今年も暑い夏がやってきた。福島第1原発事故以降、国民的テーマになっている「節電」。やや後ろ向きの雰囲気も漂うが、「コスト削減」や「地球環境保護」などとセットで考えれば気持ちも前向きになれる。というわけで、あらためて“明日からできるかんたん節電対策”を検証してみた。

夏を乗り切るかんたん節電対策

 ご承知の通り、7月からは各電力会社の節電要請がはじまる。関西電力15%、九州電力10%、四国電力7%など、いずれもシビアな数字(5月末現在)が並ぶ。逼迫の厳しい電力会社では計画停電の実施も視野に入っていると聞く。東北・東京電力管内も数値目標こそないが、電力供給逼迫の状況に変わりはない。また、東京電力では電気料金の値上げについても自由化部門ではすでに実施、規制部門においても申請されている。経営状況の厳しい中小事業者にはさらなるコストアップ圧力がのしかかってきそうだ。節電への取り組みは待ったなしの状況である。

ピーク使用電力を抑制する

 まずご認識いただきたいのは、企業(とくに「高圧受電」契約企業)にとっての最大の節電対策は、「ピーク電力の抑制」だということ。電力使用量の多い企業や団体などの場合、通常は「高圧受電」契約を選択することで、従量部分を減らし、電気料金を抑えている。高圧受電(500キロワット未満)の電力計では30分ごとの使用電力の平均値が表示され、その値の年間最大値が契約電力(定額の基本料金部分)となる。つまり、ピーク電力は水道に置き換えれば蛇口の太さ。ここを細くすれば、年間にわたって電力コストを削減することができるというわけだ。また、「低圧受電」を選択されている方は、個人を含め、契約アンペアを下げるという手法がある。たとえば、業務に支障がなければ60アンペア契約を30アンペア契約に変更すれば、基本料金は半額になる。

 次に、具体的にどう動けばいいのか。手っ取り早いのは“ピークシフト”だろう。要は昼間に行う必要性のない業務を夜に移して電力使用のかたよりをなくすということ。昨夏、当社がコンサルティングしたあるメーカーは、製造を夜間にシフトし、昼間に工場と連絡がとれなくなるほどピークシフトを徹底していた。

 とはいえ、このピークシフトを効果的なものにするには、自社が電力会社とどのような契約で、過去どれだけの電力を使用してきたかを把握することが前提である。健康診断と同じく、実情を精査し、改善点を見いださないと対策の立てようがない。まずは、過去の電気料金の計算書、請求書、検針票などの伝票類をひっくり返してその内容を確認すること。そして、電力使用料金を使用量(kWh)で割り、電力料金の単価を計算してみて欲しい。

 中小事業者の場合の標準的な電力料金単価は18円~25円/kWhである。これを大幅に上回るようなら、何らかの原因があるはずなので検証・修正するべきだろう。契約見直しの余地があるかどうかが、ここから見えてくるかもしれない。ある事業所ではこの数字が70円というところもあった。この企業では定額部分が約9割。つまり、ピークは高いがそれ以外の電力使用量が極端に少なかったのだ。気付いていないだけで、このようなムダを行っている企業は少なくないと推察される。

 さらに、料金と使用料をグラフ化し、季節変動、生産変動があるか、あるいは一年中均一か、など電力使用状況の流れを確認してみていただきたい。特徴が分かればどの部分で省エネをすればよいかが見えてくる。その際、日本商工会議所のホームページからダウンロードできる「CO2チェックシート」を活用すると便利かもしれない。

 並行して、当然のことだが、自社の設備には、どのようなものがどれくらいあるかを確認しておく。エネルギー消費の大きいものや数がたくさんあるものを把握し、省エネルギー計画の土台とするためだ。

 ちなみに、最近ではそれぞれの機器の電力量をコンピューターでモニタリングするシステムも各種メーカーから販売されている。コストとの見合いだが、メーカーや専門家に相談されてみてはいかがだろうか。

エアコンが最大のターゲット

 さらに具体的に検証してみよう。

 電気使用量の内訳は、たとえば、平均的なオフィスでは空調が48%、照明が24%、小売店・スーパーでは同じく25%、24%、飲食店では46%、29%である。製造業は業種によってさまざまだが、やはり空調と照明で60~70%を占めるところが多い。なので、とりあえずは空調と照明にターゲットを絞るべきであろう。加えて確認しておきたいのは、節電や省エネにウルトラCはないということ。地道な取り組みを継続していくことがすべてだ。

