ジェネリック薬品ならぬジェネリック家電といわれる機能を絞った値頃感ある製品でユーザーの支持を得る中小メーカーが急増中だ。家電市場ではいったい何が起こっているのか。4社に取材して、その実態に迫ってみた。

 2005年創業以来、倍々ゲームで売り上げを伸ばし、今年度は300億円の年商を見込むネット総合通販のMOA。家電を中心とした品ぞろえで自社サイト『プレモア』を中心に楽天、アマゾン、ヤフー、DNAなどでネット店舗を展開している。

 MOA執行役員の岩崎康志氏(MOASTORE社長)はいう。「当社は100を超える仕入れルートからニーズに合致した製品をネットですばやく提供することが特徴です。とくに液晶テレビには強く、商売の性格上、どういう製品がどういう時期に、あるいはどういう層に売れるかなど、マーケティングが完璧にできていたんですね。これが自社ブランド『MAXZEN』(マクスゼン)開発に踏み込んだ大きな要因でした」

 それでも、流通業者がメーカーとなるにはいくつもの超えなければならないハードルがある。「そこまでして本当に利益が出るのか」との思いもよぎっただろう。しかし、MOAでは、液晶テレビのほんの少しの需給の乱れを見逃さなかった。営業本部の猪熊慎也課長はこういう。

「2011年に地デジ化が完了し、しかもエコポイント制度の終了などもあって、12年あたりからメーカーが利ざやの薄い小さい方のインチから撤退していき、結果として供給が間に合わない状況になってしまったのです。とくに当社のお得意先であるホテル、病院などの法人への供給製品が品薄で困ってしまいました」

 解決策はひとつ。「自分たちでつくる」だった。まず、狙いをボリュームゾーンの32型に絞った。当時の32型のナショナルブランド(NB)の店頭価格が3万円程度。これを2万5000円にすれば十分勝負になると踏んだ。

 とはいえ、メーカーと小売りはまったくの別物。試行錯誤を繰り返し、社長をはじめ経営陣や取引先のつてを総動員しながら信頼できる中国の工場との生産委託契約を結ぶことに成功。

 岩崎執行役員は言う。

「こだわったのは品質でした。ジェネリック家電は参入は比較的簡単でも、安かろう悪かろうではすぐにユーザーにそっぽを向かれてしまう。実際、撤退した会社もたくさんあります。当社の製品は、録画など高度な機能はそぎ落としましたが、ボードは東芝製、IPS方式という視野角の広い液晶パネルを採用し、電源や基盤も、一流メーカーのOEMを手がけている台湾の信頼できるメーカーのものを使用しました」

 懸案だったテクニカルサポートも大手メーカーのアドバイスをもらいながら別会社で対応。2万5000円での販売のメドがついた2013年8月、いよいよ32型のマクスゼンブランドの液晶テレビが発売された。

 第1弾は500台。これは法人需要で3カ月で売り切れた。その後も人気はうなぎのぼりで、翌年5月には19インチを発売。すぐに月1000台以上を当たり前のように売り上げるようになった。今年の2月には24インチを発売。品薄が続く小型テレビ市場をニーズに対応し続けている。

ネット口コミで評価が上昇

 何しろ、マーケティングやリサーチにかけては専門家である。大手メーカーのように、宣伝広告費をかけずに初期費用を抑え、ネットをうまく使って口コミで知名度を上げていく。

 ネットモールによくあるユーザーの「感想」が書き込まれている掲示板を重視したのもその一つ。品質にこだわっただけに、そのコストパフォーマンスを評価する声が積み上がっていく。そのことで商品に対する信頼感が徐々に醸成されていったのである。

 たとえば本日付(11月某日)の楽天でのマクスゼン32V型の液晶テレビの評価はデーリーで2位。991件の書き込みの平均評価が5点満点中4.39。極めて高い数字だ。

 ネットを使いこなす世代にとって、テレビCMなどより信頼できる情報は、圧倒的にネットモールサイトなどでの書き込みであるといってよいだろう。MOAはここでの評価を意識しつつ、マクスゼンブランドを育てていった。

 もちろんMOAにとって液晶テレビが終着点ではない。今年の2月には全自動洗濯機を満を持して発売。これも発売と同時に法人からの引き合いが殺到し即完売の状態が続き、個人ニーズにまではなかなか至らない状況だという。岩崎執行役員が続ける。

「今後は、“新生活”をキーワードに次々に、家電を中心とした製品を発売していく予定です。液晶テレビと洗濯機は発売済みですが、電子レンジや掃除機もすでに新製品の企画が進みつつあります。一人暮らしの新生活には、高級な家電は必要ありません。ある程度の品質が担保されれば、安いものの方が支持されます。われわれは今後、この市場を狙っていきたいと考えています」

 小売りで培ったノウハウをメーカーとして100%生かしている印象のMOA。マクスゼンブランドの今後が楽しみである。

(本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2015年12月号