職場で食べるおやつを軽視するなかれ──。じつは朝・昼・夕の三度の食事以外におやつを食べることは、メタボ予防にも効果がある。ほかにも、足りない栄養素を補給するための「補食(ほしょく)」の機会として捉えれば、おやつを食べることのメリットはさらに広がる。公認スポーツ栄養士として活躍する橋本玲子さんに、〝おやつの効用〟について伺った。

プロフィール
はしもと・れいこ●株式会社Food Connection代表、管理栄養士/公認スポーツ栄養士、2003年ラグビーワールドカップ日本代表、サッカーJ1横浜F・マリノス(1999年~2017年)、ラグビートップリーグ・パナソニック ワイルドナイツ(2005年~現在)、車いすバトミントン選手の栄養アドバイザーとして、トップアスリートのコンディション管理を「食と栄養面」からサポート。現在は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、各国の選手団が滞在するホストタウンにおける食のサポートにも力を入れている。
実践 もぐもぐタイム

──職場でおやつをとる効用・メリットをあげるとしたら何ですか。

橋本 「間食をすると太る」といった具合に、間食にはこれまであまりよいイメージがなかったかもしれませんが、パソコン作業などで脳をフル稼働させているビジネスパーソンの場合、むしろ積極的にとることをお勧めします。
 脳のエネルギー消費量は全身の20%と言われており、骨格筋に続く〝大食い器官〟です。よく仕事で疲れると甘い物が食べたくなりますが、それは脳のエネルギー源であるブドウ糖が少なくなっているサインです。ブドウ糖が足りなくなると、血糖値が下がり、集中力の低下を招きます。仕事の能率にも影響してくることを考えると、仕事の合間に甘い菓子を少しつまんだりすることは、むしろ業務の生産性を高めるうえで必要なことなのです。

──そう聞くと、おやつを食べることに罪悪感がなくなります。

橋本 堂々と食べていいと思います。また、職場の同僚たちと一緒におやつを食べることにより、「コミュニケーションを円滑にする」という効果も期待できます。おやつを食べながらの会話ははずみます。職場内のチームワークが高まり、仕事にもよい影響を与えるのではないでしょうか。
 それと、「補食(ほしょく)」という観点からも、おやつの時間を設けることには意義があります。
 一昔前であれば朝、昼、夕の三食を多くの人が当たり前のように食べていましたが、いまは20代の若者を中心に朝食を取らない人が少なくありません。その場合、身体に必要な糖質を含めて、さまざまな栄養素が不足しがちになります。また最近は、ダイエットやメタボ予防に励むあまり、必要なエネルギーや栄養素をしっかり取れていない人も多い。そうした現代人にとって、食事と食事の間に行う「補食」がたいへん重要な役割を果たします。たとえば「毎日この時間にヨーグルトを食べることでカルシウム不足を補おう」とか、「毎日この時間にスムージーを飲むことでビタミン不足を補おう」といった具合に、計画的に補食をしていくと、よりバランスのとれた食生活に近づきます。

──まさしく「おやつタイム」といったように、おやつを取る時間帯を決めてしまったほうがいいわけですね。

橋本 好きなときに、好きなように食べていたのでは、過剰に食べ過ぎてしまうことにもなりかねません。少し小腹がすいたり、疲れてきたなと思う時間帯を見極めて、ある程度固定するほうがよいでしょう。時間を決めて食べていると、食べ物の消化・吸収と代謝がスムーズに行われるので、そのほうがいいと思います。

「分食」の意味合いもある

──おやつを取ることは、「ドカ食い防止」にもなると聞いたことがあります。

橋本 お昼にランチを食べた後、夜の9時とか10時に帰宅するまで何も食べずにいたのでは、おなかがすき過ぎてしまいます。そんな状態で夕飯を食べ始めるとなかなか止まらなくなり、どうしても食べ過ぎてしまう。これを防ぐためにも、昼食と夕食の間におやつを食べておくとよいのです。
 空腹で血糖値が低くなっている状態から一気にガッと食べると、血糖値が急激に上がり余分な糖が脂肪として身体に蓄えられやすくなります。つまり、肥満が糖尿病になる確率を上げることにもなります。
 これを避けるためには、たとえば残業前におにぎりとオレンジジュースを口に入れて、家に帰ったら主食のご飯は食べずに、おかず(肉・魚)と野菜だけを食べるといった形で夕食を2回に分けたりするとよいでしょう。こうした食べ方は、「分食(ぶんしょく)」とも呼ばれています。おやつには、この分食の意味合いもあるのです。

