事務所経営

「地域社会のオアシス」として事務所全員で関与先を親身にサポート

税理士法人ハートフル会計事務所ふくしま事務所
中田庄吾会員(東北会福島県支部)
中田庄吾会員

中田庄吾会員

月次巡回監査・KFS等を一体的に関与先に提供し、高い黒字決算割合を実現している税理士法人ハートフル会計事務所ふくしま事務所。「ほっと一息つけて、安心して相談してもらえる事務所でありたい」と語る中田庄吾所長(55歳)に、これまでの事務所経営における取り組みやKFS等の推進事例をお聞きした。

東日本大震災で多くの中小企業が被災
真の復興までまだまだ道は険しい

 ──東日本大震災から約3年が経過しましたが、地域の経済状況、関与先の業績はいかがですか。

 中田 事務所のある須賀川市周辺は内陸部なので津波の影響こそありませんでしたが、地震の揺れ自体が大きかったので、建物の倒壊やダム決壊による水没などで甚大な被害が出ました。
 もちろん東京電力福島第一原発の事故による風評被害もあり、その損害賠償請求手続きを支援することもこの地域の税理士の重要な役目でした。賠償金のおかげで廃業・倒産が急増するという事態は避けられましたが、本当の復興という意味ではまだまだ道は険しいでしょう。
 その一方で、建物の修復や放射性物質の除染作業等の需要増加により業績が改善している業種もあり、地域経済全体としては震災前と大きくは変わらない印象です。関与先も入れ替わりはありますが、数はこの3年間ほぼ横ばいです。

 ──税理士を目指した理由と、地元で開業するまでの道のりを教えてください。

 中田 地元といっても、実際の出身地は須賀川市から南に十数キロの石川町という小さな町です。東京の大学を卒業してから簿記専門学校に入り直して資格取得を目指し、昭和59年に合格しました。
 その年から故石川和夫先生(東京中央会)の事務所でお世話になり、一から実務を学ばせていただきました。法人、個人の申告だけでなく、資産税も得意な事務所だったので、相続税の申告や大きな譲渡案件なども手掛けられたのは本当にいい経験でした。4年間修行したあと故郷の石川町に戻って開業し、同時にTKCに入会しました。
 税理士を目指した理由ですが、よく「税金を取られる」という言い方をしますよね。でも「取られる」という感覚では経営者も辛い、だから「納得して納める」にしたい、ずっとこういう思いを抱いていました。つまり「約○○万円の利益が出るので、法人税は約○○万円になりそうです」と伝え「設備投資をすればこうした効果があるし、節税にもなります」とアドバイスをする。そこまでした上で発生した税金なら、経営者も納得して納めると思うんです。
 そのためには、会計をしっかり指導して月次の業績を把握し、正しい申告をする必要があります。TKCのビジネスモデルは、まさに自分が考えていたことを実現してくれる仕組みだったのです。

税理士法人加入翌年に大震災が発生
「助けられたのは自分だった」と痛感

 ──そうすると、TKC入会は当然の選択だったわけですね。

 中田 はい。石川先生がオールTKCでしたし他の選択肢は考えませんでした。開業後、少しずつ関与先も増えてきて「なんとかこの業界で食べていけそうかな」と思い始めた開業4年目に、須賀川市の歴史ある事務所の所長が亡くなり、後を継ぐ有資格者がいないということで、突然承継の打診を受けました。その先生はTKC会員ではなかったので迷いましたが、TKCシステム利用を条件に職員さんを含め引き継ぐことを決めました。
 その結果、それまで約30件だった関与先が100件近くになり、またスタッフも私と妻を含め3人だったのが10人になりました。職員同士はわりとすんなり馴染んだのですが、関与先は今までのやり方を変えたがらないので、システムの切り替えには時間がかかりましたね。

 ──税理士法人ハートフル会計事務所に加入した経緯をお聞かせください。

 中田 石川先生が体調を崩されたと聞いて東京の病院にお見舞いに行ったのが平成22年2月。その時石川先生はすでに税理士法人ハートフル会計事務所を設立していて、病床から「一緒にやってくれないか」と誘っていただいたんです。
 実はその3年前の平成19年に事務所創設20周年記念式典を行ったのですが、その際石川先生をお招きし、事務所を見学してもらいました。私はずっと石川先生の事務所を真似して経営してきたので、当事務所を見た石川先生に、弟子のように感じていただけたのかもしれません。
 福島・東京と離れているので正直悩みましたが、恩のある石川先生の頼みを断れるはずもありません。その年の7月に「ふくしま事務所」を開設し、その翌月に石川先生が永眠されました。
 東日本大震災の発生はその翌年でした。原発の問題もあり「もう事務所は続けられないか」と覚悟しましたが、法人化したことによる安心感が非常に大きかった。生意気にも石川先生を助けたような感覚でいましたけど「助けられたのは自分の方だった」と、つくづく感じました。

