伊勢エビ、アワビ、トラフグなど四季を通じて海の幸に恵まれた三重県伊勢湾一帯。丸勢水産は県南の志摩市で卸売業として創業し、近年では地元でとれる海産物の地域ブランド化に力を入れている。『継続MAS』システムを活用して毎年中期経営計画を立てているという片山勝仁社長(44)に業績管理の仕組みをきいた。

食の地産地消目指し行政の施策を積極活用

丸勢水産:片山社長(前列右)

丸勢水産:片山社長(前列右)

――まず事業内容を教えて下さい。

片山 地元の安乗漁港に水揚げされた魚介類の卸売りをメーンに手がけており、売り上げ全体の約6割を占めています。加えて自社工場で加工品の製造をしているほか、直営の飲食店と物販店も運営しています。当社で取り扱っているのは天然の伊勢エビやトラフグ、サバなどです。三重県内のホテルや各地の中央卸売市場に卸していて、学校給食の食材としても使われています。中でもトラフグは「あのりふぐ」として名の知られた存在になりました。

――御社のホームページでも、あのりふぐをアピールされていますね。

片山 ええ。2003年に「志摩の国漁業組合」や宿泊施設、行政が一体となり「あのりふぐ協議会」を立ち上げ、私も一員としてブランド化に向けて取り組んできました。具体的にあのりふぐとは〈伊勢湾を含む遠州灘から熊野灘にいたる海域で捕れた700グラム以上の天然のトラフグ〉のことです。漁のシーズンは例年10月から2月までで、700グラム未満のものが捕れたときは、乱獲を防ぐために海に放流しています。今ではブランドとして認知され地産地消の仕組みができつつありますが、以前は捕れたフグのほとんどは山口県の下関に運ばれていました。というのも下関にはフグの加工を手がける業者がたくさんあるからです。安乗はトラフグの一大産地ながら、身欠き(食用の部位を取り分ける作業)までこなせる会社は数少ないのです。

――飲食店で提供している料理は?

片山 本社に隣接している「地魚三昧まるせい」の看板メニューは、てっちり(フグ鍋)と、てっさ(フグ刺し)です。自慢は鮮度と価格。目の前の安乗港で水揚げされたばかりの新鮮なフグを解毒してさばき、相場の半額以下でご提供しています。お昼の時間帯も営業していますので地元の方々だけでなく、伊勢神宮への参拝客など幅広いお客さまにご来店いただいています。

――昨年、新工場を建設されたと聞いています。

片山 会社の方向性として、水産加工品製造に力を注いでいくため、今年1月に敷地面積990平方メートルの第2工場を竣工しました。2009年に安乗の漁業者4名と連携した「あのりふぐを使用したトラフグ加工食品の開発・販売」が国の農商工連携事業に認定されました。第2工場の新設は、その事業計画の一環です。建設資金としては三重県の「緊急経済対策設備投資促進補助金制度」を活用し、顧問税理士の池田先生に事業計画の策定など申請の手続きをご支援いただきました。
 消費者の食の安心・安全に対する関心の高まりに応えるべくHACCP(ハセップ)対応工場とし、サバのみそ煮やフレーク、アジの干物といった商品を作っています。安乗港ではサバも豊富にとれるため「あのりさば」としてブランド化を目指している最中です。加工食品の一部は、昨年東京の神楽坂にオープンした直営物販店「伊勢志摩 丸勢 神楽坂」でも販売しています。

――最近の経営環境は?

片山 若い人たちの魚離れを感じますね。地元で捕れる魚に親しみを持ってもらうため、食育の取り組みに参画しています。7月には安乗小学校の調理実習で生徒さんたちにサバをおろしてもらい、安乗で捕れたサバのおいしさを味わってもらいました。
 昨年の原発事故による放射能汚染の影響で、西日本の海域でとれた魚に注目が集まっているのは確かです。しかし海外からは“日本産の魚”としてひとくくりにされてしまいます。風評被害を払拭するべく、海外での展示会に積極的に出展しており、5月末に中国・北京で開催された「第1回中国(北京)国際サービス貿易交易会」の「三重県ブース」で伊勢エビなどをPRしました。徐々に海外からオファーが入るようになり、状況は好転しつつあります。

検証を繰り返し実効ある計画に

――黒字経営のためどんな点を心がけていますか。

片山 一番は『戦略財務情報システム(FX2)』をベースにした月次の決算です。毎月開催している役員会に池田先生にも出席してもらい、最新の業績をふまえた検討会議を行っています。期首に立てた計画どおりに進んでいるか確認し、進捗が遅れている場合はリカバリーする打ち手を部門ごとに話し合います。3、4時間かかることもざらですね。

池田六太郎顧問税理士 タイムリーに業績を把握いただくため『FX2』のご利用を提案しました。今では取引のボリュームが増えたため『FX2』、『戦略販売購買情報システム(SX2)』ともにピア・ツー・ピアで分散入力していただいています。『継続MASシステム』による経営計画策定も当初よりご支援しています。

――経営計画の立て方を具体的に教えていただけますか。

片山 まず経営理念と経営方針を確認し、現状の環境分析からスタートします。『FX2』では鮮魚卸、加工品製造、飲食2店舗、物販1店舗の5部門に分けて管理しており、部門ごとに抱えている課題を洗い出し、従業員の採用計画やどの商品を重点的に押し出していくか等々、ストーリーを描きます。
 従業員とともにSWOT分析も行っています。役員が気付いていない会社の強みを社員たちは知っていますからね。単なる数字ありきの目標ではなく、根拠となる行動計画を時間をかけて練り上げていくのです。一連の経営計画の立て方の“いろは”については、坂本さんから丁寧に指導していただきました。

坂本拓真監査担当 『FX2』による月次決算が確立しているため決算期の9月には、翌期以降の計画がひと通りできあがっている体制になりました。

――計画期間は中期ですか?

