ネットワークで勝つ

 去る3月8日、東京・神田錦町で、ある研修会が開かれた。熱気がムンムンと漂う会議ホールには、300名超が文字通りぎっしりと集結。『一般社団法人AZ-COM(アズコム)丸和・支援ネットワーク』(AZ-COMネット)のパートナー企業研修会が行われたのだ。ちなみに、AZ-COMネットの創設は一昨年4月、一般社団法人となったのは昨年11月である。現在パートナー企業は660社(3月現在)。ここ1年で急増したという印象だが、数年以内にはさらにこれを3000社にまで持っていく予定だという。

 いずれにせよ、会場に一歩足を踏み入れた瞬間、「これは違うな」と直感した。というのも、通常の研修やセミナーは、どうしてもダラダラとした「やらされ感」がどこかに漂っている場合が多いが、当研修は、緊張感がピンとはりつめていたからだ。入り口には主催者である丸和運輸機関の社員が一列に並んで、来場者を出迎える。歓迎の大声が飛び交い、勢いとやる気の爆発的空気感が漂っている。研修がスタートすると、さらに驚いた。発表者の方々のきびきびとした態度と明瞭な声でのプレゼンテーション。また、AZ-COMネットの理事長をつとめる丸和運輸機関の和佐見勝社長の情熱ほとばしる発表。さらには、事務局からの、パートナー企業となるメリットの詳細説明。一片の緩みもない重厚な内容をたたみかけられ、出席者もただただ演台を食い入るように見つめている。

「本気度」と「情熱」が違う

 さて、そんな吸引力を持つAZ-COMネットとは一体何なのか。一口にいえば、「東証一部上場企業である丸和運輸機関がコアとなり、全国の中堅・中小物流業者をネットワークする試み」(『戦略経営者』2017年4月号13頁・図表1参照)である。こう書くと、とくだん目新しいものにも思えないが、他の「○○組合」などと決定的に違う部分がいくつかある。

 まず第一には、やはり和佐見理事長を中心とする「本気度」と「情熱」である。今回の研修会においても同理事長は「命をかけて」という言葉を発している。それだけの本気度を見せられたパートナー企業は、自然と「お!」と前のめりになる。さらにたたみかけるように「同音同響の経営」という企業理念をうたい「社員あるいは会員企業すべてが共に感じ、『考働』し、同じ目標を持った同志として経営に参画すること」を強調。その上で、バイイングパワーを駆使しながら業界ナンバーワンを目指すと宣言する。熱意があふれる講演である。

 第二には、決して感情論やかけ声ばかりではないこと。宮川洋司組織拡大本部長は「社長(理事長)は無類の勉強家。論理を積み上げ、〝手数料ゼロ〟など利他の精神でお互いの利益となるプロジェクトを常に考えています。そのため完全なトップダウン。理事長のビジョンをわれわれが形にするというスタイルなので、非常に経営のスピードが速い」という。

 さて、肝心のパートナー企業への経営支援メニューだが、まずは図表2(同14頁・図表2参照)を参照いただきたい。さまざまな施策が入れ子のごとく組み合わされている。以下、具体的にあげてみよう。

 ①良質な仕事を提供しながら支払いサイトを20日に短縮する。これにより会員のキャッシュフローの改善が見込まれる。

 ②物資の購入において30~50%の経費削減を目指す。たとえば、燃料の共同購入。それから、地上設置型燃料タンク(コンボルトタンク)の提供も6月をめどにスタートする。

 もちろん、車両自体の価格にもメリット感を出す。大型車で100万円、4トン車で50万円、2トン車で30万円、軽で15万円の値引きを実現。その上、さらなるコストダウンを目指し、AZ-COMスタンダードの車両をある大手メーカーに開発依頼しているという。パソコンや事務用品も同様に大幅な値引きを実現している。

 まだある。丸和運輸機関では大手ドラッグストアなどとの取引から、梱包(こんぽう)資材などをかなり安く購入できる。これをパートナー企業に順次開放していく。第一段として梱包用資材のストレッチフィルムを共同購入サイトで販売。市販の約半値で購入できるようにした。

 以上はほんの一部。これら多彩な施策によって、結果として、全体で50%以上の圧倒的なコストダウンを実現していくという。

 その上で、③経営計画策定、計数管理の指導などで経常利益10%以上の幸福企業づくりを目指す。

階層別の教育支援メニュー

「現在、業界の約50%の会社が赤字と言われています。パートナー企業の経常利益が10%以上出る会社にすれば、銀行から低利でお金を借りることができるでしょうし、取引先の信頼も増して良い仕事も舞い込みます。そういうプラスのサイクルをネットワーク全体でつくりあげていきたい」(和佐見理事長)

 また、④経営者(後継者)コースや物流センタースタッフコース、運行管理者コース、あるいはセールスサービスマンコースなど、階層別の教育支援メニューを提供。自己啓発支援なども含めて人材の教育に力を入れる。また、教育という意味では⑤最先端の物流を勉強するために、年2回の海外視察を実践する。

 ⑥ファイナンスの相談も行う。
 金融機関の紹介をはじめ、リース会社もAZ-COMネットに加入しており、バラエティーに富んだ金融サービスを提供する。

 ⑦年会費無料のアズコムカードの発行。大手カード会社と提携をしながら、今夏をメドにAZ-COMネットならではの特典を用意しているという。取引先も家族も年会費無料となる。

 貨物自動車運送事業者数は全国で6万2000社を超える。その内訳は10両以下の業者が56%。11台から20台が21%、全体の94%が50台未満というのが現状だという。AZ-COMネットは、ここをターゲットにしている。

「今後、行政と交渉・説得するには94%を支援するというミッションをベースにしないと難しい。高速道路の完全50%割引もわれわれの重要な目標です」(和佐見理事長)

 それにしてもすごい話である。過去に例をみない中堅・中小業者を巻き込む形での物流業界の一大イノベーション。読者の方々には、次ページに続く、丸和運輸機関社長、AZ-COMネット理事長の和佐見勝氏への単独インタビュー、さらにはパートナー企業のレポートを読んで真贋(しんがん)を含めた評価をしていただきたい。

(本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2017年4月号