事務所経営

405事業・ポスコロ事業等を活用しましょう

中小企業支援委員会から「収益力改善支援に関する実務指針」公表

TKC全国会中小企業支援委員会委員長 増山英和

「実務指針」のねらい

 昨年12月1日に、中小企業庁(収益力改善支援研究会)から、「収益力改善支援に関する実務指針」が公表されました。

 新型コロナウイルス感染症の影響の長期化、原材料価格の高騰等、経営環境が激変する中、増大する債務に苦しむ中小企業が増加しています。こうした中小企業が、財務内容や資金繰りの悪化等で経営難(再生フェーズ)に陥る前段階で、収益力改善に取り組むことや、再生フェーズに陥った後においても、本実務指針に沿った取り組みを進めることで、本格的な収益力を改善・回復・向上させることが重要とされています。

 また、収益力改善の取り組み後の持続的・安定的な事業継続のみならず、思い切った事業展開等の前向きな投資を行う上では、規律ある経営が重要であることから、「ガバナンス体制の整備」を促進することが重要とされています。この実務指針には、前述の「収益力改善」と「ガバナンス体制の整備」に加えて、「伴走支援の実務と着眼点」についても盛り込まれ、中小企業庁の「405事業」「ポスコロ事業」を認定支援機関が行う際に、本実務指針に沿って支援することが求められています。

「実務指針」の運用方針

 本実務指針は事業者の関係者が互いに収益力改善やガバナンス体制の整備に向けた取り組みを行う際に、経営者と支援者(認定支援機関)がこの実務指針を踏まえ、「対話」を通して目線合わせや信頼関係の構築等に繋げることを目的としています。事業者が、「早く取り組んでいれば、深刻な経営難に陥らずに済んだのに」ということにならないよう、早い段階(収益力改善フェーズ)で質の高い支援を受けることが重要であり、認定支援機関は、既に支援の必要性を認識している事業者の他にも、潜在的に支援ニーズがある事業者を掘り起こすことで、より多くの事業者に対し、早い段階で適切な支援を届けることが期待されています。

 また、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指す上では、ガバナンス体制の整備が重要な課題となります。この課題解決に向けて、事業者が金融機関を含めた取引先等との良好な信頼関係を構築し、取引先との関係強化や経営者保証解除、円滑な事業承継等の思い切った事業展開に舵を切るために規律ある経営体制を整備する必要があることから、ガバナンス体制の整備に取り組む上での考え方も示されています。

2種類のチェックリストの活用を

図表

図表(クリックで拡大します)

 収益力改善に取り組む上で、経営者と支援者それぞれが、「チェックリスト」を活用することで、経営者自らの気づきを醸成することに加え、支援者による気づきを提供することを促しています。

 経営者が活用する「経営者のための経営状況自己チェックリスト」(資料①)は、自社の収益力改善の必要性を簡単に自己チェックすることや、我々税理士や金融機関等の支援機関と一緒にチェックすることで、収益力改善の必要性に経営者自ら気づいていただくことを目的としています。

 まず経営者自らが経営改善の必要性に気づき、早い段階から取り組んでいくことが重要であるとされ、経営者がこのチェックリストを活用し、チェック項目のいずれかが「NO」となる場合で、その要因が説明できない、または解決手段が分からない場合には、税理士等の認定支援機関や金融機関に相談することを推奨されています。

 我々税理士は、経営者からの相談に対応するとともに、経営者と一緒にこのチェックリストを確認し、経営者自ら収益力改善の必要性に気づいていただくよう促すことも必要でしょう。

図表

図表(クリックで拡大します)

 我々認定支援機関が活用する「支援者による経営状況チェックリスト」(資料②)は、収益力改善にできるだけ早く取り組むことが事業者に有益であることを念頭に、経営者に対して事業者目線で働きかけることが重要で、経営者との対話のきっかけや、目線合わせのツールとして活用することが有用です。さらに、事業者の経営状況を踏まえて、経営改善計画策定支援事業(405・ポスコロ事業)の活用を促すことが効果的とされています。

 特に、TKC会員事務所においては、伴走支援に向け、月次巡回監査時において、当チェックリストを活用することが想定されるでしょう。また、当チェックリストは、経営者自らが客観的な視点で自己チェックを行うことや、財務面のみならず、非財務面においてもチェックすることで自社の経営状況を網羅的に把握することができます。

 当チェックリストにおいて、特に★の項目(試算表や資金繰り表が管理されていない・経営者が経営理念やビジョンを持っていない)にあてはまる場合には、ポスコロ事業の活用が推奨されていますので、ポスコロ事業を提案する関与先を選定することにも活用できると思われます。

関与先の経営力改善に向けて

 国から認定支援機関に対し、より実効性の高い経営改善計画の策定ができるよう、本実務指針に沿った支援を行うことが求められています。TKC会員におかれましては、厳しい経営環境にある関与先の収益力改善を支援するため、より質の高い計画策定に向けて、この実務指針を活用しましょう!

 当委員会では、本実務指針に対応した計画策定を行うための、研修会等の開催企画も検討してまいります。

(会報『TKC』令和5年2月号より転載)