高齢化や後継者難で慢性的な担い手不足に悩まされている日本の農業。そんな日本の農業を変革すべく日夜奮闘しているのが、先端技術を駆使した各種装置・システムの開発製造を手掛ける誠和である。施設園芸における日本トップクラスの栽培技術を有する同社の大出祐造社長に、競争力の源泉や今後の戦略などについて聞いた。

プロフィール
おおで・ゆうぞう●1955年、東京都生まれ。立正大学経営学部卒業。事務機器の卸問屋を経て 81年に誠和に入社。2007年、3代目社長に就任。風通しのよい社風を維持するため、「社長と語る会」を定期的に開催。数人ずつのグループに分け毎年全従業員と直接対話する機会を設けている。モットーは「継続は力なり」。
大出祐造 氏

大出祐造 氏

 栃木県下野市に、敷地面積1.8ヘクタール、栽培面積0.85ヘクタールの広大なスペースを生かした、最先端の施設園芸を体験できるトマト栽培施設がある。誠和の子会社トマトパークが運営する「トマトパーク」である。日本でも有数のこの農場がオープンした経緯について、誠和の大出社長はこう語る。

「培地に無機材料のロックウールを使う栽培の研究を40年前からはじめていました。一時期ブームになり、数多くの企業が参入してきましたが思うように収量があがらずその後は衰退。しかし地道に研究を続けてきた当社は、この方法で1反当たり50トン以上の収量を上げることに成功しました。日本では平均15トンと言われているので、この実績は極めて優れたものです。しかしこれだけ顕著な結果を出しているにもかかわらず、なかなか市場で認知されませんでした。ならば日本最大級の栽培施設をつくって多くの人に知ってもらおうと考えたのです」

 トマトパークのハウスは軒高6メートルの高さで、日本で一般的に見かけるハウスとは印象がまるで違う。1200~3780平方メートルの広さがある栽培室が5つあり、主に大玉トマトや高糖度トマトを栽培している。驚くべきは収量の水準だ。

「農場をオープンした2016年度以降、大玉スタンダードで1反当たり収量50トン以上を記録しました。国内の平均収量は15トンと言われているので、これはものすごい水準です。最初は一つの農場だけで始めましたが、経営モデルが確立されてきたため、第1農場の横に面積1.08ヘクタールの第2農場を建設。こちらは2019年7月から栽培を開始しています」(大出社長)

 誠和が高収量を達成した作物はトマトだけではない。本社内の研究開発拠点「リサーチパーク鶴」で栽培した実績では、キュウリで1反当たり50トン、パプリカで同32トン、イチゴで同10トンなどいずれも日本最高収量を達成している。

農場運営から一貫して手掛ける

 同社が設立されたのは1971年。創業当初はプラスチック成型の部品メーカーだったが、たまたま創業者の親族が農業に携わっていたことから新分野へと進出する。大出社長は当時の歴史について語る。

「たまたま2代目社長の甥が、北関東地区で最も早くからハウス内で暖房機を導入するなど先進的な取り組みを行っていました。その親族から、『ハウス内で効率的に暖房が効くようになる製品を開発してほしい』と頼まれたのが農業分野での初仕事です。温風を運ぶダクトを分岐させるときに使う『ダクトリング』が第一号商品として誕生、その後次々に施設園芸に関連する装置やシステムを開発する農業機器メーカーへと変わっていきました」

 次のヒット商品が同社の運命を決定づけた。暖房効率などを高めるためにハウス内のカーテンを自動で調節する自動カーテン装置である。これが爆発的にヒットした。

「性能が優れていたことはもちろん、自社で取り付け工事を行うなどサービスも徹底した結果、顧客の信頼を獲得したのです。この製品が全国区になったのをきっかけに、当社は施設園芸に特化した開発型メーカーとしての礎を築くことができました。その後も換気装置や水耕栽培装置などそれまで日本にはなかったオリジナリティー性の高い製品を開発製造、販売し新しい市場を作ってきたのです」(大出社長)

