「波佐見焼」の産地として名高い長崎県波佐見町。浜陶は、かの地で陶器卸売業を営む老舗。濱田一夫社長(68)は、世の中のニーズを巧みに取り入れたオリジナル陶磁器の開発に意欲を燃やす。経営計画の策定、資金管理など新たな管理手法を次々と導入し、強固な財務体質を築いている。

持ち前の商品企画力で消費者ニーズに応える

浜陶:濱田社長(前列左)

浜陶:濱田社長(前列左)

──陶器の卸売りを手がけられていると聞きました。

濱田 全国のデパート、小売店に波佐見焼や有田焼を中心とした陶器類を卸販売しています。全国各地の卸売店さまをはじめ、150社ほどと取引しています。

──波佐見焼と有田焼の特徴を教えてください。

濱田 製法はどちらもほとんど変わりません。ただ、有田焼は飲食店、旅館などで営業食器として使用されたり、美術品として展示されることが多いのに対し、波佐見焼は一般家庭で使われる食器がメーンという用途の違いがあります。

──浜陶さんでは窯をお持ちなのでしょうか。

濱田 当社で企画したオリジナル商品を窯元に発注し、仕入れて販売する形態をとっています。創業当初は祖父が白無地の茶碗や湯呑みを買い付け、上絵加工をして販売していました。昭和30年代に交通インフラが整備され、各地のデパートで波佐見焼の食器が販売されるようになり、生産量が一気に伸びました。私は5代目にあたりますが、人々の趣味嗜好を取り入れた企画力で勝負しているつもりです。

──波佐見焼を代表する製品として「くらわんか碗」と「コンプラ瓶」があるそうですね。

濱田 江戸時代、伊万里港から大阪方面にさまざまな商品を舟で運んでいましたが、大阪の庶民の間で日常つかうお碗として広まったのがくらわんか碗です。商人たちが淀川を行き来しながら「めしくらわんか」というかけ声とともに食料品を売っていたことに由来するといわれています。コンプラ瓶はしょうゆなどをいれる瓶です。長崎にやって来た東インド会社の仲買人たちが、しょうゆやお酒を波佐見焼の瓶に詰めて持ち帰っていたそうです。
 波佐見焼は今からおよそ400年前、豊臣秀吉による朝鮮出兵の際、日本にやってきた李祐慶がのぼり窯を開いたのが始まりとされています。江戸時代に波佐見を治めていたのは大村家でしたが、藩の規模は小さく、必然的に庶民層が主要顧客になりました。一方、有田のある佐賀藩はお米の産地だったため、藩の財政に余裕がありました。有田焼は主に佐賀藩主の鍋島家に献上する進物品をつくり広まってきたという歴史があります。

──消費者のニーズを探るため、日ごろどんな活動をされていますか。

濱田 6名の営業担当者が北海道から九州まで全国の取引先さまを原則毎月訪問し、製品開発の打ち合わせを重ねています。近年ではデザイン性を高めた製品づくりに力を入れており、雑貨店や家具販売店でも当社の扱う陶器を販売していただけるようになりました。見本市にも積極的に展示していて、ちょうど今日も東京ビッグサイトで開かれている見本市に当社も出展しているところです。

──ホームページでも商品を販売されていますが、効果は?

濱田 社長になった10年ほど前からインターネット販売を始めました。波佐見町では「来なっせ100万人」をスローガンに、焼きものや農業を体験できる催しを開き、観光客の誘致に取り組んでいます。その一助になることができればと考えネット販売の窓口を立ち上げました。総売上高に対する小売り部門の占める比率はまだ低いですが、売上高は年々伸びてきています。

──利益を確保するため、どのような点に気を配られていますか。

濱田 父が社長を務めていたころから、日々の売り上げと仕入れを「日計表」に毎日記録しています。売り上げ、仕入れ、一般管理費の金額を前年の実績と見比べて、おかしいなと感じたら担当社員にすぐに確かめるようにしています。香月会計事務所の満倉さんから、会社の数字を常に意識するようにハッパをかけられていますから(笑)。

知りたい情報の詰まったマネジメントレターを提供

──『FX2』を利用される前は、市販の会計ソフトで入力されていたとか。

濱田 今から10年前、業績が伸び悩んでいて、改善できるところはないか考えていたときに、香月先生から『FX2』を紹介され導入しました。システムを切り替えた一番の要因は、『継続MAS』システムでつくった事業計画を予算として『FX2』に登録できるところ。今後は目標を設定して事業をおこなっていく時代だという認識がありました。予算を登録し売上速報メニューを開くと、日にちごとの売上高を予算対比グラフで確認できるのがありがたいですね。従来利用していたソフトは前年との対比しかできず、単なる入力マシーンでした。

──いつから予算を作成しはじめましたか。

濱田 『FX2』を利用した翌年からです。期首の7月までにいったん粗々の数字で計画を立てて、決算確定後の実績をふまえて9月に再度計画を練り上げています。5カ年中期計画の初年度を毎年切り出して『FX2』に予算登録しています。年々経営計画の精度は高まっており、頭の中に思い描く業績と実際の数字とのぶれがなくなってきています。 

──予実対比のほかに活用されている機能は?

