監査法人出身会員に聞く

「お客様の一番の伴走者」として黒字関与先8割超を目指す

【成長する事務所の経営戦略・監査法人出身編】
藤井優貴公認会計士・税理士事務所 藤井優貴会員(TKC千葉会)
藤井優貴会員

藤井優貴会員

大手監査法人に勤務していた藤井優貴会員は、平成28年9月に独立開業し、現在、全ての関与先に対してTKC方式の自計化システムを導入している。モットーとする「お客様の一番の伴走者」になるために、関与先の黒字化支援に全力を注いでいる。

監査法人出身の元同僚の姿に税理士業務の醍醐味を感じて独立

 ──公認会計士になろうと思われたきっかけをお聞かせください。

 藤井 高校時代に進路について家族と話をしていたところ、祖父から「公認会計士を目指したらどうか」と助言されました。祖父は企業で監査を受ける立場にいて、日頃から公認会計士の仕事を間近で見ていたそうです。祖父の一言をきっかけに日商簿記の勉強を始めたところとても楽しくて、高校3年までに簿記2級を取得。大学4年で公認会計士試験に合格することができ、大学卒業後は大手監査法人に就職しました。
 監査法人には8年間勤め、東証一部上場企業や大手企業の子会社などの監査責任者を務めました。また、上司の推薦で管理職試験を受けて合格し、昇格もできて、充実していました。

 ──なぜ独立しようと思われたのですか。

 藤井 実は、監査法人時代の同期には、監査法人を退職し、会計事務所を事業承継し、税理士として活躍する人が何人かいました。そのうちの一人に千葉で会計事務所を承継し、TKCに入会している田中壮嗣先生がいます。田中先生は、私が退職する数年前に監査法人を退職したのですが、私の勤務時代も交流が続いていました。
 田中先生と時々会って話をすると、税理士として、経営者の身近な相談相手として企業を支援し、発展に貢献することのやりがいや、独立して会計事務所を経営することの醍醐味が伝わってきました。その仕事への姿勢から、少しずつ税理士の仕事に興味を持つようになりました。そして、せっかくの専門職の資格をもっと生かして、企業の身近な存在として支援ができる税理士の仕事に挑戦してみたいという想いが強くなりました。

 ──TKC入会のきっかけは何でしょうか。

 藤井 ある日、田中先生に私の想いを伝えると、TKCの未入会税理士向けのセミナーに誘ってくれました。そのときに、税理士として経営者に寄り添って企業を支援する仕事をしたいという私の想いとTKC全国会のビジネスモデルや理念が合致しているように感じたのです。

経営者勉強会での人脈作りなど先輩会員の助言を即実践して拡大

 ──開業にあたり不安はありませんでしたか。

 藤井 税務業務をはじめとする会計事務所業務が全般的に未経験でしたので、とても心配でした。そこはTKCという組織の良さ、強みだと思うのですが、先輩のTKC会員の皆さんからアドバイスをもらいながら一つずつ勉強していきました。特に、TKC千葉会の顧問でいらっしゃる加藤武人先生には申告書の作成から月次巡回監査の方法など事務所経営に必要なノウハウを一から教えていただきました。また、埼玉県出身で地縁がなかった私に人脈ができたのも、加藤先生のおかげです。

 ──関与先拡大への取り組みをお聞かせください。

 藤井 開業当初は様々な拡大方法を模索し、異業種交流会への参加や地元金融機関への飛び込みの挨拶、友人・知人への開業案内の配布などの営業活動を行いましたが、結果は全く出ませんでした。
 転機となったのは、TKCの会務や勉強会へ参加したことです。千葉会には「静倹の会」(静を持って身を修め、倹を持って徳を養う)という入会間もない若手会員が毎月1回有志で集まる関与先拡大をテーマにした歴史のある勉強会があります。そこでは関与先拡大の進捗状況の報告や事務所経営の悩みごとを話し合っており、先輩会員を招いて関与先拡大や事務所経営のノウハウをお話しいただく機会にも恵まれ、ここでの学びを迷わず即実践したことが関与先拡大にもつながったと思っています。

 ──具体的に何を実践されましたか。

 藤井 例えば、社長が集まる経営者団体に積極的に参加することです。先輩から「千葉県中小企業家同友会に入会するといいよ」と助言されたので、その翌日に本部を訪ね、入会したのです。
 同友会では定期的に勉強会が開催されており、勉強会後には懇親会もあったので、そちらへも欠かさず参加するようにして、メンバーの方々と交流を深めようと努めました。
 そこである社長に顔を覚えていただき、後日ご挨拶に伺ったところ、社長の知り合いの会社を紹介していただきました。その会社がはじめての関与先です。しばらくすると関与先から「うちの顧問税理士は頑張っているから」と中小企業診断士と引き合わせていただき、その方からも新規開業の法人のお客様などを数多く紹介されるようになりました。
 他にもTKCが主催する地域金融機関との交流会で支店長と親しくなり、お客様を紹介いただいたことや、監査法人時代のクライアントから顧問契約を依頼されることがあり、日ごろからご縁を大事にしています。

契約前に社長のビジョンをヒアリングし「TKC経営指標」で同業他社と比較

 ──全関与先に対してTKC方式の自計化を推進されていると伺っています。

 藤井 それも先輩会員からの「記帳代行で無闇に関与先を増やしても、いずれ苦労するので、最初から高付加価値サービスを提供する事務所を目指したほうがよい」との助言を実践してきたことにつきます。

