本誌ではこれまで、マイナンバー制度施行に伴う企業経営者への留意事項を繰り返し喚起してきた。また、制度施行後に想定されるさまざまなリスクを回避し、マイナンバーを安全・安心に管理できる『PXまいポータル』の開発・提供も告知してきた(『戦略経営者』2015年8月号P4~5「マイナンバー制度への対応は大丈夫?」参照)。今回は、提供開始間近のこのクラウド・サービスの全貌を、TKC営業企画部の角能一徹次長が解説する。

TKC営業企画部 角能一徹次長

角能一徹 氏

──マイナンバー制度施行に伴い、いよいよ、11月から『PXまいポータル』の提供がスタートします。このクラウド・サービスの特長について教えてください。

角能 マイナンバーには「収集」「利用」「保管」「廃棄」という、4つの利用場面があります。どれも重要で、どれも対応が必要ですが、真っ先に取り組むべきは「保管」です。

──なぜでしょう。

角能 マイナンバーの「保管」には、24時間365日、向き合う必要があるからです。もちろん「収集」「利用」「廃棄」にも、リスクは潜んでいます。しかし、優先順位をつけるとするなら、マイナンバーをどうやって安全に「保管」するか、まずそこに取り組むべきだと考えています。

データセンターの「質」

──『PXまいポータル』を利用すると、マイナンバーを安全に「保管」できるのでしょうか。

角能 はい。『PXまいポータル』を利用することで、マイナンバーをTKCデータセンターに預けていただくことができます。つまり、マイナンバーとそれに伴うリスクを、TKCが引き受けましょう、というクラウド・サービスです。印刷や画面問い合わせなど、必要な時にだけTKCデータセンターのマイナンバーにアクセスするので、事業所内のパソコンにマイナンバーは「保管」しません。これにより、事業所からマイナンバーが漏えいするリスクは大幅に軽減することになります。また、事業所内のパソコンのなかにマイナンバーが「ない」ということで、事業所内に求められるセキュリティ対策もシンプルなもので済みます。これも『PXまいポータル』の魅力のひとつです。

──しかし、昨今の個人情報漏えい事故のニュースを見て、クラウド・サービスに不安を抱く事業者もいるのでは?

角能 事業者がクラウド・サービスの利用を検討される際に、最初に確認していただきたい重要なポイントがあります。それは「どのようなデータセンターを利用しているのか」という点です。「日本国内のデータセンターですか」「自社データセンターですか」「その会社の社員が自ら運営するデータセンターですか」といった質問を、ぜひ投げかけていただきたいのです。『PXまいポータル』を提供するTKCデータセンターは、これらの質問にすべて「YES」とお答えできます。TKCデータセンターは国内に所在する自社データセンターで、株式会社TKCの正社員が24時間365日、サービス稼働状況の監視などのすべてを運営しています。また、アウトソーシングの受託者として客観的に評価いただけるよう、ISO/IEC27001(情報セキュリティに関する認証)を取得しています。また、主として上場企業が利用するサービスにおいては、日本公認会計士協会の実務指針に基づく「受託業務に係る内部統制の保証報告書」(86号報告書)を受領しています。

── データセンターの「質」が問われる時代なのですね。

角能 はい。TKCはクラウド・サービスの生命線と言える、データセンターの安全性確保に継続的に取り組んでいます。また、先の東日本大震災では、TKCデータセンターも震度6強の強い揺れに見舞われましたが、免震構造によって物品落下や建物への被害はまったくありませんでした。また、近隣は約24時間停電したものの、TKCデータセンターでは自家発電機(72時間分の燃料を備蓄)が稼働して、サービスを1秒たりとも停止させることはありませんでした。このような実績もあって、情報セキュリティへの意識の高いお客様からも、TKCデータセンターは高い評価をいただいています。

業務に組み込んで対応

──マイナンバーの「収集」や「利用」といった場面でも、『PXまいポータル』を活用できると聞いています。

角能 役社員数の多い事業者、店舗や工場などの拠点を複数展開されている事業者、ITへの取り組みが進んでいる事業者には特に、「収集」や「利用」といった場面でも『PXまいポータル』を利用していただきたいです。

──「収集」をどのように支援してくれるのですか。

角能 給与の支払いを受けている「給与所得者」は、配偶者控除や扶養控除などの控除を受けるために、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下、「扶養控除等申告書」といいます)を毎年記入して「給与の支払者」に提出します(記載内容に異動がある場合は再提出)。マイナンバーを記入すべき書類のうち、最初に記入が求められるものの一つが、来年1月の給与支払日の前日までに提出が必要な「平成28年分」の扶養控除等申告書です。『PXまいポータル』の「扶養控除等申告書のWeb入力・確認機能」を利用することで、役社員はスマホやパソコンを利用してウェブから扶養控除等申告書を入力・確認できます。事業者は、扶養控除等申告書と一緒に、役社員のマイナンバーを「収集」できるのです。