 まずは空調だが、基本中の基本は「設定温度の厳守」である。たとえばオフィスなどの壁にひっかけたリモコンの表示温度の脇に、「節電中!」という文言とともに設定温度を大書した紙をはりつける。これだけでもかなり違ってくる。さらにそこに、気温計を併置すれば、表示温度と実際の気温の差が常時確認できる。この差が大きければ空調設備の機械的不調を疑ってみるべきだ。

 次に「室外機への散水」である。

 空調の室外機は、銀色のメッシュの部分で熱交換が行われている。この部分へ散水すれば冷房の効率が上がり、性能が10%アップするという試算もある。ただ、このメッシュ部分は薄板でできており変形しやすいので注意が必要。また、室外機にツタがはっていたり、壁と接近しすぎていても、空調設備の本来の性能発揮を妨げるので、掃除や移動も検討してみてほしい。

 すでに家庭でも普及している手法だが、「扇風機やサーキュレーターを使って室内空気を動かす」ことも少なからず効果が期待できる。室内の空気が動けば温度ムラが減少し、体感温度が一定に保てるようになるからだ。夏季は直接風に当たることで体感温度が2~3度下がる。

 「間仕切り」も有効な施策である。とくに製造業などでは、広い作業場の全体を常に冷やしているところが多いが、もったいない限りだ。間仕切りをして細分化し、必要な部分だけに冷気を集中すればかなりの節電効果が期待できる。ビニールシートや厚手のカーテンを下げるだけでいいのですぐにでも実行できる。

 それから、留意すべきは「窓からの入熱」である。ペアガラス等の対策をできればいいが、設備コストがかかるため、すだれや植物による「グリーンカーテン」を利用して入熱を防ぐ対策を施すべきだろう。意外とこれができてないオフィスや工場は多い。

 さらにいえば「全熱交換機」。これは簡単に言うと自動的に換気をする装置で、実際その場所で働いていてもこの設備の存在を知らない人も多いと思う。10~20年前くらいの建物に多く設備されていて、これをONのまま放っておくと暑い(寒い)外気が自動的に入ってきてしまう。CO2濃度に注意する必要はあるが、夏季と冬季はできるだけ使用しない方が節電につながる。

照明は「間引き」「LED」がキーワード

 次に照明である。

 まず、昨年は多くの企業で実施された「間引き」。オフィスでの明るさは基本的には500ルクスあれば作業にほとんど問題は出ない。JIS規格では300ルクスという基準も示されているほどだから、これら数字をメドに照明を間引いてみてはいかがだろうか。併せて蛍光灯に反射板を取り付けて輝度を増せば、より多くの間引きができる。

 もちろんLED照明への切り替えも有効だ。ちなみに、白熱灯をLEDに変えると9割の節電効果が出るともいわれている。さらに、もし、今後、照明の更新を予定され、それが電気工事を伴うものであれば、LED照明のみならず、スイッチを増やして細かなゾーニングを行われることをお勧めする。ブラインドをうまく調整して外光を利用しながらこまめな消灯を実践すればさらに大きな節電効果が見込めるだろう。

 また、意外に電気を食うのがウオーターサーバーや温水器だ。あるウオーターサーバーでは、温水消費電力が450Wで、冷水消費電力の73Wを大きく上回る。常時ONになっている温水器はOFFにして、使用時に必要なだけ沸かすようにした方がよい。冬場の話だが、ある企業ではストーブの上にやかんを置き、それで沸かしたお湯をポットで保温していた。室内の保湿効果もあり好評だったという。

 空調や照明を含め、確実かつ手間をかけずに節電するには、コストはかかるが「デマンドコントローラー」という機械を導入してピーク電力を機械的に抑える手もある。デマンドコントローラーとは、設定の電力量を超えると負荷設備に制御をかけ(あるいは警報を鳴らし)一定の値を超えないようにする装置で、電気工事業者などが販売している。この装置を導入すれば確実にピーク電力量は減少する。ピーク電力を20キロワット程度下げることができれば、30~40万円のコストカットが可能。年間リース代をペイして余りが出る。費用対効果を考えながら導入を検討してもよいだろう。

 いずれにせよ、節電には全社を上げての取り組みが必要である。改善点を発見し修正することはもちろんだが、それ以上に重要なのが継続すること。最初は真剣に取り組んだとしても、時間が経つにつれて面倒になるのが人間のさが。そうならないためにも、「目標達成時には納涼会を開催する」などといったちょっとしたインセンティブを工夫し、楽しく継続する仕組みをみんなでつくりあげていくことがポイントになってくるだろう。

(構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2012年7月号