中小企業にとって雌伏の時代が続いている。変化の速さについていけず、立ち往生している経営者も多いことと思う。そんななか、2013年はいったいどんな年になるのか。「日本経済」「消費トレンド」「外交・領土問題」「地震」「中小企業金融」の5つのテーマについて、それぞれ専門家に語ってもらった。

 2011年春の震災以降、実質GDP成長率は5四半期連続プラスを維持してきたが、2012年の7~9月期で▲3.5%と大幅なマイナス成長となった。同10~12月期は、中国経済の持ち直しで若干のプラスを予想する向きもあるが、日中関係の悪化の影響もあり、見方は錯綜している。いずれにせよ国内景気は、すでに後退局面に入っているといっていいだろう。

 景気後退の大きな原因のひとつは欧州債務危機による世界経済の悪化である。これで、世界的に株価が下がり、円高ドル安・ユーロ安が進み、日本経済にダメージを与えた。また、国内ではエコカー補助金の終了(2012年9月)、家電も2011年の地デジ移行で需要を3年分先食いしてしまったテレビを筆頭に伸び悩み、加えて、尖閣諸島問題で日中関係が悪化。中国での現地販売が5割減の自動車をはじめ、やはり不買運動の影響を被った流通、国内観光などにも大きな影響を与えた。

底堅いアメリカ、中国

 そうしたなか、景気低迷は2013年も続くのかが気になるところ。読み解くポイントはやはりアメリカ、欧州、中国の動向であろう。

 まず、アメリカだが、当面の危機は財政である。4年連続1兆ドルを超える財政赤字の削減策を早急に打ち出す必要がある。これが2013年にまでずれ込むとアメリカ経済の下振れ、ドル安要因になる。また、アメリカ中央銀行であるFRBが今後、いままで控えていた長期国債の購入に踏みきる追加の金融緩和策を行う可能性もあり、もしそうなれば、これも円高ドル安要因になる。しかし、このようなリスク要因はあるものの、米国経済は底堅い回復が予想される。たとえば、2012年11月の非農業部門雇用者数は5カ月連続2桁増。失業率も3カ月連続で8%を下回る水準。新車販売台数は2008年1月以来の高水準となっている。2012年通期の経済成長率は2.2%(前期1.8%)が予測され、続く2013年も1.9%と底堅く推移するだろう。

 欧州はかなり厳しい。債務危機にあるギリシャ、スペイン、イタリアなどの景気実態は極めて厳しく、たとえばギリシャは5年連続マイナス成長、スペインなどは若年層の失業率が50%を超えている。欧州中央銀行による南欧国債無制限購入策(OMT)は、現在の欧州金融市場の一応の安定を導いたものの、根本的解決策にはならない。2012年は▲0.4%、13年も▲0.1%の成長率と見ている。

 最大の頼みの綱は中国である。中国経済は2012年7~9月期の経済成長率で7四半期連続増勢鈍化、2四半期連続8%割れとなった。ここまでの減速は予想外であり、中国向けビジネスの多いアジア新興国にとってもショックである。

 こうした状況を受けて中国金融当局は2012年6、7月、2カ月間連続の利下げを実施。また、財政政策面でも、自動車・省エネ家電に対する減税・補助金政策、公共投資の拡大、中小都市での不動産市場抑制策の緩和容認などの景気対策を打ち出している。結果として、2012年10~12月期以降、成長率は緩やかな回復が見込まれる。2012年は7.8%、2013年は8.2%の成長を予想する。

 このように見ると、日本の輸出産業にとって、2013年はアメリカ、中国は底堅いが、欧州はあまり期待できないという色分けになる。対中国は日中関係悪化の収束が必須条件。ただ、中国以外のアジア新興国の成長も著しく、ここをうまく取り込めば違った景色も見えてくる。

 内需面では、期待されていた復興需要がいまひとつである。政府が2011年度に計上した復興経費14.9兆円のうち、支出されたのは54%に過ぎない。がれき処理・高台移転の遅れ、復興計画策定の遅れ、資材・建設労働者の不足などがその原因である。また、本来使われるべきところに使われない、いわゆる「流用問題」も顕在化し、これも「期待はずれ」の一因となったようだ。

 しかし、逆にいうと、2012年は不本意だったが、その分13年以降にお金が回ってくるともいえるわけで、その意味では今後のプラス材料といえるのかもしれない。

 いずれにせよ、概観してみると2013年の日本経済は個人消費が底堅く、輸出も回復に向かうことで1.3%の成長率は確保できそうだ。

産業構造の大転換が必要

 懸案のデフレ克服は前途多難である。為替相場は当面は円安基調が続くと思われるが、最近(取材時11月30日)の動きは基本的には投機筋によるもの。新政権が、デフレ・円高対策を本格的に実施した場合、もう一段の円安も考えられるが、日米あるいは日独の金利差が変わらない限りいずれ元に戻るだろう。円ドル相場はほとんどアメリカの経済や金融・為替政策で決まるので、オバマ政権が輸出拡大を重要テーマに掲げている限り、2013年も円高ドル安圧力は続く。

 日銀によるさらなる金融緩和が行われたとしても、デフレ克服にまでは至りそうもない。日銀はこれまでもゼロ金利政策と包括金融緩和を拡大し続けており、いまや国債などの資産買い入れ基金は91兆円という規模に上る。これだけやっても効かないのは、いくらお金の量を市場に出しても借りてくれる企業がいないから。お金が貸し出しに回らない限りデフレは解消できない。

 いま必要なのは金融政策よりも産業政策、つまり国内に新しいマーケットをつくることである。再生可能エネルギーもそうだが、医療、介護、保育、教育などで有望分野はいくらでもある。そこに集中的かつ公平に補助金をつけたり優遇措置を行うとともに民間企業の参入・競争を促進していく。職業訓練などによる人材の流動化対策も必要だろう。このようなダイナミックな産業構造の転換を新政権には期待したい。

プロフィール
ゆもと・けんじ 1957年福井県生まれ。京都大学経済学部卒業後、住友銀行入行。1992年に日本総合研究所調査部主任研究員に。その後、経済戦略会議(故小渕恵三首相の諮問機関)事務局主任調査官、内閣大臣官房審議官などを歴任。2009年、日本総研理事、2012年同副理事長。『スウェーデン・パラドックス』『北欧モデル 何が政策イノベーションを生み出すのか』(日本経済新聞出版社)など著書多数。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2013年1月号