今年、創業90周年を迎える東京・世田谷の老舗食品問屋・ヤマムロ。卸売会社受難の時代に、海外戦略という新たな武器を携えてさらなる成長を目指している。同社を束ねる山室貴雄社長(67)に、その積極果敢な経営戦略とそれを支える緻密な計数管理について聞いた。

中国からの輸入商材で新たなビジネス展開を模索

ヤマムロ:山室社長(左)

ヤマムロ:山室社長(左)

──歴史のある会社だそうですね。

山室 1923年(大正12年)に祖父の作太郎によって創立されました。祖父は世田谷酒販組合の初代理事長です。つまり、酒屋として発足したわけですが、当時、うちの看板商品だったのは旭電化工業さんの「棒石けん」でした。

──棒石けんとは?

山室 50センチサイズの棒状になっており、包丁で切って使用する石けんです。私の記憶にはかすかに残っている程度ですが……。

──現在のような総合食品問屋へと変わったのはいつごろですか。

山室 2代目の父・正男が「酒屋だけでは成長は望めない」と戦後、同業の酒屋仲間に食品や雑貨を卸す事業を始めたのです。父は「今後、食生活は洋風化に進む」と判断して、大手の食品メーカー、たとえばキユーピーさん、日清製油さん、明治製菓さん、明治乳業さんなどに精力的に足を運び、次々と直接取引を実現していきました。大手と取引できるというのは信用の証しですからね。門前払いにも屈せず、何度もアプローチし続けた父の粘りには頭が下がります。ちなみに父は世田谷法人会の会長や、東京都食品卸同業会の副会長を務めるなど、公共的な活動にも熱心でした。

──そして、3代目の山室社長へと継承されたわけですが……。

山室 バブル崩壊以降は業界環境が徐々に変わってきました。大手商社への系列化が進み、われわれのような独立系の問屋は苦しくなる一方です。その流れに対抗するために「卸明日の会」という都内の独立系問屋を組織をつくり、私が4年間会長を務めたりもしました。当社の取引先は基本的に地場の中堅・中小スーパーです。過去、大手には価格面などで振り回された経験もあり、いまは積極的な売り込みは控えています。地場スーパーと信頼関係のなかで取引をする……これも当社の特徴のひとつですね。

──苦しい時代を乗り越えてきた戦略は?

山室 父のやり方をそのまままねるだけではじり貧は免れません。何か新しいことをやらねばとずっと考えていて、20年以上前に、たまたま台湾に行く機会があり、向こうの経営者と話をしていると、食品卸の業界組織がないというので、つくったらどうかとノウハウを教えてあげたことがありました。それが縁となって、台湾や中国でのビジネスをスタートしたのです。

──現在では麻婆豆腐・担々麺・干鍋用調味料『四川陳麻婆』シリーズが看板商品になっていますね。

山室 取引先と一緒に「食べ歩き会」と称して中国四川省の成都を訪れた際、『陳麻婆豆腐』に出会いました。みなさん絶賛していたので、ためしに「うちが仕入れたら売ってくださいますか」と尋ねたら、大半が「はい」という答え。これはいけると現地のメーカーを訪ねたのですが、よく知らない会社には売らないと門前払いです。懲りずに訪問を続けると、3回目にようやくOKが出た。「あんたみたいな熱心な日本人は初めてだ」といわれました。

──最初から売れましたか。

山室 5年間は真っ赤でした(笑)。それでも商品力はあると確信していましたから、我慢して扱い続けていると、次第に雑誌などで取り上げられるようになり火がつきました。この『四川陳麻婆』シリーズに関しては、食品スーパー以外の店舗での展開も模索しています。スーパーという土俵ではどうしても価格競争に巻き込まれてしまいますから。たとえば最近では、書籍・雑貨販売の『ヴィレッジヴァンガード』さんにも納入する予定になっています。

毎月の実績を分析し社員の行動計画を作成

──ところで、山室社長は緻密な計数管理を実践されているとお聞きしています。

小出絹恵顧問税理士 社長の計数管理能力はすごいと思います。実務的には、社長の弟さんの副社長が販売管理システムと『FX2』でタイムリーな数字をしっかりと出し、正確な粗利を把握。それをもとに社長が全体方針を示した上で、各社員ごとの行動計画の作成につなげていくというプロセスになります。

──粗利管理というのがポイントですね。

山室 先代の時代には、無駄も多く年々粗利が逼迫していく状況でした。大量仕入れによる「割り戻し」(リベート)でなんとか利益を出している状況だったのですが、厳しくなる一方の環境のなかで、そのままでは会社の存続すら危うくなります。それで、小出先生の協力をいただきながら、『FX2』を活用して粗利管理を徹底していったのです。