──マイナンバーだけを「収集」するのではないのですね。

角能 はい。マイナンバーだけを収集することも検討しましたが、マイナンバー制度は行政の効率化、国民の利便性向上、公平・公正な社会を実現するための社会基盤です。マイナンバー制度は、一過性のものではありません。マイナンバー制度について個別に対応するのではなく、一連の業務の中に組み込んで対応することが最善だと判断しています。

──「扶養控除等申告書のWeb入力・確認機能」は、比較的役社員数が多い事業者のための機能なのですか。

角能 いいえ。『PXまいポータル』の「扶養控除等申告書のWeb入力・確認機能」は、すべての事業者におすすめしたい機能です。マイナンバーは秘匿性の高いデータなので、可能な限り電子データとして管理するのが望ましいと思います。なかでも特に、役社員数が多い事業者や、店舗や工場などの拠点を複数展開されている事業者に効果的ということです。『PXまいポータル』なら、スマートにマイナンバーを「収集」できます。
 さらに、扶養控除等申告書を電子データで取り扱うことの大きなメリットが、もう一つあります。

──どういうメリットですか。

角能 事業者には、役社員から提出を受けた扶養控除等申告書を、7年間保管する義務があります。もし、扶養控除等申告書をこれまでどおり「紙」で収集する場合、マイナンバーが記載された扶養控除等申告書を、7年間も「紙」で保管する必要があるのです。ですが、安心してください。一定の条件を満たせば、所轄税務署に申請書を提出することで電子データでの保管が認められます。もちろん、『PXまいポータル』の「扶養控除等申告書のWeb入力・確認機能」は、その条件を満たしています。加えて、マイナンバーは事業所内に「保管」しませんので、安全・安心です。

──「利用」という場面での『PXまいポータル』は?

角能 事業者におけるマイナンバーを「利用」する場面の多くは、国や地方公共団体等での手続きで、書類にマイナンバーを記載するといった場面です。この場合、マイナンバーを記載した書類の提出先は国や地方公共団体等なので、提出先は限られます。しかし、マイナンバーを記載する書類の中でも、「源泉徴収票」は少々やっかいです。1通は税務署(一定の場合)、1通は支払を受ける者に交付する義務があるからです。つまり、マイナンバーを記載した源泉徴収票を、役社員一人ひとりに事業者が交付する必要があるのです。

──源泉徴収票の交付は、扶養控除等申告書の提出と反対の流れですね。

角能 そのとおりです。そこで、おすすめしたいのが『PXまいポータル』の「給与明細等のWeb閲覧機能」です。マイナンバーを記載した源泉徴収票を役社員へ安全に交付でき、役社員はスマホやパソコンを利用して、源泉徴収票をウェブで閲覧できます。ここでも電子データとして源泉徴収票を取り扱うことで、交付に伴うリスクを大幅に軽減できるはずです。毎月の給与明細もウェブで閲覧できますので、役社員の利便性向上に繋がります。マイナンバー対応だけでなく、役社員の皆さんから喜ばれるのが『PXまいポータル』です。

「廃棄」も自動かつ適切に

──「廃棄」という場面ではどうですか。

角能 『PXまいポータル』は、TKCの給与計算システム『PXシリーズ』とセットでご利用いただくクラウド・サービスです。マイナンバーの「廃棄」は、その『PXシリーズ』で対応します。
「廃棄」については、どうしても忘れがちになると懸念しています。なぜなら、先ほど話題に上がったとおり、扶養控除等申告書には7年間の保管義務があります。社員が退職してすぐにマイナンバーを「廃棄」するのではなく、7年経過した後に「廃棄」する必要があるのです。そのため、『PXシリーズ』には、扶養控除等申告書の保管義務期間の7年を経過した退職社員のマイナンバーを、自動的に削除する機能を搭載します。

──だとしたら「廃棄」も安心ですね。

角能 「廃棄」について、もう一歩踏み込んで考えてみると、バックアップデータの課題に気がつきます。

──バックアップデータの何が課題なのですか。

角能 市販のパソコン給与計算ソフトがマイナンバーに対応する場合、当然ながらそのソフトが作成するバックアップデータの中にも、マイナンバーは「保管」されるはずです。では、社員が退職してマイナンバーを「廃棄」する場合はどうしたらいいでしょうか。ひとつひとつのバックアップデータを復元して、マイナンバーを「廃棄」する必要があります。これは相当に骨が折れる作業です。
『PXまいポータル』を利用していただければ、事業所内のパソコンにマイナンバーはありません。『PXシリーズ』のバックアップデータの中にもマイナンバーはありませんので、『PXまいポータル』ならこの課題についても解決できます。『PXシリーズ』とセットでご利用いただくことの、大きなメリットです。
 いずれにせよ、情報システムやサービスは、適切な導入支援があってこそ、その効果を発揮します。マイナンバー制度は新しい法律制度ということもあり、なおさらです。1万人超の税理士集団であるTKC全国会では、「マイナンバー制度アドバイザー事務所」制度を創設しており、すべての事業者にマイナンバー制度への適切な対応をアドバイスすべく、体制を整えています。『PXまいポータル』の詳細につきましては、ぜひ、TKC全国会の会員税理士までお問合せください。

掲載:『戦略経営者』2015年10月号