2020年4月、中小企業を対象に「時間外労働の上限規制」が施行される。労働時間の適切な把握、職場の業務効率化を図るにはITツールの活用が欠かせない。手軽に導入できる時間管理ツールを紹介するとともに、取り組みに着手した企業をリポートする。

プロフィール
もちづき・けんご●特定社会保険労務士/残業ゼロ将軍®。2003年社会保険労務士試験に合格。残業ゼロの労務管理™支援実績250社以上、就業規則づくり支援実績700社以上、人事制度づくり支援実績250社以上にのぼる。『「労務管理」の実務がまるごとわかる本』、『「人事・労務」の実務がまるごとわかる本』(共に日本実業出版社)、『小さな会社でもできた!働き方改革 残業ゼロの労務管理』(第一法規)ほか多数の著書がある。

──「働き方改革法」の大まかな施行スケジュールを教えてください。

現場に効く労働時間管理

望月 働き方改革法には八つの柱があり(図表1『戦略経営者』2019年11月号11頁参照)、今年4月1日以降、段階的に施行されています。ただし中小企業では一部規定の施行が猶予されており、2020年4月に「時間外労働の上限規制」が、21年4月には「同一労働同一賃金」が施行されます。

──時間外労働の上限規制の内容で経営者が押さえておくべきポイントは?

望月 ご承知のとおり、労働基準法では法定労働時間を1日8時間、1週原則40時間と定めています。法定労働時間を超えて働かせるには、「労使協定」(36(サブロク)協定)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出をしなくてはなりません。
 36協定を締結する際、時間外労働は月45時間以内、年360時間以内との基準が厚生労働省から示されていたものの、労基法に明示の規定はありませんでした。もっとも1人でも従業員を雇用している経営者なら、月45時間という上限は頭の片隅にあるはずです。また、これらの原則の上限時間を上回る繁忙期等を想定し「特別条項付きの協定」を結ぶこともできますが、特別条項の上限時間はこれまで定められていませんでした。
 今回の法改正により、時間外労働の原則の上限として1カ月45時間、1年360時間以内と労基法で明示の規定として定められるとともに、実質青天井であった「特別条項」の内容にもメスが入れられました。すなわち①年720時間以内②1カ月100時間未満③2~6カ月平均80時間以内という要件が規定されたのです。②と③には休日労働時間も含まれます。仮にこうしたルールに違反した場合、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられます。

──適用が猶予、除外される業務もあるそうですね。

望月 建設、運送業務、医師は24年3月31日まで現行のままとなります。同年4月1日以降は、他の業種と同様の規制、あるいはより緩やかな規制が適用される予定です。他方、研究開発業務では上限規制が適用されません。ただ、その場合でも、法定労働時間を超える時間外労働をさせる場合は、36協定を締結し労働基準監督署に届け出る必要があります。

──中小企業はどのような課題に直面すると見込まれますか。

望月 前述のとおり、遵守するべき時間外労働の上限として特別条項の規定を含め五つの数値があるため、いっそう正確な労働時間管理が求められるのは間違いありません。
 厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を公表しています。ガイドラインでは労働日ごとの始業、終業時刻の確認を使用者に求め、タイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録等による客観的な記録方法を採用することを原則としています。また、前述のとおり新しい基準が加わり、労働時間管理は明らかに難しくなります。
 したがって、タイムカードやエクセル等を用いた勤務表による原始的な方法は、早晩限界をきたすでしょう。これらの方法は給与計算時、出退勤時刻をいったんデータ化し、給与計算ソフトに読み込む必要があるなど、使い勝手がきわめて非効率であるためです。

勤怠管理ソフトは必須

──有効な対策は?

望月 まず顧問契約を結んでいる社会保険労務士に相談してみてください。会社の実情に即した労働時間管理の方法を提案してもらえるはずです。ちなみに当事務所では、法令に準拠したクラウド型の勤怠管理ソフトの利用を顧問先に勧めています。
 メリットは給与計算ソフトに簡単に出退勤データを連携できるところ。オフィスや工場内に専用端末を設置して指紋認証や交通系ICカードにより出退勤時刻を記録したり、パソコンはもちろん、タブレット端末やスマートフォンからの記録もできます。給与計算担当者にとって出退勤時刻を転記する手間がなくなり、業務効率化を図れます。

──ソフトを選定する際、念頭に置くべき留意点はありますか。

望月 法令に完全準拠しているかどうか、そして給与計算ソフトと簡単にデータ連携できるかどうかが大事です。社会保険労務士事務所では昨今、勤怠管理ソフトの販売代理店を兼ねるケースが増えており、顧問社労士から勧められたソフトなら安心して利用できるはずです。

──導入後の運用はどう変わりますか。

望月 ソフトを利用開始する前に従業員教育を行い、運用方法が変わる点をしっかり説明してください。重要なのは、期限までに漏れのない状態で出退勤データを上司に毎月申請すること。例えば勤怠管理ソフトの入力漏れがあった際、本人が追記したり、総務担当者が照会して記入したりしていたかもしれませんが、そうした方法は認められなくなります。同時に時間外労働の承認申請や有給休暇の申請についても勤怠管理ソフト上で上司にあらかじめ申請する方法に変わります。
 今年4月から5日間の年次有給休暇の取得が義務化されました。もっとも、有給休暇がこの規定日数分消化されているなら問題ありませんが、そうでない場合、経営者は今後有給休暇取得を従業員に対して働きかけていかなくてはなりません。そのためにも有給休暇の事前申請、承認に加え、日数管理を正確に行える体制を整えることが急務なのです。勤怠管理ソフトはこの点においても欠かせないツールです。

──労働時間が厳格に管理されると、業務時間外に社外で仕事をする従業員も現れるかもしれません。

望月 労基法上の労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれる時間」と定義されています。したがって従業員が自身の判断で持ち帰り残業をする場合、労務上は労働時間に当てはまらないというのが原則です。とはいえ、いわゆる持ち帰り残業が長時間に及びメンタルヘルスを損ね労災申請されると、労働時間の範囲がより広範にとらえられるケースもあります。そのため、持ち帰り残業を認めない旨を就業規則に定め、従業員教育を折にふれて実施し、会社側のメッセージとして発信しなければなりません。
 そもそも持ち帰り残業を許すような働き方が問題であり、会社の業務を洗い出し、ボトルネックを解決するのが先決です。働き方改革に対する政府の本気度は高く、着実な実施が求められる点を経営者は肝に銘じるべきです。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2019年11月号