あえて常識外の戦略をとることで、ライバルとの差別化を果たしている中小企業がある。その根底にあるのは、いわば「逆張り」の発想。もちろんリスクは高いが、それを恐れない勇気があれば予想以上のリターンを手にすることもできる。

 1年を通して冷蔵庫がもっとも売れない時期は冬場の1、2月。家電業界のなかでは常識だ。だが、東京都町田市に店舗を置くわれわれ「でんかのヤマグチ」では、30年以上にわたり毎年この時期に冷蔵庫の販促キャンペーンを実施している。なぜ、常識とはまるで逆のことをあえてやっているのか。それは、冷蔵庫が売れない時期だからこそ、在庫を減らしたいメーカー側の協力を得やすく、安く仕入れることができるからだ。

 そもそも冬場に冷蔵庫が売れないのは、コンプレッサーがフル回転する夏場に比べて壊れる確率が少ないことなどが理由として挙げられるが、いずれにしても冷蔵庫が売れない時期にあえて販促を仕掛けるという「逆張り」の戦略によって、ふだんの月よりたくさんの冷蔵庫を販売しているのは確か。通常月は30~40台前後なのに、冬場の2カ月間で150~200台を毎年コンスタントに売り上げている。

 断っておくが、キャンペーン中はいつもより安い価格設定にしているとはいえ、それでも大手家電量販店と比べたら数段高い。だけど価格が高い代わりに、商品を買ってもらった後のアフターサービスは徹底している。冷蔵庫が故障したとの連絡を受ければ、「即日対応」で飛んで行く。運悪く、故障修理を担当するサービスマンが全員出払っていても、とりあえず営業マンが氷袋を2~3個かかえて駆け付けたり、代替品をもって訪問する。こうしたきめ細かいサービスは量販店が苦手とするところだろう。

 このほか会員になってくれている得意客に関しては、電球や乾電池1個からの配送にも応じるし、マニュアルを読むだけではなかなか覚えられないデジタル家電の操作法を何回でも懇切丁寧に説明する。さらに“裏サービス”と称して、留守中の犬の餌やり、スーパーへの買い物、洗濯物の取り込み、植木の水やり……等々を喜んで引き受けさせてもらうこともある。

 当店のお客さまには年配者が多いこともあり、こうした「かゆいところに手が届くサービス」は非常に喜ばれる。商品価格が少しぐらい高くても買ってくれるワケはまさにここにあるのだ。だから必然的に「粗利益率」は高くなる。通常、まちの電気屋の粗利益率は25~33%、大手量販店については20%前後とされるが、うちの粗利益率は38%を超えている。

生き残りのための「逆張り」

 デフレの時代、少しでも商品価格を安くすることはライバル店に勝つための大きなアドバンテージとなる。「他店より1円でも安く」をうたい文句に価格競争にしのぎを削っているところが多いのはそのためだ。しかし私たちが一貫して取り組んできたのは、それとは正反対のいわば“高売り”の戦略である。つまり、「他店より高くても買ってもらう」ための戦略だ。これもまさしく「逆張り」の発想と呼べるだろう。

 今から16年前、ヤマダ、コジマ、ヨドバシカメラなどの量販店がこぞって近隣に進出してきた。量販店の強みには、価格の安さ、店内の大きさ、駐車場の広さ、豊富な品ぞろえなどがある。それに真っ向勝負を挑んだところで、小さな家電店に勝ち目などない。経営の危機を前にして私が選んだのは、「高くてもしょうがない」とお客さまに感じてもらえるだけの充実したサービスを提供することで粗利益率を高めていく戦略だった。量販店の進出によってたとえ売り上げが数十%単位で減少したとしても、利益を増やせれば、何とか生き残っていけるのではないかと考えたわけだ。

 その実現に向けた具体策の一つが、3万4000件あった顧客世帯リストをおよそ3分の1に絞り込む作業だった。「4~5年間、購入実績のなかった人」や「よく買ってくれるけれど値切る人」を顧客リストから抹消したりしながら、1万3000件にまで絞り込んだ。さらにその顧客リストを「今までの購入金額」と「最後に購入してからの年数」をもとに9カテゴリー(A1~C3)に分類。「今までの購入金額が合計100万円以上」かつ「最後に購入して1年以内」のお客さまをもっともグレードの高い「A1」の優良顧客とし、それらのランクに基づきながら、重要度の高いお客さまにより密接なサービスを提供していく営業体制にあらためた。

 またそれ以外にも、月次決算から「日次決算」に変えたり、売上計画を作るのをやめて「利益計画」にしたり、月末に集金したり回収したりする無駄を減らすために「売り掛け販売」をやめるなど、いろいろな改革を行った。

 それらが功を奏し、粗利益率は見違えるように上昇していった。当初25~26%だった粗利益率が8年後には35%を超えるまでになり、少々のことではびくともしない筋肉質の会社に生まれ変わることができた。一番多いときで6店舗あった近隣の量販店は、その後、撤退が相次ぎ、現在3店舗。一方で当社といえば戦略の見直しをしてからの15年間、一度たりとも赤字を出していない。

 量販店とは同じ土俵で勝負してはいけないというのが、地域店であるわれわれのポリシー。その戦略がたとえ世間一般の常識から外れたものであったとしても、それこそが中小企業が本来選ぶべき道ということは往々にしてある。

プロフィール
やまぐち・つとむ 1942年東京生まれ。松下通信工業(現パナソニック)を辞職し、65年に東京・町田市で「でんかのヤマグチ」を始める。お店は町田街道沿いにある1店舗のみ。「遠くの親戚より近くのヤマグチ」と言われ、地元に愛される店づくりを実践し、高収益を生み出している。

(取材協力・大槻一夫税理士事務所/構成・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2013年3月号