中東、インドネシア、マレーシアなどのイスラム圏諸国。世界人口の約4分の1を占めるといわれるこの市場を見逃していてはもったいない。300兆円市場攻略のヒントを、中小企業の事例をもとに紹介する。

 少子高齢化によって、国内市場は縮小を余儀なくされる。だったら外国人をターゲットにしていこう、と考えている中小企業経営者も多いはず。そんな中で、にわかに関心が高まっているのが、イスラム圏市場である。中東をはじめ、東南アジア(インドネシアやマレーシア等)やアフリカにまで広がるイスラム教徒の人口はおよそ19億人。その数、世界人口の約4分の1を占めるほど。一説によれば約300兆円の市場規模があるという巨大なマーケットなのだ。オイルマネーにわく中東を輸出先として考えるのもよし、経済成長をとげるインドネシアやマレーシアから来る観光客を狙うのもよし。アウトバウンド、インバウンドともに、とにかく有望な市場といえよう。

 ただ、イスラム圏を対象にビジネスをしようと思うなら、欧米や中国などとは少し勝手が違うことを覚悟しておいたほうがよい。というのは、アラビア語で「ムスリム」と呼ばれるイスラム教徒にはさまざまな戒律があり、彼らはイスラムの教え(シャリア法とイスラム原理)で許された「ハラル(HALAL)」なものしか買ってくれないからだ。

 「ハラルでないもの(ノン・ハラル)には、たとえば豚肉やアルコールがあります。イスラム教徒はそれらを飲食することが禁じられています。豚由来のゼラチンやラードが入った食べ物や、アルコールが添加された調味料(しょうゆ、みそ、みりん)もダメです」と、ハラル・ジャパン協会の佐久間朋宏氏はいう。

 豚以外の食肉(鶏、牛、羊など)についても、イスラム処理(シャリア法に則った食肉処理)されたものでなければダメ。また、豚毛の入ったブラシや、豚由来成分の入った化粧品・医薬品など、食品以外の分野にもハラルは適用される。つまり、イスラム圏の人々に商品を売るにはまず、その辺りに配慮したほうがよいわけだ。例えばしょうゆなら、保存効果を高めるためにアルコールを添加するのはやめるなどの"ハラル対応"が求められる。

 そして、ハラルであることを証明するためのツールとして、できれば取得しておきたいのが「ハラル認証」だ。認証機関の審査に合格してこれを取得すれば、イスラム圏の人々に商品を売りやすくなる。ハラル認証機関は日本国内にもいくつか存在する。

 「ただハラル認証は、ISOやHACCPのような世界的な統一基準ではありません。認証機関ごとに、規格に多少のばらつきがあるのです。どの認証機関を選ぶか、注意が必要です」

 海外への輸出が目的なら、相手国から認められたハラル認証を取得するとよいだろう。ローカルハラル、ムスリムフレンドリーといった国内認証機関が独自に提唱している規格では輸出できないケースもあるからだ。

 最近は、ハラル対応の和食料理を作りたいとする飲食店やホテルの要望に応えて、しょうゆやみそのメーカーがハラル認証を取る動きも増えている。また、ハラル認証を受けたドレッシング、カレールー、焼きのり、緑茶、干し芋など、国産ハラル食品を製造する中小企業も現れている。

 「ハラルの基準は、つまるところ安心・安全を保証するところにあります。製品をつくる工場・ラインの衛生管理が行き届いているかどうかも、ハラル認証を取るうえでの大事な要素。その意味では、従来から食の安全を重要視してきた日本のメーカーは比較的取り組みやすいと言えるでしょう」

礼拝や断食への配慮も

 そして、ムスリム観光客を相手にしたインバウンド事業を行っていくのなら、食べ物以外にも、彼らの生活習慣(生活上のルール)に配慮していくことも重要となる。

 たとえば「礼拝」。イスラム教徒は1日5回、聖地メッカの方角を向いて礼拝をする。飲食店やホテルの場合なら、メッカの方角が施設内のどこにあたるかを教えてあげられるようにしておいたほうが親切だろう。また、1年に1回、ラマダンの月に約30日間の断食をするため、これに対する気配りも必要だ。日の出から日没までの間、水を含む一切の飲食が禁じられている。このほか、「女性客への接遇は女性スタッフが担当したほうがよい」「偶像崇拝が禁じられているので、おみやげに人形は好ましくない」などにも注意しておきたい。

 いずれにしてもイスラム圏を対象にしたビジネスは、大手企業でもまだ手つかずのところが多く、中小企業にもチャンスがある。いわば「ブルーオーシャン」の世界が広がっているわけだ。このマーケットをみすみす見逃してしまうのは、あまりにもったいない。

※ハラル・ジャパン協会
ハラルに関連する啓蒙活動や市場調査などを行う非営利一般社団法人。ムスリム向けビジネスのセミナーや勉強会を定期的に開催し、現在120社が会員登録している。
東京都豊島区南池袋2-49-7池袋パークビル1F
03-4540-7564

(本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2014年9月号