事務所経営

TKCニューメンバーズフォーラム2022 in 金沢

27回目の「TKCニューメンバーズフォーラム」が石川県金沢市で3年ぶりに集合形式で開催され、ニューメンバーズ会員、未入会税理士・公認会計士を含む800名を集め、盛大に開催された。坂本孝司TKC全国会会長による講演や5つの分科会、パネルディスカッションなどが行われ、参加者はTKC会計人としての事務所経営の理想像を学んだ。

とき:令和4年11月17日(木)-18日(金) ところ:ホテル日航金沢・ホテル金沢

TKCニューメンバーズフォーラム in 金沢
「理想の事務所像」を見つけてほしい
TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会 委員長 甲賀伸彦

TKC全国会
ニューメンバーズ・サービス委員会

委員長 甲賀 伸彦

TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会 委員長 甲賀伸彦

 皆さん、ようこそ!金沢へ。2020年と2021年のオンライン開催を経て、3年ぶりの集合形式での開催となりました。本日はこの会場に800名の皆さんと一緒に集うことができました。先ほど会場に入った瞬間、その熱気を感じて鳥肌が立ち、今はとてもワクワクしています。
 さて、皆さんは、理想とする事務所を作られてきたでしょうか。私たちもこの問いに思い悩み、ニューメンバーズフォーラムで色々なことを学んできました。この2日間の中に、問いへの答えが隠されています。ぜひ答えを見つけて、事務所経営に活かし、落とし込んでください。
 それでは、「TKCニューメンバーズフォーラム2022 in 金沢」を開催いたします!

パネルディスカッション
その挑戦が社会を動かす!ともにつくろう税理士の未来を
◎パネリスト
渡邉 義道会員(TKC東・東京会) 
秋元 学会員(TKC神奈川会) 
清水 博文会員(TKC中国会)
◎コーディネーター
望月 慎一郎会員(TKC静岡会)
パネルディスカッション その挑戦が社会を動かす!ともにつくろう税理士の未来を
関与先ゼロ・記帳代行の事務所から事務所の経営基盤を作り上げる

 望月(司会) はじめに自己紹介をお願いします。

 清水 TKC中国会の清水博文です。岡山県岡山市で事務所を開業しています。祖父が開業した税理士事務所に入所し、2009年に承継しました。当時関与先は十数件でした。祖父もTKC会員でしたが、TKCシステムはあまり利用しておらず、記帳代行型の事務所でした。今は全面的にTKCシステムに移行し、関与先は約170件です。

 渡邉 TKC東・東京会から来ました渡邉義道です。東京都江戸川区で開業し14年が経ちました。私は開業前に8年ほど税理士事務所に勤務していました。その事務所では記帳代行型の「段ボール会計」を行っており、仕事をする中で、税理士の仕事の価値を見失っていき、税理士試験合格を機に、「独立開業すれば何かが変わるんじゃないか」と、半ば苦し紛れに開業したというのが当時の状況でした。関与先ゼロ件からスタートし、今は「飲食業に特化した事務所」として約60件の関与先を支援しています。

 秋元 TKC神奈川会の秋元学です。神奈川県横須賀市の税理士事務所に勤務していた2006年に税理士資格を取得しました。2009年に横浜市で独立開業し、TKCに入会しました。最初の5年間はTKCの活動にも無関心で、理念もない記帳代行型の事務所で、職員の入れ替わりが激しい状況でした。「このままではいけない」と心を入れ替えて、TKC会員の先輩・仲間の助言をもとに、事務所の経営基盤を整備し直しました。今は職員も定着し10名おり、関与先は約130件です。

関与先拡大1顧客満足度の向上を徹底的に追求し事務所のファンになってもらう
秋元 学会員(TKC神奈川会)

秋元 学 会員(TKC神奈川会)

 望月 最初のテーマは関与先拡大です。開業当初はどんなことをされましたか。

 秋元 開業時は営業活動に使える資金がなかったので、人脈づくりを大事にしました。主な拡大手法は、士業交流会への参加、金融機関への融資申し込み、経営者への「紹介ノルマ」設定の三つです。