 ──自計化推進にあたって工夫されたことはありますか。

 藤井 反省点として当初は、TKCシステムを利用するという条件さえ満たしていれば契約していました。それで関与先件数は増えていったのですが、解約になる確率も高かったですね。なぜなら、社長が望むことと事務所が提供したいサービスに乖離があったからです。
 そこで、法人・個人や会社の規模に関係なく、契約前に社長が会社を将来的にどうしたいのか、そのために会計事務所に何を求めるのかということをよくお聞きするようにしました。そのうえで、当事務所が提供するサービス内容をしっかりとご説明し、社長に十分納得していただいてから契約するように方針を変更しました。

 ──具体的にはどのような説明をされているのでしょうか。

 藤井 会社が存続・発展していくためには、経営者が自社の状況を財務データが持つ数値で把握し、打ち手を考えることを毎月繰り返し行い、黒字化を目指すことが必要だと思っています。そのために会計事務所は、経営者が打ち手を考えるための最新の数値を提供し、気付きを与える役割を担っています。
 私の場合は、初めて社長と面談する前に『TKC経営指標(BAST)』で同業他社の指標を把握しておきます。そして、面談時に該当企業のおおよその数値がわかれば、BASTの指標と比較して社長に、自社の傾向をお話ししています。すると、ほとんどの社長は、同業他社との比較により、自社の立ち位置がわかり、数値に興味を持っていただけます。
 社長に数字に興味を持っていただいたところで、当事務所では、最新業績をタイムリーに把握できる自計化システムによる経理面のサポートや月次巡回監査を基礎とした経営助言、継続MASによる予算策定などで経営面での支援ができることを説明しています。
 他社システムを利用中でも、「私の事務所ではTKCシステムでなければ支援ができない」と自信を持って説明することにより、TKCシステムへの移行を促すことができるようになっています。

 ──全関与先でTKC方式の自計化を導入されていることによるメリットには何がありますか。

 藤井 関与先の経理業務が標準化されるので、職員にとってもシステムに関する質問に的確に回答できます。また、巡回監査において、FXシリーズの最新業績確認機能などから業績の推移に問題があったときには、ドリルダウンで仕訳まで辿って原因を見つけられるようになっています。

 ──監査法人出身という強みについてはどう考えていらっしゃいますか。

 藤井 公認会計士であれば上場企業の決算スケジュールを理解しているため、これに税務の知識を加えてアドバイスをすることができれば、企業に欠かせない存在になることができるものだと思います。
 また、TKCから連結納税システム(eConsoliTax)税効果会計システム(eTaxEffect)法人電子申告システム(ASP1000R)などの導入・運用のコンサルティング依頼をお引き受けしたことがきっかけで、月次顧問の依頼につながるケースもあります。

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 ──経営環境が厳しい状況が続く中で関与先へのご支援で力を入れていることは何ですか。

 藤井 コロナ禍では、税制や補助金、融資などに関する情報が氾濫する傾向にあるため、それらを事務所がしっかりと整理して関与先に提供することが重要です。そこで、昨年の5月からこれまで提供してきた既存の『事務所通信』に加えて、事務所から最も伝えたい独自の情報をA4判1枚にまとめたレポートを毎月作成し、請求書と同封して郵送しています。

 ──どのようなテーマを発信されているのでしょう。

 藤井 当初は、緊急資金繰り支援策を中心にお伝えしました。それが一巡したので、いまはコロナ禍における環境変化への的確な対応に向けて、TKCシステムによる最新業績確認機能の使い方(例えば、①目標や前年とのズレを確認する②比率で分析する③時系列で金額の推移を見るなど)を取り上げています。これについても全関与先へのTKC方式による自計化を実践しているメリットを感じています。

関与先が何社になっても100%TKCのビジネスモデルをやり遂げたい

 ──今後の抱負をお聞かせください。

 藤井 当事務所がいま最も重視しているのは関与先の黒字化支援です。いまはまだ黒字割合は全体の6割超なのですが、これを8割にするつもりです。
 事務所の経営理念は「お客様の一番の伴走者としてお客様に寄り添い共に問題を解決しお客様を笑顔にする」であり、私は、関与先が利益を出して幸せになってもらえることにやりがいを感じています。赤字企業の社長にはよく「来期は絶対に黒字にしましょう。一緒に頑張ります!」と言っています。そういう気概を持って日頃から関与先に接することが、伴走者たる会計事務所の役割だと思います。
 そのためにも、巡回監査を基礎とするTKCビジネスモデルを徹底的に実践し、関与先が50社、100社になってもTKC方式の自計化率100%、書面添付実践率100%、黒字割合80%を目標にして事務所と関与先の発展を目指します。
 そして、将来的には今回このような記事掲載の企画を与えてくれたTKC千葉会ニューメンバーズ・サービス委員長の荒木康仁先生のように後輩会員に想いをつなげて、次の世代に還元できるようにしていきたいと思います。

(取材日:令和3年3月31日)


藤井優貴(ふじい・ゆうき)会員
藤井優貴公認会計士・税理士事務所
 千葉県千葉市中央区新町1-13 木村ビル3-A

(TKC出版 石原 学)

(会報『TKC』令和3年6月号より転載)