──固定費の中身についてはいかがでしょう。

山室 私は数字を紙に表現するのが好きで、たとえば紹興酒を4トン車4台で運び、1台3万円として12万円かかったとします。それをコンテナで一度に運んだら2万円。10万円の得ですよね。あるいは別の商品を運ぶトラックの隙間に紹興酒を詰め込むという方法もあります。そうすると運送費は実質かからない。これらを数字とイラストで具体的に示す図表にして責任者などに示すと、簡単に腑に落ちるんですね。
 あるいは、ある日、物流倉庫を観察していると、最大口の得意先の商品が2階に積んであったので、すぐに入り口付近に移動させました。そうしておけば、次の作業から効率がよくなり労働生産性も上がりますし、何人かを他の作業にまわせるかもしれない。細かいようですが、そうしたコストダウンへの取り組みが積み上がって会社全体の利益を生み、賃金にも跳ね返ってくる。そのことを社員には口を酸っぱくして力説しています。

──配送は外注だったものを、最近内製化されたのだとか。

山室 これも『FX2』などの数字をもとに、切り替えた場合のシミュレーションをした上で内製化に踏み切りました。とにかく、仕組みを少しずつ変えていき、成果を積み上げ、ようやくここ数年で安定した利益が確保できるようになりました。

──とくに参考にされている帳表はありますか。

山室 『FX2』でいえば『勘定科目残高一覧表』はよく見ています。これは父もよく言っていたのですが、とにかく比較することが大事です。前年、前月と実績を比較して何が増え、何が減ったのかをつかまないと、本当に有効な戦略は立てられません。また、毎月のTKCの試算表は隅から隅まで見ています。とくに、「あと何%○○を下げれば利益が何%上がります」などといった経営的な注意を促してくれるコメント欄は分かりやすいので、そのまま流用して副社長やスタッフに問いただしたりもしています(笑)。もちろん、監査担当の古川(晶子)さんと月次巡回監査の際に話をすることもあるので、その財務面でのアドバイスも参考にさせていただいています。
 それから、これは販売管理データの話ですが、お得意様上位10社の毎月の売り上げ・利益を抜き出して比較表にし、チェックしています。どこの取引先をどう増やせばいくら利益が増えるのかを、常にシミュレーションするためです。

──緻密ですね。

山室 大事なのは絶えず数字をチェックし、個々人に行動の修正を促すこと。当社では毎週、全体会議を開き、各人に週単位の行動計画を提出させ、実践状況をチェックしています。細かいと思われようが関係ありません。それが結果的にみんなのためになるんですから。

──今後はいかがでしょう。

山室 前述した通り、従来通りの問屋の仕事を漫然と行っているだけではこれからは到底もちません。デフレによる値下がり分のしわ寄せが問屋に来る時代ですからね。生き残るためには、新しい分野に打って出なければなりません。当社でいえば『四川陳麻婆』シリーズのような自社製品に近い輸入商品の割合をより増やしていく必要があります。このシリーズは、通常のビジネスとは逆に大手商社が当社の製品を売ってくれているわけですから、われわれにとっても誇りですし、実際、粗利率も高い。まだ、輸出入事業は全体の約1割に過ぎませんが、これを2割、3割と増やしていけるよう、頑張っていきたいと思っています。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 ヤマムロ
設立 1923年11月
所在地 東京都世田谷区上北沢5-7-2
TEL 03-3329-1111
職員数 25名
URL http://www.yamamuro-1923.co.jp/

CONSULTANT´S EYE
明るい笑顔と活気で常に新しいことに挑戦
監査担当 古川晶子 小出絹恵税理士事務所
東京都世田谷区代沢5-36-11 TEL:03-5489-9586
http://www.zeirishi-net.gr.jp/

 ヤマムロ様の監査担当者になって今年で6年目を迎えました。毎月、巡回監査でお伺いする際には、いつも社員の皆さまが手を止めて元気なあいさつを返して下さるなど、明るい笑顔と活気あるエネルギーをもっている会社です。「現状に決して満足せず、会社をより良くするためにはどうすれば良いか」を常に考える社風で、例えば、看板商品である『陳麻婆豆腐』シリーズにしても、味、内容量、パッケージなど細かいところまで改善され続けています。山室社長はしばしば「今、卸業界は大変だから、さまざまなケースを想定して常に新しいことを始めなければならない」と熱く語られます。また、ヤマムロ様は全社をあげて業界や地域社会の発展にも尽力されており、当事務所が開催するセミナーにも積極的に足を運んで下さるなど皆さまとても勉強熱心です。

 会社業績の確認と改善については『FX2』の《勘定科目残高一覧表》を活用していただいております。《勘定科目残高一覧表》を見ながら、とくに注目してほしい箇所や、前年と比較して増減の大きい科目についてご説明し、改善点を見つけるヒントにしていただいてます。また、毎期『継続MAS』で予算を作成し、『FX2』に登録をして、現状と予算の対比ができるようにしています。さらに、期首6カ月目の期中検討で予算達成率の確認、期首10カ月目には決算予測を行いますが、納税予測額をお知らせすることで、「あらかじめ資金準備ができて助かる」とのお言葉をいただいております。帳簿や証ひょう書類もきちんと整理保存されており、確認したい書類は即座に見せていただけるのもとても助かります。決算書に『税理士法第33条の2第1項に規定する添付書面』をつけることができるのも、毎月のスムーズな巡回監査の積み重ねがあるからだと実感します。これからも末永くヤマムロ様の発展をお手伝いできたら素敵だなと思っています。

掲載:『戦略経営者』2013年8月号