事務所経営

複数担当制とオーダーメードの管理会計で中堅企業を手厚くサポート

税理士法人吉田・内田税理士事務所
吉田陽介 内田祐司(中国会岡山県支部)

比較的年商規模の大きな企業を得意とする税理士法人吉田・内田税理士事務所。税理士と職員が2人で担当する「複数担当制」と、経営者から求められる数字を会計データから抽出・加工して提供する「オーダーメード」の会計サービスによって満足度を高め、昨年には「FX4クラウド」を導入した。所長の吉田陽介会員(44歳)とパートナー税理士の内田祐司会員(40歳)に、事務所経営におけるFX4クラウドの活用法を聞いた。

顧客の喜びをダイレクトに感じるため安定した企業を飛び出し税理士を目指す

 ──大手通信系企業から転職されたとお聞きしました。

吉田陽介会員

吉田陽介会員

 吉田 父が商社マン、兄弟親戚も企業勤めという一家だったので、正直税理士という職業の存在さえほとんど知らずに就職したのですが、その入社した企業の研修で「簿記」がありました。
 自分は文学部出身なのでさっぱりわからず、経済学部や商学部出身の同期はスラスラ解いている。そこで人事部へのアピールも兼ねてしっかり勉強しようと専門学校に通い始め、3級、2級と合格したとき、講師に「次は日商1級にしますか、税理士コースにしますか」と聞かれたんです。ライバルだった先輩が1級を持っていたので、彼を超えてやろうと(笑)税理士を目指したのがきっかけです。

 ──前職に未練はなかったのですか。

 吉田 ありませんでしたね。安定していたし良い経験もさせてもらいましたが、大企業の中で自分の裁量もほとんどなく役割をこなしていくのが向いていなかった。自己責任で物事を決められて、お客様の役に立ったときは直接リアクションが分かるような仕事がしたいと感じていた時、専門学校で知り合った会計事務所職員に税理士の仕事内容を聞いて「良い資格だな」と。
 平成6年に3年間勤めた企業を退職して一度実家の広島県福山市に戻り、翌年に岡山の平本久雄先生の事務所(現・あおば税理士法人)に就職しました。他にも内定をもらった事務所があったのですが、面接の際、平本先生に「TKCの事務所が絶対いい」と言われ、この先生に賭けてみようと思いました。
 そして働きながら勉強し、平成14年、9回目の受験で最後の1科目に合格でき、そのまま社員税理士として数年お世話になったあと、40歳を前に独立しました。

 ──ではTKCへの入会も当然という感じですね。

 吉田 はい、100%TKCシステム利用の事務所で働いていたので、他社システムという選択肢は考えませんでした。
 それに専門学校時代に知り合って先に税理士になっていた友人から「TKCは良いよ」という話を聞いていましたし。例えばシステムに不具合があった場合、TKCはマイナス情報をすぐに知らせてくるので、そうした企業姿勢には好感を持っていました。また担当のSCGさんがいるなど支援体制も魅力的でした。

専門学校の受験仲間だった内田会員をパートナーに迎え税理士法人を設立

 ──平成21年に内田先生と税理士法人を設立した経緯を教えてください。

 吉田 内田君は専門学校時代の受験仲間です。彼は当時大学生でしたが、卒業後は国税専門官に合格し、その後は1年に何度か飲みにいったりする「つかず離れず」といった関係でした。

 独立を決意してから将来のビジョンを考えていた時、そういえば内田君が「いずれは税理士としてやっていきたい」と話していたことをふと思い出し、報告も兼ねてメールをしてみたら「今シカゴにいる」と返事があり驚きました。

内田祐司会員

内田祐司会員

 内田 当時、国税庁が情報収集の拠点として世界約20ヵ所に長期出張者を派遣し、現地の情報を集めていました。例えば、消費税の二段階税率・軽減税率について、カナダではドーナツ6個以上だと軽減税率(0%)だけど、5個以下なら外食とみなされて標準税率(6%)になるなどの現地情報です。

 吉田 彼が一度日本に帰国したときに会って将来について話し、独立直前の2月にも「遊びにいっていい?」と聞いたら「ミシガン湖も凍るこの時期に遊びに来る人なんていませんよ」と言われて(笑)。実際行ってみたら氷点下の極寒でしたが、その時にはじめて「将来一緒に仕事してほしい」とはっきり伝えたところ、幸いOKしてもらえたんです。

