モノが廃棄されるまでの距離を長くしたい──。リサイクルとリユースとの狭間にある第3の流れを生み出そうとしているのがナカダイの中台澄之・常務取締役(43)だ。廃棄物をマテリアル(素材)とみなす、中台常務の試みとは。

プロフィール
なかだい・すみゆき●ナカダイ常務取締役にして、「モノ:ファクトリー」代表。1972年生まれ。東京理科大学理学部卒。証券会社を経て、1999年にナカダイ入社。「発想はモノから生まれる」をコンセプトに「モノ:ファクトリー」を創設。
中台澄之氏 ナカダイ常務取締役

中台澄之 氏

「今までの『捨てる』と『使う』をつなぎ、これからの〝廃棄〟に新しい価値を創造できればと思っています」

 群馬県前橋市で廃棄物処理業を営むナカダイの中台澄之・常務取締役はこう語る。同社がメーンとしているのは、収集・運搬した廃棄物を自社の処理工場で選別・解体したり、リサイクルしやすいように圧縮したりする仕事。鉄やアルミ缶等の金属をベーリングプレスで圧縮したり、ビニール等の軟質プラスチックを圧縮梱包(こんぽう)器で圧縮したり、木製品を細かく砕いてチップ状にしたり……。同社の工場内ではさまざまな作業が行われている。

 金属や樹脂類をコンパクトに圧縮するのは、それをリサイクル(再資源化)して使ってくれる業者のもとに届けるうえで都合がよいからだ。圧縮してブロック状にすれば、トラックやコンテナに積みやすい。たとえばアルミ缶を原料に戻して別の製品にしたりと、単一素材にまで選別・解体したものを再び同じ素材の商品の材料に使用することをマテリアルリサイクルと呼ぶ。また、再資源化できない木くずなどをバイオマス発電所の燃料に使用したりするサーマルリサイクルもある。ナカダイでは、廃棄物をきちんと解体・分別することで、これらのリサイクルを積極的に推し進めている。

 廃棄物を有効活用しようとする点ではここまででも十分なような気もするが、中台常務はそこからもう一歩先に踏み込んで、新たなかたちでのリユース(再利用)を提案している。これらの試みが、〝廃棄〟に新しい価値を創造する「リマーケティングビジネス」だ。

 中台常務が言うところのリマーケティングビジネスとは、要するに「使い方を創造する」ことである。通常の廃棄物の流れは、リサイクルショップで販売するなどのリユースが難しければ、マテリアルリサイクルやサーマルリサイクルで再び原料に戻したり、あるいはリサイクルが困難なものについては焼却・埋め立てと進むのが一般的。しかし中台常務は、さらに「産廃マテリアル(素材)」として活用するという選択肢を用意する。

「廃棄された椅子を例にとって説明しましょう。鉄製のフレームはマテリアルリサイクル、ウレタン製の座面・背もたれはサーマルリサイクル、そして再資源化が難しい塩ビやゴム製の脚カバーについては焼却・埋め立てというのが通常の流れでしたが、工夫しだいでもっと別の使い方ができるのです。脚カバーでアクセサリーを作ったり、座面や背もたれをエアバッグの生地で張り替えたり……。つまり、廃棄物に素材としての新たな価値を見いだすのです」

廃棄マテリアルの量り売り

 北関東自動車道・駒形ICの近くにあるナカダイの廃棄物処理工場の敷地内には、緑色の文字で「モノ:ファクトリー」と記した看板をかかげた2階建ての建物がある。その1階フロアには少々変わった光景が広がっている。古い信号機や黒電話があるかと思えば、色とりどりのLANケーブルを水に見立てたプールがあったりもする。さらに小箱がズラリと並んだスペースもある。

「その小箱に入っているのが、廃棄物から取り出したマテリアルです。1種類ずつ小箱に入れて単品管理しているこれらを、当社では『マテリアルライブラリー』と称しています」

 このマテリアルライブラリー、まるでお菓子を量り売りしているお店を連想させる。実際、ナカダイではこれらのマテリアルを100グラムあたり数百円で量り売りしているそうだ。大量生産をするうえでどうしても発生してしまう樹脂・ガラス・金属などのロス品や、古くなった電子機器の部品などが多い。でも、これらに一体どんな用途があるのだろうか。

