2022年7月号Vol.127

【トレンドビュー】PDF、文書等の電子化で留意すべきポイント

株式会社スカイコム R&Dセンター長 柴田信彦

 Web上でPDFを閲覧した時、「なんか文字が変だなぁ」と感じたことはありませんか? それはブラウザーがその電子文書を代替フォントで表示しているためです。
 また、受け取ったPDFファイルが開けなかったり、表示された電子文書の内容が崩れていて読めない──という経験はありませんか? それはPDFファイルが正しく作られていないためです。
 今年1月、「改正電子帳簿保存法」が施行されました。今回の改正では、従来に比べ一段と電子化を促す内容となっています。具体的には、税務処理に関わる帳簿などの書類を電子化する際の手順が簡略化された一方で、電子取引で受領した取引関係書類(電子データ)は電子データのまま保存することが義務付けられました。
 この電子データの多くがPDFになると想定されますが、例えば、証憑書類の保存期間として定められた7年後にデバイスやOSなどがどう変わっても、電子文書を“正しく”閲覧できなければなりません。

PDFの仕組み

PDFファイルの中身

図1:PDFファイルの中身

PDFの仕組み

図2:PDFの仕組み

 多くの人はPDFを〈画像データ〉のように捉えていますが、PDFで表示された電子文書ファイルの中身を見ると、実は図1のようにテキスト情報の羅列となっています。
 これを開くときれいな印刷イメージで表示されるのは、図2に示した通り「ビューア」と呼ばれるものがPDFファイルを読み込み、内容を解析して〈文字の表示・線の描画、所定の場所に格納された図形を表示〉など指示することで、印刷イメージを生成しているためです。つまりPDFとは、PDFファイルとビューアがセットとなって機能する仕組みなのです。
 先述した「文字が変だなぁ」という現象は、PDFファイルに格納されている指定フォントがブラウザーに装備されていないため、他のフォントを代用していることによります。
 また、PDFファイルを作成した時に使用したフォントがデバイスにインストールされていない場合、文字の欠落や異なった文字が表示されることもあります。私たちは日頃、同じ種類のフォントがインストールされたWindowsパソコン同士でPDFファイルを作成・閲覧しているため、このような問題に遭遇することはほとんどありません。しかし、OSが異なるパソコンやスマートフォンで閲覧する際には、同様の問題が発生する危険性があります。

 なお、PDFは2008年にISO規格(ISO32000)となりました。加えて、こうしたトラブルを回避するため、使用目的に合わせた5種類のサブセット規格も準備されており、その一つが電子文書などの長期保存を目的とする「ISO19005」(PDF/A)です。特に、日常的に異なる言語での商取引が行われている欧州諸国では、比較的早い時期からこの規格が使用されてきました。国内では国立公文書館が採用しています。
 ちなみにPDF/Aの「A」とはArchive(アーカイブ/公文書や保存記録の意味)の頭文字をとったものです。この規格で〈フォントの埋め込み〉や〈暗号化の禁止〉などの条件を設け、閲覧環境に左右されずに正しい表示がされるほか、長期にわたって電子文書の内容保全、可読性を担保できるようにしています。
 また、同じ「pdf」という拡張子でも全てがISO規格に準拠しているとは限りません。使用するビューアによっては表示されない、もしくは誤った内容が表示されることがあるほか、電子署名の付与や編集をした際にデータが破損する、あるいは将来、文書ファイル自体を開けなくなるなどのリスクも懸念されています。

PDFを安全に使用する

 各種申請手続きのオンライン化が普及し、今後は証明書や許可証なども紙から電子交付へと置き換わっていくことでしょう。ここでもPDFの活用が想定されることから、この機に公文書の長期保管に備えて〈適正製品を使用して編集・作成を行う〉など現状の運用体制を見直すことが大切です。
 並行して、電子文書の原本性の担保という点ではLGPKIの電子証明書による電子署名(作成者の特定)や、作成日時を明示するタイムスタンプの付与が欠かせません。ただし、いずれも有効期限(電子証明書は5年、タイムスタンプは10年)があることから、これを超えて長期保管する重要な公文書では対象期間を延長する「長期署名」の手続きが必要になると考えます。
 その国際標準規格の一つが「PAdES」で、PDFファイルだけで長期署名の検証が可能と、その利便性が注目されています。
 DX推進の現状を踏まえ、デジタル庁でも新しい保管形式での保存やPAdESの検証に着手しました。公文書の〝デジタル化”が必然となったいま、自治体においてもDX推進の一環として将来を見据えた〈適正な電子文書〉の具体的な検討が急がれます。

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