 内田 国税専門官になる前からいずれ税理士になるつもりでしたし、10年以上勤めて経験も積んだので、そろそろ税理士に転職しようと思っていた時でした。
 監査法人や大規模事務所に転職するというチョイスもありましたが、自分の能力がストレートに成果に結びつくのは吉田所長とのコンビが最適だと思ったし、TKC事務所だったことも追い風でした。

 吉田 はじめからパートナー、共同経営者として来てほしいと話していたので、平成21年には税理士法人に改組し、名前も「吉田・内田税理士事務所」と「二枚看板」であることを強調しました。

 ──シカゴまで行って口説いたとは凄い熱意ですね。

 吉田 お互い得意分野が違うので、一緒にやることのシナジー効果をむしろ冷静に判断した結果、内田君の他にはいないかなと。チームとしてマッチするかどうかが大事なのであって、結婚じゃないですから120%の相性の良さを求めるものではないと思います。まあ、僕が「攻めた」のは確かですけど(笑)。

 ──それぞれの得意分野とは。

 吉田 自分は企業再生や会計システムの構築、内田君は国際税務やファイナンシャルプランニングが得意なので、お互いの足りない部分を補い合えています。

 ──「二枚看板」のメリット・デメリットはどんなところでしょうか。

 吉田 営業トークとして「ウチは税理士が2名いますので、若いスタッフが担当しても必ずどちらかの税理士がフォローする複数担当制です」というのを強調したところ、比較的年商の大きな中小企業経営者のウケが良かったですね。
 デメリットは、職員が入った時に指揮命令系統が混乱したり、報酬面でのトラブルなどが考えられますが、そうした「後で揉めそうなこと」は最初に話し合って決めておいたので問題はありません。

数字のチェックだけやっていてもダメ
ニーズへの素早い対応が満足度を上げる

 ──事務所の概要を教えてください。

 吉田 関与先は法人50件、個人7件の計57件、翌月巡回監査率は98.4%、自計化は45件、継続MAS23件、書面添付13件、職員は税理士試験の科目合格者が2名と総務1名です。
 関与先は独立するときに数件引き継がせていただき、その後は商工会など公的機関の担当者からの紹介や、他士業などとの連携によって増えていきました。

 ──比較的年商規模の大きな関与先を得意にされているとのことですが。

 吉田 関与先の特徴としては、近年急成長を遂げているグループ企業や社長交代を機に当事務所に移ってきた老舗企業、また海外取引やM&Aのニーズのある企業などが多いです。
 年商規模で言うと30億円以上が1社、10億円以上が3グループ、2億から10億円が6グループで、これだけで件数としても事務所の売上としても全体の約50%を占めています。その他に1~2億円の関与先が約30%です。

 内田 顧問料も安くは設定していないので、年商5000万円以下だと難しいですね。「手厚いサポートはいらないからとにかく安くして欲しい」という会社はニーズが合わないのでお互い不幸です。
 当事務所はコストは高いけど、提供できるものにはそれだけ自信を持っていますし、事務所のホームページでもそのことが伝わるようにしています。

 吉田 例えば企業オリジナルの管理会計のニーズがあって、ある不動産業の関与先からプロジェクト単位の通算収支を求められた時、通常は決算期になるとそこで切ってしまうのですが、FX4クラウドの「プロジェクト管理機能」を使えば、土地を買ってから建設して販売するまでの数年間の収支を抽出できます。
 また、ある年商15億円規模のグループ企業では、翌月5日までに前月の部門別、支店別の数字を見たいというニーズがあったので、仮〆日に前月の概算値を確定して幹部会議に提出し、月次巡回監査の後に本〆をして対応しています。
 ある程度の年商規模になると数字のチェックだけやっていてもダメで、難しいニーズにもスピーディに対応する必要があります。「こういう数字が知りたい」とピンポイントで求められたとき、すぐにデータを加工して提供すれば高い付加価値になりますし、それが顧客満足度を高め顧問料のアップにもつながります。

 内田 ただその会社の中身がわかっていないと有効な提案ができないので、まずは深く入り込む必要があります。自分がその会社の業態や特徴を説明できるくらいにならないと、例えば経理の方に「こうした問題がある」と言われてもアドバイスができないですから。

 ──複数の関与先の会計参与にも就任されているとお聞きしました。

 吉田 現在5社の会計参与となっており、他に2社からもオファーを受けています。比較的大きいとはいえやはり中小企業なので会計に強い人材は不足しており、我々が経営陣に入ると心強いと思っていただけるようです。

