昨今、中小企業の人材難は増すばかり。入社希望者のクオリティーは落ち、ようやく気に入った人を見つけても実は「モンスター社員」だったりと、苦労が絶えない。唯一の解決策は「入り口」の改善、つまり採用面接の見直しである。

プロフィール
ほそい・ともひこ 1960年京都府生まれ。同志社大学文学部心理学科卒。株式会社リクルートキャリア面接コンサルタント。転職希望者向けセミナー参加者は延べ10万人超で、6000人の転職希望者を内定に導く。企業(面接担当者)向けセミナーも実施し、約200社を担当。人事担当者をはじめ経営者まで、企業面接官3000人以上に面接のアドバイスをしている。
リクルートキャリア 面接コンサルタント 細井智彦氏

細井智彦 氏

 中小企業が採用面接する際に留意するポイントは、自社の業務に合致する「即戦力」かどうか。それから、「すぐに辞めない耐久力のある人材」かどうかである。この2つの資質を正確に確認するには、やはりまずは転職の理由を探るしかない。しかし、この場合、気をつけてほしいのは、ダイレクトに「転職を希望する理由は?」と尋ねないこと。こういう聞き方では「もっと仕事の幅を広げたかった」などというとってつけたような準備済みの答えが返ってくるのが関の山だ。

 多くの人は、人に言いづらい理由を抱えて転職を決断する。会社の不正を垣間見たり、セクハラやパワハラを受けたりといったことは、一見正当性のある理由だが、「マイナスに受け取られるのではないか」との疑心もついてまわる。そのために口をつぐんでしまって、こころにもない理由をつくり出してしまうのである。しかし、会社側はこの垣根を越えなければ本質にたどりつくことができない。

 ではどうすればよいのか。

 まずは「何がきっかけであなたは転職活動に踏み込んだのか」と聞いてあげてほしい。そこでたとえば「サービス残業が増えて基本給も減らされた」と返ってきたとする。では、その人ははたして、上記のようなきっかけが存在しなければその会社に残っていただろうか。たいていの場合、答は否だ。よくよく聞いてみると、サービス残業等はきっかけにすぎず、実はすでにその会社で働く気はない。あるいは、すでに総合的に嫌気が差しており、環境を変えて心機一転頑張りたいという気持ちを持っている人が多い。つまり、転職のきっかけを聞き出せれば、建前を排除し、裏側にあるその人の本質に近づける可能性が高まる。どういう環境(会社)で何を実現したいと思っているのか……その本音を聞き出すことが、優れた人材を採用する第一歩なのである。

具体的な「掘り下げ」が必須

 もう少し細部に踏み込んで説明していこう。

 応募書類が来た際、まず前職によるプロファイリングを行ってほしい。どこの会社で、どのような役割を果たしていたのか、どの層の顧客に何を販売していたのかなどを「5W1H」に分解してシミュレーションしてみるのだ。そうすると自社の求めるスペックに合致する部分、つまり「接点」があるかどうかがおぼろげながらでも分かってくる。その接点が多ければ多いほど、その会社にとって「使える人材」の可能性が高い。

 ちなみに、職務経歴書にやたら過去の自慢や抽象的なことばかりを並べ立てている人は好ましくない。たとえば「ここでは実に多くのことを学習できました」など、具体的な5W1Hや、実践したPDCAサイクルの記されていない自慢話は意味がない。

 これは、実際の面接時においても同様である。話が抽象的で理屈ばかりをしゃべる人は避けた方がいい。重要なのは具体性と行動力である。逆に、面接官の側からいえば、その具体性を引き出すための「掘り下げ」をどう行うかがポイントとなる。「掘り下げ」を行う際に大切なのはそれが「圧迫」にならないこと。ところで、いま、ネットなどで悪名が高い一部企業の「圧迫面接」は、企業側の不安が現れたものといえる。たとえば、

応募者 「より高度なマネジメントのスキルを身につけたくて転職を希望しました」
面接官 「いまの会社でもスキルは身につくと思いますが。なぜ転職が必要なのですか」
応募者 「貴社のような会社の方がよりよく勉強できるかと……」
面接官 「それは理由になっていませんね。もう少し具体的に」