濱田 営業担当者をそれぞれ1部門と見なし、損益管理を行っています。以前は複数部門の《変動損益計算書》をひとつの画面で比較できないという課題がありましたが、解決できました。

──具体的にはどのように解決されたのでしょうか。

樋口 監査担当の満倉さんに相談したところ『FX2』の「マネジメントレポート(MR)設計ツール」機能を紹介され、使い方を指導いただきながらオリジナルの部門別損益比較表を作成することができました。

香月 MR設計ツールを活用して毎月「マネジメントレター」を作成し、監査終了後に濱田社長にお渡ししています。

──マネジメントレターのボリュームは?

満倉 社長が読んですぐに理解していただけるよう、A4の用紙1枚にまとめています。樋口さんからお話しいただいた部門別損益比較表とキャッシュ・フロー計算書をそれぞれ5行程度のコメント入りで載せています。いずれもベースになっているのは『FX2』に登録されている最新業績です。 

──日ごろから『FX2』の資金管理機能も利用されているわけですね。

濱田 ええ。会社の資金の流れを把握できるようになりました。金融機関に融資を申し込む際、よく聞かれるんですよ。経営計画書や資金繰り実績表がないかと。資金繰り実績表を作成するのに以前は2~3日かかっていましたが、取引ごとに収支区分を入力してもらうことで、半日もあれば金融機関提出用の資料をそろえられるようになりました。

──実際、金融機関の反応はいかがでしょう。

濱田 取引銀行指定のフォームに合わせて資金繰り計画表を作成しているので喜ばれますね。決算書にTKCのロゴマークが入っていると、安心していただける印象があります。

──直近の業績の手応えは?

濱田 6月が決算月ですが、前期の売り上げは近年では最も良かったです。

香月 波佐見焼の伝統を守りつつ人々のニーズを的確につかみ、製品開発に生かす「時代対応力」がしっかり利益を生み出されているゆえんだと思います。

──抱負をお聞かせください。

濱田 販売ルートの拡大が目下の課題だととらえていて、展示会などに出展する機会は増えていくでしょう。日常食器以外のジャンルの商品企画にも挑戦し、波佐見焼のファンづくりにいっそう力を注いでいきたいと考えています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社浜陶
設立 1948年6月(創業1920年)
所在地 長崎県東彼杵郡波佐見町宿郷543
TEL 0956-85-3450
売上高 9億8000万円
社員数 49名
URL http://www.hasami-hamato.co.jp

CONSULTANT´S EYE
MR設計ツールを駆使し多角的な業績把握が可能に
担当 満倉俊一 香月章彦税理士事務所
長崎県佐世保市峰坂町5番29号 TEL:0956-22-8691
http://zeirishi-katsuki-2315.tkcnf.com/

 浜陶様とは昭和37年に顧問契約を結んで以来、かれこれ50年以上お付き合いをさせていただいています。当初は手書きで記帳されていましたが、その後他社会計ソフトを用いて経理処理を行われていました。景気低迷とともに売上高が減少していくなか、平成16年に『FX2』を導入いただいてからは、徹底した利益管理体制の構築に取り組まれてきました。

 現在浜陶様では『FX2』のさまざまな機能をご利用いただいていますが、とくに《利益管理表》、資金管理機能を経営の意思決定に大いに役立てられています。営業担当者一人一人を1部門に見立てて業績を把握されており、市場ごとの動向を予測し、販路の強化、市場の開拓につなげられています。また「マネジメントレポート(MR)設計ツール」を提供直後からご利用いただき、オリジナルの資料を作成し、詳細な経営分析と経理業務の合理化にご活用いただいています。

 近年、巡回監査におけるテーマは「利益管理体制の構築」から「経営助言」にシフトしてきており、「将来どうありたいか」を合言葉に『継続MAS』で策定した5カ年計画を元に予算対比を行っています。監査後にはスプレッドシートで作成したマネジメントレターにMR設計ツールを埋め込んで数値を示し、簡単なコメントを入力してお渡ししています。その他にも業績報告ツールとして、部門間の比較や全社における部門別のシェアが分かる部門損益比較表、決算書と同じフォームで出力可能な半期・四半期報告書など、MR設計ツールを組み込んだパッケージを提供しています。

 創業100年をひかえ、いっそうの発展を目指されている浜陶様の一助となるべく、より一層のシステム活用を切り口にあらゆる側面からご支援していきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2014年10月号