事務所経営

「巡回監査士」はお客さまに寄り添い信頼されるためのスタートライン

TKC巡回監査職員研修制度 巡回監査士試験優秀者に聞く

とき:令和2年1月17日(金) ところ:リーガロイヤルホテル東京

令和元年度巡回監査士試験優秀者5名が、試験で得た知識を日頃の実務でどのように活かしているか、巡回監査での工夫などについて語り合った。中村哲郎中央研修所副所長が進行役を務めた。

出席者(敬称略・順不同)
 綱川仁美氏(高橋美由紀税理士事務所・関東信越会)
 飯塚匠真氏(税理士法人飛騨会計事務所下呂事務所・中部会)
 山村峰巨氏(税理士法人西川会計・城北東京会)
 佐藤成晃氏(ゆい税理士法人・九州会)
 髙田美絵氏(税理士法人グローリア高橋会計事務所・千葉会)

司会/中村哲郎会員(TKC全国会中央研修所副所長/企画戦略部会長)

職員座談会集合写真

左から、中村副所長、山村氏、飯塚氏、綱川氏、佐藤氏、髙田氏

入所1年目に巡回監査士補合格 巡回監査の質の向上を実感

 ──まず、自己紹介と事務所の紹介をお願いします。

山村峰巨氏

山村峰巨氏

 山村 東京都北区の税理士法人西川会計(所長:西川豪康会員)の山村です。もうすぐ入所して丸2年になります。
 事務所の経営理念は「自利利他」で、「お客さまの信頼厚いパートナーとして傍らにあり続けること」を目指しています。中途入社者、異業種からの転職者を積極的に採用しており、個性豊かな職員が集う、風通しのよい事務所です。

 飯塚 岐阜県下呂市にある税理士法人飛騨会計事務所下呂事務所(所長:古田喜久雄会員)の飯塚です。現在入所3年目です。事務所の所是は「租税正義の貫徹」で、所長は「TKCの方針に則り、スピード感を持って業務に取り組もう」といつも言っています。事務所の発展と、お客さまの幸せを常に考えているような所長です。
 所長をはじめ、巡回監査担当者、総務、パートも含めて、全員が巡回監査士または巡回監査士補資格を持っています。

 綱川 群馬県太田市から来ました高橋美由紀税理士事務所の綱川と申します。事務所は所長を含め6名。一体感のある事務所で、何か問題があれば、すぐに皆で協力して考え、調べて解決するというような雰囲気です。
 全職員が入所から3年以内に巡回監査士を取得することとなっており、今回合格できてほっとしています(笑)。私はいま入所2年目ですが、以前は通信業界という全くの異業種でしたので、税法等の知識不足を日々感じており、学習の機会を持つことができてよかったです。

佐藤成晃氏

佐藤成晃氏

 佐藤 沖縄県宜野湾市にある、ゆい税理士法人(所長:大濱剛会員)から来ました佐藤と申します。いま入所2年目ですが、大学は理工学部出身で、入所当初は税法の知識が全くない状態でした。ベテラン職員にがむしゃらについていこうという気持ちで、1年目に巡回監査士補を受験して合格すると、実務の質が大きく向上した実感があったため、巡回監査士を受験しました。
 事務所は、税理士が3名、職員が9名で、ベテランの先輩方に囲まれ恵まれた環境です。先輩に気軽に質問や相談ができるアットホームな雰囲気で、とても働きやすいです。

 髙田 千葉県千葉市の税理士法人グローリア高橋会計事務所(所長:高橋英彰会員)の髙田です。過去に税理士事務所に勤めていた経験があり、その後3年間は専業主婦でしたが、引っ越しを機に入所し、今年で丸2年になります。
 当事務所は職員が6名おり、巡回監査士が私を含めて4名、事務担当が2名です。事務所のモットーの一つが「いつも好奇心を持って、自己研鑽に努めよう!」。所長は税務や会計に関する学びはもちろん、幅広い趣味や興味を持ち、情報収集を欠かしません。私自身、学ぶことや知ることが好きなので、同じ価値観を持った尊敬できる所長や先輩たちと働けることを嬉しく感じています。

