ゼネコン各社から厚い信頼を得ている静岡県掛川市の粂田鉄筋工業所。建設不況を乗り切るために、様々な工事に対応できる技術力を磨いてきた。働きやすい職場環境づくりにも余念がない粂田善史社長(44)に『PX2』の活用ポイントなどを聞いた。

優れた提案力武器にゼネコンの信頼を獲得

粂田鉄筋工業所:粂田社長(右)

粂田鉄筋工業所:粂田社長(右)

――鉄筋工事業を営まれていると聞いています。

粂田 大型のコンクリート建築物(商業ビル等)や構造物(橋梁、トンネル等)をつくるうえで欠かせないのが鉄筋工事です。工事の仕様にあわせて加工場で鉄筋を切断・曲げ加工などをし、それを工事現場で組み立てる仕事が主体です。
 具体的には、(1)土木工事、(2)建築工事、(3)PC工事、(4)セグメント工事の4つの仕事内容に分類することができます。土木工事については、高速道路、トンネル、水処理施設の仕事などの実績が数多くあり、建築工事に関しては学校や病院などを手がけてきました。PC工事というのは、大型橋梁工事などに採用されるプレストレストコンクリート(PC)を使用した工事のことで、通常の鉄筋コンクリート(RC)ではなく、PC鋼材を用います。そしてセグメント工事は、「コンクリート2次製品」と呼ばれるコンクリート製の部材を使った工事です。

――会社の特徴をあげるとすれば…。

粂田 手がける事業の幅が広いということがあります。土木なら土木、建築なら建築と専門特化している同業者は少なくありません。さらにPC工事やセグメント工事もできる会社となると、だいぶ限定されてくる。建設不況と呼ばれるように、ここ数年の間に公共工事の数やビル建設の数はだいぶ減少しました。そうした経営環境の中でも生き残っていくためには、様々な工事に携われる技術力や提案力といったものが必要になります。事業の幅を広げることに注力しだしたのは、そんな背景があってのことです。
 また、「安全活動」に精力的に取り組んでいるというのも、会社の特徴の一つです。工事現場、加工場での事故をなくすため、作業員一人ひとりの安全に対する感受性を高めるように努めています。「安全はすべてに優先する」というスローガンのもと、毎月、社員全員を集めてビデオや社外講師を招いての安全教育を行っています。

――公共工事と民間工事とでは、現在どちらのウェイトが大きいのでしょうか。

粂田 いまは8対2の割合で公共工事が多いです。元請となる大手もしくは中堅のゼネコンさんより県外の工事についてもお呼びがかかることから、地元の公共工事が減少傾向にあるなかでも、何とか好調な経営を維持しています。
 例えば、ある地域で行われているウォータータイトトンネル(非排水トンネル)の工事については、大手ゼネコンさんが数社に計画と見積もりを依頼され、最終的に当社が選ばれました。この工事では、地下水圧がかかることを踏まえてトンネル内面全周に厚さ2ミリの防水シートを敷設し、その内側に鉄筋を設置していきます。防水シートに穴を開けられないことから、鉄筋が自立できる何らかの工夫を考える必要がありました。その部分において、当社の提案が認められたのです。ゼネコンさんも我々に大きな期待を寄せてくれました。

――その期待に応えるために、どんな対応をとったのですか。

粂田 通常は、防水シートの内側にH鋼支保工を等間隔で建て込み、これに段取り筋を固定することで鉄筋を安定させるといった処置をします。しかし我々は、自社開発したオリジナルの連結金具や金属プレートなどを使って、H鋼支保工なしでも同様の成果を出せる手法を選択しました。そのほうが作業効率がよいうえに、材料費の大幅な節約になるからです。

――必要な金属資材を自社開発できるというのはすごいですね。

粂田 意外とそういう独創的なアイデアを考えてかたちにするのが好きなんですよ(笑)。事業の幅を広げるという経営戦略のもと、いろんな仕事をするようになっていくうちに、みんなどんどん器用になってきています。ちなみに、差し筋(建築工事等におけるコンクリートの打ち継ぎ部分)の先端を危なくないように工夫した「あんぜん君」というオリジナル製品の開発もしていて、各方面から評価を得ています。

「1人当たり人件費が高く労働分配率が低い」経営が理想

――『戦略財務情報システム(FX2)』と『PX2』を活用されていると聞いています。導入の経緯は?

粂田 名波会計事務所からの推薦がきっかけで、今から10年ほど前に導入しました。いわゆるドンブリ勘定だった経理体制を改めたいという気持ちから、よい税理士を探していたところ、商工会議所を通じて紹介してもらったのが名波税理士でした。

松浦事務部長(経理等担当) タイムカードをもとに各社員の勤怠データを『PX2』に落とし込み、毎月の給与額を計算しています。給与や賞与の支給実績データを『FX2』に仕訳連動できる機能があるのは便利ですね。

