事務所経営

TKCの仲間の助けを借りながら自分らしい事務所を作りたい

女性会員が語る

とき:平成24年8月2日(木) ところ:TKC東京本社

結婚や出産といった環境変化に対応し、またTKC会員の仲間の協力も得ながら事務所を成長させてきたという3名の女性会員に、TKC入会のきっかけや事務所経営における工夫などを語り合っていただいた。

出席者(敬称略・順不同)
 河内洋子会員(九州会北九州支部)
 藤原京子会員(近畿兵庫会東播支部)
 田代智子会員(西東京山梨会立川支部)

司会/TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会
 委員長 田口 操会員(東・東京会)

座談会

現役の税務署長の言葉がTKC入会のきっかけ

 ──本日はお集まりいただきありがとうございました。それでは自己紹介と事務所の概要からお願いします。

 河内 入会は平成17年、九州会北九州支部でニューメンバーズ・サービス委員長をしています。関与先は約150件です。
 税理士を目指して最初に受験したのが37歳と非常に遅く、この業界に入ったのがその3年後の平成15年です。資格を取ってからTKC会員の事務所に勤務して、それから4年半くらいで当時の所長から高齢を理由に事務所を譲りたいとの話があり、承継させていただくことになりました。
 事務所に入った頃は職員が20名近くいたのですが、引き継いだときは10名くらいになり、現在は7名です。最近事務所の内装をリニューアルしたので、いよいよ別の事務所のようになってきました。

 藤原 近畿兵庫会に所属しています。私が生まれ育った小野市はそろばんを作っている町で、小さい頃からそろばんを習っていたため将来は事務員さんになると漠然と思っていて、その事務員の頂点が税理士だと勘違いしていました。4科目に受かったときに子どもができ、会計事務所に勤めながら子育てと同時に勉強していたので残り1科目がなかなか合格できませんでした。
 いくつかの会計事務所に勤めていたのですが、最後に勤めた事務所がTKC会員事務所で働いた経験のある未入会の所長で、TKCシステムを使わないで巡回監査に近いやり方をしていました。
 平成17年に合格して翌年4月に関与先ゼロで独立開業し、平成19年に入会しました。現在関与先は約90件、職員は女性が5名です。

 田代 東京の多摩地域にある立川で小さな事務所を経営しています。私は合格する2年前に結婚したのですが、合格するまでは絶対子どもは産まないと決めていて、平成10年に無事合格できました。
 そして、独立開業したばかりの事務所の職員第1号として採用されたのですが、平成12年に子どもができて、産休をくださるということでお休みしていたのですが、いざ復帰したら「小さな子どもを抱えての仕事は無理ではないですか」と言われたため「それなら自分でやってみよう!」と独立を決意しました。
 家の片隅で子どもの面倒を見ながらの開業でしたが、今では関与先30件、職員は女性が2名となりました。入会は平成15年の7月です。

 ──TKCに入会したきっかけを教えてください。

 河内 私は受験生時代からTKCに興味がありまして、官報合格したときに当時の北九州センター長が自宅に訪ねてきたので、とりあえずTKCの会計事務所に就職したいという話をしたんです。職員を募集中の事務所を紹介していただけるということでしたが、自分でもハローワークで探していたら、ちょうど面接を受けようと思った事務所がセンター長も推薦するつもりだった事務所で、とんとん拍子に就職が決まりました。
 その所長は九州の中でも創期にTKCに入会された先達の先生で、42年続くオールTKCの事務所でしたので、幸い「どのシステムがいいのか」という悩みはなかったですね。
 ニューメンバーズの期間が終わるとすぐニューメンバーズ・サービス委員会の支部副委員長になり、続けて委員長になって、その特権でニューメンバーズフォーラムにも入会当初から毎回のように参加しています。本日の司会の田口先生もフォーラムの時に遠くでお見かけするスターのような存在なので(笑)、今日は身近でお話しできて嬉しいです。