週末に3~4時間勉強時間を確保 6科目をバランスよく学習

 ──事務所のバックアップ体制や、勉強と仕事を両立させるために工夫したことなどをお聞かせください。

髙田美絵氏

髙田美絵氏

 髙田 所長の方針から、積極的にTKCの研修を受講しており、巡回監査士補・巡回監査士の集合研修にもすべて参加しました。加えて、先輩方の手厚いサポートがあり、分からないところは、詳しく教えていただきました。
 所長も先輩方も、「学んだ知識が実務に役立てば、試験の合否にはこだわらない」というスタンスですが、私以外の巡回監査担当者はすでに「士」を取得していたので、プレッシャーは感じていました(笑)。何よりも、お客さまに名刺をお渡しするときに「巡回監査士『補』」とあると、不安な思いにさせるのではないかと考えていて、何としても合格したいという気持ちがモチベーションになっていました。

 ──勉強時間の確保は大変でしたか?

 髙田 実は今日、娘が高校受験の1日目なんです。受験生の母と娘同士で、一緒に勉強に励むことができて、お互い刺激になりました(笑)。

 佐藤 私が試験に合格できたのは、先輩方の協力が非常に大きかったです。一つ一つの用語の意味は調べれば分かるものではありますが、先輩方に質問をすると、単純に意味だけでなく、関連する税法や業務に絡めて具体的に説明してくれました。そのため試験のためだけでなく、そのまま実務に直結する知識として活かせています。

綱川仁美氏

綱川仁美氏

 綱川 所長は職員の研修受講に意欲的で、さまざまな分野の研修に参加させてもらっています。巡回監査士補研修も業務時間内に受講しました。
 工夫としては、巡回監査士補の合格発表の後から、週末に3~4時間、必ず勉強時間を確保するようにしました。そのため、試験直前でも通常業務を行いつつ、焦らず試験に臨むことができました。また、6科目をバランスよく学習するために、「何時間、何を学習したか」を記録して、偏らないよう気を付けました。

 飯塚 私は試験に向けて、まずは「勉強しない日をつくらない」と決めて、実践しました。コツコツ続けるのは自分の性に合っていることもあり、負担を感じずに継続できました。
 事務所のバックアップとしては、仕事量を調整いただいたり、試験前には「今日は早く帰っていいよ」などと配慮していただけて、ありがたかったです。
 それから、巡回監査士補研修をオンデマンド研修サービスで受講させてもらいました。私たちのような地方の事務所にとって、オンデマンド研修は便利でありがたいですね。

 山村 就業時間内に巡回監査士補研修と、巡回監査士研修「巡回監査Ⅰ・Ⅱ」に参加させてもらい、しっかり知識を定着させることができました。
 私は、巡回監査士は「巡回監査を行う上で最低限の知識を身に付けるためのスタートライン」の資格であると考えていました。早くスタートラインに立って、お客さまとお会いしたいというのが試験勉強の上で大きなモチベーションになりました。加えて、とにかく試験を1回で終わらせたいという気持ちもありました(笑)。

「巡回監査士」の肩書きを得て自信を持てるようになった

 ──皆さん、資格取得への意思が明確で、積極的ですね。次に、巡回監査士試験に合格して、感じたことや変化があれば教えてください。

 山村 ようやくスタートラインに立ち、ここからだなという実感です。36時間の巡回監査士継続研修もありますし、今後学ぶべきことはますます増えていくように思います。
 試験勉強を通じて幅広い税法の知識が身に付いたことはもちろん、以前は、「勘定科目はこれでいいだろうか」ということばかり気になって、重箱の隅をつつくような視点で巡回監査を行う傾向がありましたが、今はもっと広い視野を持てるようになりました。特に、「巡回監査Ⅱ」の「実務に役立つ経営助言の基礎知識」で学んだ内容は関与先との会話の中でとても活きています。

飯塚匠真氏

飯塚匠真氏

 飯塚 関与先と話をするときに、これまでは「自分はまだ経験が浅い」と引け目を感じることもありましたが、「巡回監査士」という「士」がつく資格を取得できたことで、今までよりも自分に自信を持って話ができるようになった気がします。
 一方で、資格を持つことはお客さまからの期待値も上がるということ。巡回監査士継続研修をはじめ、継続して学び、お客さまに頼られる存在を目指したいです。

