中小企業経営者が「会計」を日常的に使いこなし、経営に役立てていくためには、月次決算体制の構築とその活用が必要である。タイムリーで正確な指標は最大の経営の羅針盤となり得るからだ。月次決算の効果的な活用法を紹介する。

 月次決算とは何ですか。

 月次決算とは、それぞれの「月末」を決算期末とみなして、業績管理に役立つ決算書を作成することです。年間で12回の決算書を作成することになります。

 なぜ月次決算が重要なのでしょうか。

 最新の経営状態をつかみ、タイムリーに打ち手を実践していくために必要だからです。

 税法や会社法などの法律にもとづく決算は年に1回行えばこと足ります。でも年に1回しか会社の経営状態を知る機会がないとしたら、それはガソリンの残量計やスピードメーターが故障した車でドライブをしているようなもので、危険この上ありません。そう考えれば、月次決算がいかに大切かがお分かりいただけるのではないでしょうか。

 月次決算の仕組みを作るためにはどうすればいい?

 まずは適時・正確に「記帳」する体制を築くことが求められます。小料理屋の店主は、いろいろ飲み食いしたお客さんが「じゃあ、ツケで!」と言って帰ってしまった後、すぐにそのときの代金をどこかにメモしておくはずです。これが言ってみれば、適時・正確に売掛金を記帳する行為なのです。こうした販売管理のための適時記帳の積み重ねによって、自社の経営状態を正しく把握することができるのです。

 それと、自社で月次決算をしようと思ったら、会計システムを導入して自らの手で経理処理をおこなえるようにしておくことも大事なポイントになります。つまり「自計化」です。

理想は翌月1週間以内での実施

 月次決算は、月末で締めた後、翌月のできるだけ早い時期に行ったほうがよいと聞いたのですが……。

 鮮度の高い会計情報を入手するためには、早ければ早いほどよいといえます。翌月の10日、できれば翌月1週間以内に行うのが理想です。

 ダイエットをしている人が体重計に乗ったとき、そこに表示される数値が半年前の自分の体重だったらどうでしょうか。そんな体重計は許せませんよね。それと同じで、目の前に出された月次決算書が半年前の数値だったら役に立たないはずです。前月の頑張りの成果をできるだけ早く知るためにも、月次決算は早ければ早いほどよいのです。

 月次決算を早期化するためにはどうすればいいのですか。

 ポイントは2つあります。ひとつは、そのための仕組み作りをすることです。たとえば「月次決算の確定日を決めて、記帳を含め全員でそれを共有する」「勘定科目ごとに、その発生額や残高明細の担当責任者を決める」「仕訳データを分散入力できる環境にする(クラウドシステム導入)」といった、仕組みを社内に作るのです。

 もうひとつは、会社全体の経営判断に使う数字ならある程度の概算でよいと割り切って、「概算計上」を取り入れることです。「大きな金額差異がなければ請求書の到着を待たず概算数値で経費の未払計上をしてしまう」「月末在庫の金額については予定原価率を用いて概算計上する」といった具合にです。こうすることで、スピード化が図れます。

 月次決算の精度を高めることも重要な課題になるのではないでしょうか?

 その期の本決算(年度決算)が、月次決算から予想していた結果とまるで異なっていたとしたら問題です。そうならないためにも、ある一定レベルの精度が要求されます。

 そこでお勧めしたいのが、たとえば減価償却費を月次ベースで計上することです。車両、機械装置、建物などの減価償却は本来は1年分まとめて期末に計上すれば足ります。しかし、その金額があまりに多いと、月次決算では黒字になると見込んでいたのに決算を締めてみたら大赤字になっていた、ということにもなりかねません。そうした事態にならないようにするためにも、減価償却費の年間見積額の12分の1ずつを毎月の月次決算で計上しておくのです。

 また、これと同様の理由から、引当金(賞与引当金、退職給付引当金、貸倒引当金)を毎月見積もり計上したり、固定資産税などの租税公課、税込み処理しているときの消費税、労働保険料を月次で未払い計上しておくこともお勧めです。

発生主義会計がおすすめ

 月次決算で業績管理をするには「変動損益計算書」の形式がよいと聞きました。

 変動損益計算書とは、経費を変動費と固定費に分けて表示した損益計算書のことです。変動費とは、商品仕入れ原価や材料費など、売上高の増減によって変化する費用のこと。固定費とは、人件費や地代家賃など、売上高の増減によって変化しない費用のことです。

 変動損益計算書を使うことで、たとえば次のようなことが分かりやすく読み取れます。

売上高(売った)─変動費(買った)=限界利益(もうかった)
限界利益─固定費(使った)=経常利益(残った)・経常赤字(使いすぎた)

 「発生主義会計」で月次決算をしたほうがよい?

 損益計算の方法には、現金主義会計と発生主義会計とがあります。現金主義会計は、現金の入金・出金があったときに、売上高、変動費、固定費を計上する方法です。一方、発生主義会計は、資産の取得や商品などモノの引き渡しのタイミングで売上高、変動費、固定費を計上するやり方です。

 上の図表(『戦略経営者』2014年10月号P30図参照)をご覧になってもらえば分かるように、発生主義では得意先に商品を出荷したタイミングで売り上げが計上されます。しかし現金主義では、このタイミングでは何も記録されません。これでは「会計」を売掛管理や資金繰り管理に活用できないし、経営に役立つ月次決算書は作れないのです。より真実に近い経営数値をタイムリーに知りたいのなら、やはり発生主義のほうに分があるといえます。

 月次決算を「業績改善」に役立てるうえでの考え方を教えてください。

 業績を改善するためのポイントは以下の3つです。

●売上高を増やす
●限界利益率を上げる
●固定費を減らす

 この3つのポイントの変化を月次決算によってきちんと把握し、「なぜだろう?」とその変化の原因を自分自身に問いかけていけば、業績改善のヒントがきっと見つけられるはずです。

会計は不安を具体化してくれる

 月次決算をベースにした業績管理の実践は、会社の信用力アップのうえでも有効だとか

 月次決算によって入手した最新の経営数値を、読める(業績検討)、使える(管理会計)、話せる(外部報告)、見通せる(経営計画)ようになった経営者は間違いなく金融機関から評価されるでしょう。ちなみに、融資を受ける際に経営者が個人保証をしなくてもよいとした「経営者保証に関するガイドライン」(今年2月から適用)でも、その要件のひとつに「経営の透明性確保=月次決算」を掲げているくらいです。

 経営者は、「数字(会計)」で現実と向き合っていくことが、ますます必要になってきそうですね。

 中小企業経営者はさまざまな不安を抱えています。不安というものは、ともすれば無限大に膨らんでしまう。それを避けるためには、実は「不安を具体化すること」が最も有効な策となります。

 月次決算を通して会計と向き合っていると、「このくらい頑張れば黒字になるんだな」とか「これくらいやっていれば借金をちゃんと返していけるんだな」ということがしだいに分かってきます。これこそがまさに不安を具体化する行為。目に見えることによって自ずと不安は小さくなっていくでしょう。中小企業経営者のみなさんには、会計を積極的に活用することで元気と勇気があふれる会社経営を続けてもらいたいものです。

(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2014年10月号