推進・業務改革の支援にもつながるのではと考えています。

 これは、全てのお客さまが単一のパッケージシステムを共同利用するTKCだからこそできることです。
現在、TKCのお客さまは基幹系システムで160団体以上、財務会計システムでは約300団体と全国に広がっており、そこには他団体の参考となる取り組み例が数多く埋もれているはず。その意味で、システムの標準化は大きなチャンスとなりえるのではないかと大いに期待しています。

吉澤特に、人員が限られる小規模団体では職員1人で多くの業務を兼務する例もあり、思うようにDX推進・業務改革が進まないというケースも少なくありません。ベストプラクティスの横展開により、そうした団体の取り組みを後押しできるといいですね。

お客さまとの共創で、新たな価値創造へ

――今後の展望は。

吉澤 これまでは、お客さまの要望に合わせて、システムベンダーがシステムを構築するという関係が一般的でした。でも、これからは違います。昨今、新たな開発手法として「ノーコード/ローコード」が注目されていますが、あれも一つの未来の姿だと思います。これからは、われわれが多くの時間と労力をかけて一つの業務システムを開発するのではなく、お客さまとベンダーが互いにアイデアを出し合い、よりベストな“システム”を共創していく関係に変わっていくのではないでしょうか。
 これまでもTKCではシステムの設計・開発の基本方針として〈業務のプロであるお客さま〉と〈ICTの専門家であるTKC〉との協働により、より最適なシステムを提供することを目指してきました。その点では今後、こうしたお客さまとの関係性がより鮮明になってくると考えています。

 お客さまとの共創はすでに始まっています。一例がスマート申請システムの開発です。
 このシステムはいわば“舞台装置”であり、これを使ってオンライン上でどんなサービスを実現するのかは職員の皆さんのアイデア次第。しかも、ベンダーに頼ることなく、職員の皆さん自身でスマート申請システムを活用して新しいオンライン申請サービスをスピーディーに提供できます。
 また、そうしたお客さまの支援策として、ベストプラクティスをもとにさまざまなツールやフォームをライブラリ化し、それをICTの専門的な知識がない職員の方でも簡単に組み合わせて使えるようにできないか構想を練っているところです。まだ検討段階ですが、そうした環境づくりを通じて、職員の皆さんの意識改革、あるいはコスト削減やIT人材の不足という問題解消にも貢献できると考えています。

――お客さまとともにTKCもまた変革していく。

坂本「真の自治体DX推進」とは最終的に目指すべきゴールであり、いま問われているのは〈その先にどんな行政サービスの未来をつくるか〉ということです。
 残念ながら、即効性が期待できる方法はありません。介護保険制度の創設など、これまではその業務に対応するシステムを導入するのが通例でした。しかし、自治体DXの推進では〈デジタル・トランスフォーメーション〉という言葉のとおり、デジタル技術の活用とともに意識や業務の根本的な変革が必要不可欠です。
 また、目指すゴールは一つでも実現する方法は何通りもあります。トライ&エラーを繰り返しながらゴールに向かって進んでいく――DXの推進とはそんなイメージではないでしょうか。

 例えば、大阪府大阪市様では「住民にとって機会損失をなくす」として、全ての行政手続きのオンライン化を目指しています。職員の皆さんから見れば年間で数十件しかない手続きであっても、その手続きが必要な利用者にとってはオンライン申請で完結できればわざわざ役所に出向かずに済み便利です。また、栃木県真岡市様ではオンライン申請サービスの拡充に加えて、デジタルを活用した窓口改革によりアナログな対面サービスの質・満足度の向上も志向しています。そうしたことの一つひとつの積み重ねが〈一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会――人に優しいデジタル化〉につながるのだろうと考えます。

 お陰さまで、TKCの考え方に共感してシステムを選択してくださる市区町村が増えており、そうしたお客さまの〈行政サービスの新たな価値創造〉へ、われわれもともにチャレンジできることを幸せに思います。

吉澤急激に変化する利用者ニーズに対応して、行政サービスの現場では「これはこのようにした方がいい」という創意工夫も生まれています。だからこそ、コロナ対応という難局も乗り超えることができたのだと考えています。

 DXは確実に進展し、もはや時代は後戻りしません。そうした中で、われわれシステムベンダーもいま大きな岐路に立っています。
 TKCの強みは、お客さまに寄り添ってきたこと。例えば、新型コロナワクチン接種事業では、いろいろな企業が多様なシステム・サービスを緊急提供しましたが、TKCでは接種券(クーポン券)の印刷・封入封かんなどのアウトソーシングサービスに加えて、オンライン申請の仕組みと基幹系システムとの連携によりフロントからバックまで業務全体をサポートするシステムを提供しました。これができたのは、お客さまの実務を熟知し、長年、業務システムを提供してきたノウハウがあるからこそと自負しています。

 とはいえ、自治体DXをめぐる市場競争にTKCだけが勝ち残ればいいとは考えていません。企業の存続という視点では収益向上やシェア拡大は必要条件といえますが、TKCが最も大切にしているのは経営理念に掲げる〈お客さまの事業の成功条件を探求する〉こと――つまり、お客さまにとってベストな姿、お客さまが実現したい姿を探求し、その実現を支援することです。これは50年以上、地方公共団体とともに歩んできたシステムベンダーとしての誇りです。
 そのためには、さまざまな分野で優れた企業と組んでお客さまを支援していくことも必要で、これまでは競合関係にあったベンダーも含めパートナー企業との協業範囲の拡大を検討し始めました。

 TKCが考える「真の自治体DX推進」の根底には〈行政効率向上〉と〈住民福祉の増進〉があります。「不易流行」という言葉のとおり、システム開発や技術、サポートのあり方などは不断の革新を追求する一方で、われわれのミッションは永遠に変わることはありません。