 藤原 最初は勤めていた事務所の真似をして他社パソコン会計を利用しながら巡回監査をしていました。でも「本当にこんなやり方で続くだろうか」と不安に感じていたんです。
 そして開業1年くらいのとき、税務署との意見交換会があり税務署長と直接話したのですが、その署長が「たくさんの会計事務所の法人税申告書を見てきたが、TKC会員の申告書は新しい情報を日頃からよく勉強していることが伝わってくる」とおっしゃっていたので、その場で「私、TKCに入会します!」と伝えました。

 ──思い切りがいいですね(笑)。現役の税務署長の言葉が入会のきっかけというのは初めて聞きました。

 田代 私は飛び出すように独立したものの、どうやってお客様を増やせばいいのか分からず、そんなとき当時のSCGさんにTKCに入会するきっかけを作っていただいたんです。
 何度もTKCについて説明をしていただき、事務所見学会にも誘っていただいたので、「よし、TKCについていこう」と決心して入会を決めたのです。

「ママさん事務所」をアピールしどんどん子どもを連れてきてもらう

 ──事務所経営で最も苦労していることを教えてください。

河内洋子会員

河内洋子会員

 河内 古い事務所を引き継いだので、「オールTKC」という点では良かったのですが、職員とのコミュニケーションには苦労しましたね。
 前所長時代の職員は2人しか残っていなくて、もちろん結婚や定年退職、円満退職もありますけど、私のやり方に納得できずついて来られない職員は離れていきました。特にベテランの職員は「女性の有資格者」ということで構えてしまったという面もあったのでしょう。

 藤原 最初はまったくTKCシステムが分からず苦労しました。最初に入れたシステムがDAIC2(建設業用会計情報データベース)だったくらいです(笑)。
 でもニューメンバーズ・サービス委員の先生がシステムについて詳しく教えてくれたり、ちょうど事務所セミナーが始まるシーズンだったので、自分の事務所セミナーの案内をくださったり、様々なフォローをしていただきました。

 田代 私と職員の子どもが小さいので、子どもの具合が悪くなったら事務所に連れてきて布団を敷いて面倒を見ながら仕事をしてもらうなど、最初は仕事と子育ての両立に苦労しました。
 そうしたら、担当のSCGさんが「それを徹底的にアピールしましょう!」とアドバイスしてくれたので、今では「ママさん事務所」(笑)をどんどん外にアピールして、関与先にも「子どもを連れてきてください」と話しているんです。
 ただ先月、職員が1人退職したのでその補充をしようと思っているのですが、今まで通りの「ママさん事務所」の路線でいくのか、そこから脱却し、若い男性職員を採用して事務所の雰囲気を変えた方がいいのか迷っているところです。

 ──職員さんについての話がありましたが、採用や職員教育で工夫されていることはありますか。

 河内 職員教育はTKCの巡回監査職員研修講座の試験を必ず受けてもらい、入所3年までに中級まで合格してもらいます。上級は3年では難しいですが、1科目ずつでもチャレンジしてもらっています。また朝礼でSCGさんやハウスメーカーなど外部の講師を招いて勉強会をしています。
 採用については今年ホームページをリニューアルし、応募条件などを細かく掲載したところ、意欲的な方の応募が増えました。最近驚いたのは、大手航空会社のキャビンアテンダント出身の方が応募してきたことです(笑)。明るくて営業向きだし学歴も職歴も申し分なかったのですが、事務所で実施している適性検査の結果「緻密で正確な仕事は苦手」という結果だったので、非常に迷いましたがお断りしました。

 藤原 私は会計事務所での勤務経験のない方を採用しています。というのは、記帳代行型の会計事務所をイメージされるとTKCのスタイルとギャップがあるからです。だから面接の時に巡回監査について詳しく説明するなど、業務内容を知ってもらうことを重視しています。
 もちろんTKC会計事務所の職員ということを意識してもらいたいので、採用後はTKCの研修に行ってもらったり、秋期大学などのイベントにも参加してもらい、様々な事務所の税理士や職員さんと積極的に接してもらうようにしています。