 綱川 例えば決算書の作成において、これまでは決まった通りに数値を入力して、システムが計算してくれた数値をそのまま社長に報告する──という流れ作業でしたが、知識を得てからは、数値の意味や根拠となる税法が分かっているので、実務への理解がぐっと深まりました。
 それから、巡回監査士のテキストがとても分かりやすく、試験後も事務所に一式揃えています。実務で分からないことがあると、その都度見直し、該当の頁を開いて所長に質問することもあります。今後も手元に置いて活用しようと考えています。

 佐藤 1年目の巡回監査では、仕訳を確認する、最後に残高が合っている──それだけでひとまず安心していましたが、巡回監査士補・巡回監査士の試験勉強を通じて、巡回監査の質が上がりました。
 税法の知識が身についたおかげで、以前よりは決算を見越した監査ができるようになり、見るポイントが変わりましたし、注意すべき点は先回りして関与先に聞くこともできるようになりました。
 所長への報告内容においても、最初の頃は所長が聞きたいポイントを外していたようで「何でこんなことを報告するの」と言われたこともありましたが(笑)、伝えるべき勘所が分かってきました。

 髙田 集合研修では講師が注意点や失敗例も交えて説明してくださったので、実務の際に「ここは要注意だ」と思い出し、ミス防止につながっています。
 お客さまは巡回監査士を「税務・会計のプロフェッショナル」だと思われます。今回、合格できてうれしい反面、同じ資格を持つ先輩方に追いつくには道のりはまだまだ遠いので、お客さまの期待に応えられるようにと決意を新たにしています。

職員座談会風景

経営計画で社長の意識が変化 対話することが一番大事

 ──巡回監査を行う際に特に心がけていることは何ですか。

 綱川 決算書の作成には多くの書類が必要なので、決算の1カ月前には、必要書類リストを必ずお渡しして準備をお願いするようにしています。早めに準備いただくことで、こちらもしっかり準備をした上で早期に決算監査ができます。また、そのような各関与先のスケジュールを管理するために、それぞれの年間スケジュール表を作って管理しています。
 それから、関与先と話をするときは、できるだけ数値を用いて具体的にお伝えするようにしています。日ごろから感覚的に利益を見積もりながら経営している社長に対し、1カ月の行動を具体的に数値化してお見せできるのが巡回監査です。
 例えば、社長自身は「今月は忙しかったから利益が出ている」と考えていても、実際には原価率が上がって利益が少ないということがありました。そこで、社長を交えて気づいたことを変動損益計算書を用いてご説明するようにしたところ、当初は経理の方とのやりとりがメインでしたが、次第に、同席してくださるようになり、「今月は利益率が上がったね」など、積極的に話していただけるようになりました。

 髙田 巡回監査で一番心がけているのはお客さまのお話をよく聞くということ。例えば領収書や請求書のチェックの際に、「前回はこうだから今回もこう」という判断をせず、「これは何に使ったんですか」と、できるだけ一つ一つ丁寧に、しつこいと思われるぐらい(笑)お話を伺って、確かめています。
 巡回監査報告書には、お客さまからの質問事項の記入欄がありますが、私は空欄が嫌なタイプなので(笑)、「質問はない」と言われても、その日にお伺いしたお話の中から「これに対してはどう思いますか」と問いかけ質問を作ります。次回までの宿題として、毎回何かしら新たな気付きをお客さまに提供したいという考えです。同時に、所長への「報告・連絡・相談」も細かく行うようにしています。

 ──所長としては、お客さまの考えを引き出してもらえるのはとてもありがたいことです。

 佐藤 私は、関与先と密な連携を取ることを意識しています。
 例えば、私の担当している関与先は、もともと翌月下旬頃に巡回監査を行うことが多かったのですが、それをできる限り前倒ししてもらえるよう、こまめに連絡しています。急ぎで必要な書類があれば、その目的や理由をきちんとお伝えしてお願いしています。その結果、翌月上旬に実施できる先が、半分ぐらいに増えました。前倒しで巡回監査を行うことで関与先はいち早く業績を把握できるようになり、万が一不足書類があっても余裕を持ってお願いできます。
 逆に、翌月下旬まで残ってしまう先は必要書類が多く、巡回監査にも時間がかかる先です。そのような先にも十分な時間を割けるようになり、業務効率化につながっていると感じます。

