自分が所属する部門のことが最優先で、となりの部門はむしろ敵──。そんな全体最適とはほど遠い「縦割りのカベ」をなくすことができれば、会社は大きく変わるだろう。

プロフィール
まつうら・たけし●有限会社ウィルミッツ/株式会社プロセス・ラボ代表。1969年生まれ。京都大学経済学部卒業後、東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)審査部で銀行主導の企業再建、合併、清算に従事。その後、ベンチャー企業で会計、人事、総務の管理業務を統括。ベンチャーキャピタルを経て、2002年にウィルミッツ、2006年にプロセス・ラボを創設。
縦割りの壁をなくせ

 「隣の事業部の電話が鳴っていても出ない」
 「製造部門と販売部門の衝突が絶えない」
 「『あいつらが会社の足をひっぱる』など、『あいつら』という言葉が聞こえてくる」

 社内のこんな状況に思い当たるフシはないだろうか。「それってわが社だよ……」とため息をついた経営者のみなさんに警告しておこう。あなたの会社には間違いなく、縦割り(セクショナリズム)の壁がある──。

 人間はある程度の人数が集まると、派閥を作る。会社の場合、「組織」と「派閥」がくっつくケースが多い。そして、セクショナリズムを生み出すわけである。

セクショナリズムの要因

 縦割りの弊害は、大企業のものとして考えがちだが、中小企業についても決して他人ごとではない。社員数が10人を超えて20人、30人と増えていくと、複数の部門を持つようになる。すると決まって、セクショナリズムの芽があちこちで吹き出してくる。

 なぜ従業員たちはセクショナリズムにとらわれてしまうのか。その主な要因としては、つぎの3つが考えられる。

 ①仲間意識
 ②縄張り意識
 ③視界の狭さ

 仲間意識とは要するに、従業員の組織に対する「思い入れ」だ。人間がまだサルだった頃、自分たちの身を守るために群れをなす必要があった。人間にもそれと同じように、利害関係の一致する周囲の仲間と徒党を組み、群れを作る習性がある。群れを守りたいという人間の本能が、群れだけを優先する方向に進むことで生まれるのが、セクショナリズムなのだ。もちろん「会社」に対して最大の仲間意識を感じていればよいのだが、そうではないケースが意外と多い。いつも飲み会をしているような〝仲良し部門〟がたくさん存在することが、むしろ仇(あだ)になってしまう場合があるのだ。

 2つ目の縄張り意識というのは、自分たちのテリトリーを守りたいという思いから生まれるもので、たとえば「そのお客さんはうちの部門の得意客だから、余計な口を挟まないでください」といった主張となって表れる。ちなみに縄張り意識は、部門やチームのほかに、最小単位では「個人」にまで広がっていく。「私の好きなようにやらせてください」とか「なぜ、そんなことを説明しなければならないのですか」というような言葉が出ていたら要注意だ。こうした個人の縄張り意識は責任感から発生することもあるが、やはり全体最適を阻害する有害なものであろう。

 そして3つ目の視界の狭さについては、能力の低い従業員や、経験の少ない従業員ほどよく見られがちで、「全体最適→部内最適→課内最適→自分だけが良ければいい」といった具合に、狭い範囲でしか物事を捉えることができない。結果、他部署の人たちが敵に見えてしまうのだ。

〝横串〟の人的交流を設ける

 では、社内のセクショナリズムをなくすには、どんな方法があるのか。

 ひとつには、異なる部署の従業員同士が交流をもてる「社内サークル」を作ったり、部署間の壁を取り払ってみんなで楽しめるイベントを開催するなどして、縦割りだった人的交流に〝横串〟を通すことが挙げられる。部署をまたいだ人的交流が盛んになれば、そこに新たな仲間意識が生まれ、「自分の部署だけが良ければいい」という考えが払拭(ふっしょく)されていくのだ。部署横断型のプロジェクトチームを作って、各部門の選抜メンバーが部や課の垣根を越えて何かに取り組んだり、あるいは新入社員の面倒を見るメンター(お兄さん、お姉さん役)をあえて他部署の人間に任せるというのも、組織に横串を通すやり方の一つだ。

 さらに、「ジョブ・ローテーション」を定期的に行うことにより、そもそも縄張り意識など持てないようにすることも効き目がある。「いまは製造部門に所属しているが、いつ販売部門に配属されるかわからない」といった状況があれば、下手にケンカなどできないのである。ただ、ジョブ・ローテーションを頻繁に行える組織にするには、「業務マニュアルの作成」が欠かせない。仕事の属人化が進むと、簡単には異動させられなくなる。それを防ぐためには、新たに仕事に就いた社員でもすぐに業務をこなせるようにマニュアルの整備が必要となる。

 また、自社の製品・サービスによって恩恵を受けた顧客の講演会などを開いて、「わが社の存在意義」を社員みんなで共有したり、経営理念を明確にして会社として進むべき方向を社員にきちんと認識させることも、セクショナリズムを撲滅するうえで一定の効果を期待できる。つまり、「全社志向」を育むように努めるのだ。

 団体スポーツを思い浮かべてみると何となくわかると思うが、自然発生的に生まれる仲間意識は多くとも20人程度が許容範囲とされている。だから、20人以上の会社については、「顔のわかる仲間」とは異なる、「思い・価値観・言語などを共有する仲間」のような意識をお互い持てるようにするための何らかの工夫が必要となる。社内の縦割りをなくしたいのなら、この視点をぜひ忘れないでもらいたい。

「組織変更」も有効な手

 セクショナリズムの弊害をなくすうえで、とりわけ社長に求められるのは、部門同士の仲が良いかどうかを普段からチェックしておくことだ。部門長同士、あるいは各部門の構成員同士の仲が良いようならば問題ないが、決して仲が良いとはいえないようだと、もしかしたらそれが会社の業績に暗い影を落としている可能性がある。複数の部門長が集まっての会議で「それは営業部がやる仕事じゃないの?」なんて声が聞こえたとしたら、要注意である。

 手っ取り早くセクショナリズムを撲滅したいのなら、「組織変更」を積極的に行うこともお勧めだ。たとえば、A製品部とB製品部を統合して、新たに「販売部」「製造部」「アフターサービス部」に分けるといったものである。私がよく知るソフトウエア開発会社のなかにも、まさにこうしたやり方で縦割りの弊害をなくすとともに、部門間のシナジー(相乗)効果を新たに生み出し、飛躍を遂げたところがある。

 中小企業でも成長を続けているところは、手がける事業、あるいはサービスの種類がしだいに増えていくことから、おのずと組織変更がなされる。結果として、人の動き(異動)も激しくなり、セクショナリズムが芽生える前にメンバーが刷新されていく。しかし成長が止まっている会社は、人の動き自体も停滞しがちとなり、縦割りの弊害が生まれやすい。その自覚がある会社は、なるべく意識して組織変更を実施していくことをお勧めしたい。

(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2016年12月号