 望月 「紹介ノルマ」とは何ですか。

 秋元 私の事務所の開業資金は300万円です。毎月固定費として50万円が発生し、何もしなければ6カ月で資金が枯渇し潰れるという状況でした。
 開業当初はお客さまへ毎日訪問できるほどに十分な時間があります。そこで、1件目のお客さまを1カ月間徹底的に支援しました。そして1カ月後に社長へ「税理士が私に代わってよかったですか」と聞きました。社長が「とてもよかったよ」と答えてくれたら、すかさず私から「ありがとうございます。ただ社長、残念なお知らせがあります。うちの事務所はこのままだと、あと5カ月で潰れます。ついては私にお客さまを2件紹介してください」と訴えるのです(笑)。事務所(私)のサービスに満足してくれた社長は、すぐに2件のお客さまを紹介してくれました。今度は3件のお客さまを徹底的に支援し、また社長に新しいお客さまを紹介していただく。私の場合はこのようにしてお客さまを増やしていきました。
 ポイントは、いかに顧客満足度を高めてファンになっていただくかです。そのために、お客さまから知らないことを聞かれても、「知らない」「できない」とは言いませんでした。自分で調べるか、先輩や仲間に相談すると答えは必ず見つかります。システムは、どんな質問・要望にも応えられるよう全てのメニューを動かして、隅々まで機能や操作方法を学びました。これはライバルに差をつけられないためにも欠かせないことです。

関与先拡大2理想とする事務所の「あり方」を見つけ一貫性のある戦略で関与先を拡大

 望月 渡邉さんは飲食業に特化されていますが、当初からターゲットを絞っていたのでしょうか。

 渡邉 そんなことはありません。最初は戦略も人脈もなく、交流会への参加やDMの送付などあらゆる方法を行いました。「年間報酬24万円の開業パック」を打ち出したり、相続税申告の報酬で得た100万円をテレアポにつぎこんだこともありました。
 失敗することの方が多かったのですが、そこから学んだことがあります。それは自分が理想とする会計事務所の「あり方」を見つけることでした。そして、過去の経験を振り返って見つけたことが「飲食業に特化する」という戦略でした。
 「あり方」が明確になってからは、事務所ホームページや名刺などでの紹介の仕方に一貫性を持たせて、「私はTKCの巡回監査を軸とした飲食業に特化した税理士です」とアピールできるようになりました。おかげで、たくさんある事務所から、うちの事務所を選択していただける機会が増えたと思います。

 望月 清水さんは承継後に大きく関与先を増やし、順調のように見えますが、いかがでしたか。

 清水 承継時に関与先がゼロ件でなかった点は大変ありがたいことでしたが、その後の関与先拡大にはとても苦労しました。実は先代は、自分の代での廃業を考えていたため、新規営業をほとんど行っておらず、私もどう営業したらよいのかがまったく分からなかったのです。
 拡大につながったきっかけは、人脈づくりのために参加した異業種交流会でした。そこで出会った弁護士・司法書士の仲間5名で一般社団法人を作りました。今では県内50名を超える団体になっています。企業再生や組織再編、事業承継など新しいことにも挑戦し、一生懸命に企業を支援するうちに、税理士を含め士業からの紹介が多くなりました。

職員採用・教育「なぜその業務を行うのか」という「根っこ」の部分を職員と共有する
清水 博文会員(TKC中国会)

清水 博文 会員(TKC中国会)

 望月 関与先を拡大すると、次は職員の採用・教育の問題が出てきます。失敗談を含めてお話をお聞かせください。

 渡邉 私の場合は2人目の職員採用で失敗しました。1人目は、会計事務所は未経験でしたが、知人だったため、人となりを知っており、何の心配もなく雇用できました。まだ私にも時間があったので、マンツーマンで教育し、順調に育ってくれました。しかし、2人目は、関与先が増えて忙しくなったので、採用面接に時間をかけずに雇ってしまったのです。
 その結果、職員の適性を把握しないまま、仕事を任せてしまい、関与先から思わぬクレームをいただくことが増えました。職員の価値観と事務所の方向性が一致しないまま採用したことで、関与先の信頼を失い、事務所の雰囲気を悪くし、その職員にも嫌な思いをさせることになってしまったのです。
 その時の経験から、採用には時間をかけるようになりました。面接では、じっくりと相手の話を聞いて、事務所の方向性に合った人物かどうかを見極めるようにしています。それ以来、私にはもったいないくらいの優秀な職員に巡り合うことができました。