「群馬の工場以外にも、品川のショールームで常時150種類以上のマテリアルを取り扱っていますが、建築家、アーティスト、ファッション関係の人たちなどが頻繁に訪れてくれています。それらのクリエーターたちが自由な発想で活用してくれています」 

 廃棄物とあなどるなかれ。アイデアしだいでさまざまなものに使えるのだ。たとえばゴミとして持ち込まれた約1メートル四方の白いプラスチック製のタンク(容器)。英国で製造された溶剤を日本に船で運ぶ際に使ったものだ。通常なら即、捨てられてもおかしくない。でもその中に照明を仕込めば、おしゃれな大型フロアライトに早変わりする。

「都内で行われたファッションショーでそれらを数十個並べたところ、大勢の来場者の目を釘付けにしました」

 このタンクは、船で運んでいる途中に何らかのアクシデントで海に落ちたとしても、中身の溶剤が海中に流出しないようにと丈夫な作りでできている。これと同様のライトカバーを一から作ろうとしたら、相当に値が張るだろう。最小限のコストで魅力的なものを作ろうと思ったら、廃棄マテリアルを活用するのは有効な手段となり得るのだ。

「以前、ある百貨店からシルバーウイークの催事用に日の丸のディスプレーを作りたいので直径3メートルの赤の部分に使える素材がないか、と相談されたこともありました。環境のことを考えると、1週間だけ飾って捨てるのはもったいない。だからもともと廃棄物である素材を使いたいとのことでした」

 こうしたかたちで、廃棄物の「捨てる」と「使う」をつなぐのが中台常務の試みなのである。

工場見学で社員の意識が変化

 中台常務が、父親(中台正四社長)が代表を務めるナカダイに入社したのは1999年のこと。大学卒業後、証券会社の社員としてやりがいのある毎日を送っていたが、それまで鉄・非鉄スクラップの販売を中心にしていたナカダイが総合リサイクル業に転身を図るという話を聞きつけて、入社を願い出た。環境問題に対する世の中の関心が高まるなかで、自分だからこそできる何かがあると感じてのことだった。

 その後、中台常務がとりわけ力を注いできたことは、廃棄物を回収する顧客企業のリサイクル率を高めていくことだった。分別をきちんと行い、再資源化できるものは可能な限りそうすることに努めた。各企業に環境対策が求められるようになる中でこれが評判を呼び、大手家具メーカーの群馬工場など、取引先の数を一気に増やした。生産ロスで生み出された廃棄物などが大量に持ち込まれるようになるなかで、しだいに中台常務は「これらの廃棄物をただ再資源化するだけで満足していてよいのだろうか……」と疑問を感じるようになった。

 たしかに廃棄物を回収する量が多いほど会社の売り上げは増えた。でもこれでは廃棄物をたくさん集めたもの勝ちのビジネスでしかない。本当に環境のことを考えるなら、廃棄物の再利用を促すことも自分たちが果たすべき役割ではないか──こうした思いから生まれたのがリマーケティングビジネスのコンセプトであり、「モノ:ファクトリー」というブランド名だった。

 近年、同社ではリマーケティングビジネスの一環として、「工場見学」や「ワークショップ」の開催をおこなっている。廃棄物処理工場を見学したあと、廃棄物である素材を使ってアクセサリーを作ったり、パソコン解体の体験をしてもらったりしている。群馬県の温泉ツアーの一環として首都圏からバスでやってくる人たちも多いという。

「工場見学に訪れる人にしてみれば廃棄物を解体したりする作業がクリエーティブに見えるそうです。『こんなことをやっているのか、すごい!』という歓声を耳にして、自分の仕事に誇りを持つようになった社員も少なくありません。離職率がだいぶ低くなったのは、みんなの意識が変わったからでしょう」

 ナカダイのリマーケティングビジネスの活動は、経済産業省の「グッドデザイン・未来づくりデザイン賞」を受賞することにもつながった。廃棄物処理業者の従来のイメージをよい意味で覆していく中台常務。今後の展開が注目される。

(取材協力・永田会計事務所/本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社ナカダイ
設立 1956年3月
所在地 群馬県前橋市駒形町1326
売上高 約8億円
社員数 約50名(パート含む)
URL http://www.nakadai.co.jp
http://monofactory.nakadai.co.jp

掲載:『戦略経営者』2016年2月号