大手が群雄割拠し、厳しい競合が続く人材派遣業界。度重なる法律改正や構造的な薄利体質といった課題もある。そんなデリケートな業界で、設立以来、驚異の伸長率を示しているのがプレンティーアップだ。長澤康司社長と矢口岳史顧問税理士に、成長の秘訣を聞いた。

人材コンシェルジュを標榜し心のこもったサービスを

プレンティーアップ:長澤社長(右から2人目)

プレンティーアップ:長澤社長(右から2人目)

──プロのミュージシャンを目指しておられたとか。

長澤 はい。練習とライブに明け暮れながら、食べるためにオフィス家具の組立・施工を行う会社でアルバイトをしていました。ところが、20代半ばに結婚を考え、やはりアルバイトのままではまずいと……。そんなとき、あるクライアントから「独立するなら仕事の世話をしてやるよ」といわれ、その言葉に後押しされて独立したというわけです。平成12年でした。

──当初は苦労されたのでは?

長澤 声をかけていただいたお客さまからは約束通り大きな仕事をもらい、その後も、以前お世話になった別のクライアントも独立のうわさを聞きつけて仕事を回してくれるなど、比較的順風でした。

──矢口先生との接点は。

長澤 翌年、法人化(株式会社イーストアップ)しようと司法書士を探していると、たまたま矢口(岳史顧問税理士)先生と知り合いました。本当は司法書士を紹介いただくだけでよかったのですが(笑)、矢口先生から非常に詳細な計数管理の提案資料をいただき「こんなにやってもらえるなら」と顧問をお願いしました。

矢口 まだお子さまも首が据わらない状態で奥様が面倒を見ておられるなか、私が『FX2』などTKCシステムの立ち上げにお宅に伺ったことを、いまでも、鮮明に覚えています。

──その後は着実に事業を広げられ、17年にプレンティーアップを新設されることになるのですが、経緯を教えてください。

長澤 イーストアップは家具の組立・施工会社ですから、運び入れなどは人材派遣会社に頼んでいました。で、その派遣会社のスタッフが社員にモノ扱いされ、名前さえ呼ばれない状況を頻繁に目にしていました。彼らは当然モチベーション最低の状態です。営業マンの方も最初にこられるだけで、あとはなしのつぶて。だったら、スタッフのモチベーションが上がる仕組みで人材派遣のサービスが提供できれば、ニーズはあるのではと新会社を立ち上げました。

──創業7年で、売り上げが10倍、5億5000万円(グループ売上高は10億円)というのはすごいですね。秘訣は?

長澤 当社の特徴は2つあります。まず、社員と派遣スタッフの距離感が近いこと。食事会などのコミュニケーションの場を定期的に設け、各スタッフとの親睦を深めながら特徴を把握し、場合によっては悩み相談にのったりもします。それから2つ目の特徴は、クライアントに対して「できない」と極力言わないことです。事務所の掃除やプロジェクト期間だけのお茶出し、棚卸しの時の補充要員など、細かすぎてほかの人材派遣会社が嫌がるような仕事も拾いに行きます。常に、われわれはスタッフにとってもクライアントにとっても「人材コンシェルジュ」であるべきだと考えており、柔軟性のある心のこもったサービスを心がけています。

矢口 それと、思い切った権限委譲も当社の特徴でしょう。社員さんがどんどん成長していくのが見ていて分かります。

長澤 25年にプレンティーアップの請負事業部門をポリッシュという会社に分割し、現在、3社が事業会社として稼働していますが、イーストアップはすでに別の社長を立てており、近々、他の2社も社長を委譲したいと思っています。もともと私はゼロから1をつくるのが好きで、その後は他の人にやってもらえばいい。トップダウン経営よりも、権限委譲によって社員が自ら育つ環境をつくっていくことが重要だと考えています。

毎月の予実管理を積み重ね着実に業績を上向ける

──計数管理の重要性も社長ご自身が認識されているようですね。

長澤 経営をやってみて気づきました(笑)。これは矢口先生のおかげです。いまでは、社員には数字を意識しながら仕事をするように徹底しています。

──具体的には?

長澤 矢口先生のご指導のもと、当社では12月決算の前月の11月に単年度経営計画をつくり、併せてSWOT分析を行います。ちなみに昨年は11月7日に行いました。1日がかりになりますが、1年間の目標を定める大切な作業です。そして、定められた計画の数値を毎月の予算に落とし込んで『FX2』『SX2』(戦略販売・購買情報システム)で管理する。これを積み重ねることで右肩上がりの成長が実現できているのだと思っています。

矢口 単年度計画は『継続MASシステム』を使って作成し、毎月の巡回監査時には営業所別の変動損益計算書や3期比較財務諸表、そしてさまざまな経営指標の推移グラフなどをセットで提供しています。それらを製本して幹部社員に開示しておられますから、経営情報の共有も完璧です。