 秋元 渡邉さんがお話しされたように、職員採用は自分が手一杯になってからでは遅いです。経済的な面で職員を増やすことへ不安を感じる方が多いと思います。しかし、職員を教育し、一人前に育てるには時間がかかります。採用の目安としては、私の事務所では売上1千万円を超えるタイミングで1人採用していますが、ご自身に余力がある(全力の7~8割ぐらい)うちの採用をお勧めします。

 望月 清水さんは、先代の先生が行っていた記帳代行型から自計化推進へと大きく方針転換されましたが、職員教育ではどのような苦労がありましたか。

 清水 当時スタッフからいつも言われていたことは、「所長が忙しすぎて相談しにくい」と「言っていることがよく変わる」の二つでした。スタッフの入れ替わりも激しかったものですから、その原因を考えて改善していきました。
原因は、私が目指している事務所の方向性や、「なぜその業務を行うのか」という本質的な「根っこ」の部分を職員に伝えてこなかったことと、業務を行うための所内の仕組みができていないことにありました。
 そこで行ったことは、『TKC会計人の行動基準書』の朝礼での読み合わせと、「経営方針書」の作成です。『行動基準書』にはTKC会計人が遵守すべきルールが記されています。「経営方針書」は、私の考えに基づいた事務所の方向性や、監査担当者の職務などを明記したものです。TKCの「事務所見学会」に参加して、学んできたことも付け加えて、改訂を繰り返しました。これらのツールを活用することで、職員とベクトルが揃ってくるようになってきました。

 望月 秋元さんも職員の定着に苦労されたとのことですね。

 秋元 そうですね。開業後5年間で退職者は40名を下りません。毎月誰かが退職していました。月末に職員が私に近づいてくると「辞めたい」と言われるのが怖くて、目を合わせられませんでした。
 そうは言っても、職員の顔色を伺って、やりたいことを我慢しすぎることがよいのかという話があります。TKC会計人として自分の理想とする税理士像を突き詰めることもとても大事なことです。
 私の場合は、忙しさによる職員とのコミュニケーション不足が職員退職の一つの原因だったため、毎月開催する所内会議や、日ごろからの職員との対話を通じて、私の考えを分かってもらい、職員の気持ちを理解するよう努めています。

インボイス・DX対応への取り組み法制度改正への対応にはニューメンバーズにアドバンテージあり

 望月 次のテーマは、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応についてです。TKC全国会では制度対応とともにデジタル化・DXの推進を行っています。事務所で取り組む中で、ニューメンバーズの皆さんへの助言をいただけますか。

 渡邉 今回の制度改正は、全ての会計事務所が一斉に取り組まなければなりません。既存の事務所が、これまで行ってきた仕組みをいったんリセットして、再構築するにはパワーと時間を必要とします。その点、身軽なニューメンバーズの皆さんには、新時代の事務所経営と人材育成にまっさらなところから取り組めるというアドバンテージがあります。
 TKCには皆さんをサポートするツールがたくさん用意されています。臆することなく、ツールを活用して、自事務所の制度対応は万全であることを、SNSで外部に発信してください。

 秋元 私も同感です。早くから取り組むほど、関与先拡大のチャンスを掴むことができます。
 また、企業のクラウドやDXへの関心が高まる中で、自計化システム導入への敷居は、私たちが開業した15年ほど前の頃と比べると、低くなっています。AIを活用する税理士、経営助言など高付加価値サービスを提供できる税理士が求められる時代になりつつあります。ニューメンバーズの皆さんには、機動力を発揮して時代の変化に対応できる未来の税理士像を描いていただきたいと思います。

 望月 お二人に関与先への取り組みをお話しいただきましたが、所内のDX推進について清水さんにお聞きします。

 清水 事務所内では、「OMS(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)」という所内管理システムの「目標管理(KPI)」機能や「TKCチャット」などをフル活用しています。私の事務所ではチーム制を採用しており、チームごとに目標設定しています。リーダーはKPIを使ってメンバー一人ひとりの進捗管理を行っていて、例えば、FXクラウドの導入状況が芳しくなければ、チーム全員でKPI値を見ながら解決策を話し合っています。また、「TKCチャット」は所内だけでなく、関与先とのコミュニケーションも取りやすいので、とても重宝しています。

「税理士の4大業務」への取り組み「事務所を代えれば経営は変わる」との社長の言葉に感激した
渡邉 義道会員(TKC東・東京会)

渡邉 義道 会員(TKC東・東京会)