田代智子会員

田代智子会員

 田代 採用については知り合いに声をかけることが多くて、一番新しい職員も専門学校で簿記の講師をしていたときの生徒さん。講座で「実は小学1年生の子どもがいるお母さんです」と話したら、生徒が休憩時間に「私も同い年の子どもがいるんです」と話すようになり、「じゃあうちの事務所を手伝ってよ」と。
 ホームページにも採用情報を載せようと思っていたところです。いま河内先生からとても参考になるお話をお聞きしたので、当事務所でも応募条件などを掲載していきたいと思います。

ニューズレターやセミナー開催で関与先などとのつながりを保つ

 ──巡回監査で工夫している点や、苦労していることをお聞かせください。

 田代 当事務所のお客様は30代半ばから40代の若い社長が多いのですが、帳簿上の利益とキャッシュフローの違いがなかなか理解いただけなくて、資金繰りが厳しくなりがちです。
 継続MASを使って一緒に予算を作っていくところまではいいのですが、行動が伴っているかどうかを巡回監査でチェックすると、ほとんど思ったように実行していない。でもダメ出しばかりしてやる気をなくされてもいけないし、どうすれば計画通り実行していただけるのか模索しているところです。

藤原京子会員

藤原京子会員

 藤原 私は職員にも関与先にも「巡回監査が当事務所の原点」と徹底しているので、関与先にしっかり入力してもらって翌月巡回監査する流れはできています。それでも甘えが出てきて、最初は完璧に入力していてもだんだん入力を忘れていることがありますね。
 また職員が巡回監査から戻ってきたら報告をしてくれますが、その細かい記述を残していないことが多かったので、巡回監査支援システムの導入を決めました。

 河内 関与先は同じ担当者が来た方が慣れていて楽だと思いますが、当事務所の場合、前所長時代からのベテラン職員だと同じ人が20年も行っているところもあるんですね。そうするとどうしても慣れが生じるので、担当者は5年とか7年でローテーションしないといけないかなと思っています。関与先の中には「絶対嫌だ」という社長もいますが。
 でも職員が病気になるリスクなどを考えても、古くからの大事な関与先だからこそ事務所としてフォローしないといけないと考えています。私と担当者以外にも、誰でもいいので関与先を知っている人がいる状態にしておくことが大切です。

 田代 私の事務所でも十年来同じ関与先に行っている例がありますので、良い方法を模索中です。

 ──関与先拡大についてはみなさんどのようにしているのでしょうか。

 河内 拡大のルートは金融機関からの紹介とホームページが中心です。もちろんそのベースには北九州支部と地域金融機関との交流会などで支店長や行員と知り合う機会があります。
 またセミナーの講師を務めるのも効果的です。そこで知り合ってすぐに契約することはほとんどありませんが、数年経ってから、長い例だと7年前のセミナーで私を知った方が覚えてくれていて、ご連絡をいただいたことがありました。
 あとは事務所主催のセミナーを年1回は開催しています。そこでメインの講演は税務・会計とはまったく関係がないテーマにして、できるだけ多くの人に来ていただいています。例えば今年の1月に開催したときのテーマは「鬱病について」で、その時は関与先、金融機関を中心に70名くらい集まりました。
 関与先の離脱防止という面では、二代目、三代目の社長だと「先生はオヤジとは長い付き合いだけど、自分は違う税理士を捜すよ」ということがよくあるので、そうならないように後継者ともよくコミュニケーションを図っておくことは大切だと思います。

 藤原 当事務所は金融機関や保険会社の方々に来ていただける機会が多いので、その際に相談を受ける過程で、結構な数のご紹介をいただけるようになりました。
 また当事務所でも毎年セミナーを開催していて、前半は講演などで勉強していただき、後半は参加者の交流会にしています。関与先のパティシエが作ったケーキビュッフェスタイルが好評で、交流会で関与先同士の商談がまとまったり、もちろん拡大にも繋がっています。
 あとは毎月ニューズレターを送っていて、その名も「京子ちゃんの今日このごろ通信」(笑)。税務や会計といった難しいことは書いていなくて、その月の出来事を関与先や名刺交換をした方に送っています。これが意外と効果があるようで、ある関与先の社長さんは、巡回監査の時に職員が渡したところ「ラブレターをもらったみたい」と喜んでいたと。こうやってつながりを保ち続けることで離脱防止や新規関与先の紹介につながっています。