税理士法人ハートフル会計事務所 ふくしま事務所

JR須賀川駅から車で約15分の住宅地に立地する事務所。平成17年には、創意工夫をこらした
オフィスを表彰する「日経ニューオフィス賞・東北ニューオフィス奨励賞」を受賞した。

次回のアポイントを徹底することで巡回監査率を飛躍的に高めた

 ──関与先数、巡回監査率、KFSの実践状況をお聞かせください。

 中田 平成25年の実績では、関与先146件、翌月巡回監査率は99.9%、継続MASは120件、FXシリーズは107件、書面添付は103件でした。
 巡回監査率は今でこそほぼ100%になりましたが、十数年前はひどい状態でした。「第1次成功の鍵(KFS)作戦」が始まった平成11年頃から職員には毎月巡回監査に行くよう指示していたのですが、60%から70%台を推移している状態が数年続き、平成14年にとうとう頭に来て、なぜ巡回監査に行かないのか職員に強く問いただしたんです。それで分かったのは、職員が次回の巡回監査の予約を入れていないという現実でした。
 もちろん職員は関与先に来月の予定を聞くのですが、「来月は忙しい」とか「入力が終わらない」などと言われると、そのまま帰ってきてしまっていたのです。
 そこで、巡回監査時には必ず「来月は○日にお邪魔するので、その時までに帳簿関係を整備しておいてください」と強引にでも予定を入れるよう指示し、その上で本当にアポイントが取れているのか上司がチェックするようにしました。中には「毎月は来なくてもいい」という関与先もありましたが、最新の業績を知ることは経営の意思決定の面で大きなメリットであることなどを丁寧に説明することで、1件ずつクリアしてきました。
 非常に単純な話ですが「次回のアポイントの徹底」が、巡回監査率を飛躍的に高める要因になったのです。

近隣会員と自計化プロジェクトを作り3年間でシステム移行が大幅に進んだ

 ──KFSをバランスよく関与先に提供されていますね。

 中田 まず自計化ですが、平成17年頃、白河市の菊地喜隆先生と会津若松市の遠藤久先生と一緒に自計化推進プロジェクトに取り組んだことが大きかった。
 具体的には、定期的に集まってグループディスカッション等を行い、それぞれの事務所の工夫・ノウハウを共有するとともに、職員単位で推進状況を競い、成績優秀者には景品を出すというものです。他の事務所と競争することで「○○事務所の○○さんはもう担当先を制覇しそうだ」などという話が聞こえてくるし、そうすると職員も「私も頑張ろう」と非常に刺激を受けるんですね。
 約3年間取り組んで、自計化率100%とまではいきませんが、9割近くの法人関与先が自計化され、社長がタイムリーに業績把握できる環境が整いました。

 ──FX4クラウドの推進にも取り組んでいるとお聞きしました。

 中田 現在、事務所での利用を除くと、社会福祉法人で1件導入していますが、打診している関与先は数件あり、見積書を出している段階です。
 やはりわれわれが「FX2で十分」と思っていては何も始まりません。「将来を考えると、今FX4クラウドを導入すべき」と判断する目を養うことが大事ですし、そのためには職員のレベルアップも必要。今後も積極的に提案していくつもりです。

 ──継続MASについてはいかがでしょうか。

 中田 継続MASは月次監査先125件のうち120件で予算登録をしています。
 進め方としては、まず内勤職員が半期を過ぎた関与先の期末の予測数値を、一定のルールに基づき作成します。例えば、後半の売上高が対前年比と同じように推移したら期末までの累計売上高はこのくらい、あるいは限界利益率が当期前半の実績と同じなら期末の限界利益率はこのくらい、といった具合です。そして監査担当者がその資料を持って社長と面談し、「このままいけば決算はこうなりますが、社長の予測ではどうですか?」と話をするわけです。当然、大まかな予測なのでその通りにはなりませんが、そこで継続MASの「未経過月の予測条件」の5項目を質問しながら、計画を策定していきます。
 ポイントは、面談の際のたたき台となる資料を一律に作ってしまうことです。本来は関与先の状況を熟知している巡回監査担当者が作成するのがセオリーでしょうが、担当者がすべての担当関与先の予測をするのは大変なので、その負担を少しでも軽減するわけです。