 望月 TKC全国会では、2022年からの運動方針の具体策として、「TKC方式の自計化」「TKC方式の書面添付」「巡回監査と経営助言」の推進を掲げ、坂本孝司全国会会長が示されている「税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)」の徹底実践に努めています。このことに関して事務所の取り組みと関与先からの反応を渡邉さんからお話しください。

 渡邉 いきなり4大業務に、一度に取り組むことは難しいと思います。私からは長いスパンで4大業務に取り組んできた事例を紹介します。
 その会社は私が開業して、初めて関与した会社です。リーマンショックで業績が急激に落ち込んだことをきっかけに、縁あって記帳代行型の事務所から私の事務所に移ってこられました。社長の期待に何とか応えたいと、初めてのTKCシステム導入でしたが、TKCのSCG社員や地域会の先輩方に教えていただきながら、自計化システムを導入し、まず会計・税務の基盤を作りました。
 次に経営助言ですが、最初は経験がなく気の利いたアドバイスができません。そこで、月次巡回監査では、社長と一緒に変動損益計算書を見ながら、売上の詳細と限界利益率の推移、固定費の内容、支出状況の確認を地道に繰り返しました。すると、社長が徐々に限界利益率を高めるためにはどうすればよいのかを考えてくれるようになっていったのです。
 社長と毎月話し合った内容は、添付書面に記載のうえ決算書に添付し、「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」を通じて金融機関に開示するようにしました。金融機関も徐々にこの会社の事業内容に興味を持ってくれるようになりました。これは4大業務の保証になります。
 また、中期経営計画を社長と一緒に作成し、工場移転資金のための融資を受けることもできましたし、三菱UFJ銀行のTKC会員専用の商品である「極め」を申し込み、資金調達することもできました。社長は「初めて都市銀行からお金を借りることができた」と、とても喜んでくれました。
 私が関与した当初年商が4千万円だった会社は、今では1億円に到達し、経常利益800万円を計上できるまでに成長しています。業績が上がるに従い、社長から同じような経営の悩みを抱えているほかの会社を紹介していただけるようになりました。その時、社長は決まって「会計事務所を代えたって経営は変わらないと思っているでしょ。そんなことはないんだよ。うちは本当に変わったんだから」と先方に言ってくださっているそうです。その話を聞いたとき、私は嬉しくて、この仕事をやってきてよかったなと心から思いました。

関与先の発展と自己の成長を目指し社会の発展につながる仕事をしよう
望月 慎一郎会員(TKC静岡会)

望月 慎一郎 会員(TKC静岡会)

 望月 最後にニューメンバーズの皆さんへ一言ずつメッセージをお願いします。

 清水 TKC全国会は私たちに行動を起こすきっかけを与え、勇気を持って実践することを後押ししてくれます。このような組織はほかにはありません。事務所経営で悩んだときに、解決の糸口はTKCにあります。大切なことは、そのきっかけに気づけるか、気づいたところで勇気を持って一歩を踏み出せるかです。
 今回のフォーラムをきっかけに、全国の仲間と交流し、新しい一歩を踏み出していただきたいと思います。

 秋元 新規開業の皆さんも、公認会計士の皆さんも2代目の皆さんも、関与先の存続・発展という目指すゴールは同じです。たとえ今は書面添付や経営助言ができていなくても、できている自分を想像してください。できている自分の姿を想像しながら、一歩ずつ実践していくことで理想に近づけるはずです。もし、実践する中で迷うことがあれば、TKCにはたくさんの先輩、仲間がいます。身近な先輩や仲間をベンチマークにしてください。そして理想の税理士像をともに目指しましょう。

 渡邉 これまでの事務所経営を振り返ると、今の自分があるのは立川直樹先生(TKC東・東京会)との出会いでした。税理士登録した直後の私に、「今まで君がやっていた記帳代行のような仕事をしていたら関与先の成長発展につながる仕事もできないし、自分の成長につながる仕事もできないよ」と教えていただき、事務所のあり方を見せていただきました。
 私は開業以来、規模の大きさよりも、よい会計事務所であり続けたいと思ってきました。変わらずあり続けるためには、変わって進化していかなければいけません。一緒に力を合わせて、TKC全国会そしてTKCシステムの変化と進化に支えられながら、社会の発展につながる仕事をしていければと思います。

 望月 皆さんも失敗することや、くじけそうになることがあっても、歩みを止めずに未来へ挑戦してください。そしてともに税理士の未来をつくっていきましょう!

(会報『TKC』令和5年2月号より転載)