 このように追及するのは、掘り下げの手法の一つである。しかし、圧迫的なので、警察が被疑者に対するような懐疑的なやりとりとなる。これは枝葉末節に向かいがちだし、逆に応募者の口を閉ざしてしまう。もっといえば口コミによる思わぬ中傷につながるリスクもあるだろう。

 とはいえ、圧迫面接と「良い面接」は表裏一体であることもまた事実である。人間を掘り下げるという姿勢に何ら変わるところはない。が、両者の違いは、良い面接官には「傾聴する姿勢がある」ということである。

まずは応募者を「受容」する

 大事なのはまず応募者を受容することだ。緊張は採用不採用とは無関係であることを伝えながら、本人の実践したきたことをヒストリカルにしゃべってもらう。肯定的な相づちを入れながら「よく頑張ってこられましたね」などと相手の「承認欲求」を満たし、距離感を近づけるのである。企業側への質問をうながす際にも、残業や休日、賃金など応募者が聞きにくいと思われる項目も「遠慮なく聞いてください」と前置きすることを忘れないでほしい。これら一連の「受容」の姿勢があってはじめて、相手の本音が引き出せる。ちなみにこれは、新卒採用の場合もまったく同じである。

 さらにいえば、発言の矛盾を追及するのではなく、「○○の経験はどれくらい積まれてきたのか」「これまではどこが物足りなかったのか」「あなたの目指す○○のスタイルはどういうものか」などと、話しやすい質問に転換して聞いてあげることが重要。相手を追い詰めることが目的ではない。

 ここでは、いまはやりの「コミュニケーション力」を気にする必要はない。どんな人にも会話をする力はある。ただ、そのスタイルが違うだけ。飛び込みセールスに向いたコミュニケーション力もあるしルートセールスに向いたそれもある。短絡的に「明るくて口数が多い人がコミュニケーション力が高い」などと決めつけてしまうと、実際の業務とのミスマッチを起こすことがある。

 そのようなミスマッチを防ぐには、あらかじめ、自社の「できる社員」をプロファイリングしておき、その人の資質に応募者の資質をあてはめていくのも有効な方法だ。

新卒には「考えさせる」

 中途、新卒に限らずあらゆる採用の局面で中小企業で決定的に足りないのがアウトプットの意識。面接は「選ぶ」場であるとともに「選ばれる場」である。他社にはない魅力や仕事のおもしろさを伝えるのも面接官の重要な仕事だ。

 その際、意識したいのが具体的なエピソードやストーリーを「活き活きと」話すこと。「教育制度が充実している」のなら、研修などの頻度や内容を伝え、入社したらどのように成長できるのかをイメージさせてあげる。たとえば「入社後すぐに○○のプロジェクトを任された」「2年目で○○の技術を身につけた」などと社内のロールモデルとなる人物を例に上げると伝わりやすいし、面接官自身の経験を語るのもリアリティーが出て良いかもしれない。

 中小企業が優秀な新卒学生を採用するのは非常に難しい時代になっている。学生は面接対策を周到に立ててくる。そのため、通り一遍の質問では本質は見抜けない。

「相手を受容して掘り下げる」という基本は、既述した中途採用の場合と変わるところはない。だが、学生には職務経験はなく、聞くべきことが限られる。なので、より「その場で考えさせる」工夫が必要だろう。学生時代にきらびやかなエピソードを持つ人など一握りである。手っ取り早いのは、現在の就職活動をどのように行っているかを聞くこと。そこに真剣さや工夫を垣間見ることができれば見込みのある人材といえるだろう。これは中途にも応用できるが、「いまは地方の時代といわれるが、当社にできる地方向けの新商品をあなたの若い感覚で考えてみてほしい」などと、具体的な相談を投げかけてみるのも有効かもしれない。臨機応変の受け答えが必要になるので地頭の良さもチェックできる。

 想定していない質問によって応募者に自主的に考えさせ、しゃべらせることが、応募者の本質を見抜くこつといえる。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2015年6月号