──SWOT分析を毎年なさるのは珍しいですね。

長澤 各役員から上がってきた当社の「強み」「弱み」「機会」「脅威」を矢口先生にまとめてもらうわけですが、内容が毎年変わるのがおもしろいですね。

矢口 時代は変化しますから、そこに対応するには常に経営を分析しておく必要があります。労働者派遣法改正も、あるいはリーマンショックのような景気の落ち込みも、分析してみると「機会」になり得るのです。

──社長が『FX2』等の画面を見ることはありますか。

長澤 しょっちゅうです。当社は盛岡、仙台、大阪、東京に営業所を持っており『FX2』で部門別(営業所別)管理をしていますが、もっとも気になるのは限界利益率(粗利率)です。人材派遣業というのは構造的に薄利ビジネスなので、限界利益率が下がりはじめたら何らかの手を打たなければなりません。打ち手としては新規顧客を開拓するか、あるいは既存顧客への値上げかどちらかですが、先日も1件値上げ交渉がまとまったところです。

──この時代にですか。

長澤 いまは人手不足で、人件費も時給もかなり上がってきてますからね。われわれの業態にとっては実はチャンスなんです。

──『SX2』はどういう使い方をされていますか。

矢口 イーストアップもプレンティーアップも仕事の質、1日に必要な人数などによって「商品」として分類しています。それがそのまま商品別の販売・購買管理につながるし、さらに締め日にはまとめて顧客別の請求書として出力できるので、『SX2』にのりやすい業態だといえると思います。もちろん、『SX2』に日々入力すれば、それが『FX2』に自動連動する仕組みです。

──今後はいかがでしょう。

長澤 私は人材派遣業は人対人の関係性で成り立つと考えています。繰り返しになりますが、決してスタッフをモノ扱いしないこと。そして、クライアントの要望には極力応える努力をすること。この2つを実践してきたおかげで、広告・宣伝への過度の出費を抑え、「紹介」を主力に仕事や登録スタッフを増やしてきたという事実があります。今後もこれを貫いていけば、どんなに景気が悪くなってもやっていけると思っています。
 また、創業以来、妻と矢口先生を右腕、左腕と考え、どんなに名案だと思ってもどちらかに反対されることはしてきませんでした。これが唯一の私の経営者としてのブレーキで、今後も変わりません。しかし、逆にいえば、2人の後押しがあれば、成長を目指して、新しいことにどんどん取り組んでいきたい。いま考えているのは不動産業への進出です。不動産を扱えるようになれば、提案から施工・管理までできるので、オフィス関連ビジネスを当社がワンストップで請け負うことができるようになります。その意味でもなるべく早く、不動産事業進出へのメドをつけたいですね。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社プレンティーアップ
設立 2005年10月
所在地 東京都品川区東五反田2-6-5
売上高 5億5000万円
社員数 20名
URL http://www.ppu.co.jp/

CONSULTANT´S EYE
「自己限定」を排除し上昇気流を確実につかむ
税理士事務所タクティクス 税理士 矢口岳史
東京都港区三田2-9-5 TEL:03-6672-7561
http://www.tactix.or.jp/

 プレンティーアップの長澤社長とは、平成13年に家具組立・施工会社のイーストアップを法人化された時からのお付き合いです。当初から「自己限定」を嫌う方で、たとえば、前年比で売上高2倍を達成しても「もうこれで十分」などというゆるんだ言動をまったくされません。それが飽和市場といわれる人材派遣業で驚異的な伸長率(6期連続増収黒字を継続中)を実現され続けている本質部分だと考えています。

 一方で、人の使い方も非常に上手な方です。現在は、ホールディングカンパニーの下にイーストアップとプレンティーアップを配置し、プレンティーアップの子会社としてポリッシュを設立。計4社のグループ経営をされていますが、事業会社3社のそれぞれにキーマンを置き、大胆な権限委譲をしながら効率的な人材育成を実践されています。

 派遣スタッフに対する心遣いも細やかです。社員とスタッフのコミュニケーションを何よりも重視し、たとえば、年末の忘年会では年間を通して活躍したスタッフを、金一封とともに表彰するなど、人として認め合うことによるモチベーションアップにつとめておられるのです。

 システム面では創業当初から『FX2』『SX2』『PX2』(戦略給与情報システム)を、グループすべての会社に導入され、経営に生かされています。とくに『FX2』では、地方の営業所でも『全社業績の問合せ』を見ることができるよう、データ展開用の『FX2』を用意しているほどです。さらに、『SX2』については、今年3月に上位機種の『SX4』への移行が予定されており、そうなると遠隔入力も可能となり、より一層利便性が増すでしょう。

 当事務所の顧客のなかでも出色の成長率を誇る同社の経営力向上に、今後とも微力ながら貢献させていただければと思っています。

掲載:『戦略経営者』2015年2月号