事務所経営

関与先拡大と業務品質向上を同時に推進し自計化・書面添付・電子帳簿を標準業務に

【自計化・電子帳簿推進編】髙橋会計事務所 髙橋雅人会員(TKC東・東京会)
髙橋雅人会員

髙橋雅人会員

記帳代行を引き受け大失敗したことを契機に関与先の自計化に取り組み、新規関与先には必ずTKC自計化システムを導入している髙橋雅人会員。創業経営者の紹介を受ける仕組み作りや、書面添付・電子帳簿の推進等についてお聞きした。

「TPS1000」を使いたくて入会 チェック機能があるので安心できる

 ──平成23年の開業と同時にTKCに入会されたそうですが、理由を教えてください。

 髙橋 もともと職員としてTKCの事務所で働いた経験があったので、TKCシステムにはなじみがあったこと、特に「法人決算申告システム(TPS1000)」を使いたかったというのが最大の理由です。
 当時、TKCビジネスモデルについてはあまり分かっていなかったのですが、TPS1000は他社システムよりも優れていると感じていたので、特に勧誘されたわけではなく入会しました。

 ──TPS1000のどういった点にメリットを感じていたのでしょうか。

 髙橋 やはり安心感がまったく違いました。以前勤めていた事務所では他の職員の申告書をチェックしなければならない立場だったのですが、万一私が間違いを見逃してしまった場合、他社システムではそのまま申告できてしまいます。
 しかしTPS1000なら「税法エキスパート・チェック」機能で税法上の要件チェックや関連データとの相互チェックが自動的に行われ、万一ミスがあったら画面に表示され教えてくれます。
 自分だけならともかく、今後経験の浅い職員を採用して関与先を拡大していくことを考えると、そうしたチェック機能は絶対に必要だと思ったのです。

 ──当初は会計システムとの一気通貫という点は意識されていなかったのですか。

 髙橋 そうですね。一気通貫の考え方はなんとなく知っていましたが、その意義やメリットまでは理解していませんでした。会計については複数のシステムを使っていましたし、「顧客のニーズに合わせてあらゆるシステムを使いこなせてこそプロ」という発想がありました。
 ただ、いま振り返って考えてみると、以前の事務所では決算書上の当期利益や減価償却費が別表の数字と違うといった基本的なミスが結構あり、財務システムと税務システムが連動していないリスクは当時からなんとなく感じていました。現在はTKCシステムで完全連動しているためそうしたミスは生じないですし、会計データがシームレスに電子申告までつながるので業務効率も良くなりました。

記帳代行で失敗し自計化の重要性を痛感 TKCビジネスモデル推進に転換した

 ──TKC自計化システムを推進するようになった経緯を教えてください。

 髙橋 そもそも自計化の推進を始めたのは、記帳代行を受けて大失敗したからです。年商数億円の企業から記帳代行の問い合わせがあり、当時は開業間もない頃でとにかくお客さまがほしかったので、飛びついてしまったんです。
 ところが、いざ始めてみると規模が大きいだけに仕訳の数がものすごく多く、しかも月末締めで翌月10日までに試算表を提出する契約だったので、私も職員も入力作業にかかりきりになってしまいました。関与先からの資料が届かないため概算の試算表を提出せざるを得ないなど、サービスの質がものすごく落ちてしまい、関与先拡大どころではありませんでした。
 結局その企業は倒産してしまったので顧問関係はなくなったのですが、この経験で自計化の重要性を痛感し、記帳代行は絶対に引き受けないと決めたのです。ただ最初は、市販の会計ソフトにお客さま自身で入力してもらっていました。

 ──TKC方式の自計化ではなかったのですね。

 髙橋 そうです。TKC方式にしたきっかけは、入会からしばらくして参加した「TKC全国会入会セミナー」でした。
 先ほどお話ししたように「関与先のあらゆるニーズに対応する」といえば確かにかっこいいのですが、実際のところ、結局どれも中途半端になって使いこなせていなかったのです。
 単に決算書の残高を合わせるだけならそれでいいのかもしれないですが、高付加価値事務所になるためには、関与先の利益管理や金融支援などもっと踏み込んだサービスが必要です。それならTKCビジネスモデルしかないと考えを改めたのです。
 タイミングが良かったのが、ちょうどTKCから「e21まいスター」の提供が開始されたことでした。おかげで個人事業主のシステム切り替えがとてもスムーズでした。他社システムを使い続けていたお客さまについても、平成26年に消費税率が8%になった時にシステム更新の費用がかかるので、そのタイミングでTKCシステムを提案し一気に切り替えが進みました。
 現在はほとんどのお客さまがTKC方式の自計化を導入しています。

