新型コロナウイルスの影響で経営環境は厳しい状況ですが、今夏も賞与を支給したいと考えています。中小企業における相場を教えてください。(建設業)

 今夏の1人あたり賞与支給額は、民間企業の平均で▲6.4%と、リーマン・ショック後の2009年の▲9.8%以来となる、大幅な落ち込みとなる見通しです。

 背景としては第1に、19年度下期の企業収益の低迷が挙げられます。財務省「法人企業統計調査」によると全産業(資本金1000万円以上、金融機関を除く)の経常利益は、19年10~12月にかけて3四半期連続の減益となりました。非製造業は堅調を維持したものの、製造業が世界的な設備投資の抑制や、自動車の販売低迷にともない大幅減益となりました。

 第2に、年明け後の新型コロナの経済下押し影響が挙げられます。感染拡大により、世界的に景気が失速するなか、輸出が急減したほか、感染拡大防止に向けた店舗の休業や外出自粛の動きにより、国内消費も冷え込みました。さらに、先行き不透明感と雇用不安が増大するなかで、今年の春闘では、製造業で「ベアゼロ回答」が相次ぐなど、賞与額のベースとなる基本給の伸びも鈍化しました。

 もっとも、大手企業では、3月末以降の情勢悪化の影響が反映されるのは年末賞与以降となる見込みです。3月時点では、3連休に人出が増えるなど、感染拡大に対する危機感は薄く、店舗休業なども限定的でした。また例年、夏季賞与の交渉が3月末までに妥結する企業は6~7割にのぼります。さらに、このうち年間の賞与ファンドを決定する「夏冬方式」をとっている企業では、業績悪化の影響が反映されるのは来夏以降になります。

 実際、3月に発生したという点で共通する11年の東日本大震災の際には、事業所規模30人以上の企業の夏季賞与前年比は0.5%のプラスを確保しました。

マイナス8%を予想

 一方、中小企業では、支給時期直前の収益状況を反映しやすい傾向があります。このため、11年夏季にも▲5.4%と落ち込みました。今回も内外需両面における新型コロナショックの影響が夏季賞与にただちに反映される見込みです。国内においては、緊急事態宣言の発令にともない、飲食店、百貨店、文化・遊戯施設などで休業が広がったほか、海外でも、米国を中心に感染拡大が加速し、世界的な景気後退は、リーマン・ショック後を超える規模となることが避けられない状況です。

 今夏については、すでにふれたとおり、新型コロナショック発生以前に製造業を中心に収益が悪化していたため、大企業もマイナス支給となる見通しです。しかし、中小企業の場合は、これまで賃金上昇圧力となってきた人材流出リスクも一気に低下するなかで、平均を下回る▲8.0%程度まで落ち込む見通しです。

 もっとも、足元の景気悪化においては、在宅勤務者の増加の恩恵を受けた食品小売りや、通販など需要が伸びた業界もあります。中小企業ならではのフットワークの軽さを生かし、医療・衛生関連等の分野に事業をシフトする例も散見され、業種により影響にバラツキが出ています。業績が堅調な企業では、コロナ禍後の成長も見すえ、感染リスクで増した雇用者の負担増加に応える姿勢が重要となるでしょう。

掲載:『戦略経営者』2020年6月号