 飯塚 私も、直接お話をして密なコミュニケーションを取ることを大事にしています。理想は、社長が取引銀行から「今あなたの会社はどうですか」と聞かれたときに、「うちの会社はこうですよ」と自分の言葉で数字を語れるような状態にすることです。
 関与先の中には、仕事には熱心ですが数字にあまり興味を示さない職人気質の社長も多くいらっしゃいます。当事務所では、継続MASを使って関与先すべての経営計画を策定しております。決算が終わったら、次の巡回監査のときに、その年の計画を概算でも作成してお見せしています。一番の目的は、社長に「この計画のここを直したい」と言ってもらうこと。社長が、数字に対する興味や理解を深め、数字で自社を語れるように、本音や疑問点をしっかり伺って、きちんと応えていきたいです。

 山村 私の事務所でも、巡回監査はKFSの実践をベースに、特に力を入れているのが継続MASです。これは関与先の意識を変え、気付きにつながるものだと実感しています。
 ある関与先に、ことあるごとに経営計画を策定しご説明することを続けたところ、最初はさほど興味を持ってもらえなかった社長から、「これでは接待交際費を減らさないといけないね」と、自ら言っていただけたときはとてもうれしかったです。
 最も会社のことを理解しているのは社長ですが、私がその次の理解者として社長の考えに寄り添えるように努力しています。そのため、説明するときには専門用語などを使わずに分かりやすい表現でお伝えするなどの工夫をしています。

関与先と「実りある1年だった」と共に喜べる巡回監査士でありたい

司会/中村哲郎中央研修所副所長

司会/中村哲郎中央研修所副所長

 ──最後に、皆さんの夢、目標、これから取り組みたいことなどを語ってください。

 山村 私の目標は、税理士資格の取得です。担当しているお客さまに事業承継を控えている方が多いので、いまは相続税法を勉強しています。知識を蓄え、内容の濃い手助けができるよう取り組んでいるところです。
 当事務所では、お客さまを「5つの視点」①経営②税務会計③人事労務④リスク管理⑤財産防衛で支援しています。まだまだ自分は足りない部分だらけですので、強化して、関与先の支援に貢献していきたいと考えています。

 綱川 今回の巡回監査士の勉強を通じて、基本的な知識を得ることができました。今後はそれを実務の中で活かせるよう、経験を重ねていきたいです。
 その積み重ねで、関与先から親身な相談相手として信頼される巡回監査士になれるよう努力していきます。

 飯塚 私は、お客さまに何かあったときに「まずは飯塚に聞いてみよう」と言われるような頼れる存在になることが目標です。そのために、税務や会計の知識はもちろん、ファイナンシャル・プランナーや社会保険労務士の資格取得にもチャレンジし、幅広い知識を身に付けたいと考えています。
 今回の試験で勉強の習慣が定着したので、これを維持し、成長し続けたいです。

 佐藤 私も税理士資格の取得を目指しており、現在4科目を合格したところです。
 事務所の先輩方に質問すると、私が求める以上の詳しい内容の答えが返ってきて、「プロってこういうことだな」といつも感じています。
 所長が掲げる「お客さま第一主義」を念頭に置きながら、先輩方に追いつけるよう、巡回監査士として恥ずかしくないよう、頑張ります。

 髙田 私もお客さまを一番に考えて業務に取り組んでいきたいと思っています。経営者の皆さんは日々悩むことがたくさんあると思います。その中で、新たな挑戦をしていただけるようにするために、お客さまに寄り添い、月次巡回監査を通じたタイムリーな業績把握や資金繰りの面で少しでもサポートしていきたい。そして、決算の時期には「今期は本当に実りある1年だったね」と、共に喜べるような巡回監査士になれるよう努力してまいります。

 ──皆さまには、お客さまと同じ方向を向いて寄り添い支えられるような巡回監査士や税理士を目指し、社会に貢献していただければありがたいです。これからも頑張ってくださいね。

(構成/TKC出版 小早川万梨絵)

(会報『TKC』令和2年5月号より転載)