東日本大震災が起きて2カ月あまりが経ち、「街」は復旧・復興に向けて動き出しているが、被害を受けた中小企業に対し、どんな支援策が打ち出されているのか――。税制・雇用・資金繰りについて「専門家」に解説してもらった。

 事業の復旧に必要な設備資金や運転資金を長期・低利で借り入れたい――。被災した企業や風評被害などで事業の縮小を余儀なくされている中小企業経営者のなかには、そう思っている人も多いだろう。

 そんな経営者にぜひ目を向けてもらいたいのが、今年度の第1次補正予算の成立を受けて創設された「東日本大震災復興特別貸付」という融資制度だ。5月16日から相談の受け付けが始まり、23日から融資の実行がスタートしている。利用対象者は以下の3つだ。

(1)今回の地震・津波で直接被害を受けた中小企業と、原発事故の警戒区域等内の中小企業
(2)上記(1)の事業者等と一定以上の取引のある中小企業
(3)その他の理由により、売上等が減少している中小企業者(風評被害等による影響を含む)

 たとえば「今回の地震で、工場が津波による被害を受けた。改築等の設備資金や営業再開までの当面の運転資金を利用したい」という中小企業が(1)に該当し、東日本大震災復興特別貸付を利用できる。小規模企業であれば各融資制度ごとの限度額に6000万円を加えた額の借り入れが可能になる(国民事業)。もう少し規模が大きい中小企業については3億円だ(中小企業事業)。融資期間は、設備資金が最大20年、運転資金が最大15年である。

 また「幸いにも工場や機械に直接被害はなかったが、納入先が地震の被害を受け、代金回収の目処が立っていない。当面の運転資金を利用したい」というニーズをもつ部品製造業者などが(2)に該当する。要するに、間接被害者だ。この場合の融資限度額は(1)と同じだが、融資期間は設備資金、運転資金ともに最大15年となる。

 そして「計画停電の影響で生産ラインがストップし売り上げが減少した。資金繰り安定のため、運転資金を工面したい」という会社が当てはまるのが(3)。小規模企業の場合はセーフティネット貸付(経営環境変化資金)と合わせて4800万円まで利用可能だ。

 融資金利についても気になるところだが、(1)のケースでは基準利率(平成23年5月10日現在、融資期間5年の場合で、国民事業は2.25%、中小事業は1.75%)から0.5%の金利引き下げ措置が適用される。ただし融資後3年間については、国民事業は3000万円、中小事業は1億円まで1.4%の金利引き下げ措置が適用される。(2)と(3)に関しては図表(『戦略経営者』2011年6月号29頁)を参照してもらいたい。

罹災の証明は事後提出でもOK

 東日本大震災復興特別貸付の申し込みや相談窓口となっているのは、日本政策金融公庫をはじめとした政府系金融機関。全国にある最寄りの支店にまずは気軽に相談してみてはどうだろうか。実際の申込みにあたっては、原則決算書等の書類が必要になるほか、直接被害者、あるいは間接被害者であることを証明する罹災証明書等も必要になる。事業所の所在地を管轄する行政機関から罹災証明書等の発行を事前に受けておくとよいだろう。なお証明書のタイトルが「罹災証明」でなくても、被害を受けた事実を証明するものとして発行されたものであれば構わない。

 日本政策金融公庫・融資部の呉松敏氏は「津波の被害が大きかった地域では、行政機関が機能不全に陥っているところもあるため、罹災証明書等をもらうことが難しいかもしれません。罹災証明書等が申込時に用意できない場合は、事後提出の取り扱いについてもお気軽にご相談ください」と話す。

 日本政策金融公庫では、地震が発生した3月11日付で特別相談窓口を設置し、迅速・円滑な対応を行ってきた。5月12日までの2カ月の間にトータルで約4万1000件の相談実績があり、そのうち返済相談が約1万2000件を占めたそうだ。地域別にみると、宮城県(約1万5000件)福島県(約6000件)岩手県(約4000件)の順に多かった。

 たとえば宮城県の飲食店からは、被害の少なかった店舗で営業再開準備を進めていることから当面の運転資金の相談。福島県の食品スーパーからは、原発の避難区域に入ったこと等からほとんどの店舗が一時閉店を強いられ、それによる資金繰り悪化のため運転資金の相談があった。また、計画停電の影響から工事が思うように進まなくなった東京都内の冷房設備工事業者や、自粛ムードから客足が遠のいた同じく都内の広告代理業者などからの相談も多かったという。

 ちなみに東日本大震災復興特別貸付がスタートする前までは、災害復旧貸付やセーフティネット貸付を中心に、被災企業の資金繰り等を支援してきた。大きな災害が起きたときに発動されるのが災害復旧貸付で、すでに同制度を利用している企業に関しては、東日本大震災復興特別貸付と同じ金利引き下げ措置が、貸付当初にさかのぼって適用されることになりそうだ。

 ほかにも小規模企業が使えそうな支援策としては、「マル経融資」がある。常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業の場合は5人以下)の小規模事業者であること、商工会・商工会議所等の経営指導員による経営指導を受けていることが対象要件。融資限度額の拡充や金利引き下げ措置などが図られているので、詳しくは最寄りの商工会・商工会議所へ相談してもらいたい。

新設された信用保証制度

 5月2日に第1次補正予算が成立したことで震災の影響を受けた中小企業経営者にもう一つ朗報がある。信用保証協会が融資額の100%を保証する「東日本大震災復興緊急保証」が創設されたのだ。直接被害を受けた企業が対象の災害関係保証や、震災の被災者に限らず業況が悪化している事業者が対象のセーフティネット保証とは別に保証を受けられる。保証限度額は2億8000万円(うち無担保8000万円)。災害関係保証、セーフティネット保証と合わせて最大5億6000万円の保証となる(無担保の場合は最大1億6000万円)。

 いずれにしても政府は、東日本大震災によりダメージを被った中小企業に対し、様々な資金繰り支援を行っている。同時に、災害の影響を受けている中小企業の借入金の返済猶予やつなぎ資金の借り入れ申し込みについてできるだけ応じることや、災害のために支払いができない手形・小切手については不渡りとしないことなどを各金融機関に対して要請している。中小企業金融円滑化法が平成24年3月31日まで延長されたこともあり、各金融機関は返済条件の変更に柔軟に応じる用意があるので、資金繰りに不安を抱いている企業は遠慮なく相談するべきだ。

(本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2011年6月号