恵那峡で有名な岐阜県恵那市で障害者支援施設を営む、たんぽぽ福祉会。自主性を重んじる指導方針が注目され、他の社会福祉法人の関係者が見学に訪れることも多い。複雑な経理業務の効率化に役立っているのが、統合型会計情報システム『FX4クラウド(社会福祉法人会計用)』である。

多様な作業に従事し 働くよろこびを実感

たんぽぽ福祉会:小坂理事長(前列右)

たんぽぽ福祉会:小坂理事長(前列右)

──組織の特徴を教えてください。

小板 知的障害者支援施設の「恵那たんぽぽ作業所」を中心に就労支援事業、グループホームを運営しています。「働くことは生きること」をモットーに掲げており、いずれの施設でも障害者の人たちが仕事をしている点が特徴です。農耕、園芸、食品加工、パンづくりなど多種多様な作業に携わり、レストラン事業や物販も手がけています。

──何人ぐらいの方がいらっしゃるのですか。

小板 組織全体の入所者数はグループホームを含めてざっと120名、通所者は100名ほどです。平成24年1月1日に障害者自立支援法に移行し、障害に応じて障害程度区分を設け、生活介護、就労継続支援、就労移行支援に利用者の方々を配置しなおしました。皆さんが自立して生活できるよう支援するのがわれわれの使命ですから、なるべく日常生活にちかい日々を送れるよう配慮しています。

──たとえば?

小板 まず、施設のそれぞれの部屋にはカギを取りつけていません。障害者は何か変わったことがあると部屋を飛び出していってしまうので、ほかの施設ではカギをかけている場合が多いのですが、入所者の行動を拘束することになります。一度でもカギをかけると、職員は信用されなくなるでしょう。負担もそれなりにありますが、今後もこの方針は変えないつもりです。
 また、食事の際はおみそ汁などの汁物をのぞき、陶器のおわんを使っています。目的は「陶器は割れるもの」ということを学んでほしいから。見学に来る他の施設の方々も賛同して取り入れることもありますが、けがをする障害者が絶えないため、すぐにやめてしまうようです。陶器を割らずに扱えるようになるまで、およそ4年かかりましたね。

──非常に根気がいりますね。

小板 ふつう人はさまざまな経験を積み、安全に暮らす方法を身に付けたり、興味を膨らませて大人になっていきます。いっぽう知的障害をもつ人たちは、少しでも危ないことをすると周りから抑制されてしまう。自分自身でものごとを考えて決断する機会を失うと、生きている実感が乏しくなってきてしまうんです。
 当施設の障害者の人たちには仕事をこなし、お給料を手にすることで、生活するよろこびを知ってほしいと考えています。たとえばドライブに行って暑いとき、飲み物を買って飲めばおいしいと感じるものです。次にドライブに行くときには、どんなものを飲みたいか思考が広がります。新たな出来事に出会うたびに、自分の希望を満たそうと考えを巡らし、頭の回転が早くなる。これが発達を促進する一番のもとです。

──1日のスケジュールの中に「太鼓の練習」という時間がありました。

小板 施設利用者の方と職員からなるチームを組み、地元神社のお祭りや全国障害者太鼓大会などに参加しています。「恵那のまつり太鼓」として、多い年で年間40~50カ所回るときもあります。静岡県御殿場市の「富岳太鼓」の方々に太鼓の打ち方を教わり、平成2年に発足しました。
 おととしは「第12回全国障害者スポーツ大会 ぎふ清流大会」開会式で、太鼓や竹楽器による演奏を披露。日々リハーサルを重ね、無事やり遂げることができました。施設を建設するにあたり、地域住民の方々からたくさんの寄付をしていただきました。障害者の人たちが成長している姿を見ていただくことが一番の恩返しになると思っています。

──地域貢献にも取り組んでいるそうですね。

小板 たんぽぽ作業所周辺の国道沿いを中心に、全員で定期的に空き缶・ゴミ拾いをおこなっています。空き缶は当初にくらべ、だいぶ減りました。おそらく恵那市はこのあたりではもっともゴミが落ちていない地域ではないでしょうか。日ごろお世話になっている地元の方々に対する感謝の気持ちをこめて取り組んでいます。

入力の効率化を図り財務数値が明確に

──『FX4クラウド(社会福祉法人会計用)』導入のいきさつを教えてください。

小板 当初は『社会福祉法人会計データベース』を利用し、1台のパソコンで入力していましたが、経理区分が増えてきたためCS版、ウェブ版へと移行、おととしにクラウド版を導入しました。クラウド版に移行して複数の職員が同時に伝票入力できるようになり、効率が上がりましたね。ウェブ版で使用していたサーバが老朽化していたのも、切りかえた要因でした。

