外資系企業の上陸や近隣住民とのトラブル発生で「民泊」が話題です。興味があるので法整備の現状や今後の見通しなどについて教えてください。(不動産業)

 民泊とは、民家に旅行者を宿泊させることをいいます。話題になっている民泊は、旅行者からの宿泊料の支払いをその目的とする点において、従来のホームステイなどとは一線を画します。民泊は大きく3つのスタイルに分けることができます。

 1つ目は、農林漁家民泊です。旅行者に農業・漁業体験等の田舎体験をさせることを目的とした民泊で「農家民泊」などと呼ばれることもあります。自治体ごとに異なる規制がありますが、営利を目的としない民泊であるという点においてはおおむね共通しています。

 2つ目は、イベント民泊です。2015年の規制改革実施計画によって認められた民泊スタイルで、イベント開催時の宿泊施設不足が見込まれる場合に限り、開催地自治体の判断で民泊を認めるというものです。2015年12月に福岡県で行われたアイドルグループのライブ時のイベント民泊は大きなニュースとなりました。その後、このイベント民泊を利用した自治体は出てきていませんが、今後定着すれば地方での一時的な宿泊施設不足に貢献できる可能性があります。

 最後が、ちまたで話題の「民泊」で、外国人旅行者を民家に宿泊させ、その対価として宿泊料を得るスタイルです。宿泊予約、料金決済はインターネットサイトを利用してオンラインで行うこのスタイルが国内で爆発的に普及しつつあります。その背景には、増え続ける外国人観光客に対する慢性的な宿泊施設不足と、そこに目を付けた外資系企業が運営するマッチングサイトの人気があります。通常の不動産投資に比べ設備投資や初期費用が安く済み、1泊5000~1万円の宿泊料金によって通常の賃貸収入の数倍もの収入が得られるというメリットが評価されているようです。

規制緩和で適法化の流れ

 もっとも、こういった民泊を自治体の許可なしに行うことは、旅館業法違反となります。旅館業法では、社会性をもって反復継続的に宿泊料を得て宿泊行為をする場合には、自治体の許可が必要とされています。自治体の調査も不十分で実態はよく分かっていませんが、無許可民泊によるトラブルも多くなっているようです。特にマンションでの民泊に関しては今後、管理規約の問題や騒音・ごみ問題は避けて通れないでしょう。

 そんな中、政府は規制緩和によって民泊適法化の方向へかじを取り始めています。それが国家戦略特区での特区民泊です。一定の要件のもと、特区内で行う民泊に対して旅館業法の適用が除外されるという制度ですが、1月29日に東京都大田区が全国に先駆けて開始しています。大阪府や大阪市などでもこの制度の運用が決まっており、特区民泊の流れは今後さらに拡大する見込みです。

 一方、特区民泊の動きと並行して政府は旅館業法の本格的な規制緩和についても検討しています。旅館業法上での許可要件である床面積やフロント設置義務についての規制緩和が2016年中にも行われることとなっています。2020年の東京オリンピックを控え、宿泊施設対策は増え続ける外国人観光客に対する喫緊の課題といえます。民泊を安心して利用できる早急な法整備が望まれます。

掲載:『戦略経営者』2016年3月号