事務所経営

職員とともに業務品質向上に取り組み計画的な事務所の事業承継を実現

【成長する事務所の経営戦略・事務所の事業承継編】
 税理士法人シナジー 小野晃弘会員(TKC中国会)
小野晃弘会員

小野晃弘会員

TKC会員事務所で経験を積み、祖父が開業した事務所を3代目として承継した小野晃弘会員。職員を大切にする理念を受け継ぎつつ、業務品質の向上により関与先の黒字化を実現してきた小野会員に、事務所の事業承継およびTKC方式の自計化推進のポイントをお聞きした。

TKCビジネスモデルから多くを学び3代目として父の事務所に戻った

 ──小野先生は3代目とのことですが、事務所の沿革をお聞かせください。

 小野 当事務所は、祖父の小野浄(きよし)が税務署を退官した1971年に倉敷市で開業し、来年で50周年を迎えます。祖父は祖母と2人だけで経営していたそうですが、87年に父の小野眞一が承継してから関与先と職員が増えていきました。私は2010年に入所し、2017年の税理士法人化と同時に事務所を承継しました。
 現在の関与先数は法人と個人で130件、職員は10名で、次の経営理念も先代から引き継いだものです。

  • 私たちは、会計人たる本分に徹し、お客様の永続的な発展に寄与します。
  • 私たちは、健康で豊かな人生を送るため、協調性を保ち、自己研鑽に努めます。
  • 私たちは、お客様、関係先との連携を密にし、相乗効果を発揮し、真に豊かな成長と発展を通して社会に貢献します。

 ちなみに、三つ目の「相乗効果」というのが法人名「シナジー」の由来です。

 ──幼い頃から、税理士になって事務所を継ごうと考えていたのですか。

 小野 いえ、実は大学生になるまで税理士になるつもりはなく、地元大学の理系学部に進学しました。ところが講義内容にあまり興味が持てなかったため2年生の時に1年間休学し、父が税理士だからという理由で簿記の勉強を始めたのが転機となりました。意外にも簿記が楽しく自分に合っていたので、通っていた大学の経済学部に編入して経済学や会計理論を学ぶうちに、税理士になりたいという気持ちが芽生えてきたのです。
 そこで大学院に進学して在学中に3科目に合格し、2科目の科目免除も受け、25歳の卒業時には実務経験があれば税理士登録ができる状態になりました。そんな時、偶然同じ大学院で税理士を目指していた方が楢原巧先生の事務所(現税理士法人エフ・エム・エス)の職員さんだったご縁で、楢原先生の事務所で働かせていただくことになったのです。約4年間、楢原先生や現代表の宇野元浩先生には、税務・会計の実務やTKC理念など本当に多くのことを学ばせていただきました。

職員の協力を得て自計化に取り組み関与先の黒字割合が約41%から70%に

 ──実家の事務所に入所してから、どのようなことに取り組みましたか。

 小野 2010年6月の入所と同時に税理士登録をして、TKCにも入会しました。それまで父の事務所のことはあまり知らなかったのですが、当時は記帳代行の関与先も多く、TKCビジネスモデルの実践事務所で学んできた私としてはそのギャップに驚きました。高付加価値サービスを提供するには自計化が前提になると考え、後継者として関与先に挨拶に行った時にTKC方式の自計化を提案しました。

自計化推進確認書

毎年「自計化推進確認書」を使って経営者に
自計化の必要性を説明(クリックで拡大します)

 ──反応はいかがでしたか。

 小野 応じていただける関与先ばかりではありませんでした。そこで、職員の協力を得ながら事務所全体で取り組む必要があると考え、事務所のSWOT分析に基づき戦略マップを作成し、事務所の経営戦略と行動計画を立案しました。これをトップダウンではなく職員全員で行うことで「みんなで関与先を良くして、事務所も良くしよう」という共通認識を持つことができたのです。
 そして、関与先の成長発展のためにはTKCシステムのフル活用が有効であることを説明し、FX2継続MAS等の推進目標を設定したのです。推進目標の管理責任者も職員に任せました。

 ──職員さんが納得し、自ずと動いてもらうことがポイントなのですね。

 小野 突然TKC一色に染まった私が来て好き勝手なことを言い始めたので(笑)、職員も大変だったと思います。最初は意見がぶつかったこともありましたが、言葉で説明するだけでなく率先垂範を心がけました。つまり、月次決算に基づく業績管理と経営助言によって関与先の業績を改善し、その結果を職員と共有したのです。社長が来所した時にも実際に喜んでいる様子が分かりますので、このやり方は間違っていないのだと徐々に感じてもらえるようになりました。
 また「自計化推進確認書」(前頁)の活用も効果的でした。年1回の決算報告の際に自計化していない関与先に改めて自計化のメリットを説明し、その結果を記録するのです。これを毎年繰り返すうちに、例えば他社システムのリース期間が終わるタイミングで「使ってみます」と合意いただけることが増えてきました。
 こうしてTKCビジネスモデルの実践に地道に取り組んできた結果、2011年に約41%だった関与先の黒字割合が約70%(2019年)まで上がりました。