KFSをバランス良く提供するにつれ関与先の黒字割合が高まった

 ──書面添付についてはいかがですか。

 中田 書面添付は毎年の積み重ねですから、きちんと巡回監査ができていれば関与先が減らない限り件数が減ることはありません。ただ実際に添付書面を作成する職員は大変なので、1件あたり数千円の手当を支給して努力に報いています。
 ただし、「とにかく書けばいい」とならないように、もし税務調査があり申告内容に間違いがあった場合のペナルティーを設け一定の歯止めをかけています。

 ──TKC全国会では、月次巡回監査、KFS等をすべて提供している関与先の割合を重視する方針を打ち出しましたが、中田先生はどうお感じになりましたか。

 中田 平成11年に「第1次成功の鍵作戦」がはじまった時「KFSをすべて提供するのが理想だけれど、現実には難しいので得意な分野から取り組めばいい」というのが当時の率直な感想でした。
 しかし、実際に推進してみると月次巡回監査ができていなければ他の数字も伸びないし、それぞれ関連していることが分かります。全部バランス良く提供しないとダメだと考え直しこれまで取り組んできたので、今回の発表を知り「まさにその通りだな」と腑に落ちましたね。

 ──そうやって総合的に支援をすることで、関与先の業績に変化はありましたか。

 中田 はい。KFS等をすべて提供する関与先が増えるにつれ、徐々に黒字決算割合も上がってきました。平成14年には約55%だったのに対し、平成25年の実績では法人税が発生した純粋な黒字企業が46%、そこに、繰越欠損控除により法人税は発生しなかったものの実質的には黒字だった企業を加えると、78%に達しました。

会務への参加が自分の成長につながり権限委譲によって職員に責任感が生まれた

 ──事務所経営において転機となった出来事はありますか。

 中田 今振り返ると、TKCの会務に参加するようになったことは大きな転機でした。入会して数年経った頃、当時の東北会の研修所長から「研修講師をしてほしい」と依頼されたのがきっかけで地域会の研修や会合に声をかけていただくようになり、その後全国会でも、TKC全国会入会セミナーの講師や全国会創業・経営革新支援委員会(当時)の副委員長などを務めることができました。
 地域会の先輩会員や全国会で活躍する会員と交流する中で税理士の社会的役割やTKC理念を改めて学べたし、特に先輩会員が親身になって後輩会員の面倒を見てくれるところは、TKCの素晴らしい伝統ですよね。こうして与えられた役割を全うするためにもがいているうち、いつの間にか自分自身が成長できたのは、お世話になった先輩会員のおかげです。
 もう一つは、平成13年にISO9001の認証を取得したことです。費用も労力も費やしましたが、事務所業務の標準化という面で大きな効果がありました。
 例えば事務所の経営計画。ISO取得以前は私一人で考え発表するだけでしたが、ISO取得後は各部署の責任者に権限を委譲し、目標設定から実行方法まで任せるようにしました。その結果、職員一人ひとりの責任感が高まり、目標や達成状況をエクセルデータで一覧管理することで設定した目標を常に意識し、目標達成のためにはどうすればいいのかを自ら考えて行動するようになりました。
 ISOは業務効率の改善や業務の見える化等によって品質を保証する取り組みですから、現場のことを一番分かっている職員が試行錯誤して仕組みを作り、それを運用するのが一番効率が良い。
 月次巡回監査やKFSも、こうした職員の精神面・知識面での成長があったからこそ推進できたのだと思っています。

ブランド力を高め「サービスが良い事務所」というイメージを定着させたい

 ──地域の景況は横ばいとのことでしたが、関与先の業績はいかがですか。

 中田 全体的には回復傾向にあり、特にここ2年は黒字関与先の合計年商が100億円を超えました。これは日頃の会計指導はもちろん、比較的規模が大きい優良関与先が増えてきたことも要因です。

 ──優良関与先拡大の主なルートは。

経営革新等支援機関認定証

制度ができた直後の平成24年11月
に経営革新等支援機関第一号認定
を取得。上はその認定証。

 中田 ほとんどが関与先からの紹介です。「類は友を呼ぶ」と言いますが、納税意識という面でも事業規模の面でも、良い企業の社長は良い企業をよくご存じですし、職員が関与先で紹介の話を聞いたときにはすぐ所長に報告する仕組みを作り、機会を逃さないようにしています。
 先日、ある関与先の社長がこんな話をしてくれました。その社長が某中小企業支援団体の担当者に「うちはハートフル会計事務所に頼んでいる」と話をしたところ、「あそこは顧問料が高いでしょ」と言われたそうです。私はそれを聞いて「高いと思われているのは良いことだ」とうれしく思いました。というのは、逆に「あの事務所は顧問料が安い」という噂がたてば、安さを目当てにした経営者しか来なくなりますよね。
 大事なのは、経営者に「顧問料が高いということは良いサービスを提供してくれるはず」と思ってもらうこと。最近契約したある関与先の社長は、紹介者である関与先社長の話だけでなく、別の当事務所の関与先にも当事務所の状況を確認してから顧問契約を結んだほどです。
 地域における事務所のブランド力を高めることで、今後優良企業からの引き合いが増えることを期待しています。
 またブランド力構築のためには、税務・会計だけでなく関与先の経営力強化の支援能力も大事です。だから経営革新等支援機関制度ができたときには真っ先に手を挙げ認定を受けましたし、関与先の経営改善計画策定支援事業にすぐに着手しました。TKC東北会福島県支部としても地域金融機関と連携し、405億円の経営改善計画策定支援スキームのパッケージ開発の協議等を行っています。