──多岐にわたる事業を展開していますが、システム上どのように分けて管理していますか。

小板 大きく分けると社会福祉事業と公益事業のふたつです。社会福祉事業には恵那たんぽぽ作業所、福祉工場など5つの拠点区分があり、さらに50種類の事業をサービス区分として登録しています。共同生活施設の「自立訓練ホーム」は公益事業に含まれます。
 就労支援事業として実施している物品の生産・販売による収入が日々あるため、伝票枚数は多いですね。いちはやく新会計基準に移行しましたが、会計処理は障害者支援施設のなかでは非常に複雑なほうだと思います。専門家のアドバイスなしでは運営できないと感じています。

宮嶋 就労支援事業を行っている社会福祉法人のうち、新会計基準に移行した法人はまだ少数です。たんぽぽ福祉会様は消費税の本則課税事業者でもあるため、事務負担のボリュームは相当あります。

──クラウドに移行して変わったところというと?

小板 複数の職員が同時に入力できるのが変わった点の第一。また「マネジメントレポート(MR)設計ツール」を活用し、『FX4クラウド』のデータを連携させて給与計算のベースとなる資料を作成しています。以前は仕訳帳を印刷し電卓で集計していたため、3~4日かかっていましたが、今ではボタンを押すだけで完成します。それと宮嶋先生の事務所にあるパソコンからシステムにアクセスし、操作方法を教えていただけるので安心感があります。

 財務データは画面ではなく印刷して見ることが多いですが、以前より数値を早く把握できるようになりましたね。

伊佐治 職員が5人で仕訳入力しており、拠点ごとに担当者を決め、重複しないように運用しています。

──施設単位など、業績を任意のグループ別に集計できるのも『FX4クラウド』の特徴です。

小板 毎月監査に来ていただいている宮嶋会計事務所の中村さんにご支援いただき、業績分析機能も徐々に活用しはじめたところです。チェックしたいと考えている指標は、資金残高と売り上げ、人件費と利用料のバランス。人件費を支援費の50%以内におさめ運営するのが理想ですね。以前、お茶を加工販売する事業を手がけていたため、資金のありがたみはわかっているつもりです。

──今後の計画をお聞かせ下さい。

小板 恵那市から高山市に抜ける国道257号線沿いに土地を購入し、物品販売をメーンとした施設「くり・くりの里」をオープンする予定です。われわれが育てた農産物やシイタケを販売する直売所、和食レストラン、ベーカリーカフェも設けます。各地の道の駅やサービスエリアを回り、施設のアイデアを探ってきました。3年越しの計画です。ことし8月ごろをめどに開設できればと思っています。

(本誌・小林淳一)

法人概要
名称 社会福祉法人たんぽぽ福祉会
設立 1986年4月
所在地 岐阜県恵那市長島町久須美1083-35
TEL 0573-26-4356
職員数 130名(パート含む)
URL http://www13.ocn.ne.jp/~tan-popo/

CONSULTANT´S EYE
段階的なレベルアップで「距離」を縮める
監査担当 中村将大 宮嶋英治税理士事務所
岐阜県多治見市西坂町3丁目24番地 TEL:0572-23-3188
http://www.i-ems.jp/

 たんぽぽ福祉会様と関与させていただくことになったきっかけは、10年前にさかのぼります。当事務所の所長である、宮嶋英治税理士が講師を務めた障害者支援施設向けセミナーに、小板理事長が参加されていたことから、お付き合いがはじまりました。

 関与当初は「月次決算」という発想もなく、3人の職員で入力指導、残高確認作業を行っても1日で終わらない状況が続きました。行政の監査を受けた時、質問の回答がままならなかったり、経理処理を明確に説明できなかったりといった問題が起こりました。以来、経理担当者の方に会計処理の内容を把握していただくことを念頭に、『巡回監査支援システム』を活用し訂正事項などを説明。訪問内容を報告書としてお渡しし、経理担当者の方々の間で内容を共有していただいています。

 たんぽぽ福祉会様の特徴として、運営されている施設数が多い点が挙げられます。さまざまな就労支援事業を展開しており、その結果を会計帳簿に反映させる必要もあります。当初はスタンドアローン型の『社会福祉法人会計データベース』を利用されていたため、施設に赴かないと入力状況や質問内容がわからない状態でしたが、クライアント・サーバ版、ウェブ版、そしてクラウド版へと移行いただくことで、より迅速に対応できるようになりました。現在は「マネジメントレポート設計ツール」を活用し、オリジナルの資料も作成しています。システムを段階的にレベルアップすることで、たんぽぽ福祉会様との距離を縮めることができたと感じています。

 今後の課題は、会計処理の方法、事務作業の統一化をいっそう図り、月次決算の精度を高めること、さらに財務データを法人全体の経営判断の資料として活用いただくことです。また『ネットレジ』の導入による、売り上げデータ管理も検討しています。TKCシステムをさらに活用いただくため、提案とご支援を続けていきます。

掲載:『戦略経営者』2014年5月号