先の大震災以来、事業継続計画(BCP)への注目度が高まっている。BCPとは、突発的な災害や事故が起こっても、最低限の事業活動を継続、あるいは“目標復旧時間”以内に再開できるようにするために、事前に策定される行動計画のこと。その導入割合は、大企業では上昇曲線を描いているものの、中小企業ではいまだ1%にも満たないのでは、というのが私の実感である。

 では、なぜいま、中小企業にBCPが必要なのか。

 まず、社会的責任としての必要性。ほとんどの会社はサプライチェーンの一部としてビジネスを行っている。そのサプライチェーンを寸断することは、取引先にダメージを及ぼすことになる。つまり、社会的責任としてBCP的心構えは必要だということ。2つ目は単純な話で、準備をしておけば乗り越えられた危機なのにむざむざ会社をつぶしてしまうことは後悔を伴うし、従業員も生活の糧を失う。周辺の地域社会にとっても経済的マイナスだ。さらに3つ目は、BCPの作成・維持は、取引先をはじめ周囲から信頼される要素になるということ。災害時にも事業を継続する準備をしているところとしていないところとどちらを取引先に選ぶかは言わずもがなであろう。

まず防災対策からはじめよ

 では、中小企業はどのようにBCPをつくればよいのか。巷には数多くのテキストがあるし、NPO法人事業継続推進機構が作成している「中小企業BCPステップアップ・ガイド」(http://www.bcao.org/data/01.html)を参考にされるのもよいだろう。ただ、注意すべきなのはBCPには確定された作成法はないということ。既存のテキストが当てはまるかどうかは、経営者が自社の特徴を見極めながら判断していただきたい。

 私は、中小企業経営者にはまず防災対策からはじめることを勧めている。中小企業は防災対策すらきちんとなされているところは少ない。たとえば、避難経路の確保、緊急連絡網の整備、避難訓練の実施、災害時の社内体制の明確化などである。ドアをこじあけるためのバールや携帯食を用意したりといった細かな準備も必要。このような防災対策の基本なしに、いきなりBCPを策定しても、効果は見込めないだろう。

 防災対策がしっかり定められたら、戦略的な計画の策定に入る。

 重要な骨子だけを挙げておこう。

 まず、自社の「重要業務の選定」を行う。選定する業務は、中断した場合の、利益、売り上げ、資金繰り、あるいは取引先や社会へ迷惑をかける度合いで判断する。できれば、その業務は全体業務量の3分の1以下に絞るとよい。

 次に、「目標復旧時間」を決定する。取引先との関係と社会的影響の2つを考慮しながら、「取引先と社会から許容される」時間が判断の基準となる。つまり、取引先から見捨てられたり、社会から非難されたりしないと想定される時間だ。

 さらに、重要業務に与える被害を想定する。地震や水害によって、重要業務に必要な資源(人、建物、主要材料、部品等)にどれだけの被害が生じ、業務にどのような影響がでるのかをつかむ。それには、重要業務の流れをフロー図にまとめてみると分かりやすいかもしれない。

 そして、「継続する方法」を検討する。自前で復旧する場合には、あらかじめ拠点を分散化しておくことも必要だ。また、借りる施設を決めておいたり、アウトソーシングや業務委託という手もある。これらもあらかじめ準備しておかないと、緊急時に慌てて動いても不可能である。

 最後にそれを従業員に教育・訓練し、点検し是正することでブラッシュアップをしていく。

“代替戦略”がポイント

 今回の大震災では、津波で拠点を一瞬にして失った企業が数多くあった。なかには、BCPを策定していてもすべてのとっかかりを失ったがためにまったく役に立たなかったところもあろう。その意味で、「代替戦略」がもっとも重要な事業継続へのポイントのひとつであることがあらためて明らかになったといえる。

 まず人材の代替戦略。キーパーソンには代理をつくっておくことが求められる。前任者やOBが候補になるが、1人の社員が複数の業務を担当できるよう日頃からトレーニングしておくという手もある。また、取引先や協力会社にあらかじめ応援要因の派遣を要請しておくことも有力な手段だ。

 次に、材料、部品、サービスの代替調達先の確保。これも、調達先の分散化、あるいは緊急時にはあらかじめ優先的に回してもらうような契約を交わしておくことが必要だろう。情報通信システムの途絶リスクも、二重化などでなんらかの策を施しておくべきだし、資金繰りの面でも銀行に「緊急融資枠」をお願いしておくなどの対策が考えられる。

 それから、やはり前述したような代替拠点の確保である。代替工場とまではいかずとも生産のアウトソーシング先の確保、あるいは、会社と離れた場所にある社長の自宅を代替連絡拠点と位置づけておくだけでもかなり違ってくる。拠点の耐震構造の強化も重要な施策だろうが、視点を代替戦略に向けた方が、全般的リスク対策としては機能する可能性が高いと思う。

 さて、これら代替戦略を行う際に留意すべきなのは100%の代替を目指す必要はないこと。50%でも30%でもいいから、とりあえず事業継続を最優先する。供給を絞って優良なお客に集中すれば、何とか乗り切ることはできる。

 100%を目指して復旧時間が遅れ、取引先を逃がしてしまうのでは元も子もない。代理の人材がキーパーソンの50%の能力しかなくてもよしとするべきだし、部品供給も生産能力も同様である。

 いずれにせよ、中小企業経営者はもっと災害や事故で経営存続の道を失ってしまうリスクを「仕方がない」と諦めるのではなく、とりあえず向き合ってみて欲しい。そうすれば、中小企業でもコストをかけずに効果の上がるリスクヘッジが見えてくると確信している。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2011年11月号