――『PX2』には給与計算の役割以外にも、経営者のための戦略情報を提供する機能(「戦略情報確認機能」)があります。その辺りについてはいかがですか。

粂田 「賃金の配分」が適正なものであるかどうかを確認する意味も含めて、労働分配率の3年間の推移を示したグラフなどは定期的にみるようにしています。

名波良明顧問税理士 自分の会社の人件費や労働分配率を、『TKC経営指標(BAST)』にもとづく同業他社の平均値と簡単に比較できるのも『PX2』の魅力です。優良企業であるほど「1人当たり人件費が高く」「労働分配率が低い」という傾向があると言えます。つまり「生産性が高い」ということです。それを目指していくうえでの貴重なデータが『PX2』から入手できます。

――社内の生産性を高めるために意識していることを教えてください。

粂田 例えば、加工場における「機械化」がそうです。ユニツイン溶接機やユニバーサルベンダーといった加工機械を導入しています。簡単に溶接できる機械があれば、それまで工事現場の社員がワイヤーで鉄筋と鉄筋をつなぎ合わせていた作業を溶接に置き換えて効率的に進めることが可能になる。そうした細かな工夫の積み上げが、組織の生産性を高めることにつながります。
 また人材のレベルアップも、社内の生産性を高めていくうえでは欠かせません。鉄筋技能士の資格取得をバックアップしたり、挨拶の徹底や毎朝の掃除を通じた社員教育に努めているのはそのため。自分が成長をしていく喜びを実感してもらい、それを仕事に対するモチベーションに変えてもらえればと願っています。

「残業時間(手当)順位」で残業が多い社員を抽出

――『PX2』には「残業時間(手当)順位」を確認できる機能もあります。残業削減という点では、どんな工夫をしていますか。

粂田 実は当社の場合、残業時間はそれほど多くはありません。屋外での工事がほとんどで、日が暮れたらその日の作業は終了といった感じなんです。
 ただ、現場での作業以外に事務仕事などがある各部門の管理者は話が少し違ってくる。事務所に戻ってから提出書類の作成などに追われることが度々あります。なので残業時間の順位を画面上に表すと、管理者たちの名前が上位にきます。慢性的に残業が多い社員については、「なぜ残業が必要なのか」「もっと効率的に仕事を回す方法はないのか」といったことを聞くようにし、もし何らかの改善策が必要であれば役割分担の仕方をもう一度見直すといったこともしています。

――会社の収益性を高めるには、人件費をはじめとした固定費を抑える一方で、変動費についても改善していく必要があります。

粂田 本来なら、材料費や外注費などが変動費の中心になるのでしょうが、当社に関しては材料になる鉄筋はゼネコンさんが用意してくれたものだし、外注に頼るケースもほとんどありません。そのため変動費についてはさほど気にしていないというのが正直なところです。ただ、収益獲得は会社にとって重要な課題なのは事実。実行予算(工事現場の予算)をオーバーした仕事にはならないように常に意識を傾け、獲得できる利益については確実に得られるように努めています。

――最後に今後の抱負を…。

粂田 事業の幅をさらに広げるように技術力の向上に一層力を入れ、仕事の受注を今まで以上に増やしていくことですね。その業績管理を『FX2』でしっかり行い、利益を確実に社内に残していくことも重要だと思っています。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社粂田鉄筋工業所
業種 鉄筋工事業
代表者 粂田善史
所在地 静岡県掛川市上西郷765-1
TEL 0537-24-3933
売上高 約8億円
社員数 35名
URL http://kumeta-tekkin.com/

CONSULTANT´S EYE
「書面添付」を8期連続で実践
監査担当 笹原富恵
名波会計事務所
静岡県掛川市塩町7-3 電話0537-22-8873
URL:http://www.nanami-kaikei.jp/pc/

 粂田鉄筋工業所さまは、前社長の粂田行夫氏によって創業され、学校やマンションなどの鉄筋工事を主に地場で展開し、順調に成長してきました。平成14年に現社長の粂田善史氏が36歳で経営承継されると、独自の製品と技術を武器にした広域の販路拡大により、さらに発展を遂げています。社長就任以来、連続黒字決算を実現しています。会社を訪問すると、加工場の作業員の方々も気持ちのよい挨拶で迎えていただけます。社員の方々の士気が高く、会社全体の元気さが伝わってきます。

 粂田社長はじめ経営陣の業績管理に対する意識は非常に高く、現場ごとの原価管理を徹底しています。また、毎年『継続MAS』で5ヵ年計画を立て、その初年度計画を短期経営計画として、月次で業績管理するPDCAサイクルが構築されています。その結果が連続黒字決算に繋がっているものと確信しています。

 『FX2』は関与当初から業績管理にお役立ていただいていますが、さらにインターネットバンキングを利用した振込業務についても活用されています。『PX2』も給与計算、電子納税の利用にとどまらず、戦略情報機能も活用され、労務管理にお役立ていただいています。また、書面添付も8期連続で実践しています。これらは『記帳適時性証明書』で裏付けられるため、取引金融機関から高い評価をいただいています。

 粂田社長は、健康管理のため半年ほど前から始められたジョギングが高じて、先日はフルマラソンを完走されてしまうほど体力、気力も充実されております。今後も強力なリーダーシップを発揮され、力強い経営をされていくものと思います。当事務所としても全力でご支援させていただきます。

掲載:『戦略経営者』2011年1月号