拠点が頻繁に動く「アメーバ」業態なら「FX4クラウド」しかない

 ──「FX4クラウド」のお話が出ましたが、どのような関与先に導入を勧めているのでしょうか。

 吉田 細かい部門別管理を階層的に行う必要がある企業ですね。業種で言うと卸売業、小売業、サービス業などで適しているケースが多い。もちろん、レンタル料の負担を考えるとやはりある程度の年商規模も必要です。
 現在、当事務所では1件の関与先企業でFX4クラウドを導入しており、FX4(従来版)が1グループ(4社)です。

 内田 FX4(従来版)だと専用の回線を引くことが心理面でのハードルになっていましたが、FX4クラウドの登場でそれが解消されたのは大きいです。
 どこでも入力できるというメリットを最大限に活かすなら、複数拠点で入力をしないといけない会社、かつ、しょっちゅう支店を出したり閉めたりするなどアメーバのように流動的に拠点が動く可能性が高い業態ならこれしかないでしょう。

 吉田 今提案を検討中なのが、出産・育児で職場を離れざるを得ない女性経理がいる会社。FX4クラウドなら場所を選ばないので在宅勤務を続けることができ、「新たに社員を雇うよりも割安ですよ」というメリットを切り口にできます。
 もちろん比較的小さな企業でニーズがないとは限らないですし、固定観念にはとらわれず、導入できそうな関与先がないか事務所内でディスカッションをしています。そうして可能性のある関与先をピックアップしておき、タイミングをみて提案できそうな時にはすぐに見積書を出せるよう常に準備をしています。

 ──すでに導入している1社はどのような企業ですか。

 吉田 香川県にエビせんの製造販売業の関与先があるのですが、その企業に昨年、FX4クラウドを導入しました。
 年商は約12億5000万円で、元々は「FX2」で営業課ごとの部門別管理をしていたのですが、販売ルートが全国の百貨店だけでなく卸売りや直営店、通販と複数であること、また百貨店グループ単位、あるいは百貨店の店舗ごとの収支なども細かく管理したいというニーズがあり「FX2」では限界があると感じていました。
 FX4(従来版)であればそうした階層別の管理にも強いのですが、サーバーなどの初期費用が高額になってしまうので迷っていたんです。しかし昨年6月に「FX4クラウド」ができたことでそれが大幅に抑えられるようになったので、提案に踏み切りました。

 ──関与先さんの反応は。

 吉田 百貨店グループごとの売上や店舗別の採算などがタイムリーに把握できるようになったため、経営判断をするにあたって非常に有効だと喜んでいただけました。
 また、その会社では他社の販売管理システムを使っているのですが、そのデータをエクセル形式で切り出し「FX4クラウド」に自動取り込みができるので、データの二度打ちが必要なくなり業務効率が改善したという効果もありました。

FX4クラウド導入のポイント

導入先の決め方
  1. 部門毎・拠点毎の収支を素早く把握する必要があるか
  2. 支店を出したり閉めたりするなど拠点が動く可能性があるか
  3. 業態や規模といった先入観にとらわれずディスカッションして判断
会計事務所のメリット
  1. 事務所で数値を閲覧できるので巡回監査前に数字のチェックが可能
  2. 管理会計と税務の一貫した指導関係に発展し関与先の離脱防止につながる
  3. 初期費用が安いので導入へのハードルが低い

クラウド活用で「税務と会計の棲み分け」から「税務と会計の一気通貫」へ発展

 ──FX4(従来版)と比べ、FX4クラウドはどのような点で優れているとお考えですか。

 内田 なんと言っても初期費用の削減です。FX4(従来版)への移行だとシステムの総入れ替えといった感じで多額のコストがかかりましたが、今はFX2から気軽にステップアップができます。

