ゲーム化してみたら、意外とうまくいった──。ゲームの要素を取り込むことで、社内の課題解決やモチベーションアップなどに成果をあげている企業が増えつつある。

 ウェブサイトの制作などを手がける「ゆめみ」。その京都本社で働く男性社員のAさん(20代)は、近頃ウオーキングが病みつきになっている。お昼休みなどに時間を見つけては、会社のある「四条烏丸」界隈を歩く。「ちょっと今日は物足りないな」と思えば、帰宅の際、最寄り駅をあえて利用せずに、わざわざ一駅先まで歩くこともしょっちゅうだ。愛用するデジタル万歩計の数字が積み上がっていくのを見て、一人にんまりと笑みを浮かべている。

 じつは同社では、こうした社員が去年の8月から確実に増えている。京都本社に限らず、三軒茶屋にある東京本社でもウオーキングはブームとなっているのだ。

 そのきっかけを作ったのが、社内ゲーミフィケーションの「ゆめWalk(ウオーク)」。簡単に言うと、参加者の日常の歩行を「四国お遍路八十八か所巡り」に模して可視化しながら、距離を競う社内のイベントだ。参加者には、「Fitbit」というデジタル万歩計が配布され、個人の歩行距離記録を収集していく。

「お遍路」が生むゲーム性

 ゆめウオークを企画したのは、ともすれば日がな一日座りっぱなしになるシステムエンジニアの社員に「歩き続ける習慣」を身に付けてほしかったから。要は、運動不足の解消だ。

 「たとえば『スポーツクラブに行きましょう』と言ってチケットを配ったところで、なかなか腰は上がらない。でも歩くことだったら、それほどハードルは高くないと思いました」

 と総務人事部の松田新吾部長は話す。とはいえ、歩く習慣のない社員を突き動かすためには、それなりの工夫が必要。そこで目を向けたのが、ゲーミフィケーションだった。

 ゲーミフィケーションとは簡単に言うと、ゲーム以外の分野に「ゲームの要素」を取り込むことで、誰でも楽しく目的を達成できるように後押しする手法のこと。ゆめみの場合は、歩き続けるという行為を四国巡礼参りになぞらえることにより、お寺を次々に制覇していく達成感や、ほかのメンバーと競い合う楽しさを味わえるようにした。

 昨年8月に実施した第1回ゆめウオークには、約70名いる社員のうち9割近くが参加。四国の地図をオフィスの壁に貼り、参加者の写真付きの磁石を歩行距離に応じて動かしていくやり方で、誰がどの地点にいるかが一目で分かるようにした。

 「職種のバランスをとりながら『順路』と『逆路』の2チームに分け、それぞれのルートで上位3位までに入賞すると、体重計などの景品がもらえるようにしました」(松田部長)

 ゆめウオークをスタートし、歩くことが社内で推奨されるようになると、あえて遠くのお店にランチをとりにいく社員や、地下鉄ひと駅くらいなら積極的に歩こうとする社員がしだいに増えてきた。

 先導役の松田部長の場合、ゆめウオークがスタートして以降、スポーツクラブに通う際には必ずデジタル万歩計を持参するようになったという。ランニングマシーンで走るときも、スタジオで踊るときにも万歩計を身に付け、歩行距離をかせぐようにした。だからスポーツクラブに行った翌日は、距離がぐーんと伸びる。

「接戦」になることを目指して

 ただ、どうしても個人戦にすると、もともと運動が得意な人と、そうでない人との差が開いてしまう。そうなると「ゲーム」という点では、多少おもしろみに欠けることになる。

 「そこで、昨年10月に実施した第2回ゆめウオークでは、所属部署ごとの団体戦としました」

 このもくろみは見事的中。前回の個人戦のとき以上に盛り上がった。

 しかし、チーム間での差が思った以上についたため、もう少し接戦にしようということで11月の第3回目では、過去2回の実績をもとに歩く人と歩かない人とを、できるだけ均等に割り振った混成チームでの団体戦とした。

 「さらに今年1月には新しい試みとして、『3人4脚』というのをやりました。だれか一人が突出して距離を伸ばしてもだめで、みんなが歩調をあわせていくとトップにあがれるという複雑な仕組みにしました。たとえば仲間うちで1日5000歩と決めたら、みんなが5000歩であがっていくのが1位になる秘訣。ある人が1万歩、ある人が2歩、ある人が500歩ではだめなんです」

 そして今年2月には、初の対外試合を開催。デザイン系のほかの会社の人に参加してもらった。これもゲーム性を高めるという点ではよい刺激となった。

 これまでに合計5回を実施するなかで、四国の地図を壁に貼って可視化するというアナログ的なやり方はいつしか刷新された。デジタル万歩計にもともと備わっていた通信機能を利用して、誰がどの地点にいて、順位はどのくらいかなどが、社内SNS上で見られるようにしたのだ。

 「うちはIT会社なのに、それじゃあんまりだと、見るに見かねたシステムエンジニアの一人が、専用のシステムを構築してくれたんです」

 デジタル万歩計とのデータ連携は1日1回、自動で行われるため、社員にとっては手間いらずだ。

 また、上位入賞者へのリワード(報酬)についても、アイスクリームのチケット、ランニングシューズやイヤフォン(歩くときに音楽を聴くことを想定)を購入するための補助金など、バリエーションを多彩にしてみんなの関心を誘った。

いわば増幅器の役割を果たす

 ゆめウオークが社内に浸透していくにつれて、それをネタにフェイスブックでつぶやく社員が出てきたり、1日に50キロくらい歩いていきなり1位になった人に対して他の社員が「どこ歩いたの?」と聞いたりする光景があちらこちらで見られるようになった。つまり、社員同士のコミュニケーションツールの一つになっているのだ。

 ゆめみ代表の深田浩嗣氏がいう。

 「ゲーミフィケーションは、いわば『増幅器』みたいなもの。健康になりたいという気持ちは多くの人がもっていますが、そのための活動をちゃんと継続できるかというと、意外とハードルが高い。三日坊主になったりとか、本当は続けたいのにしんどくて続けられないようなときに、継続する意欲を増幅する役割を果たしてくれます。その意味では、応用範囲は広い」

 同社では、ゆめみウオークの他にも、いくつかの社内ゲーミフィケーションを行っている。社内におけるさまざまな提出物をどれだけ早く出せるかのスピードを競う「ゆめ感謝祭」、社外の勉強会に参加するとポイントが付与される「ゆめアクティブ」、そして同僚から褒められた人が2ポイント、褒めた人が1ポイントもらえる「グッジョブ」などがある。これらの社内ゲーミフィケーションが、ゆめみを活気ある組織にしているのは間違いない。

(本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2014年5月号