 田代 実は、私は知らない人と話すのはあまり得意じゃなくて、もちろん関与先紹介の話があればお受けするのですが、自分から積極的には拡大をしていなかったんです。でも、TKCの担当SCGの方がホームページの掲載内容の充実などを提案してくれているので、今後はホームページからの拡大にも力を入れたいと思っています。

周りに相談できる人がたくさんいる心通わせる仲間を作って

司会/田口 操委員長

司会/田口 操委員長

 ──今後の目標をお聞かせください。

 河内 昔から変わっていない目標ですが、働きがいのある楽しい職場を作っていきたいですね。人間関係がいいだけでなく、待遇なども含め職員にキャリアを形成してもらいたいし、特に女性は結婚や出産で一度離れてもまた戻ってほしい。私自身がずっとそういう職場で働きたいと思っていて、今は経営者になってそれができる立場ですから。
 私は税理士という一生やりたいと思える仕事に巡り会えて感謝しています。職員にもそういう気持ちをもって働いてもらえるように環境づくりをして「河内事務所は所長はたいしたことないけど、職員は優秀だよね」と言われるくらいになるのが理想です。

 藤原 先日事務所を新築したのですが、なぜ資産を持とうかと思ったかというと、私が関与先にいつも「ずっと存続する企業をめざしてください」と指導しているのに、自分の事務所が「藤原さんに顧問してもらっているけど、そのあとどうなるの?」と不安を抱かせてはいけないと思ったから。「100年事務所」として代々理念が受け継がれるような事務所を作りたいと思います。
 でもここまで思えるようになったのは、TKCに入会したからこそ。TKCという土台があるからこそ先を考えられるので、入会していなかったらハイツの2階で終わっていたかもしれない(笑)。

 田代 今までママさん事務所としてやってきましたが、今後は男性も採用するかもしれませんし、さらに上の事務所を目指していきたいです。
 そして、システムの導入なども積極的に提案ができるような事務所にしていきたいというのが目標です。

 ──ニューメンバーズ会員へのメッセージをお願いします。

 田代 ある関与先が中国に進出することになり、売上もいい関与先だし社長も若くて格好良いので(笑)、何とか対応したいと思いSCGさんにアドバイスを求めたら、中国税務に詳しい方を捜してもらって「○○先生に電話したら教えてくれるはずです」と話を通してくれたということがありました。
 自分だけでは絶対にできないことが、仲間の助けを借りてできるようになるのがTKCの凄さと感じています。

 藤原 私自身、TKCシステムについて何も分からなかったのですが、地域会の皆さまやSCGがフォローしてくれるなど相談できる人がたくさんいて本当に心強く安心できました。
 ニューメンバーズ会員も、心配するよりまずシステムを使ってみて、心配事はどんどん周りの方に話すといいですね。私もそうやって気付いたらちゃんとしたTKC会計人になっていました。これからはもっとTKCシステムを使いこなしていきたいと思います。

 河内 北九州支部の大御所の先生がおっしゃっていたのですが「TKC会員同士は仲間。何でも相談できるし、恥ずかしいことも話せる。それがTKCだ」と。北九州支部は他支部から来た人がびっくりするくらい仲が良いようで、先達の先生が若手会員の話も聞いて下さるし、懇親会でも率先して冗談などをおっしゃって場作りをしてくれます(笑)。
 せっかくそういう環境があるので、ぜひ心を通わせられる仲間を作ってほしいですし、私も先達会員を見習ってそのお手伝いをしたいと思います。

(構成/TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』平成24年10月号より転載)