将来の社長を目指す後継者の育成を図る中小企業大学校東京校の「経営後継者研修」。徹底した自社分析で、経営に関する専門的知識を習得できるカリキュラムには定評がある。今年も、すべての講義を修了した24名の次世代経営者が巣立った。彼らはこの研修を通じて、どのような成長を果たしたのだろうか。

ゼミナール論文発表会

「ゼミナール論文発表会」の様子

 西武鉄道拝島線・東大和市駅から歩いて約10分の場所に、中小企業大学校東京校がある。その講堂内で今年7月19日と20日の両日にわたり、第38期経営後継者研修の「ゼミナール論文発表会」が行われた。10カ月間にわたる研修の最後を締めくくる〝卒業式〟を兼ねた一大イベント。派遣元企業(研修生を送り出した会社)の社長や、ゼミの担当講師などが見守るなか、24名の研修生(うち3名が女性)が一人ずつ論文を発表した。この日をさかいに、彼らは中小企業大学校を巣立っていく。

実践的な知識を習得できる

中小企業大学校東京校

 今野高・東京校校長がこう語る。

「みんなここに来る前は、後継者としてやっていけるのか、何らかの不安を持っています。しかし研修を通じて同じ境遇の仲間と出会い、一緒に勉強しながら後継者としてやっていく『自覚』を強めていく。ゼミナール論文発表会は、これから本気で経営者になろうという、彼らにとっていわば〝決意表明〟の場なのです」

 経営後継者研修は、国が行っている唯一の後継者育成プログラムで、38年の歴史を誇る。次代の経営者を目指す後継者に必要な基本的能力や知識を実践的に習得できるところにカリキュラムの特徴があり、毎年20名前後の研修生が10カ月(毎年10月上旬~翌年7月下旬)のあいだ、基本的に校舎併設の寮で共同生活を送りながら、後継者としてのマインドとスキルを磨き上げていく。

「研修では自社分析を軸に、座学で習得した知識(財務、経営戦略、マーケティング、人的資源など)や知識を応用する演習、実習から得た現場の知恵などをもとに、あらゆる角度から自社を見つめ直します。
 例えば、財務や経営戦略などに関して学んだ知識を、『自社決算書・財務分析』や『自社経営戦略・マーケティング分析』といった形で必ず自社にあてはめて考える機会が設けられているため、経営の現場で使える実践的な知識として習得できます」(今野校長)

 そして、それら研修の集大成として作成するのがゼミナール論文だ。経験豊富なゼミの担当講師がきめ細やかな個別サポートを行うなか、自社と自身の将来構想とアクションプランを明確に描いていく。

「おそらく入学したばかりの頃は、経営の専門用語が彼らには通じなかったはず。経営戦略やマーケティングなどの言葉を部分的には知っているかもしれませんが、トータルでわかっている者は誰一人としていなかったでしょう。しかしここで10カ月間勉強すれば、経営に関する十分な専門知識が身につき、実務家とも〝共通言語〟で会話ができるようになります」

生涯にわたる仲間ができる

 研修生の平均年齢は29歳ほど。大学卒業後、ほかの会社で修行を積んだのち、親が経営する会社に戻ってくるタイミングで受講するケースが多いということもあり、25~35歳の年齢層が大半を占めている。とはいえ40代の参加者も決して珍しくはなく、年齢層の幅は広い。

 なお出身地や、派遣元企業の業種はさまざま。中小企業大学校は全国に9校あるが、経営後継者研修を開講しているのは東京校だけなので、全国各地から受講者がやってくる。

「業種や年代を超えて、生涯にわたって語り合える仲間を作ることができるのも経営後継者研修の魅力です。10カ月間の研修期間で密度の濃い人間関係を築くうちに、お互いに腹を割って話せるようになります」

 また横のつながりだけでなく、各方面で経営者・経営幹部として活躍する770名超のOB(卒業生)との縦のネットワークに加われる点も魅力の一つだ。

「最近は、中小企業大学校の後継者研修を卒業した父親の勧めで息子さんが入校し、親子2代で学ばれる方も増えています」

 ちなみに研修に参加するにあたっての受講料は、126万円(教材費含む)。寮に入る場合は、寮費が別途かかる。ほかにも、講義の一環である現地視察等の旅費・宿泊費(例年15万円程度)などが必要になるという。現在、第40期(2019年10月開講)の研修生を募集しているので、興味のある方は中小企業大学校東京校のホームページ(「東京校」検索)をチェックしてみるとよいだろう。

「次世代の経営者を目指している人たちは、ぜひわれわれのもとに飛び込んできてください。経営後継者として頑張っていく『自覚』がきっと芽生えてくるはずです」と今野校長は話す。

(特集構成/本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2018年9月号