中小企業の再生を支援するために借入金の返済猶予を認める「中小企業金融円滑化法」が今年3月末でいよいよ期限切れとなる。それに伴い、倒産する企業が増えると予想されている。取引先が倒産する事態を想定して「与信管理」に力を入れておくことは、ますます重要な経営課題になりつつある。

 2013年3月末、中小企業金融円滑化法(以下、円滑化法)がいよいよ終わりを迎える。リーマン・ショック後の景気後退を受け、中小企業の大量倒産を抑制するために09年12月に施行された時限立法だ。中小企業などの借り手から返済猶予などを要請された場合、金融機関に貸し付け条件の変更に応じるよう努力義務を課したこの法律。2回の延長措置を経て、今年3月末に終了することが決まっている。

 円滑化法に基づく条件緩和を受けた企業は推定30~40万社。国内企業(全国約420万社)のうち、おおよそ10社に1社が利用した勘定だ。結果として企業の倒産を抑制する効果をあげた。

 なかには返済猶予を認めてもらっている間に経営改善を実施し、再生に向けて一歩一歩前進している企業もある。推定30~40万社のうちの上位2割については、このまま再生に向かうのではないだろうか。逆に、経営改善が思うように進んでいない底辺の5万~6万社については、金融機関が円滑化法の終了によって支援を打ち切れば、いつ倒産や廃業に追い込まれても不思議ではない。最悪のケースとして危惧されるのは、これら底辺の5万~6万社が一気にばたばたと倒産に追い込まれることだ。

 ただ、金融機関が4月から手のひらを返したかのように支援を打ち切るのは考えにくい。昨年11月、金融担当大臣が「金融検査・監督の目線やスタンスは、円滑化法の期限到来後も変わらない」といった内容の大臣談話を発表したこともあるし、一気に倒産件数が増えたのでは金融機関自身がもたないからだ。

 とはいえ、金融機関がこの先倒産が増えることに備えて準備を進めているのは確かである。12年3月期決算で不良債権に備えた「リスク債権」のうち、円滑化法によって抑制されていた「条件緩和債権」が大手行で前期比4.4%増、地銀で同22.3%増、第二地銀で同19.2%増と大幅に増加していることからもそれがわかる。業績が一向に改善しなかったり、実抜計画(経営改善計画)の策定さえもできない企業に対しては、新規貸し出しや借り換えを拒否する、返済猶予に応じない、等のかたちで継続的な支援を打ち切っていく可能性がある。つまり、円滑化法利用企業のうち底辺の5~6万社が一気に倒産することはないにしろ、そのうちの半分ぐらいが緩やかに倒産していくことは十分に考えられるのだ。

「金利」を知るのが有効

 円滑化法にもとづく貸し出し条件の変更期間は、6カ月間の猶予が一般的とみられている。それを考慮すると、政策や景気動向などにもよるが、今年の夏ごろから企業倒産の動きに変化が生じてくるのではないだろうか。場合によっては、自社の取引先の中にも倒産に見舞われるところが出てくるかもしれない。そうした事態を想定して、今まで以上に力をいれておくべきなのが「与信管理」である。連鎖倒産から自分の会社を守るためには、それが絶対に必要である。

 現在の状況下で、与信管理を行うにあたり注意すべきことがある。円滑化法によって、よい会社と悪い会社を見極める従来のセオリーが必ずしも当てはまらないケースが出てきているからである。

 たとえば以前なら、借入金が増えるのは一般的に悪いこととされてきた。経営状態が悪化しているから借り入れが増えていると判断していたわけである。ところが、円滑化法終了で倒産するかもしれない会社であるかどうかの視点でみた場合、むしろよい会社ともみなせるのだ。ニューマネーを入れることができているのは、金融機関から信用されている証拠。少なくとも、円滑化法がなくなった途端にコケるような会社ではないと判断できるわけだ。

 また、直近の売り上げや利益が減っているからといって、経営状態が悪化した会社とすぐに判断してしまうことも問題ありだ。不採算事業を切り捨てたことで一時的に業績が下がったなどの合理的な理由があれば、翌期以降に改善の見通しがある会社といえる。要するに、数字の表ヅラを見ているだけでは、正確な判断はできないのである。

 ご存じのとおり与信管理の手法は、「定量分析」と「定性分析」に大きく分けられる。定量分析とは、決算書などの財務内容から企業を見ること。一方、定性分析とは、経営者の能力や技術開発力、商品の市場性など、数値化しにくいさまざまな要因から企業を見ていくことだ。単に決算書の数字だけを見ているだけでは、その会社が健全なのか危ないのかを判断しにくい今の状況下では、定量と定性の両面からバランスよく見ていくことが従来に増して求められているといえよう。

 ここで一つ、危ない会社かどうかを見極める、とっておきのテクニックを紹介しよう。それはズバリ、その会社の「(借入)金利」を知ることだ。借り入れ金額が変わっていないのに、金利だけが上がっていたとしたら要注意。この場合、主に2つのケースが想定される。ひとつは、金融機関の債務者区分が下がったケース。もうひとつは、マチ金融などの高利貸しに手を出したケースだ。どちらにしてもあまりよい状況ではない。

 ちなみに金利は、決算書の借入金残高(B/S)と支払利息(P/L)でおおよその数字がわかる。あるいは決算書をもとにこそこそ計算しなくても、単刀直入に聞いてしまうのも一つの手だ。そこで言葉を濁すようなら「ちょっと怪しい」と推察し、詳しく調べてみればいい。正確な金利をつかむことができれば、与信管理のおよそ3分の1はクリアできたと言ってもいいほどである。ぜひ重要チェック項目として覚えておいてほしい。

こまめに取引先に足を運ぶべき

 さて、倒産シグナルをつかむためには、営業マンが取引先の会社に定期的に足を運ぶことも大切な要素となる。こまめに訪問していれば、「従業員が最近少なくなってきている」「返品の段ボールが山積みになっている」など、いろいろな情報が入手できる。さらに経営者の「人となり」をつかむためにも、最低でも一度くらいは会っておいた方がいいだろう。いざというときに他人をだます人間であるかどうかを見極めるうえでも大切なことだ。

 また、社内のリスクマネジメントの一貫として、「商品売買基本契約書」の重要性を営業マンにきちんと教え、新規に取引を始める際には必ず契約書を交わすようにすることも必要だ。そこに、代金支払いの遅延が発生した際には商品の出荷を止めるなどの条項を盛り込んでおくのである。契約書を作っておくことは、不測の事態に「法的な守り」が得られることに加えて、実は担当営業マンを守るという側面からも必要になってくる。万が一、売掛金が焦げ付いたとしても、それが契約書にのっとったルールのもとに行われた取引であるなら、その営業マンだけの責任とはならずに済み、本人が責任を感じて仕事に対するモチベーションを下げることを避けられる。そのためにも、契約書を作っておくことは大事なのだ。

 このほか、取引先の入金遅れに気付いた経理担当者が速やかにその事実を営業マンに伝えるといった「情報共有」の仕組み作りや、取引先が倒産し売掛債権の回収が難しくなった際に最高8000万円、あるいは回収困難になった売掛債権の額の融資が受けられる「倒産防止共済」に加入しておくなどの対策にもできるだけ目を向けてほしい。

 ここ3年間は、円滑化法のおかげで倒産件数が抑えられていたことから、与信管理が多少甘くてもどうにかなった。しかし今後は違う。円滑化法の終了後に浮き足立っても間に合わない。今のうちから与信管理への意識を高めておくことをお勧めしたい。

(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2013年2月号