美容機器メーカーの開業支援部門と提携し経営者を紹介してもらう仕組みを構築

 ──開業8年目で関与先が約170件まで増え、自計化率も高いですね。どのような工夫をされているのですか。

高級感のある事務所のエントランス

高級感のある事務所のエントランス。
モニターには来客者の名前も。

 髙橋 一番大きな要因は、ある美容機器メーカーと提携できたことです。ちょうどそのメーカーがヘアサロンの開業支援部門を立ち上げた時で、新規開業するヘアサロンをコンスタントにご紹介いただける仕組みができたのです。
 新規のお客さまについては、基本的にTKCシステム──ほとんどが個人事業主なので「e21まいスター」──の導入を前提にしているので、お客さまが増えたら自動的に自計化率も上がります。もちろん、既存関与先や他士業からの紹介などさまざまな業種のお客さまがいますが、現在関与先の約半分はヘアサロン関係です。

 ──どんなきっけで美容機器メーカーと提携されたのですか。

 髙橋 フランチャイズ展開や開業支援を行っている企業のホームページを調べて、提携打診のメールを送りました。その美容機器メーカーの他にも、フランチャイズのカレー屋さんやカメラ屋さん、カフェのチェーン店などにもアプローチしましたし、いくつかは役員へのプレゼンまでいきました。
 業種を特化しようと狙ったわけではなく、たまたま成功したのがその業種だったということです。

 ──創業の経営者だと経理事務に慣れていない方もいらっしゃいますか。

 髙橋 確かに皆さん経理は初心者なので、ProFITのサプライネットショップから注文ができる「業務案内パンフレット」をお見せしながら、TKCビジネスモデルの標準サービスを一通りご説明しています。具体的には、会計と給与システムはe21まいスターを利用すること、入力のやり方や書類の保存方法なども丁寧に教えること、経営計画を作ってもらうこと、決算書には添付書面を付けること──などです。

 ──初期指導のポイントは。

 髙橋 実際に店舗がオープンする前に経理を軌道に乗せることです。オープンしてからだとバタバタしてどうしても経理は後回しになるので、できればオープン1カ月前にはe21まいスターを入れて、どんどん入力していただくのです。
 オープン前なので売り上げはないですが開店準備などで費用は発生するので、たまに様子を見に行きながら、早めに入力に慣れてもらっています。

 ──書面添付についても最初にご説明しているのですね。

 髙橋 はい。書面添付については約8割のお客さまに実践しており、事務所の標準業務として定着しつつあります。職員が作った添付書面の記載事項が少ないと「『顕著な増減事項』欄にもっと詳しく記載できるはず」と書き直しを指示しているので、職員は自然に書面添付を意識した巡回監査をするようになり、レベルが上がっていると思います。
 経営計画についても、個人事業主が中心なのでそこまで複雑な計画を必要としていないケースも多いのですが、年間売上目標・利益目標は考えてもらい、できるだけ継続MASに落とし込めるようにしています。

職員採用のポイントは「コミュニケーション能力・協調性・向上心」の3つ

 ──職員さんの採用はどのようにしていますか。

職員の皆さんと

職員の皆さんと

 髙橋 基本的にはインターネットの求人広告を使っています。条件は「簿記の知識があれば望ましい」程度で、基本的に資格は不問。重視しているのはコミュニケーション能力、協調性、向上心の3つです。
 面接の際には、あえてネガティブな発言をします(笑)。例えば「未経験だと大変だよ」とか「他の職員はみんな勉強しているから、相当頑張らないと追いつけないけど、勉強を続けられる?」と質問してみて、それでも頑張る姿勢があるかどうかを見極めます。
 もう一つ決めているのは、面接は私だけでなく必ず職員にも同席してもらい、2人とも「この人は良さそうだ」と合意するのを採用の条件としていること。その職員はサービス業出身なので「お客さまへの対応力があるか」という視点で判断ができます。また、実際に教育するなど直に接するのは職員たちなので、みんなが一緒にやっていけそうなタイプかということを重視しています。

