特集

「2023年版中小企業白書・ 小規模企業白書」のポイント

中小企業庁 事業環境部調査室

 「2023年版中小企業白書・小規模企業白書」(以下、「白書」という)では、新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」という)の流行や物価高騰、深刻な人手不足等に直面する中小企業・小規模事業者の動向に加えて、中小企業が変革の好機を捉えて成長を遂げるために必要な取組や、小規模事業者が地域課題を解決し、持続的な発展を遂げるために必要な取組等について、企業事例を交えて分析を行っている。

 白書は2部構成であり、より具体的には第1部では、中小企業の業況や経済環境、雇用環境など、足下の状況を概観している。

 中小企業白書の第2部では、価値創出のための「戦略」と、その構想・実行の核である「経営者」に焦点を当てて分析を行っている。また、価値創出のための戦略を実現するための要素である、人材や資金といった経営者を支える内部資源(リソース)・体制についても分析している。さらに、事業承継に着目した分析についても行っている。

 小規模企業白書の第2部では、地域課題の解決に取り組む事業者の実態や連携の状況や、持続的発展を目指す小規模事業者とその支援機関について両者の連携が重要であることなどについて分析している。

 また、白書の第2部最終章では、中小企業・小規模事業者における共通基盤として、取引適正化と価格転嫁、デジタル化、支援機関、経営力再構築伴走支援(以下、「伴走支援」という)に関する分析を行っている。

 本稿では白書の中から、中小企業・小規模事業者の動向について概観した上で、中小企業が変革の好機を捉えて成長を遂げるために必要な取組や、支援機関における能力向上と連携、伴走支援について取り上げ、その分析内容を紹介する。

令和4年度(2022年度)の中小企業・小規模事業者の動向

 中小企業・小規模事業者の業況は、コロナ禍からの社会経済活動の正常化が進みつつある中、売上高は感染症流行前の水準に戻りつつある(第1図)。一方、業種別に消費支出の推移を見ると、宿泊や交通においてはいまだ感染症流行前の水準には戻っておらず、業種によっては厳しい状況が続いている。

第1図

 また、中小企業を取り巻く経営環境として、物価高騰により、収益減少等の影響を受けている。実際に、原材料・資源価格の高騰による企業業績への影響を見ると(第2図)、物価高騰を理由に経常利益が悪化したと回答する割合は2020年以降増加傾向にあることが分かる。

第2図

 物価高騰とともに人手不足も深刻な状況にある中、中小企業における賃上げの動きは進みつつあり、所定内賃金については、感染症流行後、賃上げを実施している企業の割合が増加している(第3図)。一方で、2022年における「賃上げを実施」と回答した割合は半数程度にとどまっており、賃上げが難しい企業も一定程度存在する。

第3図

 こうした賃上げを促進するためには、価格転嫁と生産性向上が重要となるが、生産性の向上に向けては投資の拡大やイノベーションの実現が鍵となる。特に、世界的に脱炭素の機運が高まる中、我が国の中小企業においても、GXといった構造変化を新たな挑戦の機会と捉えた投資の拡大等に取り組む企業は存在しており、こうした動きが今後広がることを期待したい。

成長に向けた価値創出の実現

 ここからは中小企業白書第2部第1章の内容を抜粋して取り上げる。この章では、1者でも多くの中小企業が成長を遂げることが、日本経済や地域の発展につながる観点から、中小企業の「成長」をテーマとして取り上げている。その上で、価値創出のための「戦略」と、その構想・実行の核である「経営者」に焦点を当てて分析を行っているが、「戦略」についてまず確認する。

 経営戦略策定時に選定した市場の特徴別に、付加価値額増加率の水準(中央値)を見ると(第4図)、「競合他社が少ない市場」で事業を行った企業は、「競合他社が多い市場」で事業を行った企業と比べ業績が向上していることが分かる。このことから、競合他社と異なる価値創出のあり方を反映した戦略の構想や実行を通じて差別化を図ることが、企業の成長につながる可能性が示唆される。

第4図

 次に「経営者」について確認する。中小企業の多くは所有と経営が一致していることを踏まえると、経営者の成長意欲の有無が、その戦略の構想と実行に大きな影響を与える可能性が考えられることから、経営者の成長意欲を高める取組について分析を行っている。白書では、経営者の多くが、第三者との交流により成長意欲が高まった経験を有していることを明らかにしているが、経営者就任後における、成長意欲を高めることにつながった交流先についても確認している(第5図)。これを見ると、「同業種の経営者仲間」、「異業種の経営者仲間」といった回答が上位となっており、経営者仲間との積極的な交流を通じて、企業の成長意欲を喚起していくことも重要といえよう。

第5図

 なお、白書では、経営者が戦略を構想・策定し、その戦略を実行していく上で、戦略の構想・実行に携わり、経営力の向上と成長を支えるプレーヤーが重要な役割を担っている実例が存在することも示している。

 その他、価値創出のための戦略を実現するためには、人材や資金といった経営者を支える内部資源(リソース)・体制の充実も重要な要素である。白書では、人材戦略の策定やエクイティ・ファイナンスの活用に向けたガバナンスの構築・強化が、こうした戦略実現に資する人材や資金の獲得を促す手段となることを示している。

新たな担い手の創出

 続いて、中小企業白書第2部第2章で取り上げた事業承継について確認する。

 事業承継は経営資源の散逸を防ぐとともに、経営者の世代交代により、企業を変革する好機でもある。具体的には、白書では、事業承継時の経営者年齢が若い企業ほど、事業承継後の事業再構築に取り組んでいることを示すとともに、事業承継後の事業再構築が業績向上に寄与することを示している(第6図)。

第6図

 また、意思決定を後継者に任せるほど後継者の挑戦が促されることや、従業員から信認を得て、事業再構築を行う企業ほど、売上高年平均成長率が高いことも分析結果として示している。このことから、先代経営者においては、後継者が事業再構築に挑戦できるよう、後継者に経営を任せる意識を持つとともに、後継者においては、早期の段階から事業再構築の検討に着手しつつ、従業員から信認を得ておくことが重要であると示唆される。

支援機関における能力向上と連携、伴走支援

 ここまで述べたような外部環境の変化への対応が求められる中、経営課題の設定段階から対話と傾聴を通じて本質的な経営課題に対する気付きを与え、自己変革・行動変容を促す、課題設定型の伴走支援は重要な支援手段となっている。実際に、事業者は支援機関による支援により、本質的な課題設定ができることに期待を持っていることがうかがえる(第7図)。また、伴走支援件数の増減状況を確認すると、約7割の支援機関が3年前と比較して伴走支援件数が増加していると回答しており、各地の支援機関において伴走支援の取組が着実に進展していることが示唆される。

第7図

 一方で、支援機関は伴走支援を実施する上での課題も抱えており、伴走支援の実施有無によらず、「支援ノウハウ・知見の不足」を課題に挙げる割合は高い。こうした中で、支援ノウハウの蓄積状況別に伴走支援の実施状況を見ると(第8図)、支援ノウハウの蓄積ができている支援機関ほど、伴走支援を実施できていることが分かる。実際に、ノウハウの形式知化を図り、支援機関内の相談員の能力向上に取り組みながら、伴走支援を実施している支援機関も存在しており、白書では事例として紹介している。

第8図

 以上、白書の内容について紹介したが、本稿では取り上げられなかった分析も多数行っている。中小企業経営者の経営力向上のヒントとなる具体的な取組事例も数多く紹介しているため、TKC会員の先生方をはじめ、認定支援機関の皆さま方には、ぜひご覧いただければ幸いである。

(会報『TKC』令和5年7月号より転載)