 吉田 あとは事務所でも数字がチェックできること。巡回監査前にできる作業は事務所で済ませておき、訪問した時は経営助言に時間を充てられます。

 ──税務と会計の親和性についてはいかがですか。

 吉田 FX4クラウドの導入想定が年商5億以上とされていますが、このクラスの中堅企業は会計については既に「自立」している企業が多いため、会計は従来のソフトを継続し、税務だけを税理士事務所へお願いするといったケースも多く、「税務と会計の棲み分け」がされてしまっているのではないかと思われます。
 実は中堅企業の中には「税理士がコンサルティング業務を行う」ということをご存じでなかったり期待していないことが意外と多いように感じます。私の手応えとして、FX4クラウドの導入は税理士事務所にとってはコンサルティング能力を発揮する絶好の機会となります。
 大企業・中小企業に限らず時代の要請として各企業は「緻密なデータ戦」が求められ、既に多くの中堅企業は時代の要請に対応すべく各々独自の手法で「データ戦略=管理会計」を導入しています。FX4クラウドを中心軸に据え、他システムとのデータ連携による作業の合理化・スピード化、財務会計と管理会計の一元化によるデータの検証可能性の確立など、税理士事務所はその企業オーダーメードの管理会計の構築のため専門能力を遺憾なく発揮することができます。
 また管理会計は日々進歩発展していきますので都度手直しが必要となります。すると管理会計について常に助言を求められるようになり、その企業にとって必要不可欠のパートナーとなります。税理士には税務だけをお願いするといった「税務と会計の棲み分け」という関係ではなく、管理会計も含め一貫した指導をお願いされる関係に発展し結果的に関与先離脱の防止につながると考えています。

「ダメなものはダメ」と関与先を指導5年以内に関与先100件が目標

 ──これまで順調に事務所を拡大されてきたように感じますが、「壁」にぶつかったことはありましたか。

 吉田 まだまだ発展途上の事務所なので、毎日「壁」の連続です。
 特に税理士は、サービス業でありながらお客様を指導する立場でもあるという難しさがあります。顧問料をいただいている関与先であってもいい顔ばかりできず「ダメなものはダメ」と言わないといけないので、それはやはりストレスです。

 ──例えばどのような指導でしょうか。

 吉田 「あるスキームで商売をしたいので、税務上ギリギリ(セーフ)のラインを教えて欲しい」と頼まれたことがあるのですが、よく調べてみたら完全にアウト。顧問料も高額な関与先だったのでためらいましたが、その会社のためを思って「それはダメです」と答えたときは、契約解除も覚悟の上でした。事務所としても、一時的には経営が苦しくなったとしても、長い目で見たときにプラスにならないという判断です。
 長年TKCの文化の中で育ってきたからこそこうした強さを身につけられたのだと思いますし、その意味ではTKCの諸先輩方には感謝しています。今回の取材も多くの素晴らしいTKCの諸先輩方がいる中でお役に立てる情報を提供できるか不安でしたが、自分自身の勉強のためと思ってお受けしました。

 ──数年後の事務所については、どのようなビジョンを描いていますか。

 吉田 将来は現在のような少数精鋭のコンパクトな事務所を、近隣の県に展開したいと考えています。
 理由は2つあって、1つ目は現在の高品質・高付加価値サービスを提供するという経営方針を続けようとすると、どうしても年商数億以上の法人にターゲットを絞ることになり、岡山県内だけではなかなか拡大が望めないからです。先程お話ししたFX4クラウドの導入企業も香川県でしたが、四国や山陰などにも支店を展開し、中堅企業を開拓していくしかないと考えています。
 2つ目は、職員に経営手腕を発揮してもらいたいから。2名の職員は税理士を目指しているのですが、できれば合格後も残って勤めてもらいたいと考えています。各拠点の責任者として経営を任せ、手腕を発揮できる場所を与えられれば、独立開業とは別の選択肢ができます。
 あと5年以内には1つ支店を作り関与先も100件まで増やして、内田君に所長をバトンタッチしようと考えています。

 内田 事務所としての方向性は同じなので、まずは自分が貢献できる分野で成果を出すのはもちろん、「プレイングマネージャー」として他のメンバーが成果を出せる環境を作っていきたいと思います。「将来はこうしたい」という夢を語る大前提として、それぞれの人が自分の持ち場でしっかり成果を出すことが大切。それができれば組織としてもいい方向にまわっていくし、関わっている人がみんな幸せになれると思います。

税理士法人吉田・内田税理士事務所のみなさん

高付加価値サービスの提供には若い職員さんの力が不可欠

(TKC出版 村井剛大)


◆社員税理士 代表 吉田陽介(よしだ・ようすけ)会員
平成3年九州大学文学部卒業後、大手通信系企業に入社。平成7年に会計事務所に転職。19年独立開業・入会。21年税理士法人を設立。

◆社員税理士 内田祐司(うちだ・ゆうじ)会員
平成7年岡山大学卒業後、広島国税局採用。税務署勤務、国税庁出向等を経て平成20年吉田陽介税理士事務所に入所、21年社員税理士に就任。

税理士法人吉田・内田税理士事務所
 関与先件数57件(法人50件・個人7件)。
 職員は科目合格者が2名、総務1名。
 住所:岡山県岡山市北区東島田町1-1-8 YS島田ビル1F
 電話:086-238-5230

(会報『TKC』平成24年7月号より転載)