 ──入所後はどのように育成されているのですか。

 髙橋 最初の1カ月は、TKCのオンデマンド研修をひたすら視聴してもらいつつ、先輩職員の巡回監査に同行させています。慣れてきたら、将来担当してもらう関与先を決めて、徐々に現担当の先輩職員から引き継がせます。
 また、巡回監査の際は必ず「巡回監査支援システム」を使い、チェック項目に沿って監査するように指導しています。未経験者が多いため、現金・預金など単純な勘定科目はチェックできても、複雑な科目の間違いを見落としてしまわないか心配なのですが、巡回監査支援システムを使うことによってそうした見落としを防げます。
 また、毎週1回の朝礼の時に、全員の1週間分の巡回監査報告書を集めて特記事項を発表してもらいます。そうすればどの関与先でどんなことがあったのか所内で情報共有できますし、新人職員は報告書の書き方の勉強にもなり、それが添付書面作成の訓練にもつながっています。

150件超の関与先が電子帳簿を活用 TKCのメリットを再確認する機会にも

 ──電子帳簿(TKC CD‐Book)の利用を積極的に推進されているそうですが、きっかけを教えてください。

 髙橋 もともとは、帳簿の保存スペースに困っているお客さまが多かったというのが理由です。先ほど申し上げた通り創業のお客さまが多いので、最初の1、2年は紙で保存しても置き場所に困らないのですが、3年、4年経ってくると保管場所が足りなくなってきて「何年分保存しなければならないんですか」と聞かれます。それなら最初から勧めようということで、基本的に電子帳簿で保存してもらうようにしています。

 ──具体的にはどうされていますか。

 髙橋 電子帳簿保存法の適用要件である「訂正・加除履歴の確保」といった難しい話をするよりも、「帳簿の保存スペースが少なくなり、すっきりしますよ」というメリットを強調しています。もちろん、TKC自計化システムを使って毎月きちんと帳簿をつけているからこそ、電子帳簿での保存が可能であることは説明しています。
 また、電子帳簿で保存を開始する3カ月前までに「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請書」を提出する必要があるのですが、個人事業主のお客さまが多いので、その提出期限が9月末に集中してしまうという問題がありました。一度にすべて提出するのは難しいと思ったので、7月くらいには個人事業主のお客さまのリストを作って、計画的に提出しました。法人については決算月が違うので、原則的には巡回監査担当者がリストで管理しています(下記資料)。
 最初にTKC社員から電子帳簿の推進を勧められた時は、この承認申請書の作成が大変そうだったので二の足を踏んでいたのですが、ProFIT「シス研オンラインサポート」にそのまま使える資料が掲載されていて、SCGも所内研修をしてくれました。さらに、今年6月に申請書作成作業を省力化する機能を搭載した「税務届出書類等作成支援システム(e‐DMS)」が提供開始されたので、承認申請書の作成が楽になりました。現在は、個人事業主を中心に150件以上のお客さまが電子帳簿に対応しています。

資料

 ──事務所のメリットという点ではいかがですか。

 髙橋 事務所で紙に出力しファイリングする手間が省けて楽ですし、帳表出力費用も削減できます。何より、電子帳簿保存法で求められている訂正加除履歴の確保(電子帳簿保存法規則第3条①一)が、会計帳簿の信頼性を法的に担保するため、業務品質が格段に向上したと感じています。
 また、時々テレビCMなどで宣伝している廉価なクラウド会計ソフトに興味を持つお客さまがいるのですが、そうした経営者に「法令に完全準拠したTKCシステムできちんと帳簿を付けているからこそ電子で保存できるのです」と、TKC自計化システムのメリットを改めてアピールする機会にもなっています。

社長に感動を与えられれば関与先は増える 職員とともに成長していきたい

 ──今後の目標をお聞かせください。

自計化・電子帳簿推進のポイント

  • 創業経営者をコンスタントに紹介してもらう仕組みを作る
  • 新規の関与先はTKC自計化システム導入以外契約しない
  • 帳簿の保管場所の削減を切り口に電子帳簿対応を提案

 髙橋 引き続き書面添付には力を入れていきたいです。数年前に他の会計事務所から移ってこられたお客さまがいるのですが、この前、社長さんが決算書を持って金融機関に融資の相談に行ったところ、銀行の担当者から「今度の顧問税理士さんはしっかりされていますね」と言われたそうです。
「どこが良かったのですか」と聞いてみたら、どうやら書面添付の内容が詳しかったので、融資判断の参考になるということ。改めて「最近は金融機関も書面添付を見ているんだな」と感じました。
 本当にお客さまのためになり、社長に「感動」を与えられる仕事をしていれば、関与先は自然と増えていくと思っています。職員をしっかり育てながら一緒に成長していきたいですね。


髙橋雅人(たかはし・まさと)会員
髙橋会計事務所
 東京都足立区千住2-20 第3タケダビル4階

(インタビュアー:首都圏東SCGサービスセンター長 新垣全/構成:TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』平成30年12月号より転載)