いわゆるアベノミクス効果を背景に、今春闘では大企業が一時金の満額回答を出しましたが、当社も昨年に比べて夏季賞与の増額を考えています。中小企業の相場を教えてください。(自動車関連部品製造業)

 賞与・一時金は企業業績動向の影響を色濃く受けます。そこで、財務省「法人企業統計調査」をみてみると、昨年10~12月期の経常利益は、全規模・全産業ベースで前年同期比+7.9%と、前の期の+6.3%から回復傾向にあります。昨年後半は海外景気が下振れするなか、エコカー補助金の期限切れにより、影響の大きい自動車の減産が行われたこともあり、後退局面にありました。そうしたなか売上高は前年割れとなりましたが、企業は負債の削減や人件費をはじめとしてコスト削減に取り組み、増益を確保した形です。

 もっとも、企業規模別ではバラつきが大きく、資本金10億円以上の大企業では+19.6%のふた桁増益となる一方、資本金が1,000万円から1億円の中小企業では▲5.4%の減益となりました。減収幅が大企業の▲6.7%に対し、中小企業では▲8.4%と、交渉力の違いを反映した形です。

 以上の状況下、2013年の春季労使交渉では、大手が相次いで一時金の満額回答を出しました。いわゆるアベノミクスの一環で、首相が異例ともいえる賃上げを経済界に要請したことを受けた形ですが、大手企業の収益状況からすれば、もともと一時金を増やす余裕があったものといえます。こうした結果、2013年夏の賞与(厚生労働省、従業員規模5人以上ベース)は、全体では2010年以来3年ぶりに前年比プラスになる見通しです。

 とはいえ、これは全規模ベースの予測であり、中小企業については昨年10~12月期が減益であり、労働分配率も高止まり傾向にあることからすれば、前年並みか前年比若干マイナスとなるものと予想されます。ただし、これは中小企業の「平均」の状況であり、業界によって事情は異なります。今年4月の日銀短観調査によれば、中小企業の業況は総じて厳しいとはいえ、「通信」「物品賃貸」などで、「良い」と答えた企業が「悪い」と答えた企業を上回る分野もあります。

 それ以上に、個別企業ごとの収益のバラつきも大きくなっています。グローバル化、IT化、高齢化など、日本経済を取り巻く環境が大きく変化する今日、それは個々の企業にとって脅威となる一方、大きなチャンスでもあります。小回りが利き、ニッチ分野で強みが発揮しやすい中小企業の場合、大手以上にばらつきが生まれやすい環境にあるといえるのです。

 さらにアベノミクス効果により、先行き日本経済は、回復傾向が明確化することが予想されます。日銀が大胆な金融緩和に踏み切り、「低金利・円安・株高」というマーケット環境が当面続くことが予想されます。それが日本経済の再生・デフレ脱却につながるかどうかの最終的な成否は成長戦略にかかっており、現状では予断を許しませんが、当面、企業のビジネス環境は悪くはないとみられます。この時期にこそ、将来を見越したビジネスモデル変革・先行投資を行うことが重要です。

 人材面でも同様のことがいえます。中小企業全体では、夏の賞与はせいぜい前年並みの見通しとはいえ、マクロ環境の好転と、そのもとで攻めのスタンスを重視するならば、敢えて賞与を増やし、従業員のやる気を鼓舞するという考え方もあるかもしれません。いずれにせよ、世間相場は世間相場として、将来を見越した賞与額の決定が重要だと思います。

掲載:『戦略経営者』2013年6月号