 同社の基本的な考え方は、植物の光合成能力を最大化させ、種のもつ収穫量のポテンシャルを最大限引き出すこと。最近では高付加価値野菜などに注力する方法もあるが、農家目線で考えるとそれを継続するのは極めて難しい。大出社長は、やはり生産効率を高めて、収穫量を最大化することによって黒字経営を目指すことが重要との結論に至った。

 しかし自然が相手だけに、実験室で得られた成果が現場でそのまま通用するとは限らない。ハウス内の正確な環境把握と、データに基づく科学的な栽培技術の開発のためには、実際に自分たちで栽培をするのがいちばんだ。こうして大出社長は、農場運営から一貫して手掛ける同社のビジネスモデルを構築していったのである。その際参考にしたのは施設園芸先進国オランダだった。

「当社はすでに40年前からオランダとのパイプを築き上げ、世界最先端の施設園芸技術を学ぶ機会を設けてきました。オランダでは、多い農場でトマトの収量は1反当たり70トンに達します。一方日本は1トン当たり15トン。あまりにも収穫量が少ないのが日本のトマト農家の所得が少ないことの大きな原因であることは明らかでした。日本の農家の弱点は経験と勘に頼りすぎていること。私たちは正確なデータに基づいた栽培技術の確立を目指しました」

 2011年には、ハウス内の温度や湿度、日射量、二酸化炭素濃度を1分ごとに計測する環境測定装置「プロファインダー」の販売を開始。計測されたデータは、同社が運営するクラウド上の「プロファインダークラウド」サービスで、スマホなどでいつでも確認することができる。ハウス内の環境を可視化することで、生産者が環境の変化に応じて素早い対応をとることが可能になったのである。プロファインダークラウドでは、計測したデータや各種統計をもとにした収穫量予測サービスや需要予測サービスも提供、ユーザーから高い評価を獲得しているという。その後も統合環境制御システム「プロファインダーNext80」、CO2施用機「真呼吸」など革新的な製品・サービスを次々と生み出している。

自社施設で人材育成事業も

「グローバルな競争にも耐えうるように日本の農業を高収益にしたい」と強く願う大出社長は、農業の人材育成に関する事業もはじめた。トマトパークで実施している「トマトパークアカデミー」である。

「農業後継者や新規就農者など若者を中心に全国から毎年10人ほどを受け入れ、栽培技術の専門知識や管理技術を教えています。大阪府立大学の池田英男名誉教授などが講師を務め、『パート従業員をどのように管理したらよいか』といった実践的な知識を身に付けることもできるのが特徴です。大規模化やそれにともなう高度な栽培技術の普及を通じ日本の農業を変えるためには、やはり『人づくり』が最も大切だと考えています」

 いくら自然が相手だといっても、農業事業者が経営者であることに変わりはない。大出社長はトマトパークアカデミーを通じ、経営者感覚にあふれた農家の育成を目指しているのだという。

「施設園芸の世界ではこれまで、省エネルギーや効率化のためにどうすればよいかという視点ばかりが重視されてきましたが、もうそういう時代は終わりました。これからは各農家が、いかに所得を上げるかを真剣に考えなければなりません。そのためには会計の知識が必要不可欠です。類似の施設では異例ですが、トマトパークアカデミーでは簿記のカリキュラムを必須にしています」

 農業における会計の重要性を意識した大出社長は、2019年8月から子会社トマトパークの会計システムをTKCの「FX農業会計」に変更。農業現場に適したより正確な分析ができる体制を整えた。農業専門の適切な会計処理について神戸宣宏顧問税理士による適切なアドバイスを受けながら会計実務にあたっている。

 現在同社は、徳島県阿波市に「トマトパーク徳島」を建設中。今年の8月から栽培を開始する予定で、既存施設と同様に教育機能も併せ持つ予定だ。大規模農場の運営ノウハウの蓄積を通じ、高収益農業のビジネスモデル構築とさらなる栽培技術の改善を追求していくという。

(取材協力・税理士神戸宣宏事務所/本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社誠和
設立 1968年2月
所在地 栃木県下野市柴262-10
社員数 約170名
URL https://www.seiwa-ltd.jp/

掲載:『戦略経営者』2020年2月号