片山 5カ年の中期計画を立て、毎年作り直しています。最初の1年目が計画通りに推移しなければ、自ずとそれ以降の見込みも変わってきますからね……。中期経営計画というとわりとざっくり作ってそのまま見直さない場合が多いようですが、当社では短期計画の数字を元にシビアに中期計画を作っています。

池田 金融機関で経営計画書の中身を説明する時も、社長ご自身の言葉で話していただいています。

――計画を検証する場は?

片山 さきほどお話しした役員会ですね。それと毎月初めと月中に5人の部長とともに部長会議を開いています。月初に各部署で目標を立て、中旬に進捗状況と月末までの達成見込みを確認するという流れです。目標を達成できたときは、いかに達成できたのかを部長に発表してもらい情報を共有しています。会議では部門別の予算と粗利率がわかるオリジナルのスプレッドシートを使っています。
 加工品製造と直営店経営により業域が拡大し、会社全体の状況を把握しづらくなっていました。そこで部署ごとに責任者を置き、定期的に情報が上がってくる仕組みを設けたのです。もちろん毎月の監査でも目標の達成度合いをチェックし、営業の打ち手などを話し合っています。

――会社として今が成長期ですね。

片山 県内の中小企業経営者とミッションを組んで海外の展示会に出展する際、三重県から決まって水産加工業の代表として当社にお声がけいただくようになりました。「天然のトラフグなら、あのりふぐの丸勢水産」というイメージができつつあると実感しています。

池田 社長の人間性もあると思いますが、さまざまな情報が集まってくる点が丸勢水産様の大きな強みです。これも農商工連携などの施策に前向きに取り組まれたり、日ごろから三重県内の経営者有志による勉強会で情報交換をされたりしていることの成果ではないでしょうか。

――今後の抱負をお聞かせ下さい。

片山 完成した新工場での加工品製造の受注を拡大するのが目下の目標です。そもそも会社を立ち上げたのは、学校給食で出される食材として地元・三重県産のものを使って欲しいという思いからでした。実際に徐々に海外産から変わりつつあり、この取り組みを対外的にアピールし深化させていきたいと思っています。事業規模が拡大しているので、池田先生のアドバイスをいただきながら社内組織をしっかり固め、より業績管理を充実させていきたいですね。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 丸勢水産有限会社
設立 1995年10月
所在地 三重県志摩市阿児町安乗178-3
TEL 0599-47-4134
売上高 6億円(2012年9月期見込み)
社員数 45名
URL http://www.anorifugu.co.jp/

CONSULTANT´S EYE
戦略的中期経営計画で会社をつよくする!
係長 坂本拓真
伊勢総合税理士法人
三重県伊勢市黒瀬町847番地1 TEL:0596-28-1311
URL:http://www.isesougou.com/

 丸勢水産様は今年、創業20周年を迎えられました。地元の皆さんと一体となってつくりあげた「あのりふぐ」をはじめ、伊勢エビ、アワビ、サバ、アジなど、年間を通じて豊富に水揚げされる魚介類の新たな魅力を引き出すことに力を注いでいます。

 巡回監査は2名で行っていますが、証憑書類の確認にとどまらず「なぜ予算と実績の差異が出ているのか」「なぜ行動計画通り進んでいないのか」「なぜ前月の決定事項が実行されていないのか」といった問題点について、社長および役員の方々と掘り下げて議論しています。さらに毎月の役員会には所長である池田も参加し、監査担当者とは異なる視点からアドバイスを行っています。

 近年、直営飲食店のオープンやHACCP対応の新工場建設など、新たな事業に次々と進出されていることから、毎年『継続MAS』で中期経営計画を見直して策定しており、そのつど片山社長とともに金融機関に説明にうかがっています。今日のような経営環境の急激な変化に対応するためには、しっかりとした経営戦略が不可欠であることから、当税理士法人が主催している経営者塾には役員の方々にも参加いただき、経営戦略やマーケティングに関する基礎を学んでいただいています。

 また、中期経営計画を策定する際は基本に忠実に従い、マクロ環境分析(PEST)、業界構造分析(5F)、市場分析(3C)を行い、SWOT分析としてまとめることで、丸勢水産様の競争優位性を確認しています。そしてS(セグメンテーション)、T(ターゲティング)、P(ポジショニング)を明確にし、マーケティングミックス(4P)を考えたうえで、営業・行動計画に落とし込み、数値目標を立てています。今後もいっそう成長していただくために会社の原点に立ちかえり、経営理念・ビジョンを従業員に浸透させるため、経営方針書の作成を提案しました。新年度に向けて現在、そのお手伝いをさせていただいています。

掲載:『戦略経営者』2012年9月号