先代と話し合って承継の期限を決め計画を立てて課題を「見える化」した

 ──業務品質の向上に取り組む中で、事務所の事業承継についてはどのように考えていましたか。

 小野 TKCに入会して間もなく、地元信金主催の後継者塾の講師をさせていただくことになったのですが、講師として勉強する過程で、経営資源(ヒト・モノ・カネ)をスムーズに引き継ぐことがいかに大変であるかを痛感し、自分の事務所も早めに事業承継計画を策定して父と共有しておくべきだと感じました。
 そこで父と話し「いつまでに事務所を承継するか」という期限を、父の意思を尊重しつつ決めてもらった上で、それを自ら職員等に宣言してもらいました。
 その後「いつまでに何をすべきか」という事業承継計画を作成しました。例えば株の移転や、設備投資とそれに伴う銀行からの借り入れをどうするか、いつ職員を増やすかといったことを「見える化」したのです。もちろん計画ができて終わりではなく、年に一度は計画の進捗状況を父と共有しました。
 結局、承継したのは当初の予定から2年遅れた2017年でしたが、事務所の業務品質の向上と並行し焦らず進めたことで、円滑な承継ができたと思います。承継後も父には数件の関与先を担当してもらっており、本当に感謝しています。

 ──承継をきっかけに、それまでのやり方に慣れたベテランの職員さんが退職したという話もよくお聞きします。

 小野 当事務所の場合、私が入所して以来、方針についていけなくて辞めたり私からお願いして辞めてもらったりした職員は一人もいません。先ほどもお話ししたように、職員には、私がお客様に信頼していただいて頼りにされている姿を見てもらっているので、想いを共有できているのだと思います。
 父の代から長く働いてくれているある職員から、面談の時に「関与先の成長や発展を願う所長の想いに共感しているので、これからもついていきます」と言われた時は本当にうれしかったですね。

職員を大切にすることが関与先と事務所の成長・発展につながる

 ──これまでのお話から、職員さんを大切にしていることが伝わってきます。

 小野 私が経営者としてすべきことの一つとして「職員に夢のある仕事を与え、守り、幸せにすること」を掲げています。先代もそうでしたが、職員を大切にすることが関与先の成長・発展、ひいては事務所の成長・発展につながると考えているからです。この考えは承継の前後も変わらず引き継がれている大切な理念です。
 また私が代表に就任してから職員の成長にフォーカスし、月次巡回監査や決算業務など仕事の内容ごとに、何年後にはどのように成長しているかという「キャリアマップ」を作り、将来のビジョンを示しています。研修体制についても自主性を尊重し、行きたい研修があれば基本的に自由に受講してもらい、受講数に応じた手当を賞与時に支給しています。
 最終的には巡回監査士を目指してもらいたいと思っており、「TKCオンデマンド研修サービス見放題プラン」は非常に助かっています。残業もほとんどありませんし、昨年7月にはより働きやすい環境を整えるため事務所を新築し移転しました。最近ではコロナ禍をきっかけにテレワーク就業規則を作成して、在宅勤務なども認めるようにしました。

 ──コロナ禍において、対面しなくても金融機関に決算書等を提供できるTKCモニタリング情報サービス(MIS)の推進がますます求められます。

 小野 MISはサービス開始時からすぐに取り組みました。デメリットは何もなく使わない理由がないので「決算書を直接金融機関に持参したい」という一部の関与先を除き、全関与先が利用しています。経営者への説明の際は「TKCモニタリング情報サービスによる財務データ等提供依頼書」という書面を作り、提供する金融機関名と利用するサービス(決算書等提供サービス・月次試算表提供サービス)を確認しました。こうしたツールがあれば説明しやすいですし「この金融機関には送ってほしくなかった」という事態も避けられます。
 特に最近のコロナ禍においてMISのメリットを感じることが続いており、関与先からも「運転資金を調達したいと思ったら、MISで決算書を送っていたおかげですぐにゼロゼロ融資が実行されました」との声をいただきました。

職員の皆さんと

職員の皆さんと。前列右から3人目が先代の小野眞一会員。

経営者として方向性を示すことが大切 経験を活かし関与先の事業承継を支援したい

 ──事務所の事業承継を控えている後継者へのメッセージをお願いします。

 小野 経営者として方針を示すこと、率先垂範でお客様に喜んでもらい、支持を得ることが大切です。お客様のためであることが分かれば、職員さんも必ずついてきてくれるはずです。

 ──今後の目標をお聞かせください。

 小野 ありがたいことに、このコロナ禍の中でも金融機関からの紹介などにより関与先数は増えています。現状に満足せず常に新しいことに挑戦しながら、さらなる成長を目指します。
 これからコロナ禍で融資を受けた関与先の返済が始まりますので、その際は必ず7000プロジェクトの時のような経営改善計画の策定が必要になる企業が出てきます。そうした関与先の需要に応えるとともに、世代交代が加速する関与先に対しては、自身の事務所の事業承継の経験を活かして地に足のついた承継支援に力を入れていきたいと考えています。

(取材日:6月30日(火))


小野晃弘(おの・あきひろ)会員
税理士法人シナジー
 岡山県倉敷市黒崎5-1

(TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』令和2年8月号より転載)

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