 ──金融機関との連携について、他に取り組んでいることはありますか。

 中田 不定期ですが、事務所近隣支店と合同で勉強会・情報交換会を開催したり、一定区域の支店に職員が毎月『事務所通信』『経営者の四季』(TKC出版)を届けたりするなど交流を図っています。

職員が輝いている事務所が理想
監査担当者は全員巡回監査士を目指す

 ──事務所の力を高めるには職員さんの成長が不可欠だと言われます。

 中田 職員は急に変わるわけではなく、5年、10年かけて少しずつ成長していくので、焦りは禁物です。もともと「職員が輝いている事務所にしたい」という思いで事務所づくりをしてきたし、何か問題が起こればバックアップはしますが、主人公はあくまでも巡回監査の最前線に立っている職員です。私が前面に出なくても、職員が関与先に頼りにされることが理想ですね。

 ──他に、職員さんの育成という面で工夫されていることはありますか。

 中田 毎月第3土曜日の午前中を研修の時間に充て、税制改正や企業防衛、さらにプライバシーマークの勉強など幅広く知識を吸収しています。
 因みにその日は「カレーの日」。輪番制で二人の職員に昼食のカレーを作ってもらい、みんなで食べています。やはり同じ釜の飯を食べると結束力が強まりますから。

 ──巡回監査士はいらっしゃいますか。

 中田 現在、12名の職員がいますが、そのうち巡回監査士は3名です。内勤も含め職員全員が中級試験に合格することを、さらに監査担当者は巡回監査士の資格取得を目指し勉強中です。

何でも相談してもらえるような強固な信頼関係を構築したい

 ──事務所の強みをどう捉え、今後どのような事務所にしていきたいですか。

バースデーカードとプレゼント

社長や奥様の誕生日に贈る
バースデーカードとプレゼント

 中田 実は、今回のインタビューを機に職員に当事務所の特徴を聞いてみました。特に「高い目標を設定し、それを全員で達成していく事務所」「常に全体最適を念頭に置いた組織力が特徴」などの回答がうれしかったのですが、私なりにまとめると「事務所全員で関与先をサポートするため、月次巡回監査とKFS、企業防衛を当たり前に実行している事務所」と集約できると思います。
 また関与先との心理的な距離が近いということも自慢の一つです。事務所の経営理念として「地域社会のオアシス的存在となる」を掲げていますが、この言葉には、税務会計の支援は当然として、関与先が事務所に来所した際はほっと一息ついてもらえる、そして安心して相談してもらえる、そんな事務所にしたいという思いが込められています。
 そのために、例えば関与先の社長とその配偶者、後継者とその配偶者の誕生日には必ず直筆のバースデーカードとちょっとしたプレゼントを贈ったり、また私は基本的に決算の時にしか関与先にお伺いできないので、少しでも身近に感じてもらうため、訪問前には職員が毎月の巡回監査で話してきたことをまとめた「監査日誌」を必ず1年分チェックし、社長や奥さんが最も関心をもっている話題を提供したりするよう心がけています。
 関与先をいかに大事に思っているかを行動で示すことで、顧問料の多寡などに左右されない、強固な信頼関係が構築できるのではないでしょうか。関与先に何でも相談してもらえるように、今後も職員とともに成長していきたいと思います。

税理士法人ハートフル会計事務所 ふくしま事務所の皆さん

職員の皆さんと。「皆仲が良く、笑い声の絶えない事務所です」(中田会員)

(TKC出版 村井剛大)


中田庄吾(なかだ・しょうご)会員 ◎55歳
昭和63年に税理士登録し中田会計事務所を設立、同年TKC入会。平成22年に税理士法人ハートフル会計事務所に加入、ふくしま事務所を設立。

税理士法人ハートフル会計事務所 ふくしま事務所
 住所:福島県須賀川市前田川宮の前166番地143
 電話:0248-76-5161
 関与先件数146件(法人125件、個人21件)。
 税理士1名、職員12名。

(会報『TKC』平成26年4月号より転載)