──つまり、おやつを取ることは、やり方しだいでメタボ予防にもなると……。

橋本 もちろん、摂取エネルギーの目安量をまるで無視したおやつの取り方をしていたのではメタボ予防の効果は期待できません。できれば1日に摂取するエネルギー量の10%程度にとどめておきたいところです。その程度であれば、栄養のバランスが崩れることなくおやつを楽しむことができます。
 たとえば30~49歳の「身体活動レベルがふつう」の男性であれば1日あたりの推定エネルギー必要量は2650キロカロリー、女性なら2000キロカロリーです(『戦略経営者』2018年7月号24頁・図表1参照)。なので、おやつの目安量としては、男性200~300キロカロリー、女性150~200キロカロリーの範囲にするとよいでしょう。

──おすすめのおやつとしては、どんなものがありますか。

橋本 一例をあげるとすれば、図表2(同24頁・図表2参照)に記したものがそうです。たとえば、フルーツヨーグルト(1パック)、カットフルーツ(1パック)、アーモンド(約25粒)、豆入りかきもち(3枚)、カステラ(1切れ)、串あん団子(1本)などです。チョコレートについても板チョコ1/3枚なら、140キロカロリーに収まります。

──カステラ1切れ(160キロカロリー)よりも、串あん団子1本(130キロカロリー)のほうがカロリーが少ないというのは、見た目のボリュームからして少し意外な気がします。

橋本 洋風のお菓子には砂糖と油が多く使われています。一方で和菓子は、油の使用が少ないため、カロリーが抑えられているのです。ケーキ1個を食べてしまうと、400キロカロリーくらいになってしまいます。たしかに洋菓子好きの人からすれば、少なすぎると思われるかもしれませんね。
 それなりの〝腹持ち〟を期待するのなら、脂肪とたんぱく質を含むナッツ類(アーモンド、落花生など)に目を向けるのもいいかもしれません。また、ビタミンやカルシウムなどの栄養補給という点では、やはり果物やヨーグルトがおすすめです。

現代人は栄養不足?

──ところで、平昌オリンピックで注目されたカーリング娘の「もぐもぐタイム」については、どんな印象をお持ちでしたか。

橋本 イチゴを食べているシーンがクローズアップされていましたが、試合中のストレスで消耗したビタミンを補う意味からも、ハーフタイム中に果物を口にすることは理にかなっています。また、カーリングは非常に頭脳を使う競技。糖分を含んだ甘いお菓子も意識して食べていたのでしょう。
 ただ、デスクワークであまり動かない人については、好きなおやつを食べて気分転換するということも大事ですが、できれば「適正なカロリーの範囲内で、栄養価の高いものを選んで食べる」ことも意識してほしいと思います。

──現代人はそれだけ栄養が足りない状態なのでしょうか。

橋本 栄養失調とまではいかないものの、エネルギー摂取量が年々減ってきていて、戦後の食糧難の時代よりも摂取量が少ないのは心配です。メタボといった言葉が一人歩きして、特に若い人を中心にダイエットを過剰に意識している。その結果、ビタミンやミネラル、カルシウムといった本来、身体に必要な栄養素も不足しがちになっています。なので、それらを豊富に含んだ果物、ナッツ類、ヨーグルトなどは特におやつとして最適なんです。

──中小企業経営者もそうしたことを意識しながら、従業員の健康管理に気をつけたほうがよいのかもしれません。

橋本 社員のコンディションを良くするという点で、おやつの時間の導入は一つのきっかけとなるはずです。「仕事中に間食するなど、けしからん」などと目くじらを立てるよりも、むしろ「きちんと食べているか」と、おやつを積極的にすすめたほうが会社はよい方向に向かうのではないでしょうか。

(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2018年7月号