日々のルーティンワークはさくっとすませて、趣味やスキルアップ、家族のために時間を使いたい──。そんな欲求にこたえる商品やサービスが増えている。ヒットしている背景、開発の裏側を追った。

プロフィール
うしくぼ・めぐみ 日本大学芸術学部卒業後、大手出版社に入社。5年間勤務後、独立し、マーケティング会社を設立。近著は『「バブル女」という日本の資産』(世界文化社)、『大人が知らない「さとり」世代の消費とホンネ』(PHP研究所)。数多くのテレビ、ラジオのコメンテーターとして活躍中。

──「時短」を掲げるさまざまな商材が人々から支持されている現状をどう分析されますか。

キーワードは時短

牛窪 ヒットした時短商品の先駆けは、1990年代にパナソニック(旧・松下電工)の発売した食洗機だったと思います。それまで食洗機というと、主婦が家事を手抜きできる道具といったイメージだけでしたが、当時病原性大腸菌O157が流行していたことから「家族の健康を守る」という付加価値を訴求して成功しました。
 掃除、洗濯、料理などの家事を効率化するいわゆる時短家電がはやっている要因として、家事にかかる時間を短縮することに対する抵抗感が多少薄れてきたのも大きいですね。家事を怠けていると思われるのを特にいやがるのは、1965~70年生まれまでの真性バブル世代まで。女性が結婚後、家事をきちんとこなすのが美徳だった戦前生まれの親御さんを見て育ったためです。ところが現在アラフォーの団塊ジュニア以降は、女性はこうあるべきという考え方にあまりとらわれていません。団塊ジュニア世代の多くが働きながら子育てをしているいま、時短家電のラインアップが幅広くなっているのもうなずけます。

──時短製品は家電以外の領域にも広がってきています。

牛窪 花王の液体洗剤「ウルトラアタックネオ」は、手早く汚れを落とせるうえ、「幸せな時間」の創出が売り。洗濯機のスピードコースの設定方法もウェブサイトで説明しています。私も以前は全自動モードで洗濯していましたから、変更可能と知ったときは目からうろこでした。休日や夜、短時間でまとめて洗いたいという人たちのニーズにはまったといえるでしょう。しかも水道代、電気代を抑えられるので、家計や環境にもやさしい。光熱水費の節約志向、エコ志向は震災後、特に顕著になりました。

──働く女性をターゲットにした商品が多いようですね。

牛窪 働きながら、育児や家事を日々こなしている女性のほうが時短ニーズはより切実だからだと思います。団塊ジュニアの女性にインタビューすると「30分以上かかる料理は苦行」と答える人がいる一方、家事幻想のようなものが依然残っていて、すべてを機械任せにすることに罪悪感が若干あります。その点、いま話題の「おにぎらず」(『戦略経営者』2015年6月号P13参照)はいい線を突いていると思います。

──昨年、急にブレークしました。

牛窪 握る手間を省きつつ、具材を工夫して「手作り感」を出せるところが忙しい女性たちのハートをつかみました。通常のおにぎりより、いろいろな食材を詰められるので、冷蔵庫の中にあるちょっとしたおかずを再利用できるのも大きなメリットですね。

──男性にうけている時短サービスはありますか。

牛窪 団塊ジュニアの男性はちょうど働き盛りの年齢で忙しいうえ、イクメン願望もあり、仕事でも効率よく専門性を身に付けたいという欲求を持っています。
 「フライヤー」(同P16参照)はビジネス書の要約サービスですが、多忙なビジネスパーソンが短時間で本の要点をおさえるのに適していますし、早朝1時間500円で英会話を学べる「ワンコイン英会話」もはやっていると聞きます。もちろん教材を買って独学するやり方もありますが、短時間であってもプロの講師に指導を受けるほうが、短時間で成果があがると考える人が増えてきているのだと思います。

──スキルを高めたいというニーズがあると。

牛窪 知識面はもちろん、職場や取引先の人たちなど他者からどう見られているか、外見を一つの武器とも考えますよね。百貨店の洋服コーディネートサービスも、多忙な一般のビジネスパーソンも利用するご時世になりました。女性には、ちょっとした空き時間に立ち寄って運動できる、30分1セットのサーキットトレーニングも人気を呼んでいます。

広がるメリハリ消費

──消費者は時短により捻出した時間やお金をどんなことに充てているのでしょうか。

牛窪 まず、シングルの女性の消費性向として、仕事でがんばった自分へのご褒美、自分磨きのための時間に使っています。家計簿アプリで毎日の食費などを、短時間で効率よくしっかり記録しているのに、ご褒美という名目で結構高額な商品を通販サイトから買ったりしています。メリハリでバランスをとるわけですね。自分磨きにつながるスクールやヨガ教室も人気です。結婚して子どもが生まれると浮いた時間を家族のために使う傾向が強まりますが、それでも自分も働いていると、より多忙なうえストレスもたまるので、マッサージに行ったりスポーツクラブで運動して気分転換しています。

──男性はいかがでしょうか。

牛窪 男性は結婚するとほとんどの人がお小遣い制になり、毎月の平均額は3万円台といわれています。自由に使える時間とお金が非常に限られている現状で、一番投資したいのは趣味の分野だと考える割合が多い。夜は残業に追われ、休日は家族サービスでなかなか時間が取れないなか、唯一自分の時間を持てるのが朝の時間帯。早朝に観光地に寄ったり、運動をした後、出社する活動は「エクストリーム出社」といわれ、ビジネスパーソンの間でじわじわと広がりを見せています。

──ビジネスチャンスが見込める領域をお聞かせください。

牛窪 料理や掃除などの家事代行サービスは確実に伸びるでしょう。代行サービスは日本で導入が遅れている分野。担い手不足を解消しようと、政府も規制緩和を行い外国人労働力の活用を推進する方向に向かうようです。冒頭で話したとおり、団塊ジュニアまでは家事を“丸投げ”することへの罪悪感が残っていますが、いまの20代の人たちはコスパ(コストパフォーマンス)重視。彼らが親世代になったとき、代行サービスを利用することにそれほどためらいを感じないはずです。

──家事時間の削減に罪悪感をおぼえる世代とそうでない世代の端境期にあるわけですね。

牛窪 そうですね。現20代の中心・ゆとり世代が親世代になれば様相はガラッと変わるかもしれません。コンビニで買った総菜をそのまま食卓に並べることに抵抗感がなくても、子どものお弁当をつくるのに何時間もかけたりする。そして写真に撮ってフェイスブックやインスタグラムなどにアップします。味より見た目なんですね。
 自社の商品、サービスは人々の時短ニーズを満たしているのか、そうでなければここぞというゆとりの消費にかなう物なのか見極めることが大切です。どちらの方向性を目指すのか、強みがあるのかを考えて、いずれかのニーズを拾えればチャンスはあります。
 たとえば理髪店であれば、短時間で前髪だけカットできるサービスをメニューに加えたり、予約の入っていない時間帯をウェブサイトに掲示して、すき間時間にお客さんを呼び込むのも手です。あるいは、マッサージでゆったりリラックスできたり、店主との会話を楽しめるお店もあっていいと思います。
 自社のサービスを時間軸で掘り下げると、あらたな顧客を開拓できるのではないでしょうか。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2015年6月号